表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾弐章 華麗奔放 ~戦いの火蓋は華麗に~
355/500

第拾話 【2】 脱神について

 その日の夕方。

 おじいちゃんの家で目を覚ました僕は、物凄く後悔していました。あんな……あんな物さえ飲まなければ。

 お酒のせいとは言え、賀茂様にとんでもない事を……2人の神様の前で、遠慮も無しに騒いじゃいましたぁ!!


 お布団から出られません。


『椿よ。そろそろ起きたか? って、何をやっとるんじゃ?』


「放っといて下さい……今はお布団から出たく無いです」


 こういう時って、記憶が無くなったりする場合もあるんでしょうけど、僕の場合はハッキリと覚えているので、尚更なんです。謝っても許してくれそうにないです。


 罰として、生きながらに100年間石像にとかされたりするのかな? そうなると、色々と大変な事になります。


 悪巧みをしている妖怪達を止められなくて、人間界が無くなってしまうかも。いや、それ以上に大変な事が起こって、世界が滅んだり?


 そんな中でも、白狐さん黒狐さんは消えずに残っていたりして、同じ様に消えずに残った石像の僕を、一生懸命守って、毎日磨いてくれたり……?


「でも、そうなると……体、触られちゃう? 別に白狐さん黒狐さんになら良いけれど……」


「何が良いんじゃ?」


 あっ、チビ賀茂様だーーって、チビ賀茂様?! 布団の中にチビ賀茂様?!


「わぁぁあ!!」


 慌てて布団から飛び出した僕を、ちゃっかり白狐さんが受け止めました。


『今回は早かったの』


「むっ……それってどういう事?」


 多分半年前の、落ち込みの時の事を言っているんでしょうね。

 あっ、それよりも。チビ賀茂様に言っても、賀茂様に伝わるはずです。だから、ちゃんと謝らないと。


「そうです、賀茂様ごめんなさい! 僕、とんでもない事をしちゃいました! どんな罰でも受けるのでーー」


「あ~よいよい。本体の賀茂は怒っとらん。それに、本来これを伝えるのも本体の役目なのじゃが、恥ずかしいから目を合わせられんじゃと。まさか、椿からキスをしてくるとはおーーむぐっ」


「それは言わないで下さい……」


 確かに、あれを罰だとは言っていたけれど、僕は進んでやっちゃったんです。しかも、白狐さん黒狐さんの目の前で。

 ただその後に、2人にはもっと凄いキスをしちゃったんですよね。あっ、しまった……思い出しちゃった。


 あぁぁ……今、白狐さん黒狐さんと目を合わせられないです。恥ずかしくて、顔が熱くなっているんです。これ、絶対顔が真っ赤になっているってば。


「ふむ、可愛いの」


「それで、チビ賀茂様。いったい何の……」


「いや、なに。鞍馬天狗の翁からも許可を貰ったので、脱神の説明をと思っての」


「あっ……そうでした」


 僕が酔っ払ってあんな事をしちゃったから、あの話はお流れになってしまったかと思いましたよ。

 そう言えば、高龗神様はちゃんと帰ったのでしょうか? 

 でも、いつも通りのチビ賀茂様を見れば、多分ちゃんと帰ってくれたんでしょうね。そこはやっぱり神様だから、約束はちゃんと守らないといけないですよね。


「それで、その神っていったい何なのですか?」


「単刀直入に言おう。妖怪が神妖の妖気を得る為の儀式、あれで力を弾かれ、抜け殻となった神、それが脱神じゃ」


「……えっ? あっ」


 そっか、そうだったんだ。

 神妖の妖気を得る為の儀式は聞いていたけれど、何かが引っかかるなと。ずっと頭の隅で、何かおかしいなと、そう思っていたんですよ。それはこれだったんです。


 神を呼び、その神を弾いて力だけを残し、妖怪に入れる。それが神妖の力を得る為の儀式です。だけど、そう。弾かれた後のその神様は、それからどうなるの? 僕はずっと、それが引っかかっていたんです。


 妖怪の皆は、神妖の儀式の事を当たり前の様に言っていたし、その後の神様の事は、何も言っていなかったけれど、それはセンターから口止めされていたから、気にしないようにしていたんでしょう。でも、ちょっと待って下さい。


「待って下さい。力を弾かれたんですよね? それは別に、脅威ではーー」


 でも、それに答えてきたのは白狐さんでした。


『そう思うじゃろ? ところが、力は無くともじゃ、向こうは勝手に呼び出され、身勝手に力を奪われたんじゃ。それは強力な負の塊となり、時に人間に多大な影響を与える事がある。それは、祟り神でもあるんじゃ』


「なっ!? まさか……あの時、滅幻宗の本拠地に居た、あの祟り神も?!」


『そう。あれも力は弱いが脱神であり、その成れの果てじゃ』


 という事は、神としての力は奪われても、負の感情を長い年月をかけて研ぎ澄まし、強力な武器にしているんですね。


 そして続けて、チビ賀茂様が話してきます。


「ところが、この脱神の中でも、上位の神が脱神となったら厄介じゃ。人間界すら滅ぼしかねない、恐るべき邪神になるのじゃ。今の所、それが現れたという記録や史実等は無いが、昔から一部の妖怪の中では恐れられていた事じゃ」


 そうチビ賀茂様が言った後、僕はちょっと嫌な事を思い出してしまいました。

 確か僕には、元々神妖の妖気が備わっていて、それに気付かず天狐様が、更に神妖の力を与えようとした。そしてそれが、あの金狐状態の力だとしたら?


