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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾弐章 華麗奔放 ~戦いの火蓋は華麗に~
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第拾漆話 【1】 天津甕星

 黒い球体の脱神。それを御剱で浄化しようとしたけれど、謎の結界で阻まれてしまい、あげく僕の神妖の力で覚醒し、今にも球体から何かが出そうになっています。


 脈動も強くなっていて、禍々しい気も膨れ上がり、僕はもうそこには近付けない程に、それに恐怖を感じています。

 金狐の状態じゃなかったのに……神妖の妖気は最低限で、浄化が出来るレベルに留めていたのに、それでも利用されてしまいました。


「咄嗟でも、万が一の事を考えているなんてね。多少はやるようになったようだけれど、まだ甘いね」


 そして八坂さんは、ゆっくりとその球体に近付いて行きます。

 駄目……止めないと。だけど、体が恐怖で動かないです。こんな時に、僕は……!


「さぁ、君達もご苦労様。もう休みたまえ」


 そう言うと八坂さんは、手に持った扇子に文字を浮かび上がらせます。今度は『休息』という文字を書いています。

 その瞬間、この場所で祈っていた全校生徒、それに捜査零課を含む半妖の人達が全員、その場に倒れ込みました。


「皆?!」


 えっと……寝息が聞こえているんだけど。もしかして、寝ている?

 だけど、待って下さい。八坂さんの扇子で寝ているという事は。


「八坂さん。その扇子の効果って、いつまでですか?」


「鋭いね。この文字が消えるまでさ」


 やっぱり。八坂さんがその文字を消さない限り、皆はこのままなんですね。


「八坂さん……! 皆を元に戻して下さい!」


「それは出来ないね。脱神の覚醒とその維持には、人と半妖の信仰心が必要なのさ。それで捕らえさせて貰ったが、今起きられてしまうと、恐らく植え付けたその信仰心が無くなり、脱神の力が弱まってしまう」


 なる程。神様は人の信仰心があれば、より多くの願いを叶えられたりするみたいです。だけど、信仰心の薄れた現代では、それは不可能です。

 だけど、八坂さんのあの扇子で、無理矢理に信仰心を植え付けて、脱神を拝ませれば、そいつに力を与える事が出来るという訳ですか。


「妖怪達が、人の恐怖心を糧にしているように、神様は人の信仰心を糧にするのさ。だから、その信仰心を持ったまま寝ていて貰わないとね」


「それなら。あなたを倒して皆を起こせば!」


「もう遅いけどね」


 八坂さんがそう言った瞬間、その黒い球体が割れる音がして、そこから濃い紫色のオーラを放った、ドス黒い体をした何かが現れました。


 もう、何かなんです。これが神だなんて思えない。


 眼球の無い白い目が、キョロキョロと辺りを伺っているけれど、出来るだけ目を合わせたくないです。

 人の形ではあるけれど、服なんてないし、無機質みたいなその体には、紫の線で幾何学な模様が刻まれ、それが光っています。ついでに口も無いです。


 でも、待って下さい。こいつ……何処かで見たような……。


 するとそいつは、僕の存在に気付いたのか、こっちに顔を向けてきます。そしてーー


「妖狐……神……滅ぼす」


「あっ、あぁ、うぁ……」


 その声を聞いた瞬間、思い出しました。


 僕が再びこの姿になって、そして白狐さん達と一緒に妖界へ行った時、その時頭に浮かんだ記憶。幼い僕が妖界で出会った、あの恐ろしい存在。

 あの時出会ったのは、人語を理解する妖魔、つまり妖魔人だと思っていたけれど、こいつだったんだ!


 そして、僕の両親が追っていた存在が、こいつだったのなら、邪妖は脱神の事。

 僕の両親が邪妖に関して調べ、そしてそれを追っていて、退治等もしていたのなら、妖界の伏見稲荷で起こったのは、まさか……。


「あっ、あぅ! あぁぁぁ!!」


 そんな事を考えていたからか、僕の頭が急に痛み出しました。

 しかもこれ、記憶を思い出しそうになる時の頭痛だけど、今までとは比べ物にならないです。


「覚醒おめでとうございます。いや、復活と言うべきですか? 天津甕星(あまつみかぼし)様」


 そして八坂さんは、頭を抱えて座り込む僕を横目に、そいつに近付いていく。

 その前に、何て言いましたか? 日本神話に出て来るような、神様の名前が聞こえてきました。

 だけど僕は、それよりもこの頭痛を抑えないといけない。でも、頭痛が治まってくれないです。


「うっ……くぅ。はぁ、はぁ」


「妖狐……! 我が力……返せ!」


 何を言っているの? いったいどういう事ですか? 僕はあなたの力なんて、力……なんて。


【ふざけるな! 何故こいつが降りて来た! こいつは従わない者として有名なのだぞ! 逆にこいつを従える事が出来れば、それは相当な力を得られるが、不可能だ! 返せ! 弾く前に返すんだ!】


 誰? 誰かの叫び声が、僕の頭を駆け巡る。いや、これは僕の記憶? 封じられていた、記憶の断片?


