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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾弐章 華麗奔放 ~戦いの火蓋は華麗に~
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第拾参話 【1】 こんがり焼けました~

「よし、新入り! 次はこっちの料理だ!」


「あっ、はい!!」


 僕は今、蒸し暑い厨房の中で、慌ただしく動く白くて丸い卵みたいな人達と一緒になって、沢山の料理を作っています。しかも妖怪食じゃない、普通の料理に見えます。

 それにしても、この人達は人じゃないですね。でも、妖気も何も感じないから良く分かりません。


「おぉ。嬢ちゃん、切るの上手いじゃないか! 良し、こっちも頼んだぞ!」


「は~い!!」


 それで、何で僕がエプロンを付けて、こんな事をしているのかって? 僕だって何だかよく分からないのです。

 確かに数十分前は、あの長い廊下を歩いていたはずなのです。


 それが何でこんな所に?


 ーー時は少し戻ります。


 ーー ーー ーー


「ん~? こっち……かな?」


 良い匂いに誘われて、僕は長くて薄暗い廊下を歩いて行く。

 お腹は空いているけれど、食べ物に吊られたんじゃないですからね。妖気を補充しておかないと、何があるか分からないからです。


 それにしてもこの廊下、横に扉が無いです。つまり、他に部屋が無いので、ただひたすらに進むだけなのです。


 そんな長い廊下を歩く事十数分。遂に突き当たりが見えてきました。

 そこは突き当たりから、更に左右に廊下が伸びていて、その先も真っ暗で何も見えない。だけど、真正面には扉があります。中に入れそうです。


 入るしかない。良い匂いはこの先です。そのまま僕は扉を開け、中の様子を伺います。


「うわ。何ですか、ここは……」


 そこは、とても広い広い厨房になっていて、凄い熱気で溢れ返っていました。


 巨大なお鍋が大量に並び、その中でグツグツと何かを煮込んでいる。いい匂いはここからですね。

 巨大なフライパンでは、大きな手によって具材をひっくり返されている。と言うか、手だけしか無いんですけど、その体はどこですか?


 そして、その間を縫うようにして、白くて丸い卵みたいなものが、忙しそうに右往左往しています。


「おい! 前菜はまだか!」


「まだだ! スープが煮込めてない!」


「だぁぁ!! 畜生! 本来ならとっくに、メイン料理に移っているはずだろう!」


「人手が足りないっすよ!!」


 口が無いのに凄い喋っているし、よく見たら丸い体からは、小さな手足が伸びていて、それがチョコチョコと動いていました。可愛いですね……。


「おい! 新入りはどうしたんだ!!」


「妖界の料理人の中でも、腕利きの奴が来るとは言っていましたが、まだです!」


「畜生!! ん……?」


 あっ、しまった。もしかしてバレた? こっちを向いーーているんだよね? あれは。顔が無いから分からないです。


「お前……何者だ?!」


「ひぇぇ!!」


 やっぱりバレていました!

 おかしいな……? ちゃんと隠れてつまみ食いーーあれ? 僕はいつの間にこんな事を?

 こっそりと侵入してしまって、近くのお皿に乗っていたシュウマイに手が伸びて、あっさりと口の中に……あっ、このシュウマイ、エビがとても美味しい。


「おい! 勝手に食うな、こら!」


「ふぐぅ?! ご、ごめんなさい!!」


 こんな事をするつもりじゃなかったのに。すると、後ろから別の卵の人が声をかけてきました。


「料理長。もしかしてこの子が、言っていた腕利きの……?」


「馬鹿野郎! んな訳あるか! だが、ここ『霊亡の屋敷』に居るという事は、そいつの関係者なんだろうな。まさか、弟子とかか?」


「自身ではなく、弟子を送りつけるとは。なんて奴だ……」


「いや、それだけ自信があるんだろうよ。弟子でも十分だ。という程に、それだけの実力を持っているんだろう。こっそりと俺達の料理の味付けを見たり、評価をしたりしているんだろうぜ」


 あの、話がどんどんおかしな方向に向かっています。

 それと……その卵の人、料理長だったんですか? ごめんなさい、違いが分かりません。他の卵の人と一緒です!


「まぁどっちにしろ、つまみ食いした分は働いて貰うぞ!」


 やっぱりそうですよね。ごめんなさい。

 でも僕は、急がないといけないのです。皆が心配ーーって、あれ? ここの出口は何処?


「逃げようとしても無駄だ。ここ霊亡の屋敷はな、目的を達するまでは、その部屋から出られない様になっている。もちろん、この厨房もな」


 そんな厄介な所だったんですか?!


