第拾肆話 【1】 創刊特大号はーーさせません!
全員と無事に再会した僕は、卵の霊さんに謝っています。主に、つまみ食いをした事なんですけどね。
ただ、あれは妖怪食じゃなかったのに、凄く力が湧いてきているので、とても不思議なのです。
「構わないさ。それ以上の働きをしてくれたからな。しかし、料理人では無かったのか。それであの実力とは恐れ入る。どうだ? 良ければ弟子入りをーー」
『それはいかん! 椿の手料理が食べられなくなるではないか!』
卵の霊さんが言い切る前に、白狐さんが止めてきましたね。
「何だ。既に作ってやる相手がいるのか。それは残念だな。あぁ、そうそう。ここの料理は、神々に献上する物を、特別な処置を施し、悪霊の浄化を促す物としている。神妖の妖気を持っている者なら、妖怪食を食べたのと同じ働きをするはずだ」
あっ、そういう事でしたか。どうりで力が湧いてくると思いましたよ。というか、そんな特別な物だったなんて。それを僕はつまみ食いして……本当にごめんなさい。
「だから気にするなと言っている。寧ろ、こちらの方が感謝している。お前のおかげで、料理を出すのが間に合ったからな」
僕がしょんぼりとしていたからか、卵の霊さんが再びそう言ってきました。
それでも可能なら、いつかまたお手伝いに来た方が良いのかも知れません。
「しかし、鞍馬天狗の翁にも困ったものだ。新たな部下の紹介くらい、して欲しいものだな」
すると今度は、もじゃもじゃの髭が沢山生えて、でっぷりとお腹の出ている、叔父さんみたいな妖怪がそう言ってきました。何でしょう……この妖怪さんは。ダルマみたいなんですけど。
『すまんの。こちらも、そなたの事は聞かされていなくて……』
そして白狐さん黒狐さんも、この妖怪さんの事は知らないみたいです。
「まぁ、ずっとこの屋敷に閉じ籠もっているからな。翁も忘れているんじゃないのか? がはは!!」
それでも、外界の情報は得ているんですよね? だって、僕のファンクラブのパンフレットを手にしているんだもん。
だけどその後に、黒狐さんがダルマみたいな妖怪さんに話しかけます。しかも、ちょっと落ち着きが無いです。
『とにかくだ。俺達はここから出たいんだ。悪いが、出口に案内してくれないか?』
「それは構わんが。外には謎の黒大蛇がおるぞ」
そうでした。僕達は早く、学校の旧校舎を調べないといけないのでした。
何か起こっているのかも知れないし、のんびりなんてしていたら、何もかも手遅れになるかも知れません。それなら、その黒大蛇は僕が浄化しないと駄目ですね。
「大丈夫です。黒大蛇は、僕達が何とかします!」
「ほぉ、それは心強いな。よし、それなら我々は、何故空間がおかしな事になっているのかを調べよう」
その原因は恐らく、旧校舎にありますね。
きっと、そこに来られたくない誰かが、あそこの空間をねじ曲げ、旧校舎の中に入れなくしていたんだと思います。
多分、八坂さんの仕業でしょうね。もしくは、華陽かな?
