第拾伍話 【1】 旧校舎の探索
やっと僕達は、旧校舎の中に入る事が出来きました。今居る場所は、1階の廊下。出入り口の近くですね。
それにしても、あの霧が空間と空間を繋げる道だったなんて。それでも説明はして欲しかったですよ。いきなり突き落とすなんて……後で文句を言っておきましょう。
『とりあえず、皆無事か?』
「僕の頭は無事じゃないです……」
皆が僕の頭の上に落ちてきましたからね。コブが沢山出来ちゃっています。それを白狐さんが優しく撫でてくれています。
一応、治癒の妖術は使えるみたいで、それを使ってくれているけれど、妖気は大丈夫なのでしょうか?
妖怪食で多少回復はしていても、妖術を1・2回使う程度しか回復しないみたいで、僕は不安なんです。
『全く。文句の1つでも言ってやらんとな。椿の可愛い頭の形が変わったらどうする』
あの、白狐さん。さっきから両手で、僕の頭を撫で回す様にしていたのは、頭の形を確認していたのですか?
別に、これくらいで変わったりはしませんよ。だからさ、ついでに耳まで触らないで下さい。くすぐったいですよ。
「それじゃ、半妖の人達の妖気を探りますね。そうすれば、どこに居るか直ぐに分かりますから」
僕の妖気の感知能力は、こういう時に役立つんですーーって、あれ? おかしいですね。妖気が一切感じられないんだけど……。
『むっ? このタバコの匂い……まさか、捕まった三間坂の妖具の力で、妖気を感知出来ない様にしているのか?!』
「そんな!」
そうだとしたら、1つ1つ教室を調べないといけないじゃないですか。だけどさっきの様に、空間を歪められていたら、今度はそう簡単には戻って来られないかも知れません。
それに他の罠とかで、更にピンチになったりする場合もあります。だから、僕の力で感知したかったのです。
「椿様。こうなってはもう、1つ1つ調べるしか……」
「でも危険です。何があるか分からないんですよ?」
龍花さんが、ガッカリして項垂れる僕に向かってそう言ってきます。やっぱり、危険は承知でやるしか無いんでしょうか?
僕がそう言っても、そんな事は分かっているという目をしています。しかも、他の4人もです。
「椿様。その為に、私達が居るのですよ。私の盾で守りながら、全員を4人で囲い、何かあったら私達が盾になります」
「玄葉さん、それだと、あなた達が危ないです」
「四神の力を持った私達を、甘く見ないで下さい」
僕の言葉に、虎羽さんが自信満々で返してきました。
だけどね、相手は未知数の力を持っているから、出来るだけ危険な事はしたくないのです。だけど……。
『椿よ。時にはこういう事もやらなければならないんだ。人を気遣っていては、任務を達成出来ないぞ』
「うっ……だけど……」
そんな事は、修行中に酒呑童子さんから口うるさく言われています。
それでも、これだけは譲れません。僕は皆を守る為に、強くなっているんです。それなのに、その守りたい人達に危険な事をさせるくらいなら、僕が進んで部屋を調べて行きます!
「それなら……僕が調べて行きます!」
『何?! 椿、待て! ヤケになるな!!』
黒狐さんが制止して来るけれど、そんなの知りません。
危ない任務をしていても、それでも僕は、極力皆を危険な目に合わせたくはないんです!
そして僕は、近くの教室の扉を開けて、その中を確認します。
すると、扉を開けた瞬間、僕の頭の上に金だらいが落ちて来ました。コント番組じゃないんですから、これはちょっと……というか、また僕の頭に。
「美亜ちゃん。これって、呪術?」
「安心しなさい。正真正銘、手作りの罠よ」
「ですよね……」
呪術にしてはしょうも無いですからね。
悪意はあるのかも知れないけれど、緊張して損した気がします。だけどもしかしたら、この教室がマシだっただけなのかも知れません。
「姉さん姉さん! こっちの教室。中央に何かを煮たお鍋が置いてありますよ?」
「わぁ!! 楓ちゃん! 勝手に開けないで!」
気が付いたら楓ちゃんが、反対側の教室の扉を開けていました。
勝手な事をしないでくれませんか? そこでいきなり爆発なんかしたりしていたら、どうしていたんですか?!
