第拾肆話 【2】 滅幻宗との真剣勝負
今回の滅幻宗の人数は、尋常ではない多さで、ざっと見ても50人は超えていそうですね……油断は出来ません。
白狐さん黒狐さんは、独自の判断で動こうとしているので、そっちは信じて任せるとして、カナちゃん達を動かさないといけませんね。
だけど、1つ気がかりなのは……。
「雪ちゃん。今一通り見た感じだと、半妖の人達が居ませんよ?」
そう、捕らわれている生徒達の中に、半妖の人達が居ないのです。雪ちゃんにその事を言うと、ゆっくりと頷いていたので、間違いないです。
牛元先輩やあの変態も、爆発に巻き込まれたのかな? 生徒会は北校舎だし、可能性があるんですよね……。
「とにかく、カナちゃん雪ちゃんは僕から離れないで、カナちゃんは可能な限り、敵を戦闘不能にして下さい。それと、雪ちゃんはおじいちゃんに連絡して、こっちに増援を……」
「もう呼んでる」
あっ、手にスマートフォンを持っていましたね。雪ちゃんの行動が早くて助かりましたよ。それでも、増援が来るには時間がかかります。だけど、ある程度は敵の数を減らしておきたいですね。
そして、この事態に湯口先輩は、いったい何処に行っているんでしょうか? 先輩は敵じゃないって、信じて良いのかな……。
『椿! のんびりしている場合ではない。来るぞ!』
白狐さんのその声に驚き、急いで前を向くと、大量のお坊さん達が、手に錫杖やお札を持ち、一斉に襲いかかって来ていました。
「あ~もう! 作戦会議もさせてくれないんですか!」
『当たり前だろう。とにかく落ち着け、椿。いつも通り、妖怪退治をする要領で、片付けていけば良い。4人の幹部らしき奴等は、俺と白狐でやる! お前達は雑魚を頼む!』
「あっ、はい! 分かりました!」
そうでした。全体の指揮は、2人に任せれば良かった事ですね。とにかく僕達は――
「雑魚とは言ってくれるな、化け物どもが! 人間を甘く見たらどうなるか、思い知らせてや――」
「妖異顕現、黒棍土塊!!」
「ぐぁっ!!」
この勝手な事をしてくる人達に、お仕置きすれば良いだけです。
「そっちの方こそ、僕達が化け物だって分かっていますか? 人間には扱えない力を使うんですよ!」
すると今度は、別の人が僕の後ろから、突然襲いかかって来たけれど……。
「後ろから椿ちゃんを狙うな!!」
「ギャァァア!! あっちぃ!」
炎を纏ったカナちゃんが、火車輪を巧みに操り、相手を斬りつけない様にしながら、その体に火を点けましたね。
もちろん、そんな勢いの強い炎じゃないけれど、お札とかは燃えちゃったかな。
「うん。数は多いし、敵は僕達の能力を分かって攻撃はしてくるけれど、力の差があるからね、あんまり意味がないです……よ!」
そして僕は、今度は白狐さんの力を解放し、爪を鋭く伸ばすと、次々とお坊さん達の札を、その服ごと切り裂いていきます。
人間にとっては凄いスピードなので、頭では分かっていても、目で追って身体が動けなければ、対処は出来ません。
だから、次々と僕の爪の餌食になり、10人……15人と、戦えるお坊さん達の数は減っていっています。
「おやおや、何をしているんですか? あなた達は、ただのやられる為の人形ですか? 少しはその妖狐に、傷の1つくらい付けたらどうですか?」
そのお坊さん達の姿に、栄空が苛立ちを隠せないようにしているけれど、そんな事を気にしている場合かな。
「むっ?!」
あっ、惜しかった。黒狐さんが雷の妖術で、栄空を狙ったのだけれど、ギリギリで避けられましたね。
『貴様、先程の台詞を言った事、後悔させてやる。椿を傷付けるだと? やってみろ! 俺達の怒りを買うだけだぞ!』
「おやおや、既に怒っているようですが? そんなので大丈夫なのですか?」
栄空はそう言いながら、軽く挑発をしてきています。黒狐さん、少し冷静になった方が良いと思いますよ。
「椿ちゃん! 黒狐さんを見てないで、自分の事を――」
「妖異顕現、黒鉄の鎖舞」
大丈夫ですよ、カナちゃん。僕の後ろと横から襲って来た人達は、手に持っている札を使われる前に、一気に捕まえましたよ。
「嘘……今ので更に10人……? 椿ちゃん1人だけで、もうそんなにも……」
「カナちゃんも、もう5人程倒しているじゃないですか」
やっぱり僕達と人間とでは、雲底の差がありますね。
