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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第玖章 生死無常 ~戦いの果てに~
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第拾壱話 【1】 修行志願

「して、椿よ。もう大丈夫なのか?」


 とりあえず皆には落ち着いて貰って、朝ごはんをしっかりと食べた後、僕は食後のお茶を飲みながら、皆から色々と聞かれています。

 でもその殆どは、僕を心配する言葉だったから、何だか嬉しかったです。


 そしてその後に、おじいちゃんがそう言ったけれど、正直まだ大丈夫とは言い切れない。

 悲しみとか、後悔とか、そう言うのがまだ胸に残っていて、つっかえている感じがするんです。


「ん……完璧大丈夫……とは言い切れないです。でもね、カナちゃんは、僕がずっと泣いているのを、見たくはないんじゃないかなって、この火車輪を見て思ったんだ」


 そして僕は、横に置いてある火車輪を手にし、優しく握り締める。


「だから、いつも通りとはいかないけれど、僕は生きるよ。この想いを背負って」


「ふむ……まぁ、それなら良い。学校は半壊状態だが、生徒達も八坂のおかげで無事だ。しかし今回は、我々の完敗だ」


 完敗。その二文字は、僕の中に重くのしかかってきます。でも、まだ完全敗北じゃないんですよ。


「おじいちゃん。まだ相手は、目的を達成してはいないです」


「うむ、その通りだ。次の相手の狙いは、妲己の身体。そしてその在処を知る、お前さんの失われた記憶。それを狙ってくるなら、椿お前さんはーー」


「ここに閉じ込める、なんて言わないでよね?」


「ぬぐっ……」


 あっ、その顔は図星でした?

 全くもう……僕をわら子ちゃんと同じ様な扱いにしないで欲しいです。それにそんな事をしたら、今度はここが襲われちゃいますよ。


 ここの皆を失ったら、流石に僕はもう……。


 だから、そうならない為にもーー


「あれ? おじいちゃん、酒呑童子さんは?」


「うん? 奴なら昨日の夜、酒のつまみを買いに出たままだ」


 またですか……あ~もう。こんな時に限って居ないなんて。

 そう思っていたら、大広間のふすまが開き、お酒臭い匂いと一緒に、呂律の回っていない声が聞こえてきた。


「ひっく……お~う。らんか酔い覚ましのもん、へぇ~か?」


 この妖怪、一晩中吞んでたね? ついでに、それが酒のつまみですか? 何かの肝みたいな物を、紐で吊して持ってますよ。


「ん? おぉ、ガキ! やっろ立ち直っらか」


 そのまま僕の方にやって来ると、僕の肩に手を置いて話しかけてきました。

 お酒臭いし、全体重乗せて来ているから重いし、もう最悪ですよこの妖怪。でも、我慢です我慢。


 そして僕は、そのまま真剣な表情で酒呑童子さんを見ます。


「酒呑童子さん」


「ん~? 何だ? 嫌がらねぇのか? そうかそうか、白狐と黒狐が居ないから、寂しくて俺に? ふっ、モテる妖怪は辛いね~」


 何を言っているんでしょうか、この妖怪は。でも、我慢です。ここで吹っ飛ばしたら、それはいつも通りの展開になっちゃいます。

 僕はゆっくりと深呼吸をして、重い口を開く。酒呑童子さんに頼み事をするのが、こんなにもキツいなんて……。


「……僕に、修行を付けて下さい」


「んぁ?」


「「「「なっ?!」」」」


 僕の言葉に、その場に居た妖怪さん達が一斉に驚いていました。龍花さん達が1番驚いていましたね。ポカーンとしてて、お茶を口からこぼしています。


「……ちょっ! 待って下さい、椿様! 修行なら、私達が!」


 そしてようやく、僕の真正面にいる虎羽さんが、膝立ちになって僕にそう言ってきました。

 確かに、龍花さん達の方でも良かったけれど、だけど4人は、わら子ちゃんも守らないと駄目ですし、僕の修行にばかり集中する訳にはいかないしね。


「ありがとう、虎羽さん。だけどね、わら子ちゃんを守りながら、僕の修行まで出来るの? 僕は、滅幻宗のーーううん、妖魔人のあの4人に勝てる程の実力が欲しい。その為には……」


「なる程の。確かに、戦闘経験とその実力から言えば、今あの妖魔人とやらの強さに1番近いのは、酒呑童子じゃの」


 そうです。だからこそ、酒呑童子さんじゃないと駄目なんです。

 でも酒呑童子さんは、そう簡単には修行を付けてくれそうにはないです。いっつもフラフラと何処かに行っちゃうし、何かをしようと企んでいますからね。


 それに、酒呑童子さんの目は絶望している目じゃない。何かの機を見ている、そんな目です。


 すると酒呑童子さんは、僕から少し離れると、腰に付けていたひょうたんに手を伸ばし、その中のお酒を飲み始めた。


 あれ? 待って下さい。でもそれ『酒鬼』って書いてますよ? えっ? 何でそれを……それって、副作用があるんじゃ。


「ぷはぁ……っと、ふん!!」


「えっ? うひゃぁあ!!」


 お酒を飲み終えると、酒呑童子さんはいきなり僕を殴って来ました。


 咄嗟だったけれど、何とかガード出来きました。だけど、凄く痛いです。しかも、その場で踏ん張れたわけではないから、そのまま吹き飛んでしまい、大広間の壁を突き抜けてしまいました。