「ね、姉さん……自分、何故だか分からないけれど、あれ、食べたいっす……」
「駄目です」
「ひっ!! ね、姉さん。尻尾は……」
あれ? そういえば楓ちゃんの尻尾って、何気に触った事がなかったです。僕以上にフサフサじゃないですか。狸の尻尾って、凄いですね。
「姉さん~自分も尻尾が弱いんっすよ……は、離して下さいっす~」
「そっか。それじゃあ、このまま教室から離れますよ」
「あぁぁぁ……!! そんな~あれを、あれを食べさせてくれっす~!!」
もう楓ちゃんの目の色が変わっています。
尻尾を引っ張って引きずっていても、まだそんな事を言いますか。
「あの、美亜ちゃん……」
「う~ん。これも呪術じゃないわね……何これ」
でも、教室の扉を開いた瞬間、楓ちゃんが中央のお鍋に執着し出したから、多分扉に何か仕掛けているんでしょうね。
それを仕掛けたのは、八坂さん? それとも華陽?
このレパートリーは、おふざけが大好きな八坂さんかな? あのお鍋の中も、コントで良く使われている物が入っているはずですよね。
「う~ん。そうなると、扉を開けずに調べないといけませんか……」
『しかし、そんな事が出来るのか?』
「扉に手を触れなければ良いのならーー玩具生成!」
僕はそう言って、妖術で固いメンコを作ると、そのまま次の教室の扉に叩きつけます。次の瞬間、そのメンコが衝撃波を放ち、扉を吹き飛ばしました。
これは普通のメンコではなく、叩きつけたら衝撃波が出るようにしておきました。
「さてと、中は……?」
ガランとした教室の中に、和傘と……玉? あっ、何だろう……あれを、あれを回したい。
『むっ? 椿、いかん!!』
「きゃぅ?! 白狐さん、止めないで下さい! あれを、あれを回したいんです! そして、いつも以上にーー」
『それ以上は言うなぁ!!』
それでも、僕の欲求は止まらないんですよ!
例え白狐さんに尻尾を掴まれて、思い切り引っ張られていても、黒狐さんに怒鳴られても、あれを回したい!!
「お鍋……お鍋を!」
『いかん! 誰か楓を止めていろ!』
「ちょっと、楓。ストップストップ」
「雪姉さん。止めないで下さいっす!」
いつの間にか楓ちゃんも、お鍋の方に行こうとしているけれど、今なら気持ちが分かる気がするよ。とにかくやりたいんですよね、アレを。
『くっ、何とかならないのか! このままでは、コンビ名が「狐と狸」なんて言って、お茶の間に出続け、化かし合いをしなければならなくなるぞ!』
『何を上手い事言っているんじゃ、黒狐!!』
するとそんな時、僕の耳に龍花さんの声が聞こえて来ました。
「椿様。少し失礼」
「へっ? いたぁっ!! って、あれ? 僕はいったい?」
何だか、頭に強い衝撃を受けたと思ったら、あれだけ固執していた、教室の中の和傘への執着が無くなりました。
いったい、何をしたんですか? ちょっとだけ頭が痛いし、同時に凄く清々しい音が鳴り響きましたよ。
「んっんぅ。まぁ、定番の物を使っただけです」
龍花さんはわざとらしく咳払いをして、何か誤魔化しているけれど、そんなに知られたくない物なの?
ただその後に、僕の後ろで軽快な音が鳴り響き、楓ちゃんが悲鳴を上げていました。
えっと……紙を何枚にも折りたたんで、それを叩きつけた様な音ですね。
もう察してしまいました。
アレですか……昔ながらのこういう事に対抗するには、アレしかないんですね。ベタベタですけど、かなり有効みたいです。
ずっと龍花さん達が、教室の様子を伺ったり、僕達の様子を見て難しい顔をしていたけれど、僕と楓ちゃんに起こった症状を直す為に、これを考えてくれていたのですね。ありがとうございます。
だけど、何回もは勘弁ですよ。
「さて。お次は誰ですか?」
あの、龍花さん……もしかしてだけど、ソレ気に入ったんですか? 表情は変わらないけれど、何だか嬉しそうに見えますよ?
「えっと、僕と楓ちゃんはやったから、次はーー」
あっ、待って下さい! 皆凄い勢いで後ろに下がらないで下さいよ! それは卑怯です!