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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第玖章 生死無常 ~戦いの果てに~
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第陸話 【2】 援軍到着

 華陽は一旦封じました。

 それがいつまでもつかは分からないけれど、今の内に、皆を助けます。


 そして僕は、御剱を取り出して構え、状況を確認すると、真っ先に先輩の元に向かいます。

 移動に左足だけしか使えないけれど、白狐さんと黒狐さんの力を併用できるこの状態なら! 片足だけでも勢いをつけて跳べば、それで何とかなります。


「なる程。怪我をしているとは言え、そこまで動くとは。そんなに我が息子が大事か?」


「うるさい、です! 先輩は、あなたの息子じゃない!!」


 そう言って、僕は御剱を相手に向けて振り下ろす。

 右足の痛みなんて、あっても既に気にならない。それだけ、脳から何か変な物質が出ているのかも知れない。でも、それならそれで好都合ですよ。


「ぬっ……ぐぅ!!」


 玄空は僕の御剱を、手に持っていた錫杖で受け止めたけれど、僕はそのまま力を込めていきます。


「やぁっ!!」


「ぐぉっ?!」


 火事場の馬鹿力って、こういう事なのかな? 左足だけの踏み込みだから、絶対威力は落ちているはずなのに、そのまま玄空を床に叩きつける事が出来ました。しかも、床に穴が空いちゃいました。

 流石にこれは玄空も予想外だったようで、倒れ伏したまま起き上がってきません。


 気絶した? そんな訳無いですね。でも、今の内です。


「あ~もう。右足骨折しているのに、何でそんなに動けるのよ!」


「そんなの、気合だけです!! 妖異顕現、黒槌土塊《極》!!」


「へっ? 嘘? ぎゃぅ!!」


 ついでに、自分自身の妖術を吸収して溜めていました。

 そのままそれを放ち、峰空を吹き飛ばします。加減なんかしていたら防がれそうだったし、そもそもこの人達は人間じゃない可能性も出て来ました。だからもう、容赦はしませんよ。


 その後、湯口先輩を縛り付けている縄を切り、先輩を助け出すと、次は玄葉さんの方を確認します。


「すまん、助かった……というか、お前足!」


「分かっています。でも、まだ終わっていません! それに先輩だって、どこかの骨にヒビ入ってるでしょう?」


「ちっ、分かってたか……」


 だって、さっきから顔色おかしいですからね。そして、助け出した後にそうやって胸を押さえてたら、肋をやったんだって分かりますよ。

 だけど、それだけの力で殴られたんですね。やっぱり、玄空はもう、先輩の父親なんかじゃないですよ。


「とにかく、玄葉さん!! 栄空の隙を作ります!」


「はい? 隙を作るって言いながら、そんなに大声を上げるなんて、あなた馬鹿です……かぁっ?!」


 はい、大声を上げて僕に気をひかせる事が、隙を作る事です。その後、玄葉さんが玄武の盾で思い切り相手を叩きつけ、気絶させました。

 いったい、馬鹿はどっちでしょうか……こんなにも見事に引っかかるなんて。それだけ、歓喜に打ち震えていたのかな。


「椿様!」


「椿ちゃん! 大丈夫?!」


 そして2人は、座り込んだ僕の元に駆け寄って来ました。やっぱり、無理に動いたら駄目でしたね。流石にもう、激痛に耐えられないです。


 それに、玄葉さんもわら子ちゃんも、凄い真剣な表情で僕を心配して来るので、ちょっと申し訳ない気持ちになっちゃいます。


「椿様、動かさないで下さい!」


 すると、玄葉さんは自分のスカートの裾を破り、戦いでめくれた木の板を使って、簡易的な添え木を作り、僕の折れた右足をしっかりと固定してきました。


「いっ!!!! たぁぁあい!!」


「我慢して下さい、椿様! 骨折は、しっかりとキツく固定するのが大事ですから」


 そうは言っても痛いですよ!! 暴れだしたくなります。


「お前、それで動き回ってただろうが……無茶しやがって」


 それは、あれです。自分が何とかしなきゃって思ってたからですよ。


「さっ、これで大丈夫です。あとは私達に任せて下さい」


「へっ?」


 何の事を言っているのか分からないけれど、玄葉さんがそう言った瞬間、僕達の居る部屋の壁がいきなり吹き飛び、大きな穴が空きました。


 それと同時に、色んな声も飛び込んで来ます。


「玄葉! 椿様と座敷様は大丈夫ですか?!」


「えぇ、龍花。何とか……しかし、少し遅いですよ。私の目印の盾が、見えなかったのですか?」


 そう、おじいちゃん達の援軍が、やっと到着したのです。


「すみません。何故かここに近づくにつれ、不幸な事ばかり起こってしまって、時間がかかってしまいました」


 あっ、それは多分、貧乏神の仕業ですね。

 でも、わら子ちゃんと力の相殺が起こっているから、不幸な事なんて……。


『椿!』


『椿よ、無事か!!』


「いっ!! たぁ……白狐さん黒狐さん、僕怪我しているんです」


 すると、その空いた穴から真っ先に、白狐さん黒狐さんが飛び込んで来ました。直ぐに僕を抱き締めて来たけれど、もうちょっと僕の状態を見て欲しかったです。


 それだけ心配をかけたんだから、当然なんだけどね。


『むっ?! 椿よ、足が……待て、直ぐに治してやる!』


 玄葉さん、添え木する必要は無かったんじゃないんですか?