 あぁ……あとでおじいちゃんに怒られそう。でも、怒られるのは酒呑童子さんの方ですよね。


「ーーっていうか、何をするんですか!? 酒呑童子さん!」


「お~お~良い~反応だなぁ。完全復活にゃぁほど遠いが、まあ~まあだな。でぇ、お前は何で強くなりたい? それが答えられなきゃ、修行なんか付けてやんね~っ、よ!!」


「そう言って、また殴りかかって来ないで下さい!!」


 とにかく、この酒呑童子さんの本気の攻撃を、まともに受けるわけにはいかないです。白狐さんの力を使って避けまくって、説得するしかないです。


「……くっ! 何でって、皆を守りたいから……妲己さんを助けて、先輩も助けてーーっ?!」


「ボンヤリしてるなぁ、そうじゃねぇだろう!!」


「ぐっ、あぅっ!?」


 一瞬で、僕の横に? 速い……避けられ無い。それに、ガードしても腕がへし折られそうですよ。


「この悪鬼!! 椿様に何をーーって、座敷様? 何故止めるのですか?!」


「良いの、これで……このままやらせて上げて。大丈夫、酒呑童子さんは悪い人じゃない。ちゃんと加減しているよ。皆も、そのつもりで見ているんでしょ?」


「うっ……く、ボンヤリって? どう言う事? 僕は真剣に……」


 倒れ伏せた僕は、何とか身を起こし、酒呑童子さんにそう言うけれど、酒呑童子さんは納得がいっていないのか、また近づいて来て僕を蹴ろうとしてくる。


 それは流石に無しですよ。


「うわっ! と……女の子を蹴ろうとするなんて!」


「あっ? それがどうした? 俺は悪鬼の酒呑童子だぞ? 良い奴じゃねぇぞ。そんな奴に教えを請うなら、それなりの覚悟とかあるんだろうが! 示せや! お前の心を!」


「がっ……あ!!」


 そう叫ぶと、酒呑童子さんは一気に僕との距離を詰め、僕の首を掴んで持ち上げてくる。

 しかも、その手に力が入っているから苦しいし、結構痛いし……何をするんですか……。


 僕の、心? 建前とかじゃない、本当の気持ち……強くなりたい理由? そんなの……そんなの分かってる。


「くっ……う。そ、そんなの、決まってるじゃ、ないですか……カナちゃんを守れなかった。だからもう、何も失いたく無いんです! 何も失わない為に、暴走するような力じゃない、完璧な力が、誰にも負けない、最強の力が欲しいんです!!」


「それで?」


「それで? 僕は……!」


「まだ全部じゃねぇ、そんなのは誰もが思う事だ。まだてめぇは、自分を隠している」


 何を? 自分を隠す? どう言う事……。


「てめぇは最強の力が欲しいと言ったが、何もかもを滅ぼす力が欲しいのか? その考えは、身を滅ぼすぞ。本当のお前はどう言っているんだ?」


 本当の僕は……? 本当の僕、は……あっ、そうか。僕は、やっぱり……。


「僕、本当の僕……は。もう……」


 僕は何時までたっても、僕なんだ。


「もう、戦いたく無い。もう、何も失いたく無い。もう、戦うのが恐いんです……」


 すると、僕を掴んでいた酒呑童子さんの力が緩み、僕は地面に落ち、そのまま座り込みました。


「それが、てめぇの答えだろう。自分の心と向き合わず、力だけを欲する。それは、身を滅ぼすだけだ」


 そう……なんですね。

 でも確かに、この恐怖から逃げる様にして力を求めたら、大変な事になりそうです。それは恐らく、危険な思想を持つ事にもなりかねないのかも……。


 そうだよ……だから僕はーー


「強く……なりたい」


「ん?」


「心を強く、身体を強く。神妖の力を完全に扱えるだけの強い精神力を、僕は欲しい」


 それがきっと、僕の本当の願いなんです。今までの僕じゃ、駄目なんです。


 だって、神妖の力を使うにも妲己さん頼り。戦闘も、僕より強い敵が出たら、まだ白狐さん黒狐さん頼り。

 1人で依頼をしていても、心の何処かで、ピンチになったら2人が助けてくれる。そう思っていました。でも、それじゃ駄目なんです。


 そして僕は、顔をしっかりと上げて、再び酒呑童子さんを見る。今度こそ、はっきりと強い意志を持って。


「僕はもう、皆に守られながら戦うのは嫌なんです。皆と一緒に、戦いたいんです」


 すると酒呑童子さんは、僕に向かって手を差し伸べてきました。


「ふん、最初からそう言えば良いんだよ。迷った目のままで頼まれちゃあ、虫酸が走るわ」


「だからって、殴るのはやり過ぎです」


「あぁ、そりゃすまんな。そうしないと、お前は目を覚まさないだろうが」


 そして、酒呑童子さんの手を取り、ゆっくりと立ち上がらせて貰うと、そのまま皆の方を見ました。

 里子ちゃんが飛びつきたくてウズウズしているけれど、皆心配そうな目で僕を見ています。


 いつも僕は、こうやって皆に心配ばかりかけてしまっていますね。

 でも、僕はそうじゃなくて、皆から頼りにされている目を向けられたいんです。


「俺の修行は生半可じゃねぇからな。覚悟しとけよ」


「はい!!」


 その後、酒呑童子さんは後ろに思い切り倒れ込み、酒鬼の反動の痛みで動けなくなっていました。


 僕が本気を出してしまえば、もしかしたら追い込めないかも知れないって、そう思われていたのかな……だからって、あのお酒を飲むべきじゃなかったんじゃないんですか? でも、そこまでして僕の事を見ていて……。


 酒呑童子さんも、本当は悪い妖怪じゃないのかも知れないです。

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