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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾壱章 奮励努力 ~一歩一歩前へ~
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第拾参話 【2】 妖魔人となった湯口先輩

 その後に僕達は、いつもの移動用妖怪、雲操童さんを呼び、北区の船岡山公園に到着しました。

 ここは丁度、近くにある大徳寺の真正面に位置していて、その名の通り、周辺は小高い丘になっています。


 更にその奥には、建勲神社という神社もあって、賀茂様曰く、そこの神社の神様とも連絡が取れないようで、それも心配しているみたいです。ついでに様子も見に行って欲しいと言われました。


 だけど、その公園に着いた僕達は、その目を疑いました。だってあたり一面、亡霊や怨霊のオンパレードなんです。あまりの数に、僕は呆然としています。


「何これ……何が起きているの?!」


 もしもここにレイちゃんが居たら、一生懸命成仏させようとして、無理していたかも知れません。これは、連れて来なくて良かったです。


『なんじゃ、この数は……』


『ちょっとやそっとの数ではないな……最早異様だ』


 確かにその通りです。でもここって、あまり良く知られていないようですけれど、史跡ですからね。


 確か……源家の誰かが、子供と一緒にここで処刑されているし、応仁の乱では、船岡山城なんて作られて、戦地になっていたみたいなんです。そうなると、これだけの数の亡霊も頷けるかな。


 でも、出て来る量が多いのは確かだし、邪気も凄いです。そしてもちろん、そいつ等は僕達に襲いかかって来ます。だけど……。


「神風の禊ぎ!」


 これくらいの落ち武者や武士の亡霊なら、浄化の風で何とかなりますね。

 とにかく、通りに面している入り口から迫っていた亡霊は、僕が一気に吹き飛ばしたけれど、まだまだ奥から沢山出て来ています。


『ふむ……この公園の中央、何か居るな』


「うん、白狐さん。分かっていますよ」


 着いた時から妖気を感じていたので、何か居るのは分かっていました。でもそれを感じた瞬間、緊張してしまったのです。この妖気は、感じた事があるから。

 だけど、白狐さん黒狐さんにはまだ、この妖気の正体を言わない方が良いかも知れません。

 だってそれを知ったら、僕に無茶させないようにって、自分達が無茶をするかも知れない。それは嫌だ。


『椿!!』


「あっ……! 神風の禊ぎ!」


 危なかったです……黒狐さんの叫び声に気付いた僕は、横から襲って来ていた亡霊を浄化したけれど、油断していると、直ぐに取り憑かれちゃいますね。今はとにかく進むしか無いです。


 そして僕達は、入り口から続く坂道を、僕が先頭になって、亡霊を浄化しながら進みます。


「神風の禊ぎ!」


 奥から次々と、溢れ出る様にして出て来る亡霊達ですけど、肝試しにはまだ早いですよ。だから、大人しく浄化して下さい。その方が、あなた達にとっても良いと思うから。


 ただ浄化される時、その亡霊達は皆、怨嗟の声か謝罪の声を上げていました。

 明らかに苦しみながら、ここで彷徨っていた様です。そうなると、少しおかしい。

 だって亡霊達は、固執するものがあるはずなのに、それをせずに僕達に向かって来ている。それはまるで、命令されているみたいなんです。


 まさか……この先に居る、禍々しい妖気を持った者が操っている? それじゃあ、それを倒さない限り……。


『椿、どうした? さっきからおかしいぞ』


 やっぱり白狐さん黒狐さんは、僕の様子がおかしい事に気付いていますね。良く見ています。本当に、いつも僕ばかり見ているから、こういう事は直ぐに気付かれちゃいます。

 それなら、隠していてもしょうが無いですよね。だけど、公園の中央はもう目の前なんです。


 ここの公園は、入り口から坂道を少し登った先に、大きな広場に出るのです。そこが、この公園の中央みたいなものです。

 因みに、この公園の広場には、石で出来た舞台まであって、ここが普通の公園じゃない事を物語っています。


 そしてその舞台には、僕が妖魔人の中でも、1番会いたかった人が居ました。


 髪が伸び、牙も生え、あの時の面影は一切無くなってしまった、湯口先輩の姿が……。


「湯口先輩……」


『なっ! あやつは?!』


『靖か……椿、妖気で分かっていたな?』


「ごめんなさい……だって、2人に止められたく無かったから。それに、2人に無茶をして欲しくなかったんです」


 だって……この人が相手となると、他の妖魔人とは違ってきます。

 何故なら僕は、諦めていませんから。湯口先輩を助ける事を!


「だから、ごめんなさい。先輩は、僕がやらせて!」


『椿!!』


『白狐、よせ。椿はもう、それだけ立派になっている。それなら、俺達がやることはなんだ?』


『黒狐よ、それでもこれは……』


『分かっている。だから俺達がいるんだろう!』


 黒狐さん、ありがとう。そして白狐さん、ごめんなさい。僕はいつも、あなた達に心配をさせています。

 でもこれだけは、どうしてもこれだけは、譲れないんです。わがままと言われても良いです。先輩を助けたいんです。


 そして僕は、最初から神妖の力を解放し、湯口先輩を見ます。

 焦点が合っていない、虚ろな目。先輩……あなたはもう、妖魔人にその精神を乗っ取られたのですか? それともまだ、抵抗しているんですか? 