 これ、お母さんの力だと思っていたけれど、どうも違うみたいなんです。でも、これ以上は分からないや。

 だけどもし、その時呼んだ神様が、有名な神様だとしたら? そしてその神様が、力を抜かれて弾かれていたとしたら?


「どうした、椿。何か心当たりでも?」


「うっ、いや……まだ推測の域でしかないです。それと、頭が痛いです」


 どうやら、僕の封じられた記憶と、何か関係がある様です。久しぶりに凄い頭痛がします。ちょっとこれは、立っていられないですね。


『椿!』


 僕が倒れそうになった所を、今度は黒狐さんが咄嗟に支えてくれました。


「ごめんなさい……また、僕の封じられた記憶の事らしくて、頭が……」


『いや……それは、二日酔いの頭痛だぞ』


 違います、絶対違います。そんな訳ないです。ちゃんと寝ていたから、酔いは収まっているはずですよ。だからこれは、封じられた記憶を思い出そうとして起こる、あの頭痛なんです。


「違います、黒狐さん。二日酔いの頭痛じゃないです。フラフラして吐き気がするけれど、二日酔いじゃないです」


『二日酔いじゃ』


「うむ。二日酔いじゃな」


 白狐さんと賀茂様まで?! えっ? 本当にこれって、二日酔いなんですか? 甘酒一杯で、そんな……。


「まぁ、仕方ないだろう。何せ高龗神が、その甘酒のアルコール度数を上げていたからな。2倍に」


「お休みなさい」


 チビ賀茂様からその言葉を聞いた途端、更に気持ち悪くなってきて、頭痛も酷くなってきました。

 そんなもの飲むじゃなかったです。それよりも、言っておいて欲しかったですね。


 そうやって、僕が再度お布団に潜り込んだ瞬間、誰か部屋に入って来ました。


「椿ちゃん。二日酔いは大丈夫? ご飯、食べられそうにないだろうから、お粥作ってきたよ」


 この声は、里子ちゃんですか。嬉しいです。僕を気遣って、ちゃんとお粥を作ってくれるなんて。

 それに、チビ賀茂様と話している間に、そんなに時間が経っていたのですね。もう晩ごはんの時間ですか。


「里子ちゃん、ありがとう。妖気が切れたら困るから、とりあえず食べておくね」


「は~い、そうして下さい。ちゃんと二日酔いにも効くように作ったからね」


 そう言って里子ちゃんは、お粥を持って僕の横に来て、そのままその場に座りました。

 あれ? 床に置いて行くと思ったら、何でそのまま座ったのでしょうか? ま、まさか……。


「里子ちゃん。一応、自分で食べられーー」


 里子ちゃんに行動に移される前に、僕はお粥の入った小さな鍋の蓋を開けようとしました。だけど、その僕の手の上に、里子ちゃんの手が……あ、開けられない。そして、そのまま笑顔で僕を見てきます。


「椿ちゃん。分かってるでしょ?」


「あの……風邪ではないから、恥ずかしいんです」


「風邪なら良いの?」


「いや、そうじゃなくて……」


 駄目です。手を離してくれないし、何よりも里子ちゃんが風邪を引いた時に、僕が食べさせて上げたんだけど、色々とやっちゃったからさ、あの後「絶対私も、椿ちゃんにお粥を食べさせて上げるんだから」と燃えていました。


 つまり里子ちゃんは、この状況を虎視眈々と狙っていたんです。どうりで……お粥の準備が早いと思いましたよ。


「観念してね、椿ちゃん」


「うぐっ……分かりましたよ」


 もう本当に、観念をするしか無かったので、僕は蓋から手を離しました。

 すると里子ちゃんは、更に笑顔が増していって、そのまま蓋を取り、そして良い匂いのするお粥を、小さめのスプーンで掬い、僕の口元に持って来てくれました。そして、やっぱりこれも妖怪食。泳いでいるよ、お米さんが元気に泳いでいるよ!


「待って、里子ちゃん。これ、ちょっとタイミングをーー」


「駄目で~す。はい、あ~ん」


「いや、あ~んじゃなくて! 普通に泳いでいるならまだしも、シンクロナイズドスイミングみたいな動きしているから!」


「もう……早く食べてよ。冷めちゃうから。えい!」


「むぐぅ?!」


 やっぱり無理やり食べさせられてしまいました。

 口の中でめちゃくちゃ動かれて、しかも泳ぎながら踊っているので、簡単には飲み込めない。というか、噛めないよ!


「くっ……! くふっ……んぐぐぐぐ!! んっ……んぐっ。はぁはぁ……」


 それでも何とか飲み込めたけれど、里子ちゃんが恍惚な表情をしちゃってます。


「あはぁ……久しぶりに椿ちゃんが、私の作った妖怪食で悶えてる~」


 里子ちゃんは無視です。それよりも……。


「はぁ、はぁ……あの、後ろに並ばないで!」


 白狐さんと黒狐さんが鼻血を出しながらも、里子ちゃんの後ろで鎮座しているんです! スプーンを持ってね。


「私も居るぞ~」


 チビ賀茂様まで!?

 何で皆、僕にお粥を食べさせようとしているんですか。でも、抵抗しようにも頭痛がするし、何より体に力が入らないのです。


 だからその後は、順番に皆にお粥を食べさせられる羽目になりました。もちろんその度に、悶える事になったんだけどね……。


 覚えておいてよね、里子ちゃん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