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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾章 心機一転 ~成長する想いと不変の悪意~
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第拾伍話 【1】 十極地獄

 丘魔阿さんが殺された。

 ずっと敵だったし、おかしな半妖でしたけれど、それでも殺されるなんて。この相手は、どうかしています。


 酒呑童子さんの弟子だった、茨木童子。


 昔の……それこそ平安時代の頃の、位の高い人が着る様な、そんな格好をしていて、男性か女性か分からないような顔立ち。背は、僕より少し高いくらい。それなのに、圧倒的な威圧感が僕達を襲っている。


「てめぇ……半妖だろうと同じ妖怪だろうと、使えない者は容赦なく殺すのか? それで良く、俺の意志を継ぐなんて言えるよな。あぁ?!」


 酒呑童子さんがキレてる。初めて見た気がします、こんな酒呑童子さん……。


「僕の……いや、あなたが目指していたもの。その計画が捻れるかも知れないのなら、そこに同族も何も関係ありません。人間もそうでしょう? 同族だろうと、容赦なく殺す」


 確かにそれを言ったら、人間だってーーってなるけれど、それとこれとは違いますよね。裏切ったからって、元仲間を躊躇無く殺せる、その感覚がおかしいんですよ。


「もう良い。てめぇは、計画の事しか頭にない。周りが見えちゃいない」


「失礼ですね。ちゃんと見えていますよ。人間界と妖界を入れ替えた後の事もね」


 酒呑童子さんと茨木童子は、その場で睨み合い、そして言い合っています。今にもお互い飛びかかって、戦闘が始まりそうな、そんな空気も漂っている。

 それと茨木童子は、さっきから何回か僕を見ている。隙あらばって感じだけど、そうはいきませんよ。僕はしっかりと修行しました。それに、カナちゃんの火車輪も付けたし、油断はしないよ。


 今だって僕の後ろから、蛇の様にして這ってきたロープを、ちゃんと切っておきましたからね。誰かの妖具でしょうね。


「なるほど。文字通り、一筋縄ではいきませんか。では、ちょっと……」


 茨木童子がそう言うと、一瞬でその姿を消す。

 早い! だけど、妖気で分かっていますよ! 僕の正面。


「椿!」


「分かっています! 狐狼拳!!」


「おっと! 中々に反応が良い。私と同じ師に鍛えられたんですから、当然ですけどね」


 僕の渾身の攻撃を、素手で受け止めた?

 強い。やっぱりこの人は、酒呑童子と同じくらい……いや、それ以上に強いです。


「はっ!」


「ぬっ?!」


 でも、僕はまだ諦めないよ。とりあえず、掴まれた腕を支えにして、そのまま横から蹴っておきます! 

 それはまた防がれましたけどね。僕の拳を掴んだ腕を、そのまま上に上げて、その肘で受けて……そして、僕はそのまま投げ飛ばされかけたけれど、しっかりと尻尾で相手の体に巻き付いています。


 だから、相手が投げ飛ばそうとした勢いを使って、僕が尻尾で投げ飛ばし返すよ!


「おぉっ!?」


 酒呑童子さんに向けてね。


「ナイスだ、椿。おらぁ!!」


 そして、酒呑童子さんは真っ直ぐ拳を突き出し、茨木童子を殴ろうとしたけれど、その瞬間、また茨木童子は姿を消し、今度は酒呑童子さんの後ろに現れました。


 空中だから身動きは取れないはずなのに、何で移動出来たの? まさか、何かの妖具を……。


「ふむ……なるほど。流石に、2対1はキツいですねぇ。雷獣さん、センターの人達を使って、この2人を捕まえて下さい」


「何故だ?」


 すると、雷獣さんが突然そんな事を言いましました。あれ? 何だか険悪なムードが漂っているような……。


「おかしな事を言いますね。この2体は、勝手に無許可で開いた、例のセンターの妖怪でしょう? 現センターとして、違法者を捕まえーー」


 すると突然、センターの妖怪さん達が、茨木童子を取り囲みました。


 えっ? まさか、現センターが僕達を助けてくれてるの? 何でそうなったのかは、だいたい予想は出来るけど。


「……やれやれ、やはりこう来ましたか」


「当たり前だ。お前等と手を組んでいたのは、お前等の妖具を掠め取る為でしかない。これ以上の狼藉は、許可しない。センターは、てめぇ等のもんじゃねぇ!」


 雷獣さんは、茨木童子にそう叫ぶ。


 やっぱり手を結んだとは言え、相手の思うがままにされるのは、嫌らしいです。

 亰嗟の目的が達成されても、それで別に良いとは言っていたけれど、センターが勝手に使われるのを容認した訳では無いようでした。


 だけどその茨木童子は、とんでもない事を言い放ちました。


「いいえ、私の物です。少し時期尚早ですが、良いでしょう。時間もないですしね。本当は、記憶の戻ったあなたを手に入れてからにしたかった」


 すると茨木童子は、そんな事を言いながら僕をもう一回見た後に、懐から横笛を取り出して口に当てると、その笛を吹き始めます。

 でもそれは、決して綺麗な音色なんかじゃなくて、とても禍々しくて、恐ろしい音色を奏でています。


 何ですか、この音色は……聞いているだけで不快に、僕の中の負の感情が湧き上がって来て、抑えきれなくて……。


「椿、しっかりしろ! 耳を塞げ!」


「酒呑童子、さん……くっ」


 そして僕は、酒呑童子さんの言葉通りに耳を塞ぎ、出来るだけ音色が聞こえない様にします。それだけでも、だいぶ心が落ち着いてきました。

 すると今度は、足下から地響きがして、何かが下から飛び出して来そうな感じがします。


「ちっ! それを止めろ! 茨木童子! まさか、もう使うなんてな!」


 そう言うと、酒呑童子さんは茨木童子に飛びかかるけれど、案の定、また不思議な力で瞬時に移動され、酒呑童子さんの攻撃は届きません。


 いったい、何が起こるっていうの? 何か下からやって来る。でもその前に、地面を掘り進み、何かがここにやって来ている?


