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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾章 心機一転 ~成長する想いと不変の悪意~
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第壱話 【1】 椿、修行中

 あれから約半年。


 初春で、寒さも若干和らいでいますが、今僕は、ある山間部の洞窟に来ています。山はまだ寒いですよ。しかも、洞窟からの冷気で更に寒い。


「くぅ……酒呑童子さんのバカ……こ、こんな所に、悪さをしている妖怪なんて居るんですか?」


 僕は文句を言いながらも、住民の依頼という事で、酒呑童子さんが勝手に受けた任務をやっています。

 しかも、酒呑童子さんは付いて来ていません。つまり、僕1人でやれという事なんです。


 良いですけどね……それこそ最初の頃は、妲己さんの居ないせいか、御剱一振りで暴走しかけたけれど、今ならーー


「誰だ、お前はぁあ!? ここは俺の家だ。出て行けぇえ!!」


「てい!」


 御剱一振りしてもニ振りしても、暴走はしません。


 それにしても……後ろから突然襲って来た、この妖怪は何でしょうか?

 咄嗟に御剱で斬ったけれど、相手の身体は斬れてはいないよ。弾いただけです。それなのに、既に気絶していました。何だか丸い石みたいな、そんな妖怪ですね。


「あ~Dランク? 酒呑童子さん、僕を舐めすぎじゃないですか?」


 妖怪スマホで妖気をチェックしたら、そう表示されました。

 まだ僕が暴走するかも知れないとか、そう思っちゃっているのかな……もうある程度は扱えるようになったのに。


 自分の力を。


 ◇ ◇ ◇


「酒呑童子さん! この任務はどういうーーあれ? 居ない!」


 退治した妖怪さんは巻物に封じ、酒呑童子さんの隠れ家に戻って来た僕は、さっそく問い詰めようとして居間に行くけれど、既にそこには、酒呑童子さんの姿は無かったです。


「くぅ……逃げましたね」


 と言うか、多分またお酒のつまみでも買いに行ったんですね。あ~もう、最近多いなぁそういうの。


 因みに酒呑童子さんの隠れ家は、北区の雲ヶ畑の方になっていて、ここも山間部というか、結構な山の中なんです。

 あの鴨川の源流がここですからね。天然記念物の、オオサンショウウオとかも出くわす程の、超田舎です。


 そして家屋は、石垣の上に作られている古民家。

 酒呑童子さんの隠れ家も、そんな民家です。だから、おじいちゃんの家みたいな広さは無い。それでも、2人で住むには十分だったりします。

 だけどね、冬は大変だったよ。山だから、積もると凄い量になるんだ。


「はぁ……1人で修行しよう」


 本当に最初の内は、体力作りから何から何まで、酒呑童子さんがしっかりと見ていたのに、体力が付いてきた最近では、自分の妖気のバランス調整くらいで、毎日ひたすら黙々と、精神集中みたいな事をするくらいです。

 だから酒呑童子さんも、ちょくちょくどこかに出かけるんですよ。流石にそれをずっと見ていても、仕方ないからなのかな。


 それでも、最初は地獄でしたよ。


 冬も近付いて来ていたのに、山を走らされたり、急斜面を駆け上がったり駆け下りたり、転がり落ちてくる岩を避けたりと、かなり古くさい修行をさせられました。


 今更妖怪にそんなもの……とは思うけれど、僕は暫く人間の男子だったし、そもそも守られて生きてきたっぽい僕は、基礎が殆ど出来ていなかったのです。


 龍花さん達に色々教えて貰っていたのは、技術的な事。

 でもそれが出来たとしても、基礎が出来ていないと、それは付け焼き刃程度でしかなかったのです。


「ふぅ……」


 そして、道路の近くの川にやって来た僕は、そのまま川の中央の岩に飛び移り、目を閉じて精神を集中させます。


 それからゆっくりゆっくりと、自分の妖気を上げていく。


「ん……ん~、くぅ……」


 ここで問題なのが、それだけで神妖の力が溢れ出そうとする事。

 いつもはここで、妲己さんが抑えてくれたり、指示を出してくれたけれど、もう居ないんだ。だから僕が、1人でそれをやるしか無いのです。


 僕は僕だって、そう言い聞かせながら意識を保ち、徐々に妖気を上げる……けれど。


「あ~! 限界です! もう駄目、駄目。抑えて抑えて……ふぅ」


 今の段階だと、神妖の妖気を解放した状態のまま、御剱を4回、妖術を10回程使ったら暴走するかも。まだまだです……。


 最初は、妖術を2・3回使っただけで、神妖の力が暴走していたし、半年でここまでは凄い成果なんだろうけれど……でも、これじゃあ勝てない。あいつ等には……勝てない。


「おや? お狐様。今日も集落を見回りですか?」


「えっ? あっ、はい」


 すると、急に後ろからおばあちゃんが話しかけてきました。

 この雲ヶ畑に住む方ですね。すると、何故か手を合わせて僕を拝んできました。


「ありがたや。今日も何事も無く、こうやって安心して暮らせるのは、お狐様のおかげですわ。この集落に住まれる様になってから、集落の人達も大喜びですじゃ。どうかずっと、ここに住んで下さい」