 あっ! わざとらしく口笛吹かないで!! 僕を罰する為に、わざとあんな事をしたの?! 自分のスカート破ってまで? 徹底したお仕置きでしたね……。


「椿ちゃん、大丈夫?!」


「椿、無事?」


「姉さん~! 助けに来たっす!」


「えっ? カナちゃんに雪ちゃんに、楓ちゃんまで来ちゃったの?! 駄目だよ、ここは危ないって!!」


 その援軍の中に、意外な3人まで居たから、思わず僕は声を上げてしまいました。ここは本当に危ないんだから、おじいちゃんの家で待っていて欲しかったです。


「しょうが無いでしょ? この3人が行くって聞かなかったんだから。とりあえず、戦える妖怪達で来たから、よっぽど危ない事になったら、翁が退かせるわよ」


「美亜ちゃん。そうは言うけれど、嫌な予感がするんです……」


 何だか良く分からないけれど、言い知れない不安が、僕の中に渦巻いているんです。


 何か……何かを見落としているような。そんな気がするんです。


「それだけ、お前さんは皆に愛されとる。皆が、お前さんを助けようとしとるんじゃ」


 そんな時、天狗の姿をしたおじいちゃんが、僕の傍にやって来てそう言います。

 分かっています。だからこそ僕は、皆に危険な目にあって欲しく無いんです。怖いんです、誰かを失うのが……。


 人の命の終わりを見て、僕は少し『死』への恐怖を、誰かを失う事の恐怖が、芽生えている気がする。


『よし、治ったぞ。椿、立てるか?』


 そして、僕の足に光を当て、骨折を治していた白狐さんがそう言ってきた。それから僕は、右足をゆっくりと地面に付け、いつも通り体重をかけてみます。


「うん、痛くない。大丈夫です」


『やれやれ、無茶をしおってからに。あと少し動いていて、骨折があれより酷くなっていたら、治すのに丸1日はかかっていたぞ』


 それはごめんなさい。無茶でも何でも、あの時は僕が動かないと、最悪の事態になっていたかも知れなかったんです。


 だからね、思い切り僕の頭を撫でないでくれませんか? 良く頑張ったなって感じの笑顔でさ……。

 それに、黒狐さんも同じ様にして頭を撫でないで! 恥ずかしいですから。


 それなのに、僕は嬉しいから尻尾振っちゃってます。


「椿ちゃん、可愛い~」


 カナちゃんはいつも通りですよ。君は、恐怖が無いんですか? 皆が居るから……なのかな。


『それにしても玄葉よ。一杯食わされたわ。スパイをしとったとはな』


『本当だな。俺達まで騙す程の演技力とは……』


「申し訳ありません。リアリティの追求の為に、秘密にしておりました」


 そして、僕の頭を撫でながら、2人が玄葉さんに向かってそう言います。その後、玄葉さんだけじゃなく、他の3人も膝を折っていて、皆に謝っていました。

 そこまでしなくても良いのにね。それに多分、その作戦はおじいちゃんが言ったんでしょ。


「まぁ、待て。その指示を出したのは、儂じゃ。そう4人を責めるな」


 やっぱりそうでした。

 そしておじいちゃんが、白狐さん黒狐さんを止めてきました。でも、2人は怒っている感じでは無いです。寧ろ、感謝している感じかな。


『いや、翁。それに関しては気にしていない。我々の実力不足なのと、信じる心が足りんかったせいだ。稲荷失格じゃな』


『それより、こうも上手く敵の本拠地に入れ、そして総大将に会えるとは思わなかったな。命の危険を顧みず、敵のスパイをしてくれて、礼しか言えないぞ。助かった、玄葉』


「はっ、ありがとうございます」


 玄葉さんがかしこまっちゃっていますよ。

 騙した事で、引け目に感じているからなのかな? そんな事で、白狐さん黒狐さんが何かする訳ないでしょう。


「妖異顕現、尾槍破砕(びそうはさい)


 すると、玄葉さんの言葉の後に、突然大きな音が響き渡り、華陽を捕らえていた影のドームが、中からの鋭い槍によって壊され、そして怒りに満ちた華陽が姿を現しました。


「やっってくれたわね~自分の妖術を、ここまで利用されるなんて。ほんっと、あったまくるわ~」


 これ、華陽は完全に怒り心頭していますね。


 でも、僕は右足の骨折が治ったし、おじいちゃん達の援軍も来ました。どっちが有利なのかは、もう分かっているはず。


 そして僕達は、一斉に華陽を睨みつけます。今度こそ、逃がさないですよ。

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