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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第捌章 純真可憐 ~戦う乙女達~
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第拾漆話 【2】 捕らわれた椿

 目の前の玄葉さんは、顔色1つ変えずに、僕の前に立っている。


 その間には、僕を閉じ込める為の結界があって、玄葉さんが脇に抱えているわら子ちゃんを助けようとしても、助けられません。


 だけどその様子を見て、白狐さん黒狐さんが攻撃をしてくる……けど、完全に玄葉さんの盾で防がれました。


『くっ……! 玄葉! お主、何のつもりで!!』


『俺達を、翁を……いや、座敷わらしを裏切るか!』


 2人とも凄く険しい顔付きで、玄葉さんを睨み付けているけれど、その前にね……僕をここから出して欲しいです。


 あの4人が近付いて来ているんですよ。


 しかも、この結界のせいなのか、身体中が軋んで痛いんですよ。動けない。


「うっ……くぅ。白狐さん黒狐さん……」


 とにかく僕は、必死で2人に助けを求めます。これはもう、僕1人で破れるものじゃないですから。


 しかもこんな時に限って、増援を乗せて来て貰おうと思って、レイちゃんをおじいちゃんの家に引き返させていました。


「椿ちゃん!!」


「くっ……椿!」


 カナちゃんも雪ちゃんも、僕を助けたくても、この強力な結界の前ではどうしようも出来ないようです。


「ふっ、玄葉よ。新入りの割には、良く動く奴だ。ただの人間にしては素晴らしい力ではないか」


「ありがとうございます。これも全て、奈田姫様の目的の為」


 近付いて来る玄空に、玄葉さんが頭を下げる。


 だけどちょっと待って下さい。さっき玄空は、玄葉さんの事をただの人間って言いましたよね。玄葉さんはどちらかというと、人間では無いんですよ。どういう事だろう……。


 駄目です。身体中痛くて、考えがまとまりません。

 その間にも、白狐さん黒狐さんは僕を助けようと必死になってくれています。


 先輩は気絶してしまっていて、玄空に担がれているし、このままではマズいですよ。


『玄葉! 何故裏切った!』


 すると、白狐さんがそう叫びながら、玄葉さんに問い詰める。


「仕方無いのですよ。気付いて下さい……ねぇ、椿様。付き合いが短いとは言え、私達がどう言う人物か、分かっているでしょう?」


「…………」


 痛みでそれどころでは無いですんけど……。


「あぁ、すみません椿様。ですから少しの間、大人しくしていて下さいね」


「くっ……うぅ」


 大人しくと言われても、僕はもうそれしか出来ません。

 それに、白狐さん黒狐さんが必死に攻撃をしているけれど、全て玄葉さんによって防がれています。もう、駄目かも……。


「あはは、無駄みたいだね。その盾凄いね~玄葉さん」


「閃空。感心してないで、その妖狐を捕獲しちゃいなさいよ」


 そして、完全に動けない僕を捕まえようと、閃空と峰空が近付いて来る。

 これは本当にピンチですよ。でも、僕自身じゃもうどうにも……そうだ、妲己さんなら。


【無理よ、椿。これは完全に詰んでるわ。だから言ったのに】


「嘘……でしょう」


 だけど、他の皆はまだ諦めていません。

 美亜ちゃんだって、必死になって僕を助けようとしてくれているけれど、どういう訳か呪術が発動出来ないみたいです。


「他の皆も、大人しくしていて下さい。座敷わらしがここに居る以上、幸運の気で満ちています。美亜さん、呪術等も使えないですよ」


「くっ! そんなの、やってみないと分からないでしょうが!」


 だけど、何とかしようとしている美亜ちゃんに向かい、栄空がお札を凄いスピードで投げ付けまてきました。あれは多分、爆発するやつです。このままじゃ、美亜ちゃんが危ないです。


 すると、そのお札が美亜ちゃんに当たる瞬間、急に突風が吹き荒れ、お札が吹き飛びました。


「やれやれ……集中するのは良いけれど、敵の動きも良く見ないとね」


 どうやら敵のお札は、八坂校長先生が何とかしてくれたようです。でも、僕がこの結界に捕らわれていたら駄目です。何とかして脱出しないと……。


「うぐぐぐ……この! いっ、つぅ……うぅぅ!」


 これ、身をよじったりその場から動こうとしたり、とにかくちょっとでも身体を動かしたら、途端に激痛が走る。


 でも、だからなんだです。


【ちょっと椿。それ以上は……】


「妲己さんは……黙っ、てて。どうせ……妲己さんでも、無理……なんでしょ」


 僕がそう言った後、妲己さんは大きくため息をつきました。


【このままじゃ、また暴走するわよ。あんた、神妖の力に頼ろうとしているでしょ?】


「ここから脱出するには、それしかないの……!」


【馬鹿椿。仲間を信じなさいって言っているでしょう?】


 信じているよ。信じているけれど、それでもどうにも出来ない状況だから……僕が捕まったら終わりだから。


「諦めよ」


 ふと、大きな影が覆った様な感覚に襲われて、僕が前を向くと、そこには玄空が立ちはだかっていました。


 でも、この人……こんなに大きかったっけ?

