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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾章 心機一転 ~成長する想いと不変の悪意~
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第弐話 【1】 半年ぶりの再会

 翌日、僕と酒呑童子さんは荷物を整え、おじいちゃんの家に帰る為に、この集落を出る準備をしました。

 昨日の僕の戦いを見て、山篭もりでの修行は十分だと見てくれたようです。


「ふむ……この山から降りるのは初めてだ。菜々子、良いか? 椿の言う事を良く聞いて、しっかりと都会の生活に慣れるんだぞ」


「は~い! お母さん!」


 そう言いながら、菜々子ちゃんが僕に引っ付いてきます。

 この山姥さん、あの酒呑童子さんが仲間に引き込むくらいだから、きっと凄いんでしょうね。


「ねぇねぇ、椿お姉ちゃん。街には『コンビニ』って言うのがあるんだよね。菜々子、行ってみたい!」


 因みに、菜々子ちゃんが山の下の集落に住んでいると言うのも、嘘でした。ただ寒いのが苦手らしくて、冬の間ずっと家に閉じ籠もっていたみたいです。

 それでも、僕と遊びたいと言っていたようだけれど、寒くて出られないって文句も言っていたようです。それ、ちょっと見たかったかも……。


「あ~そうだね。でも、おじいちゃんの家に帰ってからね。菜々子ちゃんの事、皆にも紹介したいから」


「うん。お姉ちゃんがいつも言っていた妖怪さん達と、半妖さんの事だね」


 本当に、久しぶりなんだよね。

 半年とは言え、僕にとっては1年くらい経っている様な気がしますよ。

 だけど、足元には七草とかもあったり、木に緑の葉っぱも付き始めたりして、そのほのかな草の臭いも、春の訪れをかんじさせてきて、確かに半年何だと確認させられますね。


 春と言えば桜ですね。カナちゃんと見たかったけれど、皆と一緒には見られそうだし、お花見も出来そうです。ちょっと楽しみ。


「椿お姉ちゃん。尻尾振っちゃって、嬉しそうだね」


「そりゃあ、久しぶりに皆に会えるからね。だから、その……僕の尻尾、掴もうとしないでくれるかな?」


「え~! フサフサの椿お姉ちゃんの尻尾、ナデナデしたい!」


 菜々子ちゃんまで……僕の尻尾って、そんなに触りたくなるものなのかな? 良く分からないや。


 ◇ ◇ ◇


 そして、そのまま川に沿って山を降りて行くと、見慣れた川幅になっていき、加茂川と言う名前の看板も出始めました。

 だけどこの辺りは、まだ田んぼだらけなんですよね。もう少し進まないと、街が見えてこないんです。


 だけど、そこからおじいちゃんの家は、更に遠いんですよ。そしてもう一つ、僕は嫌なものを感知してしまいました。


「酒呑童子さん、これ……」


「ん? お前の方が感知能力高いだろ」


 薄々感づいているくせに……でも、文句は言っていられないです。これは、妖気です。しかもこの禍々しさは、妖魔ですね。まさか、また寄生する妖魔が、何かに寄生しているのですか? 本当に、市内に沢山出現しているんだ。


