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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾弐章 華麗奔放 ~戦いの火蓋は華麗に~
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第拾陸話 【1】 八坂の目的

 僕はこの場所から、何とかして逃げられないかと考えているけれど、本当にここは出入り口が無いんじゃないかと思わせるくらい、一面壁ばかりなのです。


 そして、後ろから近付いて来る八坂さんの声。

 もう僕の知っている、あの八坂さんの声じゃないような、そんな感覚にさえ陥ってしまうくらい、声に凄みがあるんです。


「さて。そんな君が入学して来たからね。ようやくと思っていたのに、君は何もかも忘れたままだった」


「そんなの、僕のせいじゃ……」


「そう、君のせいじゃないんだ。私は知っているよ、君が人間になった理由を。しかし、いい加減に戻っているかと思いきや、とんでもない。あまりにも強力な術によって、君は人間のままで一生を過ごそうとしていた」


 そして遂には、僕の直ぐ後ろにまでやって来ていて、耳元でこう囁いてきた。


「だから『電磁鬼』で、少し痛めつけたんだよ。その刺激で元に戻るかと思ってねぇ」


「なっ……?! あの時のイジメは、あなたが?」


「あぁ、そうさ。おかしいと思わなかったかい? 悪い妖怪から半妖を守ろうとする生徒会が、あれだけ頑張っているのに、あんなにも簡単に侵入を許し、あんなにも簡単に操られてしまっていたんだよ? おかしいよね?」


 そこは……考えていなかったです。

 相手がAランクの妖魔だったから、半妖の人達じゃ対抗出来なくって、皆と同じ様に操られていたんだと、僕はそう思っていました。


「Aランクの妖魔は、そう簡単にはーー」


「この僕も居たのにかい?」


「あっ……」


「それに、辻中君や如月君。あの妖魔に対抗した半妖の子は、他にも居たよ。赤木君も、そうだったねぇ。君は、少し勘違いをしていたのさ」


 そして徐々に、八坂さんの声が低くなっていき、僕にその悪意を見せ付けてきます。


「だけど全て、この僕の神具『神言葉(かみことば)の扇子』で、考えを変えさせて貰っていたんだよ。因みにこれは、意識なども変える事が出来る。この扇子に書かれた言葉は絶対なのだよ。その言葉は全て、神の言葉として扱われ、世界の理までも変えてしまうのさ。それで、他の半妖の子達を押さえていたのさ」


 そんな恐ろしい道具を使っていたなんて。

 それに、妖具でも無かったです。つまりこの人は、半妖でも無ければ妖怪でも無い可能性が出て来ました。


 だって、久しぶりに会った八坂さんからは、妖気が一切感じられなくなっていたのです。

 今まで感じていた多少の妖気は、その扇子で誤魔化していたんですね。


 だけど僕だって、もう引きません。


「八坂さん……! あなたの目的は、いったい何なんですか!」


 そう。結局、ここに人を集めた理由が分かりません。またのらりとくらりと、肝心な事をぼかしています。


「ふふ、強くなったものだね。だけど、少し遅かったね。僕としては、もっと半妖の人達を世間に広めて欲しかったんだ。その恐ろしさをね。人の畏怖する心を、私は欲していたのだよ」


「半妖の人達と人間達とを仲良くさせる為に、僕に橋渡しをさせていたんじゃ!」


「そんな事をして何の意味がある?」


 そのあまりの言葉に驚いて、ようやく僕は後ろを振り向き、後ろから迫っていた八坂さんを睨もうとしたのだけれど、そこに立っていたのは、あの八坂さんじゃなかったです。


 初老の、校長先生らしい風貌では無く、白髪も髭も無くなり、顔の整った、銀髪の綺麗な青年が立っていました。


 あれ? だけどこの顔、何処かで見たような……。


「……それが、あなたの本当の姿ですか?」


「本当の姿? さぁね。そんなのは忘れたよ」


「へっ?」


「私はもうとっくに、自分の姿を忘れている。だからこうやって、好きなように姿を変えられるんだ」


 すると、いきなり僕の目の前で、いつも見ていた初老のあの姿に変わりました。

 見慣れたスーツ姿に、何を考えているのか分からない笑顔。僕の知っている八坂さんが、そこに立っていたけれど、また突然青年の姿に戻りました。


 こっちの姿は、白狐さん黒狐さんが着ている、神職の人が着る様な服を着ているから、八坂さんじゃないような気がします。まさか、別人なんじゃ……。


「本当にあなたは、八坂さんですか?」


「おいおい。私にしか分からない事をいっぱい話しただろう?」


 それもそうでした。それなら間違い無く、この青年があの八坂さんなんですね。


「何度でも聞きます。八坂さん。あなたは何者ですか?」


「貴船神社の神様から聞いているだろう? 八坂神社の守り人さ」


「それなら、あなたの目的は?!」


 もういい加減、この探り合いは結構なんです。時間を稼がれているって、僕でも分かります。

 皆が祈っているこれは、儀式なんです。神棚に向かって一心不乱に祈っているけれど、もう一つ何か呟いているんです。これは……祝詞(のりと)


