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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾壱章 奮励努力 ~一歩一歩前へ~
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第陸話 【2】 椿の妖術

 色々とあって、とりあえず試験を受ける事にした僕ですが、早速今日やると言われ、そのままヘビスチャンさんに、地下へと連れて行かれました。


 早すぎです。僕の心の準備というものが……。


 だけど、もうとっくに準備が出来ているらしいんです。それ、僕が断っていたらどうしていたんでしょうね?


「さっ、椿様。こちらです」


 人型になったヘビスチャンさんの案内で、家の地下にある大きな両扉の前にやってきたけれど、ここも確か使用禁止で、開かずの間になっていたような……。

 だけど、その扉の向こう側から、色んな声が聞こえてきます。もう既に観客が入っているんですね。緊張しちゃいますよ、色んな意味で……ね。


 そして扉の前に立っていた、手が体の半分くらいある妖怪さんに、その大きな扉を開けて貰いました。

 その先は、薄暗くて良く見えないけれど、何だか物凄く広い様な気がします。


「ほほぉ、流石。どんな扉も、劇的な様に綺麗に開けると言われる妖怪ですね。素晴らしい開け方です」


 それって、何か関係あるんですか? と、僕が不思議に思っていると、扉が開いた瞬間、そこから大歓声が僕の耳に響いてきました。あの開け方に、こんな効果があったんですね。

 それにしてもうるさいです。家の中で、そんなに大きな声を上げたら迷惑なんじゃーーと思っていたら、そこは東京ドーム並の広さがある、大きなドーム状になっていました。


「この様に、扉の開け方1つで、その演出が変わってくるのです。開けるタイミング、角度、それが重要なのですよ」


「本当ですかぁ?」


 ヘビスチャンさんの言っている事が良く分からないけれど、おじいちゃんの家の地下はまるで迷宮です。

 色んな所に扉があって、そこから色んな広さがある広間に出るんだけれど、こんなドームみたいな場所まであるなんて……ここの地下はいったいどうなっているんですか?!


「つ・ば・き!!」


「つ・ば・き!!」


 そして歓声がおかしいです。だからさ、僕はアイドルなんかじゃないってば!

 それに、観客席からかかっている垂れ幕とかにも、僕の名前が……あっ、誰ですか、名前の横に『LOVE』って入れている人は。白狐さん黒狐さんに怒られーー


『椿よ! いつも通り、平常心じゃぞ!』


『俺達もいるし、暴走した時の対処もある、安心しろ!』


 その白狐さんと黒狐さんでした!!


 何しているんですか、最前列の席で?! 何だか凄く恥ずかしいんですけど……。


「さっ、椿様。いつまでも入口で突っ立ていないで、真ん中に」


 そう言って、ヘビスチャンさんが僕の背中を押してくるけれど、ちょっと待って下さい。僕、こんな大勢の人前に出るなんて初めてで、どんな顔をして出れば良いのか、どんな出方をしたら良いのか分からないんですよ。


 だから今だって、普通に歩こうとしたら、右手と右足が同時に出ちゃいました。

 なんでそうなるの……僕。軍隊とかの行進をしているんじゃないんだから、ちゃんと歩かないと……って思っていても駄目です、体が硬いです。凄く緊張しちゃっています。


「さぁさぁ! 出て来ましたでぇ!! 我等が期待の星、妖狐椿ちゃん! えっ? もう幼いと書いて幼狐で良いって? それもありやーーぎゃぁぁあ!!」


「だ~れが幼いですって?」


 何で浮遊丸さんが居るんですか?

 条件反射で御剱を出して、上空に居る浮遊丸さんに向かって、真空の刃を飛ばしてしまいました。おかげでちょっとだけ、緊張が解けましたよ。浮遊丸さんには避けられたけどね。


「あっぶないやないかぁ!! 今回、自分はお情けをかけてもらえたんや! ここでしっかりと実況の仕事をすれば、限定的でも封印を解除してもらえんねん!」


「そうですか。でも浮遊丸さんの目は、ずっと封印しといて下さいね」


「おぉぉ……自分から光を奪うんかい……」


 すると観客席の1番上、見晴らしの良い席に座っていた、天狗姿のおじいちゃんが立ち上がり、声を張り上げる。


「さて。準備は良いか? 椿。これより公開ラーー昇級試験を行う!」


 今ライブって言おうとした? ねぇ、僕歌って踊らないと駄目なんですか?


「椿。この地下ドームが、何故開かずの間になっておったのか、その理由を言おう。それは、ある特別な効果があるからじゃ。今回お前さんには、その効果を受けて貰い、限定的な状態で、幻影の妖魔を倒して貰う!」


 おじいちゃんが掌を開いて上に挙げると、天井に書いてある、漢字の張り巡らされた円上の陣を光らせててきた。

 何で天井にこんなものが? しかも沢山あるんですけど? 妖気も感じるし、何だか嫌な予感がします。


「限定封印、対象椿! 神妖の妖気『浄化』、神妖の妖気『増幅』」


 すると、その天井の陣から光が飛び出して、僕に当たりました。


「きゃぅ?! えっ? ちょっ……!」


 その瞬間から、僕の中の神妖の妖気が消えた様な、そんな感覚に囚われました。まさか……封印された?!


