第拾壱話 【2】 キレた美亜ちゃん
「え~それじゃあ、作戦会議の方を……」
「姉さん。それよりも、布団から出て来て下さいっす」
無理です、楓ちゃん。今ここには、白狐さん黒狐さんも居ますから。
あの後、割と早くに復活されてしまって、作戦会議に加わっていますから。あのまま寝ていて欲しかったのに。
『ふっ……椿の永遠の愛の誓い。可愛かったな』
『しかし白狐。2人と言うのが引っかかる。まだまだ勝負は着いていないな』
『良かろう。それなら、どちらが先に子を宿させる事が出来るか、勝負ーー』
「勝手に決めないで下さい!!」
このまま放っておいたら、僕の意思とか関係無しに、次々と話が決まっちゃいますよ。
だから僕は、咄嗟にお布団から飛び出したけれど、その瞬間に白狐さん黒狐さんと目が合ってしまいました。そして、一気に顔が熱くなった僕は、再びお布団に潜り込みます。駄目です、恥ずかしい。
「ちょっと椿。いい加減に出て来なさいよ! 作戦会議が出来ないでしょうが!」
「大丈夫です。このままで出来ます」
「あのね……あ~もう。ちょっと、夫の2人。何とかしてよ」
美亜ちゃん、それトドメ刺しているからね。僕、余計にお布団から出られませんからね。
『こういうのは、様子を見るのが1番可愛いんじゃ』
『弄って反応を見るのも可愛いぞ』
2人とも最悪ですよ。この状況を楽しんでいるじゃないですか。もう良いです。勝手に作戦会議を進めます。
そのままお布団に潜ったままで、僕は皆に話しかけます。
「えっと……それで、僕が通っていた学校の旧校舎に、その学校の全校生徒、そして捜査零課の半妖さん達に、京都市内に住む半妖の人達が誘い込まれた件で、僕達はそこに侵入し、その人達を助けに行きます」
攫われた訳では無いので、原因究明が難しいのです。だから、侵入して調べるしか無いんだけれど。
「あの……それって、凄く危険だよね。何で私達が?」
わら子ちゃんの言う通り、かなり危険なんです。そして何で僕達なのかと言うと、答えは簡単です。
「酒呑童子さんは、亰嗟の方を押さえてくれています。同じ様に、他のライセンス持ちの妖怪さん達も、それを手伝っていたり、妖界から逃げて来た妖怪さん達の把握、その犯罪抑止に努めています」
「つまり、手が空いているのが私達であり、且つ最強パーティーである私のパーティーが、1番適ーーにゃぁっ?!」
「いつから美亜ちゃんのパーティーになったんですか?」
お仕置きとして、影の妖術で美亜ちゃんの影を操って、彼女の尻尾を握っておきます。
「椿ちゃん、椿ちゃん」
すると、それを見た里子ちゃんがお尻をこっちに向け、自分の尻尾を振っているんだけれど、握って欲しいのかな? でも、これは無視です。話が進みませんからね。
「それで、侵入に関してだけれど、復活をしたレイちゃんが結界を破ってくれます。その後だけど、美亜ちゃんに呪術の罠を警戒して貰い、その後ろを僕達が行く、というのはどうかな?」
僕のその提案に、龍花さんが手を上げてから意見を出してきました。
「椿様。それでは、咄嗟の事態が起こった時、美亜さんが危険ですよ」
それもそうでした。だけど、呪術は警戒したいからなぁ。美亜ちゃんには、出来るだけ先頭に居て欲しいですね。
「龍花、椿様は呪術を警戒されているのです。美亜さんを頼りにするのは当然ですので、ここはその美亜さんを、この私が守ります」
「いや、玄葉。お前は全員を守るんだ」
「しかしそうなると、私の盾の装甲が薄く……」
「だから、そこをカバーするのが、我々4人の役目でしょう? 座敷様も居るんですよ?」
困りました。龍花さん達4人は、それぞれ自由に動いて貰おうと思ったんだけれど、しっかりと作戦会議に加わっています。
だってそうしないと、この人達の方が任務を沢山こなしていて、難易度の高い任務なんかもやっているのですよ。僕なんかより、もっと的確に指示が出せる……はずなんですけど。
「そもそも、いつも龍花や虎羽が前に飛び出すので、私が全体をカバーする羽目になるんです。偶には、作戦通りに動いたらどうですか?」
