第拾壱話 【2】 しつこい亰嗟の襲撃
そして放課後。皆で会話をしながら、いつもの公園へと向かいます。
そこから僕はレイちゃんに乗って、他の人達はいつも時間通りに来る、一反木綿さんか妖怪タクシーに乗って、おじいちゃんの家に帰っています。
だけど……今日は遅いです。何かあったのかな? 僕だけレイちゃんに乗って、家に確認に行っても良いけれど、皆の会話が途切れないから、中々それを切り出せません。それと、レイちゃんも寝ちゃっていますしね。
「それにしても、遅いっすね~」
だけど、良いタイミングで楓ちゃんが言ってくれたので、ようやく僕は、今起こっている事を皆に伝えました。
「う~ん、確かに遅いけれど……そこまで心配する程じゃないかな」
「まだ、いつもより30分遅いだけ」
「30分でも、十分おかしいと思うけど……」
カナちゃん雪ちゃんは、ずっと会話を楽しんでいたいのか、僕達にそう言ってくるけれど、家でも一杯話してるじゃないですか……。
「何かあったら、あんたの勾玉に、白狐と黒狐から連絡が入るでしょ?」
「そうだけど……」
そういえば、その手がありましたね。僕の方から、白狐さん黒狐さんに連絡をすれば良いんだ。
そこで僕は、耳に付けている白い勾玉を外して、そこに話しかけるけれど、全く反応がありません。
「白狐さん? ねぇ、聞こえている白狐さん? もしも~し!!」
「どうしたの? 椿ちゃん」
「白狐さんと連絡が取れない」
僕の言葉に、ようやく皆険しい顔付きになって、辺りを見渡し始めました。そして僕は、今度は黒い勾玉の方を外して、そこに話しかける。
「黒狐さ~ん! 聞こえますか?! 白狐さんの反応が無いんだけど、何かあった?!」
だけど、黒狐さんの方も返事が無い。というより、勾玉が機能していない様にも思える。いったいどういう事だろう。
「ねぇ、椿ちゃん。おかしいと思わない? いくら人気の少ない所だとはいえ、住宅街よ? 人の話し声とか、歩く音すら聞こえないよ」
カナちゃんにそう言われ、周りを確認すると、確かに雑踏が一切聞こえなくて、シーンと静まり返っていました。
すると僕達の近くに、龍花さんと朱雀さんがどこからか飛んで来て、僕達の前に立つと、そのまま僕達を守る様にして、横に手を広げてきました。
いきなりの事でびっくりしたけれど、緊急事態という事ですよね。
「椿様は、ご友人達を守って下さい。この公園全体に、謎の結界が張られています。何者かが、あなた達を襲うとしている様です」
「結界? そんなの、いったい誰が……」
龍花さんの言葉に、僕がそう返した瞬間――
「椿ちゃん!」
「姉さん、周りが囲まれています!」
カナちゃんと楓ちゃんの声が同時に公園に響き渡り、それと同時に、男達の気持ち悪い笑い声が聞こえ、次々と木の陰等から姿を現して来ました。
「10……20? もっと沢山いるかも」
「カナちゃん雪ちゃん、それと楓ちゃんも、僕から離れないで。一応相手はただの人間だけど、1人1人に微量の妖気を感じるから、妖具を持っている」
「椿ちゃんと美亜ちゃん。それに、楓ちゃんも捕まえに来たの?」
「そうかも知れないですね」
すると、取り囲んでいる男達が、ジリジリと僕達に近付いて来る。
「一応言っておきますが、それ以上近付いたら容赦はしませんよ」
龍花さんが一応と付けたのは、恐らくこの人達は、言葉ではもう止まらない事を、肌で感じているんだと思います。
それは僕も一緒で、この人達の視線が凄く恐い。だから、ちょっと尻尾を立てて威嚇しています。でもこの雰囲気は、今にも飛びかかって来そうですよ。
「ひひ、暗殺者のあの人の言う通り。ここで張ってて正解だぜ」
「おぉ、こんな上玉が3体も」
「しっかし……妖怪女が好きな市長が辞職したからな~他の上得意先が、こいつらを気に入ってくれるかどうか」
「関係ねぇ、俺達で楽しんでしまえばいいさ」
「いやいや、札に閉じ込めて戦力として」
勝手な事を言ってくれますね。
亰嗟の人間達って、こんな人達ばかりなんですか? 力を持ってしまった人間は、こうも簡単に悪に染まるんだね。
すると、僕の耳にまたしても、あの音が聞こえてきた。引き金を引く音。
しかも、聞こえて来た方角から、どの角度から撃ったのかも、全て分かりました。それで、狙いも分かりましたよ。
でも、今度は同じミスは犯さない。そして僕は、咄嗟に動いた。
今度は楓ちゃんを狙ったその銃弾、僕はそれが楓ちゃんに当たる前に、白狐さんの力を解放し、彼女を抱き抱えてそこから飛び退く。
「ひゃわ?!」
流石に楓ちゃんも、地面に銃弾が撃ち込まれ、穴が開いた様子を見て、身体が震えちゃっています。でも、それと同時に、楓ちゃんは握り拳も作っているけれど、どうしたのかな……。
「姉さん、これは……」