「あ、あはは……何度も言うけれど、僕お稲荷様とか、そんなんじゃないからね」


 駄目です、聞いていません。一心不乱に拝んでいますよ、おばあちゃん。

 集落の人達には、僕の尻尾や耳は見えないから、ちょっと油断していた僕が悪いんだけどね。まさか見えるなんて……。


「あ~! 椿お姉ちゃん! 久しぶり!!」


 すると今度は、一際元気そうな声が聞こえて来る。


「こりゃ、菜々子。お狐様に何て口の聞き方をしとるんじゃ!」


「あっ、別に僕は大丈夫ですよ」


 菜々子ちゃんは、このおばあちゃんのお孫さんで、三つ編みがよく似合うとってもやんちゃな女の子です。


 普段は雲ヶ畑じゃなくて、山を下りた所の集落に住んでいると言っていたけれど、週末には良くここに遊びに来るんです。だけど、この前雪が降った時、途中の道が封鎖されていたり、道路が凍結して危険だったから、こっちに来られなかったみたいです。

 歳は9歳と言っていたし、まだまだ遊びたい盛りのようです。早い子は、もう色々と着飾っているけれど、この子はまだまだみたいなんだ。

 

「ん? 椿お姉ちゃん。またちょっと髪伸びた?」


 軽やかな足取りで僕の下にやって来た菜々子ちゃんは、僕の頭に目をやると、目を輝かせながらそう言ってくる。


「えっ? う、うん」


「わぁ……綺麗。良いな~私もこんな風に、可愛い女の子になりたいな~」


 どうやら僕が、おしゃれに目覚めさせてしまったようです。


 確かに今の僕は、この冬の間に髪を伸ばして、顎を超えたあたりまでにはなったけれど、まだまだ綺麗とはほど遠いと思うよ。胸は……また大きくなっているけどね。


「そういう君も、成長したら素敵な女性になると思うよ」


「本当? 本当に?!」


「うん」


 そう言って、僕は菜々子ちゃんの頭を撫でる。

 実際この子は顔が整っているし、将来はかなりの美人さんになりそうです。


「ほら、菜々子。お狐様はお勤めの最中じゃ、邪魔するな」


 お勤めって……本当に僕を何かと間違えてませんか? そんなのじゃないって言ってるのに。


「え~? しょうが無いなぁ。それじゃあ椿お姉ちゃん、またいつものとこでね」


 菜々子ちゃんはそう言うと、最後だけ僕の耳元にやって来て、小声で話しかけてきました。


「んっ、分かったよ」


 すると菜々子ちゃんは、嬉しそうな顔を僕に向けて、そのままヒョイヒョイッと道路まで簡単に渡って行きました。う~ん、誰かさんを思い出すよ。


 そして、おばあちゃんと一緒に歩いて行く菜々子ちゃんを見送り、僕はまた修行に戻る。


 ーーと、その時。


「うわっ!! っと、危ない~」


「ほぉ、良く避けたな。完全に油断していたと思ったがな」


「ふ~んだ。そう何回も何回も、同じ失敗はしませんよ~だ」


 酒呑童子さんが僕に向け、小石を剛速球で投げてきました。

 これも修行の1つで、いつでもどんな時でも、突然襲われた時に、直ぐに反応出来るようにする。そんな特訓なのです。

 その為に、酒呑童子さんが突然攻撃を仕掛けて来る。それを、僕は当たらないように回避する。たったそれだけなんだけど……。


「ん? 何この音? ふぎゃっ?!」


「は~い、アウト~今日の晩飯はお前が作れよ」


「うっ……くぅ……卑怯ですよ! 跳弾で、上にあらかじめ設置していた岩を、僕に落として来るなんて!」


「そういうのを見極めるのも重要だろうが」


 岩を迷彩しておいてよく言うけれど、それすら見抜けという事なんですよね。


 因みに夕方5時まで、僕が酒呑童子さんの攻撃を回避し続ければ、晩御飯は酒呑童子さんが作り、当たってしまったら僕が作る事になっています。


 酒呑童子さんのご飯、2ヶ月前に1回だけ、夕方まで回避に成功した事があって、その日作ってもらった事があったけれど、めちゃくちゃ美味しかったんです。

 ちょっと豪快だったけど、何だか癖になる味だったからさ、また食べたいんだけど、それから酒呑童子さんが本気になったらしくて、負け続けています。


 おかげでさ、僕の料理の腕も上がりましたよ。

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