そうなると、こっちからではどうしようも出来ないかも知れません。だけど僕は、その時ある事を思い出しました。
そうだ。旧校舎の中には入れるはずです。
「多分、空間を戻す事は出来ないでしょうね。でも、学校の生徒みたいな人や、半妖の人達は、ここには来ていないのですよね?」
「ん? そうだな。お前達が来たくらいで、あとは至って平和だったぞ。空間の方も、昨日までは何ともなかったわ」
ビンゴです。という事は……。
「それなら。外の空間の何処かに、旧校舎に繋がる道があるのかも知れません」
『なる程。そういう事か! 椿よ、良く気付いたの』
いや、白狐さんは気付いていたでしょう? スマホを取り出して、妖気を確認する動作をしていましたよ。
それってさ、何処かに妖怪の力を使って、別の空間と繋がっていないかを調べていたのでしょう? 黒狐さんは本当に気付いていなさそうだけどね。
「白狐さ~ん……」
『む? いや、すまん。少し試したくなってな。結果、この屋敷には何も怪しい所は無かった』
「ありがとうございます。さて、あとは……」
僕が目を細めて白狐さんを見ていたら、あっさり白状しました。この屋敷には、別の空間と繋がっている道は無いのですね。それならやっぱり、外にあるのでしょうね。
だって、全校生徒や半妖の人達が、旧校舎の中に入って行っているんです。
そして少なくとも、この屋敷には来ていないのなら、旧校舎に連れて行かれた人達は、ちゃんと旧校舎の中に入っている事になります。
ただ、その後に空間をおかしくしたというのなら、僕達が今日ここに来るのを把握していた事になります。でも、それはあり得ないよ。未来予知でもしない限りね。つまり……。
「昨日までは空間は大丈夫だったーーと、そう錯覚させられていたら?」
「なっ……!! そんな事が……」
「出来るかも知れないのです。何もかもを隠して、うやむやにしてしまうあの人なら、そんな方法の1つや2つ、隠し持っているかも」
ダルマみたいな妖怪さんが驚いているけれど、相手はそれだけ、騙すのが得意な人なんですからね。
そうなると、人々を連れ去りだしてから、常に旧校舎の空間をおかしくさせていたんでしょうね。その方が、いつでも侵入者を飛ばせますからね。
だから、やっぱり外の何処かに、学校の旧校舎に繋がる道があるはずです。その道から、全校生徒や半妖の人達を、あの旧校舎の中に入れたという事です。
『とにかくじゃ、ここで考えていてもしょうが無い。1度外に出て、黒大蛇の方を何とかするぞ』
「そうですね。白狐さん」
そうしないと、外を調べる事も出来ません。
そして僕は、そのままホールを出ようとしたのだけれど、そのダルマみたいな妖怪さんと、雪ちゃんの話し声に、ついつい反応してしまいました。
「雪ちゃん。次のファンクラブの創刊号は、いつ頃に……?」
「そう、だね。今はドタバタしているし。来月、出せるかなぁ……」
「月1でしょ? 頼みますよ~しかも次は、偶数月。つまり……」
「分かっている、特大号。ちゃんと、椿の写真を沢山ーー」
「沢山、何ですか?」
ファンクラブに創刊号まであるんですか? 月1ですか。それって、いつから発行されているのでしょうか?
「はっ……! 椿。いや、その……これは」
「ねぇ、雪ちゃん。創刊号って事は、お金取ってるの?」
「いや、それは流石に……」
「いやいや! 会員費が月1000円ですからね~」
「へぇ、会員費……」
それっていったい、何処にいっているのでしょうか? 僕の会員数からして、とんでもない額になっていますよね。
「あっ、大丈夫。それは翁に管理して貰っているから。私は別に、お金儲けをしたい訳じゃないの。だけど、翁の命令で……」
それなら、帰ったらおじいちゃんを説教です。
何やっているんですか……というか気が付いたら、僕のファンクラブがとんでもない規模になっていましたよ。
『ふっ。いっその事、世界中にでも……』
「そうなるとね、僕を独り占めに出来ないですよ。白狐さん」
『ぬっ……それは困る』
全くもう。馬鹿な事を言っていないで、早く行きーー
「ーー何で、皆して僕の前に並んで……?」
ホールを出ようとしているのに、中々出られないんですけど?
しかも、その並んでいる列に悪霊さんまでいるんですけど。
「いやぁ……俺達もファンなんだよ。だから、一緒に写真を撮らせてくれ!」
「俺もだ!」
「いや、私も!」
「馬鹿者! 料理長である私が先だ!」
今料理長まで居ませんでした?! 皆して何をやっているんですか!
「は~い、並んで並んで」
「そして雪ちゃん!!」
君が率先したら駄目でしょう!
もう収集が付かなくなっちゃいますよ。だから僕は、雪ちゃんの襟首をむんずと掴み、そのまま引きずって行きます。
「ちょっ! 椿。これを、特大号の特集に……」
「却下です。触れ合い記念特集って事ですか? 僕はアイドルを目指しているんじゃないんですからね!」
雪ちゃんには1度、ちゃんとお説教をしないといけませんね。そうしないと、止めどなくやってしまいそうです。
カナちゃんの夢を引き継いだにしては、少しやり過ぎですよ。
カナちゃんだったらきっと、ここまではやらないですよ。だからこれ以上はもう、雪ちゃんの願望でしかないです。
全く……雪ちゃんはいつからこんな感じになったのでしょうか?