表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾弐章 華麗奔放 ~戦いの火蓋は華麗に~
365/500

第拾伍話 【2】 黒い神棚への祈り

 その後僕達は、公平にジャンケンをして、順番に教室を開けていく事にしました。

 もちろん、開ける前に中の物音を確認してからですけどね。ただ、皆気絶していて静かだったとしたら、意味が無いですから、やっぱり教室の中を確認した方が確実なのです。


 そして扉に触れるのではなく、どんな方法だとしても、扉を開けた時点で罠が作動するようです。


 今は僕の番なんだけど……扉を開けた瞬間、巫女服を着たままなのに、真ん中に置いてある、湯気が沢山上がっている透明の湯船の縁に、四つん這いになって立ちたくなってしまっています。押されたら定番のやつをやりたい。


「はい!」


「いったぁい!!」


 それを龍花さんが、何処から持ってきたのか、手に持ったハリセンで僕の頭を叩いてきます。それで正常に戻るんだから驚きです。


「う~いたた……龍花さん、ありがとうございます。でも、やっぱり気になります。そのハリセンって……」


「秘密です」


 さっきから何回も聞こうとしているんだけれど、答えてくれません。何ででしょうか?


 すると、何かの機を伺っていたわら子ちゃんが、頭を擦る僕に近付いて来て、コッソリ耳打ちをしてきました。


「あのね……実はあれ、いつもボケまくっている皆にツッコミを入れるためにって、龍花さんが魂を込めて作ったんだよ」


 やっぱり自作ですか?! しかも入魂の一作! 逆に引きますね。

 でも、それだけ魂を込めてくれたからこそ、効いているんでしょうね。この罠に。何て都合の良い状況なのでしょうか。


「聞こえていますよ、座敷様」


 聞こえていたよ、わら子ちゃん。

 表情は無表情だけど、龍花さんは恥ずかしがっていそうで、今にもわら子ちゃんのほっぺを両方から引っ張りそうですよ。

 でも流石に、守ろうとしている大切な妖怪に、そんな事は出来ないみたいで、ハリセンを持ったまま僕に目配せをしてきます。まるで「早く次に行って下さい」と言わんばかりです。


「あの……また僕なんですか? 今やったのにーーあっ、分かりました。行きます」


 右手に持ったハリセンの先を、左手で持たないで下さい。少し怖いです。


 ーー ーー ーー


「はぁ、はぁ……あの、1階はこの教室で最後です」


『椿よ、大丈夫か?』


「白狐さん、心配してくれてありがとう。でも、体は疲れてはいませんよ。ただ、精神的に疲れただけです」


 だってあの後、何個か教室を調べて行って、何回も龍花さんのハリセンの餌食になりましたからね。


 そしてようやく、僕達は廊下の突き当たりに着き、1階では最後の教室にやって来ました。

 問題なのが、ここにも何も無ければ、捕らえられた半妖の人や生徒達は、2階より上に居る事になります。つまり、またこの罠をかいくぐらないといけない事になります。


 お願いします、ここに居て下さい。


 そんな祈る様な思いで、僕はその扉を開けます。

 するとそこには、沢山の人達が集まっていて、皆真正面に向かって正座をしていました。


 居ました! こんな所に皆居た! 1階に居てくれて良かったです。何とか見つかりました。早くここから助けないと!


 というかその前に、ここって教室ですよね?また空間を弄られたのかな?

 この中とても広いです! まるで、何処かの神社の本殿みたいですよ。


「えっ?! 椿ちゃん!!」


「えっ? あれっ? 皆?!」


 すると、僕がその部屋の中に入った瞬間、後ろから里子ちゃんの叫び声が聞こえたので、急いで振り返ってみると、そこにはもう扉は無かったです。


 しまった。またやられた!


「嘘、また空間を……?」


 これでも警戒はしていたんです。

 だけど皆が、龍花さん達が対策しようとしている間に、僕はフラフラとこの中に入ってしまったのです。まるで、誘われる様にして……。


「皆……」


 もうジタバタしていてもしょうが無いです。ここにも出口はあるはずだし、捕らえられた人達をそこから助け出す事も出来るはず。落ち着くんです、僕。これは逆に、チャンスなのです。


 捕まった人達が1つの所に集まっているのは、とてもラッキーなのです。

 もしバラバラに移されていたら、救出するのにも時間がかかり、下手したらその間に、相手に対策されてしまうかも知れなかったからです。


 とにかく僕は、ゆっくりと皆の様子を確認していくけれど、正直怖くて仕方がないです。

 だって、皆は一心不乱になっていて、その先の神棚の様な物を拝んでいるんですよ。しかもその中には、捜査零課の人達も居るんだけれど、僕の姿なんて見えていないようなのです。そしてこの神棚、黒いんですけど……。


