第参話 【2】 久しぶりの翁の家
その後僕は、白狐さんと黒狐さんが乗って来た雲操童に乗り、おじいちゃんの家に向かい、無事に帰り着きました。
久しぶりのおじいちゃんの家は、何も変わっていませんでした。そりゃ半年だもんね。
「お~おじいちゃんの家は、やっぱり変わっていないですね」
半年ぶりだけれど、皆はどうしているんだろう? とにかく、早く皆に会いたい僕は、雲操童から急いで降りると、足早に玄関に走って行く。
『いかん! 椿、危ない!!』
「へっ? うわぁ!!」
「わぁ~! 椿お姉ちゃ~ん!」
何ですか、これ?! 玄関に近づいた瞬間、僕の足に蔦が絡まって来て、僕を吊り上げました!!
あれ? これ、禍々しい感じがするし、もしかして呪術ですか? ということはこれは、美亜ちゃんが?!
「椿ですって? あら、久しぶり。帰って来たのね」
美亜ちゃん。ちょっとあっさりし過ぎていませんか? いやでも、この子はいつもこんな調子だから、別に良いです。
それに、尻尾は嬉しそうに巻いていますから、本当は物凄く嬉しいんだと思います。耳もピクピク動いているしね。
「ちょっと、なに? その顔はなによ。ニヤニヤしちゃって!」
「あっ、ごめんなさい。美亜ちゃんがいつも通りで、嬉しくて。でも、そろそろ降ろして下さい」
スカートじゃなくて良かったです。
修行中は動きやすい様にと、常にショートパンツだったし、今はその格好のまま帰って来ているからね。だけど、頭に血が上るし、そろそろ降りたいです。
「ふん。あんた、私の事をいつも通りって言ったわね。それじゃあ、いつも通りに『降ろして下さい美亜様。一生下僕になりますから』って言ったら、降ろして上げるわ」
美亜ちゃんが黒いです!! ちょっと、それ大丈夫なんですか?!
それとね、降ろしてくれないのなら自分で降りますよ。御剱で浄化しながら切れば良いので。
「よっ!」
「へっ?! ちょ、嘘! そんな簡単にーーって、椿あんた、加減しなさいよ」
おじいちゃんの家の屋根まで切れた……。
賀茂様~!! これやり過ぎです。一振りで屋根が!! 切れ味がとんでもなく上がってる。いつもよりも、もっと加減しないとじゃん。
「ま、まぁ……きっちりと修行してきたって訳ね」
美亜ちゃん、悔しさで震えていますよ。だけどその前に、僕は屋根を直さないと。
そして、僕が屋根を直そうとした時、家の中から大慌てで皆が出て来ました。
「何じゃ何じゃ! 敵襲か?! 亰嗟の奴等か!」
あっ、すいません僕です。今直しますから。
そして僕は、急いで家の壁に手を付けると、妖術を発動します。新しく会得した「部分修復」をね。
これは自分でも驚いたんだけれど、どうやら僕だけの妖術のようなんです。
ただ、何でも直せる訳では無いのです。限度もあるし、あんまり大きな物は無理だけれど、家の屋根ならギリギリ直せます。
「なっ?! 椿か? って、この妖術は?!」
何だかおじいちゃんが凄い驚いているけれど、そんなに凄い妖術じゃないですよ。妖気はそんなに使わないので。
とにかく、家の屋根を綺麗に元通りに戻すと、家から出て来た皆に向かって、帰宅の言葉を言います。
「ふぅ……あっ、皆。ただいま!」
あれ? 直ぐに返事が返って来ないです。
だけど、皆驚いた表情をしたままじっくりと僕を眺めると、安心したのか、次々と笑顔になっていきます。
そしてーー
「「「「おかえり! 椿ちゃん」」」」
やっと言ってくれました。でもその後は、皆色々言ってきます。
「良くこんな短期間で帰って来たな! もっとかかると思ったぞ!」
「でも、少し女の子らしくなってるよ~」
「それにさっきの妖術。確実に強くなっているな」
あ~そっか。妖怪さん達にとっては、半年なんて短すぎたのかも知れません。
皆、僕が旅行から帰ってきた時の様な、そんな軽い感じで僕を迎えていますよ。
うぅ、もうちょっと感動して欲しかったなぁ……。
だけど、中にはそうじゃない人も居ました。
「椿!」
「姉さん~!!」
「椿ちゃ~ん!!」
雪ちゃんに楓ちゃん、それと里子ちゃんが飛び出して来て、僕に飛びついて来ました! しかも、加減せずにですよ。ひっくり返えっちゃったよ。
「ぐぇっ?! ちょっと、3人とも……」
「違うよ椿ちゃん。4人だよ」
「え? あっ、わら子ちゃん!」
わら子ちゃんは、ゆっくりと僕の後ろに回り込んでいて、そのまま僕の背中に抱き付いていました。でもね、皆。ついでに尻尾とか耳とか、触らないでくれませんか? すごくくすぐったいです。
