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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第玖章 生死無常 ~戦いの果てに~
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第伍話 【2】 追い詰めてくる華陽

「あはは。椿ちゃん、私がこんな所に居てびっくりした?」


 部屋の中に引きずり込まれた僕は、華陽の姿を見て、色々な事が頭の中で渦巻いています。


 滅幻宗を、華陽が操っていた? いや……そもそも、華陽が作ったという事? それじゃあ、妖怪を滅しようとしているのは何でですか。


「くっ……華陽。お前の目的は、いったい……むぐっ?!」


「玄葉さん?! わら子ちゃん!」


 玄葉さんが華陽に向かって話しかけた瞬間、玄葉さんとわら子ちゃんの影が動き、その手で2人の口を塞いできました。ついでに、ゆっくりと鼻にまで伸びています。


 まさか……そのまま窒息させる気? そんな事はさせないよ。


「ちょっと黙っててよ。今私は、椿ちゃんと話しているの。それに、私は今は亜里砂なのよ。そっちで呼んでくれる?」


 悪気の無いその笑みは止めて下さい。怖いです。

 自分の思い通りにならなかったら、遠慮無く殺す。そんな目ですよ。


 そして華陽は、9本の尻尾を振りながら、僕の元にゆっくりと近付いて来る。


 服装は、やっぱり特別な存在をアピールしたいのでしょうか? 煌びやかな着物のような服装をしていて、しかもミニスカート。更にはお腹を露出させていて、袖口も広い物です。

 更に、薄い絹で出来たようなそんな羽織を羽織っていて、何処かのお姫様って感じになっています。


「本当、久しぶりだね椿ちゃん。でも夏休みの間、何があったの? あの時と、少し目付きが違うね」


「僕にも色々ありましたからね」


 とにかく、今この状況で動けるのは僕だけ。

 良く見たら、湯口先輩も後ろの方に居ました。木の板に貼り付けにされていて、心配そうな顔で僕を見ている。それよりも、自分の心配をして下さい。


「あははは。妖狐らしくなってきたわね~今、どうやってこの状況から脱しようかって、そんな事考えてる? 無理よ。あなたはもう、私の手の内。どうにでも出来るのよ」


 そう言うと、華陽は指を弾いて鳴らし、妖気を出し始める。すると、玄葉さんとわら子ちゃんの身体を縛り、口を塞いでいる影が、またゆっくりと鼻に向かって進んで行く。


「止めて!!」


「だったら、妲己を出しなさい」


「うっ……」


 そう言って、僕を睨み付けてくる華陽は、僕の身体を使っている時に睨み付けている妲己さんと、全く同じ表情をしていました。片割れなんだから当然なんだけど、それでも殺気はこちらの方が強い。