「む? なんと……封印出来ても30分じゃと? 半永久的に対象を封じるこの封印でも、お前さんの神妖の妖気を封じられないとはな。あの2人は大したもんじゃ」


 あぁ、良かった……30分だけなんですね。って、もしかして浮遊丸さんって、ここに封印されていたんじゃないんですか?


 すると今度は、天井の上と四方から光を照らされ、薄暗かったドーム内が明るくなります。それと同時に、あるものが地面からゆっくりと出現して来ています。幻影の妖魔ですね。

 でも待って下さい、その数が多いです。10体ずつ次々と出て来るんですけど。


「さぁ、手早くゆくぞ! 神妖の妖気を使えないその状態で、30分以内に、出来るだけ沢山の妖魔を捕まえてみよ!」


 試験の中身は本気でした。

 当然ですよね……皆浮かれ過ぎていたから、その実感が湧かなかったけれど、ちゃんと試験が始まって、ようやく試験の厳しさが分かりました。これ、尋常じゃないです。


 だけど、そもそも他の妖怪さん達は、神妖の力なんて無いですから、これが一般的なんですよね。


「さぁさぁ! 始まったでぇ!! Aランク妖魔100体! Sランク妖魔50体! この暴れまくる妖魔達の中で、どれだけそのランクの妖魔を捕まえたか、それで昇級が決まってくる! 椿ちゃんは神妖の妖気を扱える様になって、圧倒的に強なったが、それが無いとどうなんや?! 自分的には、メソメソ泣いてしまう姿に期待や!」


 うるさいですね。浮遊丸さんを泣かせますよ? この妖怪さんを実況にしたのは、間違いじゃないですか? 良く喋るし、とてもうるさいです。


 とにかく、これだけ沢山の数がいるんだったら、1体ずつ相手にしていても、数で押されて負けてしまう。それなら……。


「普通の妖気は……良し」


 そして僕は、白狐さんでも黒狐さんでもない、神妖の妖気でもない、僕自身の妖気を体に満たしていきます。


 半年の修行で見つけた、小さくなっていた僕の妖気。人間にされていても、妖狐としての僕を、ずっと保ち続けてくれていた。

 でも今は、しっかりとその妖気を増やし、使える様にしておきました。


「ぬっ……この妖気は?」


 そして物を直す力は、その片鱗に過ぎませんでした。僕の妖気、小さい頃の僕が得意としていた妖術。それは……。


「妖異顕現。遊戯道具、生成!!」


 そう言うと僕は、自分の手から竹とんぼを出現させます。

 この妖術は文字通り、玩具を出現させる事が出来る妖術です。それ以外は出せないので、あまり戦闘向きじゃないと思われるけれど、僕の想像で、その玩具の性質を変えられるのです。


 つまりこの竹とんぼは……。


「そぉ~れ!!」


「おぉぉ?! これは~!! 飛んでいる竹とんぼから、巨大な竜巻が発生して、妖魔達を巻き込んでいます! というか、私も巻き込まれています!! あぁぁぁあ?!」


 それは知りません。


 でも作戦通り、妖魔達が次々と吹き飛び、地面に落ちたり、壁に叩きつけられたりしています。

 性質を変えれば、羽根を切れる様にして、鋭利な武器にする事も出来ます。つまりこの妖術は、発想次第という事なのです。


「なんと……小さい頃の自分の妖術を、戦闘用に改良して……」


 でもこれは、酒呑童子さんのおかげなんですけどね。


 自分の妖術を見つけて嬉しかったけれど、あんまり使えない事に落胆していたら、酒呑童子さんが玩具のままのそれで、僕を攻撃してきたのです。そして一言「使えるじゃねぇか」と。


 その一言で、僕はこの妖術の使い方が見えたのです。


「さてと……あとは捕まえるだけ~」


 そして竜巻が止んだ後、ドーム内で倒れて動けなくなった妖魔達を、僕は順番に巻物に封じていきます。といってもこれは幻影なので、巻物に封じても、そのまま消えてしまいます。

 でも、この巻物も特別で、何体封印したのかがカウントされるので、ちゃんとその数を把握する事が出来ます。


 だけど、やっぱり簡単にはいかなかったです。


「あ~Aランク妖魔は全部いけたけれど、流石にSランク妖魔は、起き上がりますか」


 大型だから、巨大な竜巻で吹き飛ばしても、あんまり効いていなかったです。そうなると、白狐さん黒狐さんの力も使うしかないですね。


 そして僕は、Aランク妖魔を全て封じると、起き上がったSランク妖魔の幻影と向き合います。

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