第壱話 【2】 激闘! 妖魔人「閃空」最終戦
閃空の謎の攻撃を吸収出来ずに、僕は思い切り吹き飛ばされたけれど、防御力を上げていたので、大したダメージは無かったです。ただ、制服のスカートがちょっと破れちゃった。
「ふ~ん、結構硬いね」
「色々と修行しましたからね。だからあなた達は、ちゃんと帰るべき場所に帰って下さい」
元の人格なんて、もう無いかも知れません。
それだけこの人達は、寄生妖魔に蝕まれていたんです。だけど、こうやって行動理念があり、命令も聞くのなら、人間としての何かは残っているはず。
「怪異、黒蝕球」
すると閃空は、そう言いながら片手を上げ、自らの突起物から出した黒い霧を、その手に集めていき、そして大きな球体を作り上げました。
いつもの妖具じゃない。禍々しい妖気が、球体の周りを漂っている。何ですか……これは。
「ふん。いったい何の事か分からないなぁ。僕はただ、妖怪であるお前達を殺せれば、それで十分なんだよ! おっと……妖狐の君は、出来たらこのまま着いて来て貰いたいね。亜里砂様が、君の中の記憶をご所望だからね」
そして閃空は、ちょっとずつこちらに近付いて来る。
これは流石にヤバい気がします。あの球体は、出来るだけ受け止めずに、返すか浄化するかした方が良いですね。
「そう言われて簡単に着いて行くほど、僕は馬鹿じゃないし、弱くもないよ!」
「そっか……それは残念だね。それじゃあ、死体にして連れて帰るよ。行け!」
そう言った後に閃空は、その黒い球体を僕達に向かって投げてくる。
だけどそれは、地面から伸びてきた木に阻まれ、途中で止まりました。
あれは意外と威力がないんですね。助かりましたよ、美亜ちゃん。と思っていたら、美亜ちゃんが驚愕の声を上げています。
「嘘!? 私の呪術で生み出した木が、枯れていっている?!」
「えっ? あっ……!」
良く見てみると、確かに黒い球体の当たった部分から、木が枯れていっています。そしてその木に穴を空け、黒い球体は再び僕達に向かって来ます。
あんまり速くはないけれど、このおかしな能力は油断出来ないですね。
「あはははは! どうだ!! 生気や妖気を食っていく、この黒蝕球の力は!」
その後も閃空は、新たな黒い球体を作っています。これは何とかしないと、いずれ詰みます。
やっぱり相手が相手なので、こちらも本気で行くしかないですね。それに、あれからも修行はしていました。
勝てるかどうかは分からないけれど、出来るだけ全力で、暴走しない程度にやってみます!
そして僕は、集中して神妖の力を解放していく。
髪は長く伸び、毛色も金色に。そう、浄化の力を全開で使う時の、あの姿になります。
「御剱、神威斬!」
そのまま僕は、いつもの袋から御剱を取り出し、目の前の黒い球体を切り裂きます。
「へぇ……ようやく本気という事? でもこの前は、僕の分身で精一杯だったろ? それに、僕も分身かも知れないよ?」
「いえ、あなたは分身では無い。本体です」
だって今の所、周りに他の妖気を感じないですからね。つまりこの閃空は、本体の可能性が高いです。
だけどまだ、本体が妖気を隠している場合があります。でも……。
「美亜……」
「えぇ。あなたに言われた通り、根や蔦を使って、この辺りを探ったわ。近くに誰かが居たら、直ぐに反応して捕まえるけれど、反応は無かった。つまり、こいつは本体で間違いないわね」
「と言うわけです。負なる者」
念には念を押しておいて良かったです。それにしても、美亜ちゃんのこの呪術は凄いですね。
「なっ……! くっそ……」
「ふん! その球体を飛ばせるものなら飛ばして見なさいよ! これだけの大量の木々を、いちいち枯らせるのかしら? それとも、間を縫って? どっちにしても、こうしておけば直ぐに気付くわ」
するとあっという間に、この公園が樹海となってしまいました。凄すぎですよ……美亜ちゃん。
それに、相手の気も感知出来るようにしたらしく、蔦や根を触覚代わりにし、それに反応する様にしているみたいです。更に凄い事になっていますね。
そして、閃空が新たに出した黒い球体を、次々とその木で受け止めています。
当然そのまま枯れていくけれど、一旦止まるのなら、その瞬間を御剱で斬ってしまえば良いのです。