「何ですって? そうは言っても玄葉、あなたは戦闘が出来ないでしょう」
「私だって出来ます」
「あっ……ちょっと、喧嘩をしないで下さい」
この人達って、こんなんでしたっけ? あれ? しかも、僕の言葉が届いて無いです。
「そもそも、援護する私の身にもなりなさい」
「朱雀。あなたは空を飛んで、安全圏から攻撃するだけでしょうが」
「聞き捨てなりませんね、虎羽。勝手に動きまくる誰かさん達を避けて、敵だけを狙い撃つのは、至難の業なのですよ?」
しかも、何だか徐々にヒートアップしてきて、収拾もつかなくなっているようなーーって、あっ。これはマズいです。
「4人とも、そこまでです! それ以上は……あっ、もう遅かった」
「龍花さんに虎羽さん、それと玄葉さんに朱雀さんも。何で喧嘩しているの? 私、そんな4人は見たく無いよ。う~!」
「えっ? 座敷様……? ちょっ、きゃあっ?!」
「待って下さい、これは……ぁぁぁあ?!」
「座敷様、落ち着……うわぁぁ!」
「くっ、撤た……はぁっ?! わっ、あぅ!」
あ~あ。わら子ちゃんが不機嫌になっちゃったから、4人とも地味に不幸な事が起こっちゃったよ。懐かしいですね、この光景は。
天井の屋根が落ちてきたり、床が抜けたり、何故か浮遊丸さんが部屋の中に飛んで来て、そのまま激突したり、逃げようとしたら足がもつれて転がって、その先の柱にぶつかったり。
「う~ん。それじゃあ龍花さん達は、各自自由に動いて貰いますね。この感じじゃ、なかなか決まりそうに無いので」
そして、僕がそう言った瞬間……。
『これ、椿よ。何時まで布団に潜っている。流石にこれ以上は、皆に失礼では無いのか?』
「え? うわっ?!」
突然白狐さんが、お布団の隙間から覗き込んでいる、僕の顔の間近まで、自分の顔を近付けていました。
だから、急に白狐さんの顔が上から現れたんです。慌ててお布団を頭から被っちゃいました。勘弁して下さい。
『椿よ。我はもう気にしていないから、早く出てこんか』
「僕が気にするんです!」
「椿ちゃ~ん。あんまり抵抗すると、尻尾弄っちゃうよ~?」
あっ、しまった。里子ちゃんの声が後ろから?
見ないなぁと思っていたら、いつの間にか僕の後ろに。しかも、尻尾はお布団に隠せないので、いつも出しているんです。
だからこのままだと、里子ちゃんに尻尾を握られちゃう。でも、お布団からは出ません!
「たぁ!!」
「なっ! 椿ちゃん!? お布団を被ったまま?!」
「ふっふっ……! 甘いですよ」
これなら僕は、このお布団から出なくて済みます。立ってしまっているけれど、体にお布団を巻き付け、顔まで覆い隠しているから完璧です。
「さぁ、作戦会議を続ーーうわぁ!!」
でもこれ、前が見えなかったです。
地味な不幸を受けて、そのまま床に倒れていた龍花さんを踏ん付けてしまい、僕も倒れてしまいました。
「今の内です! 姉さん、いい加減にお布団から出て来て下さい!」
「わぁっ!! 楓ちゃん、お布団を引っ張らないで!」
「それなら、冷やそうか?」
「雪さん、それ逆効果っすよ!」
そんな風にして、僕が必死に抵抗を続けていた時、部屋に一際恐ろしい声が響きます。
「フゥゥ……! あんた達、作戦会議でしょうが。これ以上騒ぐなら、全員呪うわよ」
美亜ちゃんが怒り心頭していて、今にも僕達全員を呪ってきそうな程に、負のオーラが全開でした。
「椿。あんたいい加減布団を取らないと、一生その布団から離れられなくなる呪いをかけるわよ」
「はい。ごめんなさい」
声がマジです。キレてますよ、これ。
そんな呪いがあるかは分からないけれど、美亜ちゃんの雰囲気が、本当にその呪いをかけてきそうな勢いなんです。
だから僕は、素直にお布団を体から外して、敷き布団の方に戻しました。
「それじゃあ、あとは分かっているわよね?」
「はい、ちゃんとやります……」
この時、僕は思いました。もう2度と、美亜ちゃんを怒らせたら駄目だって。
それは皆も分かってくれた様で、その先はただ静かに、淡々と作戦会議が進みました。