たとえ特別な道具を使ってこようと、その道具が妖具みたいなものだから、それだけで差が埋まる訳が無かったです。
でもそれなら、なんでこんな組織を作ったのでしょうか? しかも見た感じだと、お坊さん達が強くなっていない気がします。つまり僕達みたいに、特訓や稽古をしていないという事です。
「この……くたばれ妖怪!!」
「おっと……!」
例えば、今向かって来たこの人、単純に錫杖を振り下ろしただけ。その先に妖気が集まっているので、そのまま爆発させるみたいですね。動きも攻撃も単純過ぎるよ。
「かかったな? 爆!」
「――の前に、その錫杖を折るだけです」
「あっ……」
その後は、驚いている相手の顎に、拳を一撃入れて終了です。やっぱりおかしい。普通の人間なら、今ので瀕死だろうけどさ……。
4人の幹部達の方は、少しずつ僕達との戦い方が分かってきたのか、そう簡単には倒せないし、油断するとこちらがやられる程にまでなっているのに、この下っ端のお坊さん達は、僕達の情報をそんなに貰っていないのか、僕達に対処出来ていません。
使い捨てだから? それにしても、多少は戦えないと使えもしないでしょうに、どうなっているの。
「椿ちゃん、凄い……」
「だって、白狐さんから簡単な体術と、黒狐さんからは妖術。龍花さん達からは、対人戦を学んでいるので、そりゃ多少は動けるようになっているよ。まだドキドキするけどね……」
本当は、緊張していて手汗も凄いです。
だって、何をして来るか分からない集団ですからね。それに、クラスメイト達が捕まっちゃっているので、派手な妖術は使えないです。巻き込まれたら大変ですからね。
だから今回、僕は術式吸収と解放も出来ません。本当に危ないですから。
「妖異顕現、影の操!」
それが無くても、割と簡単に相手を捕まえられていますけどね。
「なっ! 俺の影が?!」
「しまった……! 影を操る妖術か?!」
「こ、こんな強いなんて聞いていないです!!」
やっぱりおかしい。僕達の情報を持っていない? そして、驚異的に弱い。いったい、何が狙いなの……。
「椿ちゃん、油断しないで。4人が……」
「分かっています。今ので全員捕まえたのに、一切動じていない」
今、黒狐さんと相対している栄空は、黒狐さんの妖術を簡単に交わしながら、その隙にお札を投げ、反撃をしているし、白狐さんと相対している閃空は、楽しそうにちょこちょこと動き回り、白狐さんの攻撃を避けまくっています。
「残念だが、我々も幾度となく、貴様等と戦い、その情報を得ている。もう貴様等の勝利は、一切無い!」
すると、その2つの戦闘の間から、険しい表情をした玄空が、ゆっくりとこちらに向かって来ました。
「玄空……湯口先輩の父親」
流石に凄い気迫なので、僕は身構え、咄嗟の相手の行動にも反応出来るようにします。
「椿ちゃん……」
「カナちゃんは下がっ……危ない!」
そうでした……もう1人、峰空も居たんだけれど、その人はまだ前に居たはず。それなのに、今は僕達の後ろに居て、刃の付いた円盤の様なもので、カナちゃんの首をかき切ろうとして決ました。
僕が咄嗟に、カナちゃんの頭を押さえて伏せさせなければ、そのまま斬られていましたよ。
「あら残念。良く気が付いたわね~」
「いたた……ありがとう、椿ちゃん」
「大丈夫です。それより、カナちゃんは離れてて。2人相手だと、流石にカナちゃんを守れないかも知れない」
どうやら最初から、この4人で戦うつもりだったようです。でもそれなら、この沢山のお坊さん達は、何の為に連れて来たのでしょうか。ただの壁? だけど、それを考える前に……。
「ぬん!!」
「うわっ?!」
素手で地面を抉らないで下さい!
玄空は、力任せで来ましたか。この2人の組み合わせが、1番厄介かも知れません。だって……。
「あっ、ぶない!」
避けた先に、峰空の円盤状の武器が飛んで来て、真っ二つにしようとするんです。この状況だったら、二手三手先を読まないといけません。それはまだ、今の僕には無理です。どうしましょう……。
「さぁ、今度こそは大人しく捕まるがよい! 妖狐、椿!」
「出来るだけ大人しくして欲しいのよね~だから、お願い~」
それでも、ここから逃げる訳にはいかないし、相手の言うことも聞く訳にはいかない。だから僕は、僕なりの全力で、この場を乗り切るしか無いです。
「どっちもお断りします!」
そう叫び、僕は再び構えを取った。




