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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第玖章 生死無常 ~戦いの果てに~
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第捌話 【2】 愛した人よ、死なないで

 ひょうたん片手に、呑気に現れた酒呑童子さん。いったい、今まで何をやっていたんでしょうか。


『酒呑童子! お主、今まで何をしとった?!』


 すると酒呑童子さんは、まるで当たり前の様にして、白狐さんの言葉に返してくる。


「亰嗟の対策だ。奴等、この寺院の周りを隠れて囲んでいたから、ちょいとお仕置きしてたんだよ。ついでに、自称ナンバー2の方も2人居て、そいつらに少しばかり手こずっていたが、このあり得ない妖気の前に、やっととんずらこいたわ」


 亰嗟のナンバー2って……丘さんと和月さんか。その2人まで来ていたなんて。でも、今はいないなら、僕のやることは……。


「くっ……う」


「椿ちゃん! 駄目! 無理なんかしたら」


「離して、カナちゃん。とにかく、妲己さんと先輩を!」


 僕のせいで、僕のせいで2人が!! だから、僕が助けないと。


『椿よ、落ち着け! 今焦ってもしょうが無いだろう!』


「白狐の言う通りだぜ~2兎を追う者1兎をも得ずだ。先輩とやらは諦めな。その代わり、妲己の吸い込まれたひょうたんくらいは――取り返して、やるぜ!」


 そう言うと、酒呑童子さんは突然跳び上がり、妲己さんを吸い込んだ紅葫蘆を持っている玄空に向け、思い切り拳を突き出した。


 だけど……。


「んぁ?」


「軽いわ」


「なっ……! こちとら大量の酒を――ぐぁっ!!」


「酒呑童子さん?!」


 嘘でしょう? 酒呑童子さんまでが、殴られて軽々と吹き飛んで……ねぇ、ゆ、夢だよね……これ。酒呑童子さんまで……。


『いかん! 椿、逃げ――』


「逃がさな~い」


『くぉっ?! この……がはっ!! そ、そんな……我の、しゅ、守護が……』


「白狐さん?」


 えっ、いつの間に閃空が、白狐さんの前に……?

 しかも、白狐さんが本気で攻撃したのに、軽く避けた瞬間、トゲの突いた肘で殴られ、白狐さんも倒れてしまいました。


『ちっ! 椿、逃げるぞ! お前等も――くっ!』


「いけませんねぇ。逃けるなんて」 「そう、いけません。潔く私達に殺されない」


『2つの頭で喋るな! 気色悪い!』


「だ、駄目……黒狐さん!」


 力の差が……妖気の量も質も、あり得ないレベル何ですよ。


「怪異」 「四死散爆暴(ししさんばくばく)!」


『がぁぁぁあ!!!! バ、バカな……へ、変異が出来ない……だと。つ、椿、逃げろ……』


「黒狐さ~ん!!」


 嘘だ……嘘だって言って! 誰か夢だって言ってよ!!

 黒狐さんまで、相手の広がっていく爆発に耐えきれず、倒れて……。


 恐い、怖い!! 何で……何でこんな事に? 僕が調子にのったから? 皆が自分の力を自負していたから? 敵の力量を見誤った? どこから、いつからですか!?


「さっ、椿ちゃん。私達と来なさい。言うことを聞いてくれれば、殺しは――あら? なぁに、それ。抵抗するの~?」


 それでも……それでも、僕が折れる訳にはいかないんです! だから最後まで、僕も抗うんだ!!