「ごめん、菜々子ちゃん。あとでお母さんと一緒に、ゆっくりと来てくれる? 酒呑童子さん、ここから上賀茂神社の方に来て下さい」


「あぁ、分かった。1人で大丈夫か?」


「うん、大丈夫です。それに、1人じゃないですから」


「ふん、なる程な。嬉しそうな顔しやがって。なら、さっさと行け」


 あれ? 僕、そんなに嬉しそうな顔してました? だけど、しょうが無いです。だって、本当にそれくらい嬉しいんだもん。

 会いたくて会いたくて、本当は修行に行く前に「行ってきます」って言いたかった相手。


 そして、僕は力を解放して、一気にその場から走って行きます。


「椿お姉ちゃん、すっごく嬉しそうだった。あんな顔、初めて」


「ふっ、なる程な。しっかりと女の子している。それなら尚更だ。菜々子、しっかりと椿を見習うんだぞ」


 走り出した瞬間、2人からそう聞こえたけれど……うん、気にしない気にしない。

 だって僕は、それ程までに気持ちがはやっているんだから。妖魔退治なんて、直ぐに終わらせる。


 そしてしっかり言うんだ「ただいま」って。


 そんな気持ちで居たからかな。京都で有名な上賀茂神社、その場所までが遠く感じる。

 でも実際、雲ヶ畑に向かう道からでも、かなり遠いんですよ。車でも、下手したら1時間かかるからね。

 だけど僕は、今車よりも速いと思うよ。それでも遠く感じる。早く会いたいのに。


「あっ、この道、上賀茂神社の横の道。それなら、ここを左に曲がったら……着いた! で、2人はどこ?!」


 妖魔どころじゃない。とにかく僕は、2人に会いたいんです。


 そして僕は、そこから漂う妖気を辿り、正面にあるバスや車が通る広い道を横切り、逃げている参拝客なんて目もくれず、大きな鳥居を潜り、広々とした参道を走って行く。

 その先のもう一つの鳥居、そこに見慣れた2人の姿がありました。


 白い狐の尻尾と耳、白い神職の服を着た妖狐と、黒い狐の尻尾と耳、黒い神職の服を着た妖狐。


 そう……そこには、白狐さんと黒狐さんの姿がありました。


 起きないかも知れないって言われていたけれど、ちゃんと意識を取り戻していたんですね。良かったです。本当に……本当に良かった。


 それで、2人は何をやっているんだろう? と思ったら、2人の目の前に妖魔が……しかも、人の姿をしているという事は、寄生する妖魔に寄生されている?!

 でも、あれも普通の人間じゃない。だって、ある程度抵抗していますからね。


 それならーー


「御剱!! 浄化の(じん)!!」


『なんだ!?』


『おわっ?!』


 あっ、ちょっと……動かないで下さい。ちゃんと2人の間を狙ったのに。

 でも、何とか上手く2人の間を抜けて、その前の妖魔に命中したーーけれど……あれ? 斬れていない? しかも、僕の放った刃を吸収して、えっ? えっ? 嘘でしょう。


「ぐぅぉぉぉお!!」


 でも次の瞬間、その妖魔が雄叫びを上げ、そして寄生している人の身体から飛び出しました。

 何が起こったの?! でも、あの身体から飛び出したなら、今がチャンスです。


「もう一回! 御剱、浄化の刃!」


「ぎゃぅ!!」


 ふぅ……相変わらずこの寄生する妖魔は、エイリアンみたいな触手っぽくて気持ち悪いですね。でも、これでもう大丈夫ですよね。


「白狐さん! 黒狐さん!」


 そして僕は、咄嗟に振り返った2人に、自分なりの最大の笑顔を向けます。

 そうなっているかは、白狐さん黒狐さんじゃないと分からないけれど、向こうも凄い笑顔で駆け寄ってくれている所を見ると、笑顔になっているのは間違いないです。


『おぉ、椿!』


『椿! 無事か?! 暴走していないか!?』


 あれ? 先ずそれですか? あぁ、御剱を2回も振りましたからね。


 もう……それよりもさ、もうちょっと感動とか無いんですか? 半年ぶりですよ。2人が何時起きたかは分からないけれど、僕にとっては久しぶりなんですよ。


「ぬぅ……僕が半年間、何をしていたと思っているんですか? それよりもーーんっ!」


 そして僕は、両手を広げて抱き締めてってアピールをします。だって、感動の再会と言ったらそれでしょう?

 それなのにこの2人は……確かに2人は守り神だし、長い年月を生きています。半年なんて、あっという間だと思うよ。だけど、僕の気持ちくらい分かって欲しいです。


『お、おぉ。すまんな椿……』


『あぁ、悪かった。たっぷりと抱き締めて……』


「てぃっ」


 とりあえず、お腹殴っときます。


『うぉ?!』 


『おぅ?!』


 あっ、2人とも油断していましたね。思い切り綺麗にパンチが入って、尻もちを付きました。


『な、何をする椿よ!』


『げほっ、完全に油断したな……』


「何をする……はこっちですよ? 僕を止める為に、命投げ出すなんて、バカですか!」


 そして、僕は2人に近寄り、先ずは文句を言います。

 ずっと言いたくて言えなかった事を……半年も、ずっとずっと我慢していたんですよ! 直接言わないと気が済まなかったんだから。


『ぬぅ……しかし、あの時はそうしなければ、お主が』


「だからって、命がけは違います。白狐さん黒狐さんが起きなかったら、僕は……僕はまた、暴走していたからね!」


『ぐっ……そ、そうか。それは悪かった』


『ぬっ……すまなかった、椿。我等の力不足で……』


 僕の言葉に対して、白狐さん黒狐さんは申し訳無さそうにしながら、そう言ってきました。うん、それなら次は、これですよね。


 僕はそのまま、白狐さんと黒狐さんに抱き付きます。

 この感触、この匂い。とても落ち着くし、久しぶりだし……もう泣きそう。ううん、泣いています。でも言わないと、これを。


「白狐さん黒狐さん、お帰り。そして、ただいま」


『うむ。心配かけたな、そして、よく戻った。椿よ』


『あぁ、ただいま。そして、おかえりだな。椿』


 ちょっとややこしいけれど、でも良いです。またこうやって、2人に抱き締められて、頭を撫でられて……凄く落ち着くし、安心します。


 本当は不安だったんです。

 家に帰っても、白狐さんと黒狐さんが起きていなければどうしようって。ずっとずっと、不安だったんです。だけど、余計な心配でしたね。ちゃんと2人とも起きていました。


 しかも、任務まで再開していますからね。全く、僕の心配を返して下さい……なんてね。

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