「皆! 大丈夫ですか?!」


 多分、これは聞こえていないと思う。それでも確認の為に、僕は叫んでみました。

 うん、無反応ですね。駄目です。祈る行動に捕らわれていて、外的刺激は一切シャットアウトされている。


 それなら、先ずは出口を見つけて、皆と合流しないといけない。ここは、このまま居たら危険です。

 僕の全身の細胞が、そう叫んでいる。ここに居ては駄目だって。捕らわれた人達を助けるのが無理なら、今すぐ逃げろって。


 だけど、僕が扉のあった方を振り返り、その一歩を踏み出そうとした瞬間、皆の拝む先、神棚みたいな物の横から、聞き覚えのある声が聞こえて来ました。


「全く。困った子だね、椿君。遂にこんな所までやって来るなんて」


 僕にとっては、凄く久しぶりの声。だけど、色々と怪しんでしまっていて、今となってはもう、とても恐ろしい声に聞こえます。

 お陰で足が竦んでしまって、僕はその場に立ち尽くしてしまっています。


 逃げなきゃ。早く逃げなきゃ! でも、足が動いてくれない。この人はそう簡単に、僕を逃がそうとはしない。そんな先入観のせいで、ここから動けない。

 それだけこの人の声が、以前とは比べ物にならない程に、凄みが増していたのです。


「や、八坂さん……あなたはいったい、何者なんですか?」


 僕の口から出たのは、そんな言葉でした。何とか捻り出せた感じだけど。

 自分の頭の中で、今までの情報がグルグルと駆け巡り、先ず真っ先に確認したい事が口から飛び出してしまいました。


「おや。私の事を『さん』付けか……校長とも呼ばないとはね。術が切れたのかい?」


 やっぱり。僕も含めて、あの学校の生徒全員に、何らかの術を仕掛けていたのですね。


 後ろでパチンパチンと何回も鳴るこの音は、扇子を閉じたり開いたりしている音ですね。

 その度に僕の頭には「この人は学校の校長だ」という、変な概念が浮かんできます。


 これ……前にやられた。あの時は抵抗が出来なかったけれど、今は違いますよ。

 半年前、僕を女王気質にして操ったあの方法だけど、あれよりももっと強力で、縛り付けが強いですね。油断なんかすると、あっという間にまた「八坂校長先生」なんて、そう言ってしまいそうになります。


「くっ……それを止めて下さい、八坂さん! 僕にはもう、効きませんから!」


「ふむ……なる程ね。思い出した訳では無い。力を使いこなしている訳では無い。それなのに、その段階とは……」


 そう言うと八坂さんは、再度強めにパチンと音を鳴らし、その後扇子を鳴らさなくなりました。ようやく諦めたのかな。


「はぁ、はぁ……もう一度言います。あなたは、何者なんですか?」


「それに答える義務は、私には無いだろう?」


鎌鼬(かまいたち)の半妖と偽り、華陽と裏で手を組んでいたり! いつから何ですか! 僕達をあざ笑っていたのは、いつから何ですか!」


「うん。その感情はよろしい。そして、1つ訂正をすると、私は華陽と手を組んではいない。つい最近、私のやろうとしている事を見せたが、共感はして貰えなかったよ。残念だ」


 八坂さんは淡々と、何の感情の起伏も見せずに、そう話してきます。こんな八坂さんは怖いです。この人は、いったい何を見ているのか分からない。


「それと、君のもう一つの質問に答えるとしたら、最初から……かな?」


「最初から? それは、僕が妖狐になってから?」


「いや、君が入学してからだ」


「なっ?!」


 八坂さんの言葉に、僕の心臓は一気に跳ね上がりました。それはどういう事? 入学の時からって、どういう事ですか?


「それは、いったいどういうーー」


「どういう意味も何も。私には最初から分かっていたんだよ。ある予言でね。君がこの学校に来る事は、ずいぶん前から分かっていたよ。とんでも無い神妖の妖気を持った妖狐が来るのをね」


「予言? まさか、(くだん)の……」


 でもあの妖怪は、一説には凶事を占うって言われています。だから、そうピンポイントに僕の事なんて占える訳がないのです。


「いやぁ、それはたまたまだったよ。あの妖怪はたまに、世界が変わる重大な事を予言をする時がある」


「それと僕に、何の関係が?」


「鈍いなぁ、君は。君だよ。世界が変わる重大な事。それは君が、この世界に現れる事さ」


「ぼ、僕?!」


 まだ僕は、八坂さんの方を向けない。

 逃げないといけないと思っていても、つい聞いてしまう。だって、僕の封じられた記憶と関係がありそうで、もっと情報を聞きたくなっているのです。


 駄目です。今は逃げる事だけを考えるんです!

 だってここ……この場所に、僕がずっと感じていた、旧校舎のあの禍々しい気が溜まりまくっているんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