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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾壱章 奮励努力 ~一歩一歩前へ~
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第陸話 【1】 特別な昇級試験

 それから数日間、学校に行けなくなった僕は、それを忘れるかの様にして、ひたすら任務です。と言っても、実は僕はまだ5級で、妖魔を捕まえられないのです。ちょっともどかしいけれど、規則なのでしょうがない……。


 するとある日、朝食が終わった僕の元に、ヘビスチャンが現れました。

 お茶を飲もうとして、湯呑みを手にした右手に巻き付いて来ないで下さい。もう驚きませんからね。


「だいぶ肝も据わってきて、これ位では驚きませんか。成長なされましたね、椿様。このヘビスチャンの目に、狂いは無かったようです」


 だから、いつの話をしているんですか?

 最近妖怪の皆さんは、僕の成長を見る度に、こうやって昔の事を引っ張り出します。お年寄りみたい。


「それで、なんの用ですか? セバスチャンさん」


「むっ……これはまだ覚えられないのですか?」


「わざとです」


「ほぉ……」


「いたたたた!! ごめんなさい! 絞めないで下さい!」


 ちょっとしたお茶目じゃないですか……全くもう。腕の血が止まるかと思いました。


「さて……椿様。実はそろそろ、ライセンス昇格試験を行おうと思うのですが、どうされます?」


「えっ? もう? 確か、半年に1回なんじゃ……」


 僕が取ったのが去年の夏です。それを考えると、もう昇格試験の時期は過ぎているはずなんです。それなのに、今行うのは何で?


「これは、翁とセンター長が決めた事なのですが、椿様はもう既に、5級の実力以上になっているはずです。そうなると、逆にその5級のライセンスが、重荷になっているんじゃないかと。そこで今回、特別に椿様だけの昇格試験を行うと、そう決定されたそうです」


「何でわざわざ、僕にだけそんな事を?」


 確かに、5級であるからこそ動けない事があって、それでおじいちゃんに頼んで、特別な許可なんかを貰ったりして補っていました。

 でも、それだとライセンスの意味も無いし、他のライセンス持ちの妖怪さん達への示しにもならないから、ちょっと後ろめたかったんです。


 だから、ちゃんと正式な昇格試験を受けて、昇級しないといけないと思っていたのです。


 それなのに……何でまた、そんな特別扱いを? 恨まれるじゃん。


「実は一部の妖怪達から、是非椿様の実力をと、そう申し出る方々が相次ぎまして。そこで折角なので、公開式にして、昇格試験をやってしまえと、そう考えられたそうです」


「いや、待って下さい……僕の知らないところで、何でそんな事に? それって、僕が特別扱いされているのを、快く思っていないからですよね? それなら、また特別扱いなんてしたら、どう思われるか……」


「それ以上の実力を見せれば宜しいでしょう?」


 ヘビスチャンさん。僕の両肩に、更なる重荷がかかりましたよ。

 その妖怪さん達の中に、僕以上の実力を持った妖怪さんがいたらどうするんですか。


「それにどちらかと言うと、疑い等よりも、是非神妖の妖狐の力を見てみたいと、そう思った方の方が多いですよ?」


「何で言い切れるんですか?」


「全員、こういうのを持っていましたからね」


 そう言ってヘビスチャンさんが出してきた物を見た瞬間、僕はフリーズしてしまいました。


 どこかで見た事があるパンフレット、そこには……。


『妖怪のお姫様、妖狐椿ちゃんを守る会』


「…………」


 とりあえず会長は……うん、雪ちゃんですね。


「雪ちゃ~ん!!」


 そして僕は、雪ちゃんのお部屋に全速力です。


「あっ、椿。どうしたの?」


「どうしたの? じゃないです!! これ何?!」


 そう言って雪ちゃんにパンフレットを見せるけれど、雪ちゃんは平然としています。


「私が、継いだ。それが?」


「……継いだって、何を勝手にーー」


「今までもそうだったけど?」


 そうなんですけどね、またパワーアップしているんですよ。

 それに、これは何時撮ったんですか? こんな写真! おじいちゃんの家で修行している、ごく最近のものまであるじゃないですか。えっ、ちょっと……休憩中にドリンク飲んでる姿まで?! いったいどうやって……。


「今や、妖怪人間合わせて、会員数1000万人突破。やったね」


「あぁぁぁ……」


 もう僕は脱力してしまって、そのままへたり込んじゃいました。いつの間にか、妖怪さんまで巻き込んでいましたよ。

 そんな熱心に活動していたなんて……最近どうも、妖怪さん達の僕を見る目がおかしいな~と思っていたんですよ。そうですか、これでしたか。


「私、大忙し。そうそう、公開式昇格試験、やるよね? もうそれで特集組んだから、ファイト。あっ、そうだ。意気込みのコメントと、写真頂戴」


「君は記者か何かですか!!」


 テキパキ働く雪ちゃんが怖いですよ! 僕はアイドルなんかじゃな~い!