 さっきまでのおちゃらけた態度が嘘みたいに、一気に周りの空気が張り詰め、肌が痛くなり、喉がカサカサに乾いていきます。


「くすっ。ごめんごめん、ちょっと威嚇し過ぎたね。でも、椿ちゃんの対応次第で、そこの2人の命が終わるんだよ。そこは、分かってね」


「かはっ……はぁ、はぁ、はぁ」


 僕、息してなかった? でもそれ程の殺気を、僕は至近距離で受けていました。そんなの初めてだから、身体が強張って動かないです。


 そして、何だか僕の下半身が気持ち悪いというか、なんだか濡れて……る? あっ、嘘でしょう……。


「あはっ。椿ちゃん、これだけの殺気を受けたの初めて?」


「うぐっ! み、見ないで!」


 慌ててそこを押さえるけれど、既に温かいのが太股を伝っていて、皆にバレています! うぅ、恥ずかしい……。


【――替わりなさいって、さっきから言っているのに。ちょっと! 聞いているの?! 椿!!】


 ごめんなさい、妲己さん。それどころじゃないんです。

 それに、あなたと入れ替わるのが相手の目的なら、その瞬間何をして来るか分かりません。危険なんです。


「椿!! 逃げろ! こいつらはヤバ……ぐはっ?!」


「お前は黙っていろ」


 だから、先輩は自分の心配をして下さい。玄空に思い切りお腹を殴られて、吐いているじゃないですか。


「かはっ……げほっ、げほ。ちくしょ……お前等分かってんのか?! 奈田姫って奴は、妖怪だったんだぞ!?」


「だからどうした?」


「はっ?」


 いや、僕も「はっ?」ですよ。妖怪を滅する集団が、妖怪に従っていて……って、そんかの訳が分からないですよ。いや、納得がいく事が1つだけあります。


「華……亜里砂ちゃん。そこの4人、本当に人間なんですか?」


 すると、僕のその言葉が意外だったのか、華陽が目を見開いて僕を見ると、口元をにやつかせてきました。


「へぇ……椿ちゃん鋭いねぇ~でも、あなたはただ妲己と替わる事だけに集中……っ」


「答えて下さい」


 情けない姿を見せたとはいえ、今度は僕の番です。怖くても何でも、僕が動かないと全員殺されるかも知れないのです。だから僕は、一生懸命に華陽を睨み付けます。


「あはぁ……椿ちゃん、良い目。でも、足震えてるよ~良いから――とっとと、妲己と替われ」


「あぅ……くっ……」


 最後にまた、とんでもない殺気を僕に向けないで下さい。それでも、この恐怖を堪えて、僕は華陽を睨み続ける。


 それは、この近くまでやって来ている妖気を感じたからです。

 沢山の沢山の、僕の原動力になる妖気が。心から安心する妖気が。だから、僕は怯まない! 幾らでも時間稼ぎをしますよ。


「ふ~ん、なるほどね……残念だけど、私も馬鹿じゃないのよ。増援ね」


「なっ……」


「何で分かったかって? 勝ち目も無いのに、私をずっと睨み付けてくるからよ」


「くっ……」


 だけど、それは当然です。相手の方が何もかも上手なのは分かっています。だから、僕の狙いがバレるのも想定済み。


「残念ね。あなたのせいで、あなたの大切な2人……がぁ?!」


 その隙に、僕は神妖の力を解放し、巾着袋から御剱を取り出し、華陽を突き刺して吹き飛ばしました。この間、僅か数秒だと思う。

 だから華陽ですら、僕の攻撃に咄嗟には対応出来きず、簡単に吹き飛んでしまいましたよ。こんなに早く動けるなんて、自分でもびっくりです。


「妖異顕現、影の操!」


 その次に、僕は影の妖術を発動し、2人を縛り付けていた影を操り、2人を解放しました。

 華陽が操っていたら、僕では敵いません。だけど今は、その華陽が吹き飛び、意識が逸れたので、何とか操り返して2人を解放出来ました。


「はぁ……はぁ、すいません椿様。って、危ない!」


 そして、動ける様になった玄葉さんは、何かに気付き声を上げるけれど、その瞬間僕の近くで凄い爆発が起きました。


「ちっ……大人しく言う事を聞いていればいいものを」


 玄空が、爆発する札を投げ付けていました。

 だけど、それに気付いた玄葉さんが、玄武の盾で僕を守ってくれていました。


 だから僕は、真っ直ぐに華陽の吹き飛んだ方を見ます。

 華陽の方は、壁の前で仰向けで倒れているけれど、尻尾動いているし、意識はありますよね。油断出来ません。


「奈田姫~? 大丈夫か? 派手に吹き飛ばされてたよ」


「うるさいわね、閃空。ちょっとびっくりしただけよ」


 そう言いながら、華陽は立ち上がって来ました。やっぱりね……しかも全くダメージが無いですよ。


「あら? せっかく私が上げた服が……前が少し破れたわね~」


「別に良いわよ、峰空。それより栄空。他の2人、殺しちゃって。もう邪魔よ」


「えぇ、分かりましたよ」


 そう言うと栄空は、今まで見た事が無い程の笑みを浮かべ、こっちに近づいて来ました。やっと殺せる。そんな思いが完全に顔に出ちゃっていますね。


「わっ……!!」


 とにかく2人を……と思ったら、僕は僕で何かに足を引っ張られ、引きずられていきます。


「椿ちゃんはこっちね~」


「あっ……! くそっ!」


 華陽の影に捕まって、引きずられていました。下は畳だから、擦られて肘が熱いってば。


「妖異顕現、影の操!」


「あはっ、やりあうっての? でも、あなたのその武器には驚いたけれど、妖術はてんで駄目ね!」


 そして華陽は、笑いながらまた指を鳴らし、僕の影を操り出しました。駄目です、完全に相手の方が上です。


「椿様!!」


「玄葉さん、前!」


「くっ!! このっ……!」


 僕を助けようとして、玄葉さんが動いてくれたけれど、それを栄空が飛びかかる様にして止めて来ました。


「あぁ、やっと……やっと殺せますねぇ!!」


 目が完全に、イカれた人みたいになっています。更にそれとは別に、殺気の籠もった目をする他の3人も、後ろから近づいて来ている。


 これは……完全にピンチです。

 おじいちゃん達の増援は、いつ来るの? 近くまで来ていると思うけど、そこまでハッキリとは分からないです。


 あと何分……何十分? とにかく、それまでにやられないようにしないと。

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