皆妖怪だから、あんまり変わっていないけれど、半妖の雪ちゃんだけは、髪が少し伸びています。ショートヘアーだったのが、肩までのセミロングにーーって、僕よりも髪が伸びていて、綺麗になっていませんか? 雪女の血かな……? あっ、それと、髪の毛も真っ白にしている。まさか、染めるのも止めたのかな。
「雪ちゃん、髪の毛……」
「ん? あぁ、私も決めたの。半妖だからって、逃げたりしない。一生懸命、ありのままで生きようとした、私の大切な親友みたいに、私も、ありのままの自分で生きるって。それにちゃんと、修行もした」
そう言う雪ちゃんの目は、決意に満ちていました。でもそれは、より危険が増すという事。
そこまでしてくれなくても、さらけ出さなくても、隠してくれていた方が……。
「雪ちゃん、でもーーんっ?!」
えっ? 何? 視界いっぱいに雪ちゃんの顔が迫って来たと思ったら、急に唇に柔らな感触がーーって、まさかこれは、雪ちゃんがキスしてきた?! 嘘……なに、なんで? いったいどうしたんですか、雪ちゃん。
「ぷぁ……」
「はっ、はぁ……ゆ、雪ちゃん……? な、何を?」
「半年間寂しかったから、その埋め合わせ」
いや、それにしてはおかしいってば、説明になってないってば。
「私は、女の子が好きだし、椿の事を愛しているもん。だから、それで埋め合わせになる」
「……えっ?」
そう言うと、雪ちゃんは僕から離れ、ちょっとだけはにかむと、顔を真っ赤にしていきました。
あっ、今更恥ずかしかくなったんですか? いや、でも……僕はどうしたら。雪ちゃんが、僕の事を? 何で、いつ? それと、何で今? そんなに寂しかったの? 帰って来たら告白してやるって、そんな感じだったんでしょうか?
でも、女の子から告白されても動揺しないのは、カナちゃんに既に同じ事をされたから。慣れちゃったよ、カナちゃんの馬鹿野郎……、
そしてその後、急に楓ちゃんも僕に迫って来ました。
「ズルいっす~! 自分も~!」
「わぁ~!! 楓ちゃんは落ち着いて!」
この子は相変わらず、くノ一の格好のままなんだけれど……なんだかちょっとだけ、色っぽい格好をしているし、身体付きも大人びてきている? だけど、まだ成長途中って感じです。小学生から中学生になった感じかな。
「へぇ~椿お姉ちゃんって、旦那さんだけじゃなくて、お嫁さんも沢山居るんだ~」
菜々子ちゃんが何か勘違いをしました。
ちょっと待って。誤解を受けるから、楓ちゃんも離れて……って、力強い?! 何この子? いったいどんな修行をしたんですか!
「姉さん、あれ誰っすか?」
「へっ? 菜々子ちゃん? 酒呑童子さんの隠れ家の近くに住んでいた、山姥さんの子供です。酒呑童子さんが、戦力増強の為にって、山姥さんを誘ったんだけれど、無理やり着いて来ました」
僕としては、危険だから来て欲しく無かったんだけれど、山姥さんと一緒じゃないと、まだ1人じゃ生活できないって言っていたので、しょうが無いのです。
だから楓ちゃん、喧嘩だけは売らないでね。それは、僕が危惧していた事の1つですから。
「宜しくね! 楓お姉ちゃん!」
「おね……えちゃん? い、今、何て言ったっすか?」
「ん? 楓お姉ちゃんだけど? だって、私よりお姉ちゃんでしょ?」
あれ? 楓ちゃんが震えてる。
「ね、姉さん。この子、とっても良い子っすね」
僕はまた、余計な心配をしていました。楓ちゃん……もしかして、妹が欲しかったの?
「オホン! あ~再会の喜びは、食卓でも良かろう。その前に椿よ、先程の妖術、お前さんがここに来る前に、既に使っていたらしいのだが……まさか、記憶が?」
えっ? そうなんですか? それは知らなかったです。
でもそう言われたら、そうなのかも知れません。だって、簡単に使えたから。
それに恐らく、今までも使えたと思う。だけど、忘れていたって感じですね。
それを、修行のしすぎで破れた服を、何とかして直せないかなと思い、ふざけてやってみたら使えたので、びっくりしました。
そして、いとも簡単に使えた事から、多分僕が昔から、小さい頃から使っていたんだって、そう思っていました。
「おじいちゃん、ごめんなさい。記憶は、戻っていません。ただ、たまたまこれだけ使ってしまったんです」
「なんじゃそうか。てっきり記憶が戻ったのかと……いや、良い。続きは昼飯でも食いながら、じゃな。里子よ」
「は~い、おじいちゃん! さっ、行こ、椿ちゃん」
そういえば、里子ちゃんがずっと僕に引っ付いていました。
そのまま、尻尾を振って嬉しそうにしながら、僕を引っ張って行きます。
あれ? ちょっと。何で僕が引っ張られて……えっ? この首輪……って。
わぁ! 身体が勝手にーーって、里子ちゃんいつの間に!?