第拾弐話 【1】 再度潜入の旧校舎
翌日。しっかりと準備を整えた僕達は、チームとして一緒に動いている美亜ちゃん達と、白狐さん黒狐さん。そして龍花さん達4人と一緒に、僕の通っていた中学校へとやって来ました。
だけどそこはもう、誰も通っていなくて、黄色いテープで立ち入りを禁止されていました。
そして校門には、沢山の報道陣がいるので、僕達は裏手に回っています。
それにしても、つい最近まで僕はここに通っていたはずなのに、もう随分と昔の様に感じます。それだけ、この学校がひっそりとしてしまっているんです。
「よし。それじゃ作戦通りに。玄葉さんは、僕達チームを守って貰って、残り3人は警戒をしながら、何かあったら独自の判断で対応して下さい」
「分かりました。確かに私達は、個人で動いた方が動きやすいですね」
そうなんです。昨日みたいな事になったら大変ですからね。だから、個人プレーをお願いしました。
龍花さん達は4つ子なのに、何でこんなにも連携が取れないのでしょうか? いや、取れてはいるんですけどね、神がかりなレベルで。だけど何でしょう……お互いに譲れ無いものがある、って感じなのです。
その譲れ無いものは同じものだけどね。わら子ちゃんを守るって事です。4人とも不器用ですね。
そして作戦を確認した後、僕は影の妖術を使い、自分の影を使って、学校の裏手門を飛び越え、先に学校の中へと入り、そのまま僕の影で残りの皆を引っ張り入れます。
「ムキュゥゥ……!!」
「あっ、レイちゃん。ちょっと待ってて下さいね。皆が揃ってからです」
この学校の裏手は丁度グラウンドになっていて、その目の前にはもう、例の旧校舎が見えているんです。
だから学校に入った瞬間、レイちゃんが途端に唸り出しましたよ。やっぱりこの旧校舎、かなり危ないですね。更に禍々しい気が増していて、今にも何か飛び出して来そうな勢いです。
それから、順調に皆を学校の中に入れていくけれど、何故か里子ちゃんだけは、僕の影を掴んだ瞬間に思い切り跳び上がり、壁の向こうから僕に向かって飛び込んで来ました。
「椿ちゃ~ん! 私を受け止めて~!」
「さっ、と」
「きゃぅん?!」
遊んでいる場合じゃないんですよ。
咄嗟に体の向きを変え、その里子ちゃんの空中ダイブを回避しました。その瞬間、彼女は地面に顔面からぶつかりにいきました。自業自得だけど、大丈夫かな?
「里子、ブレない」
「ちょっとくらいブレて欲しいですよ。それで? 何で雪ちゃんも両手を広げているんですか?」
「……駄目?」
「君も地面にキスしますか?」
雪ちゃんもブレ無いですね。塀の上から両手を広げ、僕に受け止めて貰おうとしていましたね。
でも、僕の言葉で諦めてくれて、渋々自分から降りてきました。
そして最後に、白狐さん黒狐さんも学校の中に入り、全員で旧校舎の前にやって来ました。半年以上前の、ひとり隠れんぼの時以来です。
でもその時よりも、旧校舎の雰囲気が違います。結界も、より強固なものになっていそうですね。
あの時も、この中を色々と調べたんだけれど、何も無かったはずなのです。
だけどもし、あの時妲己さんが、この中の何かに気付いていたとしたら? それを黙っていたとしたら……。
やっぱり、妲己さんをいち早く助けないといけなかったかもしれない。でも、妲己さんを助けようにも、華陽がその姿を見せないので、どうしようも無かったのです。
もし、ここに華陽がまだ居るのなら、封じられた妲己さんも居るはずです。そう思うと、より一層気が引き締まりますね。
「それじゃ、皆。準備は良い?」
僕は後ろを振り返り、皆に再度確認をします。
「えぇ、良いわよ。呪術があったら、直ぐに見抜いて上げるわ」
「術で罠が仕掛けられていても、自分が跳ね返すっす!」
「幸運の気の方は、もう展開しているわ。気休めかも知れないけれどね」
「敵が襲ってきたら、私が凍らせる」
「そこを私が吹き飛ばすよ!」
皆それぞれ、自分の役割を確認し、真剣な表情で僕を見てきます。うん、大丈夫そうです。これなら何かあっても、直ぐにはやられませんね。
「椿様。私達も、準備の方は出来ています。いつでもどうぞ」
そんな僕達のチームの周りに、玄武の盾を展開してくれた玄葉さんが、僕に向かってそう言ってきます。僕は君達のリーダーじゃないのだけどね……。
だけど、これで準備は出来ました。あとは、レイちゃんに結界を破って貰うだけです。
「うん、よし。レイちゃん、頼んだよ!」
「ムキュッ!」
すると、待ちきれなくなっていたレイちゃんが、僕の言葉と同時に旧校舎の入り口へと飛んで行き、そして一回転をしたと思ったら、そのまま尻尾で旧校舎の結界を破りました。
「皆、結界は直ぐに戻るから、このまま一斉に突入して!」
「「「「了解!!」」」」
そして僕達は、旧校舎の入り口から一気に中へと突入して行きます。
だけど、中に入った瞬間僕は足を止めました。
「わ~!! ストップストップ! 皆ストップ~!」
なんと、目の前が断崖絶壁だったのです。
これはどういう事?!