そうやって、相手の出した球体を全て処理した僕は、閃空に向かって御剱を突きつけます。
「さぁ、負なる者。観念して、私の力で浄化されなさい」
相手を威圧する時には、こっちの状態の方が便利ですね。だからって、あんまり頻繁にこの状態になっていたら、どっちが本来の僕なのか、分からなくなっちゃいます。
だけどそれを見ても、閃空は顔色1つ変えていません。むしろ、次々と黒い球体を出していっています。
「全く……往生際が悪いですよ」
「それはどっちかな?! こんな樹海くらい、あっという間に枯らしてやるよ! そらそら!」
そう言うと閃空は、10個程作ったその球体を、一気に投げ付けてくる。
だけど、木の幹の上から腕を組んで、閃空を見下ろしていた美亜ちゃんが、何かに気が付いたのか、閃空に向かって話しかけます。
「無理よ。あなたのそれ、妖術でも呪術でも無い。何かの力を、そのまま使っているにすぎないわ。あなたに寄生した妖魔の力……かしらね? そ~んなので、私の呪術を簡単にやぶれるとは思わない事ね。だって私の呪いは、相手の負の感情にも反応して、大きく膨れ上がるんですから! あはははは!」
あっ、美亜ちゃんが黒いです。
しかも、樹海まで一気に紫色になっていっています。更にその瞬間、閃空の投げた球体が小さくなっていって、そのまま霧散しました。いや、これは……逆にこの紫の木に吸われたの?
「つまり、あんたの力の根源は、憎しみよ。そんなもの、私の呪術の前では、ただの栄養源でしかないわよ」
憎しみ……この人達はあの飢饉を、僕達妖怪の仕業だと言われ、華陽から憎しみを植え付けられた。
そしてそれは、寄生する妖魔によってかは知らないけれど、増幅をされ、妖魔人となった今でも、その憎しみの元に行動している。そこから何とか解放してあげないと。
だから僕は、憎しみを胸にして戦ってはいません。
それは酒呑童子さんから散々言われたし、しつこいくらいに叩き込まれたからね。
「それなら! これで……どうだぁあ!」
すると今度は、閃空が自らの体の突起物を伸ばし、木を貫通させ、僕達に直接攻撃して来ました。
だけどそれは、僕が御剱で受け止めます。
全部は無理だったけれど、美亜ちゃんも伸びて来た突起物に一斉に蔦を絡ませ、それ以上は伸びない様にと、固定をしていました。
それなら閃空をーーと思ったら、閃空自身にも蔦が絡まってるよ。いつの間にですか……美亜ちゃん。
「ぬぁ!? くそ……! こんな1度に呪術を使っちゃって、後でどうなってもーー」
「あ~ら、大丈夫よ。椿が発散してくれるから」
何か不吉な事を言われた気がするけれど、別に良いです。
妖魔人。それがSSランクとは言え、1体ずつなら、こうやって撃破出来そうです。でも、最後まで油断はしませんよ。
僕はその腕に、取り出した火車輪を付け、炎を纏わせる。金色の炎をね。
そのまま地面を強く蹴り、猛スピードでひと息に、閃空に向かって行く。このままの勢いで、拳を打つ為にです。もちろん、金色の炎はブースターに。ただし、この拳には浄化の力が加わります。
だから上手く行けば、閃空をこのままーー
「はっ! バ~カ! 誰が肘と膝からしか、これを出せないと言ったよ!」
すると閃空は、いきなり両手を大きく広げ、そして全身から突起物を突き出して来ました。でも、それは読んでいましたよ。
これは、龍花さん達から教えられていました。手の内は、全て出すな……ってね。だから僕は、君が手の内を全部出したとは、思っていませんでしたよ。
そしてこれ位なら、酒呑童子さんの修行で培った、この反射力で回避出来ますよ。
「えっ?! なっ……! そ、そんな! 全部避けーー」
「諦めなさい、負なる者。さぁ、浄化の時です!」
金色の炎を後ろに一気に放ち、更に加速をさせる。
この僕の身体の全てを使って、寄生妖魔を完璧に浄化する為に、全身全霊を拳に込め、君を貫く。
「金華狐狼拳!」
僕はそう叫けぶと、閃空のお腹に向け、拳を勢いよく打ち込む。
「がぁぁぁあ!!」
そしてようやく、閃空は苦痛で顔を歪ませ、悲痛な叫び声を上げました。
これは、確実に効いている。だからこのまま、浄化しちゃいます!