「妖異顕……ぎゃぅ!!」


「遅い」


 そ、そんな……妖術を発動する前に、玄空が僕の前に現れて、僕のお腹を蹴り上げて……い、痛い。けれど、倒れるわけには……。


「うっ……く、妖異……がはっ?!」


「だから、遅いと言ってる」


 う、そ……今度は、思い切り頭を……揺れる、視界が揺れてる。そんな中で、カナちゃんの心配している顔が見えました。


「椿ちゃん!!」


 何で……何で妖術が使えないの? 違う、使わせてくれないんだ! いちいち口に出さないと使えない妖術。本気の殺し合いの戦闘で、ここまで差が出るなんて……。


「皆、椿ちゃんが……!!」


「分かってる、分かってるわよ……だ、だからって……わ、私達に何が出来るのよ」


「う、うぅ……無理、無理……」


「ひっ、い……ね、姉さん」


「うっ……つ、椿ちゃん……」


 カナちゃんだけは、必死に何とかしようとしているけれど、美亜ちゃんも雪ちゃんも、それにわら子ちゃんまでも、皆恐怖で震えてしまっています。


「皆……駄目」


 でも、それが普通なんです。異常なんですよ、この人達は。

 僕だって恐い。心底恐い。殺されるかも知れない恐怖、こんなの誰だって恐いです。


 それでも……僕が折れたら、もう全てが終わっちゃうんです!


「くっ! 神刀、御剱! たぁっ!!」


 何とか呼び寄せた御剱で、相手を振り抜いたけれど、それは玄空には届かず、別の物に防がれた。


「父上……ここは私が」


「先、輩……?」


 玄空と僕の間には、妖魔人となった先輩が立ち塞がっていました。もう完全に、意識が別のモノになっている……。

 それだったら浄化の力で、このまま先輩も合わせて! そしたら、元に戻るかも知れません! 耐性が出来ていても、直後ならまだ、何とかなるかも知れないんだ。


「ようやく成ったか、息子よ」


「はっ……申し訳ありません。直ちに、我が憎き敵。目の前の妖狐を、全ての妖怪を滅してやります。父の、小さい頃からの教え通りに」


「先輩……? ま、まさか……この為に先輩を、小さい頃からそう言い聞かせてきたの?」


「その通りよ。此奴では無い。寄生した妖魔に、言い聞かせる為さ」


「この、外道!!」


 もう僕の頭の中に「撤退」なんて文字は無かったです。

 そもそも、逃げようにも逃げられ無いんです。それならば、力の限り戦って、状況を打開するしか無いです。


「うぁっ!! あぐっ!」


 だけど、もう一度御剱を振り抜く前に、先輩の錫杖が御剱を弾き、そして僕を蹴り飛ばしました。

 駄目だ、強すぎます。何なんですか、この力は……僕は、僕なんかじゃ勝てないんですか……。


「はぁ……もう良いわ。ここまで抵抗されると面倒くさいし、殺しちゃって。面倒だけれど、死体にしてから記憶を抜き取り、封印解除をしていくわ」


「うっ……」


 そんな……華陽がそう言った瞬間、4人から信じらない程の殺気が、僕に浴びせられた。駄目、逃げたい。

 それか、神妖の力が暴走した時の僕になってしまって、ここで暴れまくった方が、まだ勝算があるかも。


「そうそう。神妖の力を暴走されちゃ困るから~峰空、妖気抜いちゃって」


「は~い。うふふふふ」


「へっ? えっ……口が。あぅ……! な、何これ? 力が……」


 華陽の言葉の後、峰空のお腹の口が開いたと思ったら、いきなり僕の足に力が入らなくなりました。それどころか、手にも力が入らない。


 よ、妖気が吸われている……。


「あっ、そうだ。どうせなら、愛しの先輩にでも殺されなさい。ふふ、中々おつな事するでしょう?」


「あっ……だ、駄目。先輩、も、戻って。お願い、先輩――戻ってぇ!!」


 だけど、目の前に立つ先輩の目はもう、正気を失っていました。それでも……それでも僕は、必死に先輩の心に叫ぶ。


 その心に届くまで。


「つ、ば、き……」


「先輩!」


 お願いです、届いて!


「死、ね」


「あっ……」


 僕の必死の叫びも空しく、先輩は右手の爪を鋭く伸ばし、僕の顔に向けて放つ。

 容赦なく、躊躇(ためら)いも無く……あの先輩には、もう戻ってくれないんだね。


「先、輩……」


 その瞬間、僕は死んだ……そう思った。


 でも――


「ぐぅっ……!!」


 僕の目の前に、もう1つ影が出来たと思ったら、僕の顔に大量の血が飛び散ってきました。


「えっ?」


「椿ちゃん……逃げ……」


 僕の前に立って、両手を広げていたのは――


 カナちゃんでした。


 しかも、お腹と胸の辺りを貫かれ、誰が見ても助からない。そんな状態でした。


「カナちゃ~ん!!!!」


 そんな、そんな……何で、何で!! 何で君が!!