 だから答えて、僕の言葉に!


「湯口先輩!!」


 そして金狐の状態でも、僕は必死に僕自身になって、先輩の名前を呼びます。でも……。


「金狐……神妖……来たな、妖狐椿!」


「なっ……!? くっ!!」


 だけどその瞬間、湯口先輩の手から、大きな音が鳴り響き、同時に衝撃波が発生しました。

 咄嗟に避けたけれど、鼓膜が破れそうな程の音量に、思わず耳を伏せちゃいました。


「くっ……言葉は届きませんか。それにこれは……超音速による衝撃波? まさか、ソニックブーム?」


 手をかざすだけで、寄生する妖魔の妖気だけで、それを発生させたのですか? 相当な能力を、妖魔人になった湯口先輩は持っています。

 説得も難しい……捕らえて元に戻そうにも、まだハッキリとした方法が分からない。そうなると、湯口先輩を捕らえたとしても、それまでこの能力を封じないといけないの?


 だけど僕は、諦めませんよ。先輩の心に届くまで、僕は何度でも叫びます!


「湯口先輩! 私です! 寄生する妖魔なんか、その身体から追い出してーー」


「何を言っている? これが、俺だ……」


「なっ?!」


 一瞬……ほんの一瞬で、僕の目の前に、湯口先輩が現れた。速い……速すぎます。


「壊音波」


「うっ……! 耳が!!」


「耳が良すぎるのも困りものだな。さぁ、来い!」


「断ります! 金華浄焔!」


 僕だって、そう簡単にやられるわけにはいかないんですよ。だから閃空の時のように、先ずは中の妖魔にダメージを与えます。


「ふん……」


「えっ? 効いてなーーぎゃぅ?!」


 驚く僕を余所目に、湯口先輩は、最初に放ってきたソニックブームを僕に向けて放つ。

 もう、湯口先輩に躊躇いなんて無い。本気で僕を、華陽の下に連れて行く気だ。


『椿!!』


 すると、激しく吹き飛んだ僕を、白狐さんが尻尾で受け止めてくれました。

 そしてその後、上に顔を向けて叫んでいます。相手の頭上に飛び上がり、妖術を放とうとしている黒狐さ

んに向かって。


『倒そうとはするなよ、足止めだけだ!』


『分かっている! そもそも倒せるとは思っていない! 妖異顕現、黒雷電狐(こくらいでんこ)!』


 黒狐さんがそう言うと、影絵の狐の形にした右手から、狐の形をした黒い雷を、湯口先輩に向けて放ちます。


 これは確か、麻痺の機能があるから、それで湯口先輩の足止めを? でも、妖魔人にそれが効くのでしょうか?


「ふん……!」


 すると、湯口先輩が再びソニックブームを放ち、黒狐さんの妖術を散らしました。

 このソニックブームには妖気が含まれていたから、当然威力の強い方が勝つんですね。

 今回は黒狐さんの妖術が負けたけれど、そもそも黒狐さんは、これで仕留められるとは思っていません。だから黒狐さんは、今度は左手を上に挙げます。


『隙ありだ! 妖異顕現、極黒雷(きょくこくらい)!!』


 上空から大きな黒い雷が落ちてきて、湯口先輩に直撃しました。

 これなら、今度こそ行動をーーと思っていたら、湯口先輩がその雷を振り払う様な動作をすると、途端に先輩を包んでいる黒雷が霧散しました。


『なっ……何だと!? こんなに強くなっているなんて……信じられん』


「まだです! 金華浄槍!!」


 とにかく、こちらが気負い負けするわけにはいかないんです。

 だから僕も、浄化の炎を纏わせた尻尾を槍に変化させ、先輩に攻撃をします。もちろん殺さないように、先輩の肩を狙って、自分なりに速度を付けてです。


 だけどそれも、素手で受け止められてしまいました。


「あっ……! し、しまった。まさか、素手で掴むなんて……それに、何で浄化の炎が効かないのですか?!」


 しかもそのまま、僕の尻尾を引っ張って連れて行こうとしてきます。これは痛いです。


『椿!!』


 そしてそれを、白狐さんが必死に僕を抱き抱え、連れて行かれないようにしています。

 だけどごめんなさい。苦しいですよ、白狐さん。僕のミスなんだけれど、尻尾が痛いのと息苦しいのとで、抵抗出来ないです。


「優し、過ぎるぞ……殺、せ、椿」


「えっ? 湯口先輩?!」


 そんな状態のまま、痛みと息苦しさに耐えていたら、微かに聞こえましたよ、先輩の声。


 まさか……まだ意識が、先輩の精神が残っているんですか?!

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