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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第玖章 生死無常 ~戦いの果てに~
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第壱話 【1】 全ては潜入の為

 僕を呼ぶ声が聞こえる。僕を心配するこの声は……誰だろう。


「椿ちゃん……椿ちゃん!」


 あっ、この声、わら子ちゃん?

 ゆっくりと意識が戻っていく中、僕の耳にわら子ちゃんの声が聞こえてきました。


 えっと、僕はどうして……あっ、そうだ! 滅幻宗の人達に捕まったんだ。


 そこでようやく、今までの事を思い出した僕は、目を開き急いで身体を起こします。


「きゃぁ?! びっくりした……」


「あっ、わら子ちゃん。って、いったた……」


「あっ、大丈夫? とりあえず手当はしといたけれど、何処かまだ痛む?」


 わら子ちゃんが心配そうな顔を向けるけれど、それよりも僕は、自分が何処に居るのかを確認しないと。


 だけど目の前に、丈夫そうな鉄格子があったので、牢屋なのは間違いないようです。

 カビ臭いし静まり返えっているし、辺りが薄暗いです。それに、ボロボロの壁の隙間からは、ネズミさんが顔を出していました。


「ここは?」


 とりあえず、自分が居るのが牢屋なのは分かったけれど、それが何処の牢屋なのか確かめたかった僕は、わら子ちゃんに聞いてみました。


「ここは滅幻宗の本部で、その地下にある牢屋だよ」


「えっ、本部……ですか?」


 わら子ちゃんも気絶していたのに、何で分かったんだろう。


 いや、それよりも僕は、色々な感情が入り混じっていて、それどころじゃないです。何より、皆が心配なのと……そう、玄葉さんの事です。


「玄葉さん。何で裏切って……」


「あっ……」


「わら子ちゃん、おじいちゃんの家で何があったの? 玄葉さんが何で、あんな事を? 玄葉さんだって、この前わら子ちゃんの事を抱きしめて。それが、全部嘘だなんて!」


「つ、椿ちゃん。ちょっと落ち着いて……」


「落ち着けません! それに、わら子ちゃんだってショックでしょう? ずっと一緒に居た人なんだよ!」


 それなのに、わら子ちゃんは全く動じていません。何で、どうしてですか。


「椿様、少し静かにして下さい。敵に感づかれます」


「感づかれるって何が?! 僕はそれどころじゃないんですよ、玄葉さん! って、えっ? 玄葉さん!?」


 あれ? 玄葉さんの声が聞こえたから、普通に返してしまったけれど……何で鉄格子の外側に、玄葉さんが居るんですか?! いつの間に……。


「だから椿ちゃん、落ち着いてって……」


「申し訳ありません、お二人とも。この様な汚い所に居て貰って」


 えっ? えっ? 何がいったい、どうなっているんですか? 何で玄葉さんは、いつも通り普通に話しかけているの。


「すみません座敷様、椿様。敵を欺く為とはいえ、あの様な事をしてしまいまして」


 そう言いながら、玄葉さんは僕達に頭を下げてきました。


「あのね、椿ちゃん。玄葉さんは、滅幻宗の本部を突きとめる為に、スパイ活動をしてくれていたの」


「ス、スパイ活動……」


 あぁ……そっか。それで玄葉さんは、あんな行動を……よ、良かった……。


 それにしてもちょっとやりすぎというか……相手にやられたフリをするよう言ったのも、恐らく玄葉さんなんだろうけど……盾でこっこりと防いで、こっちの虚を突く作戦なんて、あいつらに出来そうにないからね。敵の信頼を得るため……なのだろうけど。


 とにかく、玄葉さんが裏切ったのじゃなくて良かったです。

 

「えっ? 椿ちゃん、大丈夫?!」


「ご、ごめん。安心したら、力抜けちゃって」


 僕がその場に倒れちゃったから、2人とも慌てて様子を見に来てくれました。その姿を見て、本当に玄葉さんが裏切った訳では無い事が分かって、泣きそうになりましたよ。


「すみません……この事を言ってしまえば、リアリティに欠けると言われ、翁から口止めされていたのです」


 確かにね……白狐さん黒狐さんも含め、僕もその事を知っていたとしたら、例え演技でもあんなやり取りは出来ません。本当に裏切られたと思ったからこそ、出来た事です。


「それと、向こうの心配は要らないですよ。私達が去ったら、直ぐに現れるようにと、龍花達には言ってあります。そして、私がスパイ活動をしていた事も、皆様に説明しているはずです。今頃は、こちらに向かっているでしょう。私の持っている、この発信機を頼りに」


 そう言って、玄葉さんは小型の発信機のようなものを取り出しました。


 なるほど。あそこで滅幻宗の幹部を潰すより、本拠地の場所を特定し、思いどおりになったと思って気が緩んだ所を、一斉に襲撃し、滅幻宗のトップごと、纏めて捕まえるということですか。