「返せ……我が、力」


「ん……? まだ、不完全なのか? 信仰心が足りないのか? もっと沢山の人々と、半妖の奴等の信仰心が要る。そうなると、場所がーーいや、その前に。君の中にある天津甕星の力を、取り返そうとしているのか」


「はぁ、はぁ……僕の、中に? そいつの、力が……?」


 まさか、僕も神妖の儀式を?

 お母さんの手紙にあった、天狐様がやった勝手な事と言うのは、僕にも神妖の儀式をやったという事? 神妖の妖気を既に備えていた僕に、更にこいつの力を?


「うっ……ぐぅっ!」


 駄目です。これ以上は、僕の中の何かが暴走して、溢れそうになってきて、僕が僕じゃなくなってしまう。


 僕は、僕なんだ。気をしっかり保たないと!

 でも……もう。意識が、何処かに持って行かれそうで。そして……僕は、僕で無くなっていく。


 違う、私は……。


「天津甕星様。まだそんな不完全な状態では、あなたの膨大な力を戻そうとしても、体が耐えられません。いったい何十年、抜け殻でいたと思っているのですか? その間に、体が脆くなっているのですよ。力無き神は、信仰されなければ朽ちる一方なのです」


「うっ、ぐぐ……黙れ。神、妖狐、滅ぼす!」


「くっ……流石です。1番屈服させにくい神ときたものです。私の言う事など、一切聞きませんか」


 そうですか。では、今が1番のチャンスという事ですね。


「御剱、華螺羅狗斬(かららくざん)!」


「なっ?! 椿くーーいや、君は。あぁ、その状態だよ。それは、天津甕星様の力なのだよ。その金狐の状態は、中途半端な星神の力を宿した、不安定な状態なのだよ!」


 うるさいですよ、負なる者。あなたは扇子が無ければ、その体術しかない。

 今の私に扇子は効かないので、単純に体術だけ警戒していれば良いです。


 しかし、先程の攻撃も弾かれますか。斬撃に浄化の力を乗せ、それを連続で叩き込んだのですけどね。


「さて。それでも力を安定させる為にと、本来の神妖の力の『繋ぎ』として、この力を固定されたのです。これは、私の力です」


「では、その意識は何なのだい? 君は椿君じゃない。でも、今1度確認して分かったよ。そう、その絶対に屈服しない上から目線の態度。君は、天津甕星の意思だ」


 そう言ってくるこの負なる者の言葉。こんなものに納得したくなかったけれど、妙に腹にストンと落ちるものがあった。


 あぁ、そうなんだ。この私は、そうなんだ。


「その様ですね、天津甕星。あなたは私、私はあなた。ですが……私はもう、妖狐椿としての意識の方が強いのです。だから滅しなさい! 負なる者、邪なる者!」


 そして私は、御剱を強く握り締め、その黒い体をした天津甕星に斬りかかる。

 だけどそいつは、ちょっと手を前に出しただけで、強力な衝撃波を生み出し、私を吹き飛ばしてくる。


「くぁっ! つぅ……」


 そしてその後、壁にぶつかった私に、ゆっくりと近付いてくる。このままでは、私は力を取られ、この意識までも取られてしまう。

 もう殆ど表には出られないけれど、欠片しかこの意識を出せないけれど、私にとってこの力は、とても大切なものになっている。だから、取られるわけにはいかないのです!


「金華浄焔! 金華浄槍!」


 そして、近付いて来るそいつ目がけ、浄化の炎と、その炎を纏わせ槍にした尻尾を突き刺します。

 だけどそれは、そいつの体に刺さる前に、軽々と止められてしまい、炎も一切効いていません。でもそれは、考えていた通りです。


「つぅあ!!」


 私はそのまま、尻尾をそいつの腕に巻き付かせると、思い切り勢いを付けて、そいつを投げ飛ばそうとするけれど……これは、重い。1トンどころじゃない程の重量を感じます。


 すると今度は、突然強い眠気に襲われてきました。


「うっ……まさか……!」


「やれやれ。2人とも、少し落ち着きたまえ。天津甕星様。彼女の中のあなたの力は、もう取り戻せませんよ。あれはもう、例の儀式によって、彼女のものになってしまっています。だから、私が与えます。新たなあなたの力をね」


「力。新たな、力……」


「えぇ、興味あるでしょう? それなら、私と」


 その負なる者は、星神だった邪なる者に近付いていく。


 こう何回も距離をとって接触しているのは、こいつでも完全には、この邪なる者を扱えていないからだろう。ただ、そこにつけいろうとしてもこの有様。


 この邪なる者、強い。


 このままでは、負なる者の思い通りになってしまう。それはさせません。

 例えこの意識が消えて無くなろうとも、今ここで、邪なる者を討つ!

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