 そして「霊亡の屋敷」が、ここの屋敷の名前何ですね。という事は……ここはやっぱり、あの旧校舎の中では無いです。


 そうなると、急いでこの事を皆に伝えて、ここから脱出しないといけません。そしてその為には……。


「ほら、エプロンだ。さぁ、見せて貰おうか。お前の実力をな!」


 ここで料理を作りまくらないと駄目みたいです。


 ーー ーー ーー


 ーーそして現在に至ります。


「いよぉっし! 前菜と副菜もOKだ! メインに入るぞ!」


「「「「おぉう!!」」」」


 やっとですか……おじいちゃんの家で作る料理の量とは、比べ物にならないです。


 前菜にスープや小鉢に、とにかく全てに時間がかかりました。

 前菜もただのサラダじゃなくて、いちいち塩水に漬けないと駄目なんです。しかもこの塩水、普通の塩水じゃなくて、汚いものを根こそぎ綺麗にしていったんです。


 そしてスープの方も、灰汁をひたすら取りまくっていたけれど、その度にスープの透明度が増していっていました。何ですか、ここの料理は。


「あの……ここの料理って、いったい何ですか?」


「ん? そんな事も知らんのか!? この料理は、汚れた霊を満足させる為のものだ。だから、料理自体に汚れがあったら駄目なんだよ!」


 えっと……屋敷の名前からして、薄々は感じていました。という事は、レイちゃんがいきなり消えたのって、沢山の未成仏霊を見つけたから? いや、そんな感じじゃなかったですね。


 とにかくそういう料理だったから、作るのに手間がかかり、物凄い時間がかかるんですね。

 僕はこんな事をしている場合じゃないのに。つまみ食いをしたばっかりに……僕の馬鹿。


 それでも、出来るだけこの料理を早く終わらせる為にと、僕は一生懸命に働いています。


「よ~し。良いぞ! 魚は焼き加減に気を付けろ! 焦げたら終わりだぞ!」


 焦げてしまったら、そこはもう汚れた事になるんですね。

 それは難しいなぁ……だって、お魚さんですよ? 旬のお魚を使っているのは良いけれど、皮があるから直ぐ焦げるってば。これは、時間との勝負ですね。


「脂が出て来て、しばらく待ってーーうん、今!」


 あっ、こんがりと綺麗に焼けて、焦げてもいない。とても美味しそうな感じに焼けましたよ。

 すると、それを見ていた卵の人が、驚きの声を上げました。


「なっ!? い、一発でじゃと?!」


 これは料理長ですね。喋り方とかで。


「わ、儂でも、最初の2回は焦げるというのに……そこで、今日の脂の乗り具合、火の加減を見るというのに……こ、こやつは、それを一発で……」


 えっ? 嘘でしょう? いやいや、待って下さい。徐々に僕の評価が上がっている気がしますよ。


「むっ……良し。焼きは任せた! 次々と焼いていってくれ」


「しかし料理長! 焼きは1番難しくて、料理長レベルじゃなければ……」


「いや……こいつはもう、儂等以上だ。邪魔をしたら駄目だ」


 とりあえず、焼いていったら良いんですよね。

 僕は一刻も早く、この厨房から出たいのです。それこそ、色んな意味で。この屋敷の伝説に、僕の名を残す訳にはいかないのです!


 だから1匹ずつじゃなく、2~3匹を一気に焼いていきます。


「よっ! ほっ! それっ!!」


「んなっ!? で、伝説の2枚焼き……いや、3枚焼きじゃとぉ?!」


 駄目です。何をやっても驚かれちゃう!!

 もう名を残してしまうのはしょうが無いとして、早く終わらせます!


 それから僕は、焼くのを中心にし、魚以外もひたすら焼き続けました。そして、想定していたよりも早くに、予定していた料理が全て出来上がりました。


 これでようやく解放されると思ったのだけれど、扉はまだ現れません。


「何をやっているんじゃ『伝説の焼き職人』。料理を運び入れるまでが仕事じゃろう」


 そんな称号は要らないです。

 それよりもです。料理人だったら、料理を作ったら終わりでしょう? 持って行くのは、また別の人なんじゃ……。


「何せ悪霊だらけ。テーブルに持って行くのもまた、至難の業だ。これも、体力のある料理人にしか出来ん仕事じゃ」


 そんなのはもう、料理人じゃないです。

 うぅ……僕はまだ、ここから解放されないのですね。つまみ食いしてしまった自分に、この匂いにつられてしまった自分に、少し後悔しています。


 ごめん、皆。助けて下さい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 椿ちゃんの手料理が食べたい!そうだ!トラックに轢かれたら椿ちゃんのいる世界に記憶を持ったまま転生できると思うんですよ。どう思いますか?どうせなら妖怪の妖狐がいいですね。椿ちゃんとすぐに…
2021/12/13 14:20 退会済み
管理
[一言] クソッ。椿ちゃんの手料理なんて汚れた霊なんかに食わせるくらいなら俺に食わせろ!
2021/12/13 09:37 退会済み
管理
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