「ということは、僕達がやることは?」


「滅幻宗の親玉の正体を探り、可能なら捕まえます」


 要するに、今までのように追い返すだけじゃきりが無いし、相手が動き出しているみたいなので、こちらも動く事にしたのですね。


「分かりました。でもそれなら、わら子ちゃんを連れて来る必要は……」


「万が一、という事もありえます。だから、座敷様と一緒に居て貰い、幸運の気を受け、その万が一にも備えようという事です」


「でも、危なくないですか?」


「椿ちゃん。私がどんなライセンスを持っているか、覚えてる?」


「1級ですよね。うん、分かっているんだけれど……」


 でも、今までのわら子ちゃんの様子だと、ちょっと不安なんだよ。

 だけどね、今のわら子ちゃんは、自信満々な顔付きになっています。まるで別人だよ。


「椿様は、ライセンスを持って任務や依頼をしていた頃の、その当時の座敷様をご存知無いでしょう? これが本来の、座敷様です」


 そんな……こんなわら子ちゃん、わら子ちゃんじゃないみたいです。だけど、信じられないという気持ちの反面、どこか嬉しくも感じている自分がいます。


 これはあれかな、友達の意外な一面を見た時の、そんな感じに近いのかな? 僕にはちょっと分からないです。


「とにかくね、椿ちゃん。私も昔は、潜入捜査とか玄葉さん達と一緒にやっていたの。だから、心配無いよ。むしろ、椿ちゃんの方が心配だよ」


 僕の方が心配されちゃいました。


「むぅ……それならあの時、わら子ちゃんは気絶していなかったんですね」


「あっ、ごめん。その通りだよ。敵の本拠地を知る為にね」


 それを聞いて、僕だけ気絶してしまったのが、情けないやら納得いかないやら、とにかく良く分からない感情が湧いちゃいました。


 でも、敵との戦いがまだ続いているのなら、のんびりしていては駄目ですね。


「それなら早くここから脱出して、敵の親玉を――っ、いたた」


 まだ動こうとしたら、全身が痛みます。

 敵の結界は本気のものだったから、僕のダメージは相当です。防御力を上げていても、このダメージなんて……。


「椿様、落ち着いて下さい。あれからまだ、1時間程しか経っていません。先ずはあなたの傷の回復と、体力の回復を優先しないといけません」


 えっ? 気絶していたから時間が分からなかったけれど、それだけしか経っていないのですか。


「椿ちゃん。相手も少なからず、体力を使っているだろうから、直ぐに動く事はしないと思う。だから今は、あなたの力を回復させよう」


 わら子ちゃんにまで心配されたら、どうしようも無いですね。それなら2人の言う通りにして、体力の回復に専念しますね。

 それに今確認したら、妲己さんも寝ていました。今動いてもしょうが無かったです。


 休むしか無いですね。この、汚い牢屋でね……。


「う~ん……こんな所で回復出来るかな?」


「も、申し訳ありません。こちらが動くまで、敵に感づかれる訳にもいかないので、毛布を差し上げる事も出来ません」


「椿ちゃん。玄葉さんへの仕返しは、それ位で良いよね?」


「うん。真剣に謝っていたし、これで許しますね」


「なぁ?!」


 大声出したら敵に気付かれますよ。

 だけどもう1つ、心配する事があります。僕と一緒に連れて来られた、湯口先輩の事です。


 きっと今頃、酷い仕打ちを受けているんじゃないかと思うと、直ぐにでも助けに行きたいです。

 だけど、さっきの戦いでだいぶ体力を消費したのは確かで、色々と事情が分かった瞬間、疲労感が襲って来ました。


「わら子ちゃん、ごめん。ちょっと寝るね……」


「うん、分かった。妖怪食もあるから、起きたら食べてね」


 そう言ってわら子ちゃんは、隠し持っていた巾着袋を見せてきました。つまり、そこに妖怪食が入っているんですね。それよりも、今は疲労感の方が勝ってます。


「さっ、椿ちゃん。おいで」


「えっと……」


 その後、わら子ちゃんが正座を崩した座り方をすると、そのまま自分の膝を叩いてきました。

 つまり、膝枕をしてあげるって事ですか? 流石に恥ずかしいし、わら子ちゃんが疲れちゃうんじゃないのかな。


「わら子ちゃん、そこまでは……」


「それじゃあ、地面に寝転がって、ネズミさんにその可愛いお耳をかじられても良いの?」


「…………」


 ネズミさんこんにちは……じゃなくて、流石にそっちの方が嫌ですね。ネズミさんと目が合っちゃって、何だかかじる気満々と言うか、むしる気満々なんですけど……。


 どうやら僕の耳の毛は、巣の素材にするには最適らしいです。勘弁して下さい。


「えっと、それじゃあ膝枕で……」


「は~い。おいで、椿ちゃん」


 仕方ないです。今回は仕方ないのです。

 とにかく、起きたら腹ごしらえをして、作戦を聞かないといけませんね。多分、もう決まっていると思うしね。


 そしてその様子を見た後、玄葉さんは戻っていきました。だけど、玄葉さんの方も気を付けて下さいね。

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