「あっ、因みに私も、椿様のファンクラブの会員です。ふふ、こうやって椿様に巻き付けるのは、会員の中でも私くらいです」


「あ、あは……あははは。何やっているんですか、ヘビスチャンさん」


 僕が悪かったです。もうセバスチャンさんなんて言わないから。お願いですから、これ以上僕を困らせないで下さい。


 すると突然、僕の後ろから凄い嫉妬の視線を感じました。

 誰かなと思って振り返ると、人魚の海音(あまね)ちゃんがいました。凄く悔しそうな顔をしながらね。


「私より……人気ある」


「へっ?」


「あぁ、そうそう。海音も、数ヶ月前からアイドル活動を始めたらしいけれど、人魚の歌は魅了されるし、人間には良いけれど、妖怪には受けず、総評では椿が勝ってる」


 そういえば、海音ちゃんも見ないな~っと思っていたら、そんな事をしていたんですか。というか、歌で魅了しているって……それって良いんですか? 色々と問題なんじゃ……。


「去年の夏も私は負けて、今回も……でもね、今に見てなさい。人間達全員、私の歌で魅了させて、妖怪の皆にも認めさせてやるわよ!」


 もうヤケですね。僕への対抗心が凄いです。

 それを後ろにいる楓ちゃんが、いつもの事の様に見ているけれど、止めて下さいよ。友達なら、止めた方がいいんじゃないんですか?


「楓ちゃん……友達なら、言って上げた方がいいんじゃない? 人に迷惑かけたら駄目って……」


「昔から何回も言ってるっすけどね。無駄っす。でも、大丈夫っすよ。そろそろっすから」


 何がですか? と、僕が首を傾げていると、今度はおじいちゃんがやって来て、海音ちゃんの首根っこを掴んで持ち上げます。しかも、何だか怒っている感じがしますよ。


「茶釜から聞いたぞ、海音。貴様、昔からその歌声で、人々を魅了しているようじゃな。しかも、裏でコソコソと隠れる様にしてな」


「はわっ!? ち、ちが……翁さん、違います! わ、私はただ、人間達に癒しをと……」


「そういう慈善活動をするにしても、申請をせぇ!! それに、今回のは完全に私怨じゃろう? 今後30年間、能力使用禁止じゃ!!」


「えぇぇ!? ちょっと、それは厳し過ぎーー」


「お前さん、ネットでも活動しているようじゃな」


「あ~えっと……」


 海音ちゃん、おじいちゃんから目をそらさないで下さい。無許可で活動している、中・高生の闇アイドルみたいじゃないですか。駄目ですよ、そんなのは。


「来い! 今回は特別に、儂の説法付きじゃ!!」


「えぇ!? 楓ちゃん~助けてぇ!」


「いってらっしゃいっす~」


「楓ちゃん?!」


 あらら……バッサリ切りましたね。何だかその瞬間だけ、楓ちゃんがくノ一っぽく見えました。

 でも、ちょっと待ってよ。僕の問題は何も解決していないし、天狗の姿をしたおじいちゃんの、その修験装束の背中に、見ちゃいけない文字が見えちゃいました。


《TU・BA・KI♡》


「あの~おじいちゃん……?」


「おぉ、忘れとった。儂もお前さんのファンクラブの会員じゃ」


「いつの間にですか?!」


「昨日からじゃ。全く……これがあると知っていれば、もっと早くに……とにかくじゃ、ファンクラブの会員として、妖怪の纏め役として、期待しとるからな」


 そう言うとおじいちゃんは、そのまま海音ちゃんを引きずっていきました。鼻歌交じりで、嬉しそうにしながら、ね。


 これって、僕はもう逃げられないのですか?

 いったい何が嫌だって、公開式だから嫌なんです。人前でだなんて、万が一暴走でもしたらどうするんですか。


「ファイト、椿」


「は、あは、あははは……」


 もう僕は色々とパニックになっちゃって、ただおかしな笑い方をするしか無かったです。

 ねぇ、僕の意思はどこ? 修行をしたらした分だけ、何でこんな事になるのですか? もしかして、賀茂様が何かした? 神の力とか何かでさ……。


 でも、こうなってしまったらしょうが無いです。今回はやらざるを得ないですね。

 それならせっかくだし、Sランク妖魔を退治出来る級まで、一気に上げちゃいましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] え〜。こっちの世界には無いんですか。じゃあ作って下さいよ、グッズ。 TwitterのDM解放してる【つもり】なんで、作ったらDMで教えてください。DM解放出来てなかったら普通に教えてください…
2021/12/13 01:31 退会済み
管理
[一言] マジですか!?会員カードとかおじいちゃんが来てた背中にTU•BA•KI❤️って書いてある服とかそういう会員だってのを証明するものは無いんですか?あと勧誘用のパンフレットとか... それとTw…
2021/12/13 00:38 退会済み
管理
[一言] このファンクラブってどうやったら入れますか?
2021/12/12 21:00 退会済み
管理
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