「この野郎! その笛は、地獄笛(じごくぶえ)。ここを地獄に変える気か?!」


 笛の音を聞いた雷獣さんも、やっと敵の策略に気づいたらしいけれど、これってもう、遅いよね。

 何で気付かなかったの? 君達は、僕達よりも色々知っているはずだし、その妖具の事も……。


「雷獣。あれは、ただの地獄笛じゃねぇ。詳細不明とされる、ある地獄を呼び出す為の物だ。そして、その地獄を取り仕切る、ある妖鬼(ようき)どもを呼び出す為の物でもある。だから、何としても止めろ!」


 詳細不明? 地獄に、そんな物が?

 でも、茨木童子を止めようにも、雷獣さんの攻撃すら当たらないし、僕が妖気を感知して攻撃しても、一瞬で避けられそう。と言うか、そのまま捕まっちゃいそうです。今でも僕を狙っていますからね。


 僕は見ているだけしか出来ないの? 修行したのに……。


「くそ……が。そんな物、普通は取れない。地獄の最下層にある永久凍土。その果てに封じられている笛を、いったいどうやって?!」


 すると雷獣さんは、悔しそうにしながらそう言ってきます。

 まんまと相手に利用されてしまった事で、ショックを受けているんでしょうね。自分は大丈夫と、そう思っていたのでしょうけれど、完璧に利用されたという事は、相手はそれ以上の組織力を持っていたという事ですよね。


 それを見た茨木童子は、雷獣さんを見ながら小さく笑っています。


「いやぁ……苦労しましたよ。ですがそのお陰で、あなた達を出し抜く事が出来ました。さぁ、現れろ! 有名な八大地獄に埋もれ、その名すら人々から忘れ去られている地獄、十地獄(とおじごく)! そして、その名を持つ鬼共よ!」


 笛を吹き終わった茨木童子は、天を仰ぐ様にしながら、両手を広げてそう言います。すると地面から、次々と何かが現れました。


 あり得ない程の邪気、妖気。そして、見ただけで恐怖してしまう程の、禍々しい見た目。そんな鬼が10体。酒呑童子の周りに集いました。


「我等、十極地獄(とおごくじごく)。笛の音により顕現。これより、ここを地獄とする」


「ちっ……ふざけんーー」


 雷獣さんが抵抗しようとしたけれど、その瞬間、10体の鬼の内の1体が、一瞬で雷獣さんの前に現れ、そして針の様なもので雷獣さんを突き刺し、そのまま縫うような動きを見せます。いや、縫っています。


「あらあら、無粋な妖怪ですね。そんな妖怪のお口は、縫って上げましょう」


 しかも、女性の鬼? それに口だけじゃなく、全身も縫っていますよ。


「ぐっ、んぅぅぅ……!!」


 途中から悲鳴を上げられなくなった雷獣さんは、地面にも縫いつけられているのか、そのまま動けなくなっていて、鬼の為すがままに縫われてしまい、血まみれになって倒れました。


「ちぃ……十極地獄だと? 何だそれは?」


 その様子に、流石の酒呑童子さんもちょっと焦っています。そして、茨木童子にそう問いかける。


「いやぁ、僕もその名は初めてです。ですが、地獄の名前、その鬼の名前は知っています。順に、壱に厚雲(こううん)、弐に無雲(むうん)、参に呵呵(かか)、肆に奈呵(なか)、伍に羊鳴(ようめい)、陸に須乾提(しゅけんだい)、漆に憂鉢羅(うはつら)、捌に拘物頭(くもつず)、玖に分陀利(ぶんだり)、拾に鉢頭摩(はどま)。これもってして、十地獄とせん」


 そして次の瞬間、センターの地下から何かがせり上がって来ます。

 建造物か何かだとは思うけれど、このままだとこのセンターが崩れちゃいます! 逃げないと……。


「うわぁあ!!」


「に、逃げろぉ!」


「とにかく慌てるな! 落ち着いてーーうわぁあ!」


 僕と酒呑童子さんは、何とか床を跳び跳ねて逃げられているけれど、他の妖怪さん達が……。

 センターで働いている妖怪さん以外はいないけれど、それでもセンターの妖怪さん達は、次々と瓦礫に潰されたり、下に出来た大きな穴に落ちたりしていっています。


 何で……何でこんな物を?

 茨木童子はいったい、何を企んでいるんですか? 人間界と妖界を反転させるだけじゃないのですか?! どうしてこんなものを呼び出したのでしょう。


「さぁ……いよいよ、私のターンですよ。人間界と妖界を反転させ、そしてこの地獄を使い、私は妖怪の王になる。絶対に落ちない無敵の王にね! その元で妖怪は、永遠の安寧を得られるのです! さぁ、私に賛同してくれる妖怪達だけは、助けてあげましょう」


 せり上がって来る建造物の上で、茨木童子は不適に笑う。そして更に、僕に向かって地獄の鬼達が迫って来ました。


 まさか、こいつ等を使って僕を? どうしよう、いったいどうしたら……?

 こんな状況……もう暴走してでも、僕の本当の神妖の力を使うしか……。

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