「ちっ、邪魔を……」


 そして先輩は、カナちゃんから腕を引き抜くと、再び僕に向ける。


「……? 震えてる? 何だ、何だこれは……?」


 そんなの関係無い。


「カナちゃん、カナちゃ~ん!!」


 腕を抜かれ、そこから大量の血を吹き出し、こっちに倒れて来たカナちゃんを、僕はしっかりと受け止め、必死に名前を呼びます。でも、出血が酷くてこのままじゃ……。


「げほっ! げほっ! 椿……ちゃん」


 まだ息がある。それなら、白狐さんの力で。


「カナちゃん! カナちゃん、喋っちゃ駄目! 今、白狐さんを――あっ」


 白狐さん、気絶していました。何でこんな時に。いや、敵のせいだ!! 違う、僕のせいだ!!


「カナちゃんしっかりして!! 白狐さん!! 白狐さん起きて!! 血が、血が! カナちゃんの血が!!」


 もうパニックどころじゃないです。死んで欲しくない。それなのに……それなのに僕は、何も出来ないの?! 白狐さんみたいに、治癒妖術が使えれば……!!


「椿、ちゃん……逃、げて……」


「違う、違う。カナちゃん、君が……!!」


「良いの、私は……げほっ、あなたを……守れるだけで、幸せ、だから」


 何言ってるの? 何を言っているの?!


「バカですか? 死んでまで守って欲しくなんか無い!! お願い、死なないで!!」


「椿ちゃん……あなたも、私と同じ立場なら、同じ事……したでしょ?」


「うっ……うぅ……駄目、駄目。止まってよ血!! 止まって、止まって! あっ、心臓は止まらないで!!」


 必死にカナちゃんの胸に、お腹に手を当てる。

 それは止血のつもり。意味無いのは分かっている。それでも、それでも今はこれしか……。


「お願い……これを使って、生きて……椿ちゃん。あなた、は……私の――」


「駄目、駄目!! しっかりして、カナちゃん!!」


 体温が、カナちゃんの体温が……!!


「私の……愛した人……だから、死なないで……生きて……私の、分ま、で……」


「カナちゃん……?」


 カナちゃんは、僕の頬に手を当てた瞬間、力無くその手を地面に落とした。

 目は閉じ、顔から生気は感じられ無い。身体は徐々に熱を失っていく。


 カナちゃんが……死んだ。


 誰のせい……殺した先輩のせい? 肝心な時に、気絶した白狐さんのせい? 助けに来たのに、情け無く吹き飛ばされた酒呑童子さん?


 違う――


 違う――


 これは――


 僕のせいだ!!


「うわぁぁぁぁあ!!!! カナちゃ~ん!!」


 僕が……僕が弱かったから、甘かったから、カナちゃんは死んだんだぁ!!


 僕は泣く。大切な者を失った時の悲しみを感じて。


 僕は怒る。それを奪い去った者を壊す為に。


 誰だ、誰だ!! 僕の大切な者を殺したのは!!

 甘い自分。そんなのも消し去ってしまえ!! もう……もう僕は、目の前の全ての者を、全ての物を……!!


 今の僕は、既に自分の意識が保てなくなっている。それだけ、自分の中の何かが爆発していた。


「ちょっ……ちょっと待って! 何よこれ? 神妖の妖気?! それにしては、桁が違うわよ!! 何あの白金の尻尾は!? しかも、私と同じ9本?」


 そう、そうだよ。これが本当の僕。


『白金の九尾の狐』椿だよ。


「ぁぁぁぁあ!!!! さぁ誰だ、誰だ誰だ!! 目の前の、僕の大切を壊した者は、誰だぁぁああ!?」


 そして僕は叫ぶ。全てを脅かす為に。


 そして僕は動く。全てを消し去る為に。

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