以前中に入った時は、普通に廊下が続いていたはずなのに、今僕の目の前には、数キロ先も見渡せない程の霧がかかっていて、下か全く見えない程に、広い広い空間が広がっていたのです。
つまり、このままだと真っ逆さまに落ちちゃいます。
「へぶっ?! ちょっと、椿!?」
「姉さん! どうしたっすか?!」
「美亜ちゃん楓ちゃん、あんまり押さないで下さい! この先の廊下がないのです! 下が霧で、何も見えない! このままだと落ちちゃう!!」
「えぇ!? そうは言っても、結界が……!」
「わわわわ! ギリギリセーフだけど、椿ちゃん、早く前に……って、廊下ないの!?」
更に続いて、雪ちゃんと里子ちゃんも慌てて入って来ます。そして、わら子ちゃんと龍花さん達、最後に白狐さん黒狐さんが、結界が再び張られるギリギリのタイミングで入って来たので、僕はもう落ちる寸前です。
「駄目です。これ以上押さないで! 霧の中に落ちちゃう!! この先、本当に足場が無いんです!」
「「「「何だって?!」」」」
このままだと、僕は真っ逆さまに落ちてしまいます! どこかに足場とかは無いのですか?!
だけど、一生懸命辺りを探っても、それらしきものは一切無いです。
あっ、でも……下の方に薄らと、霧の中の先に、屋敷みたいな物の屋根が見えます。
あの屋根に降りられるかな?
あの屋敷が幻だったら、僕は死にますけどね。それでも、皆に後ろから押されてしまって、僕はもう限界です。
「一か八か……! レイちゃん! あの屋根に飛び移るから、背中に乗せて下さい!」
「ムキュゥ!」
そして僕は、レイちゃんに声をかけると、そのまま意を決して飛び降ります。
丁度そのタイミングで、レイちゃんが僕の下にやって来てくれて、その背中に乗せてくれました。
『椿、無事か!? 焦ったぞ……』
『しかし……ここは一体?』
その後に安堵しながら、白狐さんと黒狐さんがそう言ってきました。
ただあの場所は、足場がかなり少ないのか、皆落ちそうになっています。かなりギリギリですね。
「ちょっと待ってて下さい。あの屋根に降りられるかどうか、確認をしてきます!」
「いけません! 椿様、後ろ!」
「へっ? うわぁ!!」
朱雀さんの声で後ろを振り向くと、そこには巨大な黒い蛇が、口を開けて迫っていました。
「レイちゃん、上昇ーーいや、バックして下さい!」
「ムキュッ!!」
その瞬間、僕の目の前に巨大な蛇の口が上下から迫り、さっきまで僕が居た場所で閉じました。
危なかったです……これは上昇していても、パクリと食べられていました。
「何ですか? この蛇は……」
怪しいのは、その妖気を一切感じられない事です。という事は……。
「美亜ちゃん! これ、呪術の類ですか?!」
「くっ……わっかんないわよ! 邪気は感じられるけれど、呪術程の濃さは無いわ!」
美亜ちゃんがそう言ってくるという事は、これは呪術では無いのでしょうか。
あぁ、だけど。皆もあそこから落ちそうです。早く安全を確保しないといけません。
「良し、レイちゃん。あの蛇の後ろに回れる?」
「ムキュ!」
レイちゃんは毎回、良い返事をしてくれますね。そして何だか、とても嬉しそうです。そんなに、僕と一緒に戦えるのが嬉しいのかな?
それよりも、この黒い蛇さん大っきいですね。
下の見えない霧の部分から、ここまで伸びて来ていますからね。目も真っ赤だし、呪術だと思うんだけどな……だけど、専門の美亜ちゃんが分からないと言うなら、違うのかも知れません。それでも、邪気があるのなら。
「御剱で、浄化する!」
そして僕は、金狐状態にはならずに、御剱に妖気を流し、その刀身を光らせます。
この先に何があるかは分かりませんからね。力は温存しておくに超した事は無いのです。
さて、早くこの蛇さんを浄化しちゃって、皆を安全な所に降ろしましょう。ここの調査はそれからです。