 あれ? 脚も震えて……あっ、そうか、僕怖いんだ。このままこの人達に捕まるのが、怖いんです。その恐怖で、玄空が大きく見えてしまっている。


「あがっ?!」


 そして次の瞬間、僕の頭に衝撃が走り、一気に視界が揺らぎ、意識まで飛びそうになりました。


『椿!!』


『おのれ!! 玄葉! 貴様も俺達と同じ様に、椿を好きだったろうが。それなのに、何故こんな事を!』


 とりあえず、何とか意識ら保ったけれど、また玄空が殴ってきそうです。


「ふむ……このくらいで良かろう。よし玄葉、このまま撤退する。追跡の方は頼んだぞ」


「分かりました」


 そして玄空は、大きくて長い数珠を取り出すと、それを使って僕を縛り付けました。

 これって……以前美亜ちゃんが捕まったやつより、もっと大きな物だ。


 もう、完全に駄目なんですか? 僕は……僕はこのまま、滅幻宗に連れて行かれるの? そんなのは嫌です。


「うく……離、して!」


 せめてもの抵抗をしてみるけれど、やっぱり駄目でした。完全に動けなくされてしまっていて、身をよじる事すら出来ません。


「椿ちゃん!! きゃう!?」


「くっ、何これ? 見えない壁が!?」


 最後の最後まで、皆は諦め無いのですね。

 だけど玄空の周りは、玄葉さんの盾で囲まれていて、全ての攻撃を防ぎ、誰の侵入も許さないです。


「ちょっと……! このままじゃ座敷わらしまで! ヤバいわよ!」


「参ったね……私達は生徒を守らないといけないし、今来た捜査零課でも、これは……」


『クソ! 椿!!』


『行かせるかぁぁあ!!』


 もう皆が皆、凄く必死です。玄空に担がれても、連れて行かれるその瞬間まで、諦めずに僕を助けようとしています。


 だけど、もう良い……もう良いですよ。これ以上は、皆が大怪我しちゃう。それどころか、殺されちゃうよ。

 ほら……ダメージの無かった閃空や峰空が、グラウンドに残った白狐さん黒狐さん、それに美亜ちゃん、そして半妖の人達までも狙って、殺そうとしているよ。


「駄目……です。皆、もう戦ったら……」


「閃空、峰空、栄空。あとは奴等に任せておけ」


 玄空がそう言うと、何と下っ端だった人達が起き上がり、白狐さん黒狐さん、それに他の皆と一般の生徒達に向かって、一斉に襲いかかりました。


「えっ、まさか……」


「ふん、奴等はこの為の駒にすぎん。札で大量の練気を流せば、訓練していない者は、脳が壊れてあんな風になる」


 どちらかと言うと、半妖の人の暴走に近い気がします。

 カナちゃんのしか見ていないけれど、カナちゃんが暴走した時と、目が一緒なんです。


「さて、行くぞ」


「はぁ~全く……真剣にやられたフリするのは疲れたよ~」


「真剣にやってないと思われてたわよ」


「こいつはいつでもそうですよ。それよりこの妖狐。用が済んだら、ちゃんと殺すんですよね?」


 あぁ……そうか。今までのは全部、こいつ等の作戦だったんですね。完全にやられました。


 それに、暴走させた下っ端達はかなり強いらしくて、白狐さん黒狐さんでもやっと倒せるレベルで、カナちゃんと雪ちゃんは、その2人にしっかりと守られています。


 そして玄空は、僕を担いだまま屋上に跳び上がり、家の屋根へと飛び移ると、そのまま学校から離れて行きます。

 皆が僕を呼ぶ声が聞こえるけれど、それはだんだん遠くなっていく。


 僕は悔しくて、惨めで……泣いてしまっています。


 もっと力を使えていれば、神妖の力を暴走させずに使えていれば、こんな事にはならなかったのに。


 僕はやっぱり、弱い。


【椿、仲間を信じなさい。良いわね。私はいざと言う時の為に、力を温存させておくわね】


 いったい何を言っているの? 僕には良く分からない。この後、絶対助けに来てくれる。そう信じろって事かな。


「椿様、座敷様、皆様。ごめんなさい……」


 そして、今まで我慢していた痛みや疲労が一気にやって来て、意識が途切れそうになる中、玄葉さんのそんな言葉が聞こえてきました。


 それはどことなく、怒りを抑えているかの様な声だったよ。 

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