 だけど、聞いた事が無いものです。それに、だいぶ言葉も古いのか、中身が理解が出来ません。

 でも何となく、その感じからして、これは祝詞なんじゃないかなと思います。だって神棚に向かってなんて、それしか無いんだもん。


「目的か。しょうが無いなぁ。私はね、正直に言うと。華陽の、元の1つの体に戻り、人間界を恐怖のどん底に落とそうとするのや。茨木童子の、恐怖しなくなった人間達のせいで、消えゆく妖怪を救おうと、妖界と人間界の反転をし、人間界すらも妖界にしようとしたりする。そのどちらも、許せないんだ」


「はい?」


 許せない? それじゃあ、何でこんな悪そうな事をして……。


「だから私はね、滅ぼすのさ。信仰心の無くなった、自分勝手な人間達も、神さえも利用しようとする、その傲慢な妖怪達も、全てが許せないのさ」


 駄目です。一瞬だけど、それなら協力でもーーと思ってしまいましたよ。でも、この人の全てを見下すこの目は、華陽よりも茨木童子よりも、ずっとずっと凄いです。

 だから僕は、咄嗟に後退ってしまいました。だけど、この動揺を気付かれたら駄目ですね。


「神を利用? まさか……神妖の?」


「おや。それは聞かされていたのか。それなのに、まだ妖怪を信じるのかい?」


「その通りです」


 神妖の力を得る為の儀式。その為に生まれてしまった者。

 始まりはどうであれ、妖怪の皆がそれを後悔しているのは確かなんですから。そうじゃないと、今でもその儀式をやっている事でしょう。


「やれやれ……君は、腑抜けてしまったのか。奪いとったこの学校で、もう少し長く試練を与えるべきだったのかな? そうだね。如月君も死んでおくべきだったかな?」


「八坂さん。それ以上言うなら、いくらなんでもーー」


「どうすると言うんだい?」


「はやっ……!!」


 いつの間に、僕の目の前に……。

 それも扇子の力なんですか? ちょっといくらなんでも、それは反則過ぎます。


「それに、君は知らないのかな? 妖怪の存続の原因と、亰嗟の戦力の増強の謎をね。華陽は言わずもがな、あれだけの大妖だ、未だに人々の記憶から消えないお陰で、力を維持出来ている。だけど、亰嗟はどうだろうねぇ」


「何が言いたいんですか?」


 良く分からない事を。ここで僕と亰嗟に、いったい何の意味が。


「亰嗟はもう、その組織を維持するだけで精一杯なのさ。あんな鬼を呼び出しからね。反転もさせずに」


「なっ……!」


「本来の予定なら、甦った君の力を使い、反転鏡で妖界と人間界を反転させてから、十極地獄を呼び出すはずだった」


 そうなると、僕達のあの潜入作戦は無駄では無かったのですね。あれだけの事をしたのです。茨木童子が焦ってしまい、呼び出すべきじゃないものを呼び出したのですね。


「そうですか。僕達の作戦が……」


「勘違いするなよ。君がまだ、自身の神妖の力を扱いきれていなかったからだ。彼等の計画の中の1つには、君が自身の神妖の力を扱いこなす事、それが前提のものがあったのさ」


 そんな……それなら亰嗟は、茨木童子は……何としてでも僕の記憶を甦らせたかったんだ。そして、それをしようとしていた華陽と手を組んでまで……。


「私もねぇ。出来たら君に、自身の神妖の力を扱いこなして欲しかった。その方が、コレの覚醒は早いからね。だけど、君は出来なかった。結局君は弱いんだよ。弱いから皆、計画を変更せざるを得なかった」


 弱い? 僕が弱いから? って、しまった。そんな事を考えている場合じゃ無かったのです。

 禍々しい気が、神棚に? あそこに何かある! 黒い丸い球体? 何ですか、あれは!?


「そうそう。亰嗟が戦力を保持していたのは、妖界あっての事さ。そこから妖気を抽出していたし、妖具もしこたま集めていたのさ。そして人間界で活動をし、犯罪を犯し、人々に恐怖と不安を与え、負の気を集め、また妖界に流していた。そうすれば妖界は存続出来きて、妖気も順当に手に入る」


 あぁ、分かりました。八坂さんの言いたい事が。


「亰嗟の中には、人間も居ますね」


「その通りだ。それを止められないどころか、助長するのが人間の汚い所だ」


 だから八坂さんは、人間達も妖怪も滅ぼそうとしていた。そしてそれをするための者。

 それを復活させる事が出来るかも知れなかった僕は、件の予言で、世界を変える存在になると、そう予言されたのですね。だけど……。


「八坂さん。あなたはまだ、何かを隠していますね」


「ふふ、鋭いねぇ。でも、もう時間が無いよ。どうするんだい? 椿ちゃん」


 そんなのは決まっています。

 ここから出られないのなら、今ここで! あの禍々しい気を放つ黒い球体を、完全に破壊するだけです!


「ふふ。私の計画はね、そんなに穴だらけじゃないのさ。椿ちゃん、悪いんだけれど……」


「うっ……!!」


 何で? いきなり僕は、その場で正座をしてしまいました。まさか、扇子で?

 あぁ……いつの間にか、扇子に文字が浮かび上がっていて『正座』って書いてありました。厄介過ぎますよ、その扇子。いったいどうしたら……。

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