「うん。誰かがスナイパーライフルで、僕達を狙っている」
「危ない! 椿様!」
すると、僕が楓ちゃんを助けて避けた先に、今度は亰嗟のメンバーの1人が、パイプの様な物で、僕達を殴ろうとしていたけれど、龍花さんが青竜刀でそれを受け止め、そのまま押し返す様にして、殴ってきた奴を斬りつけました。
だけどその瞬間、再び引き金を引く音が聞こえてくる。角度からして……今度は美亜ちゃんだ。
「美亜ちゃん! 後ろに跳んで!」
「な、何よ?! きゃあ!」
僕の声に反応し、美亜ちゃんが後ろに跳んだ後、銃弾が地面に当たり、それでやっと美亜ちゃんは、自分が狙われている事に気付きました。
「ちょっと嘘でしょ?! 狙撃手が居るの? 椿、あんた分かるの?!」
「分かるのは撃った時の音だけです! その時に、銃弾が発射される微妙な音の違いで、狙った位置を大雑把に推測しているだけ! だから、出来るだけ動いて!」
だけどその瞬間、今度は下にいる人達が襲って来た。
この状況だと迂闊に動けないし、だからってジッとしていたら、今度はスナイパーに狙われる。どうしたら良いの。
「くっ……一か八か、私が空から!」
「朱雀さん、スナイパー相手にそんな事、自殺行為ですよ!」
「しかし、このままでは! うっ!」
銃弾を避けながら、相手の攻撃を避けながら、敵を倒していっているけれど、殴っても蹴っても、妖術で吹き飛ばしても、この人達は立ち上がって来ます。
「はっ、痛くもねぇぜ!」
「おら! 観念しろ!」
「スナイパーと俺達のコンボは無敵だぜ!」
「くっ、不愉快な! 何かで強化しているだけのくせに……」
周りの奴等の言葉に、龍花さんが少し気に食わない顔をしているけれど、それでも冷静に敵を退けています。
そして今度は、僕の方に向けて銃弾が飛んで来る音が聞こえる。でも、聞こえてからでは遅かったので、僕は自分自身の防御力を上げてから、とりあえず回避します。
「くっ! 危ないなぁ!」
丁度、僕のお腹辺りに向けて撃たれていて、ただ立っているだけだったら、見事に撃たれていましたよ。だけど、何とか回避出来て、掠っただけですみました。
「楓ちゃん! 動き回りつつ、出来るだけ僕から離れないで!」
僕は楓ちゃんにそう注意するけれど、楓ちゃんは何かを呟いていました。
「暗殺者、亰嗟の……まさか、もう1人の父さん母さんを殺した奴って……」
しまった。あいつ等が暗殺者って言った瞬間、その可能性に気付くべきでした。
楓ちゃんの目が、憎い相手を見つけた時の目になっていて、明らかに正気じゃ無くなっています。
「楓ちゃん! 落ち着いて!」
「討つべき敵、自分が……自分が何としても」
駄目です、聞いていない。というか、楓ちゃんに敵を討てる程の実力があるとは思えない。だからここは、何としても正気に戻さないといけません。
「楓ちゃん!!」
「なっ?!」
そして僕は、楓ちゃんの頬を思い切り引っぱたき、彼女を無理やり正気に戻しました。
「何するっすか! 姉さん!」
「何するじゃないよ、言ったそばからこれだよ。いきなり僕達に頼ろうともせずに……もし敵なら、何としても討とうって、そう思っていたでしょ?」
「うっ、だけど……」
そうやって、楓ちゃんを説得しているにも関わらず、敵さんは遠慮無く襲って来ます。
「はっは~! 幼女2人ゲット~っおぉ?!」
「妖異顕現、影の操。ちょっと静かにしてて下さい。そして、僕は幼女じゃない!」
「ぐはぁ!!」
何だか不愉快だったので、影の妖術で捕まえた後、そいつの影を使ってひっくり返して、頭から地面に打ち付けてやりました。
「良い? 相手はただの一般人じゃないんだよ? 力を手に入れ、有頂天になっている人間達は、とても恐ろしい事をしてくるからね」
「うっ……だけど」
「良いから。君はもっと、強くならないと駄目。今は僕達に守られてなさい」
自分が未熟なのは、楓ちゃん自身良く分かっているはずです。悔しいだろうけれど、今は我慢ですよ。
「くっくっ……痛ぇなおい、だが……効かねぇなぁ!」
すると、さっき僕が倒した奴が起き上がり、自信満々にそう叫ぶと、再び僕に襲いかかって来た。
「先ずはてめぇからだ――ぐはぁっ!!」
とりあえず白狐さんの力を解放して、思い切り殴ってみました。
するとそいつは、人形の様に腕や脚を変な方向に曲げながら、激しく吹き飛び、何回かバウンドして地面に横たわると、そのまま動かなくなりました。
「とりあえず、こうやって気絶させたら良いみたいですね」
「お、おい……聞いてねぇぞ。何だあの力は?」
「怯むな、数では勝ってるんだ!」
「おぉ! 押せ押せ……えぇっ!?」
だけど今度は、そいつらの周りを勢いの強い炎が取り囲み、そいつらを焼き付くそうと迫っている。
「椿ちゃんを傷つけるなら、私が許さないよ」
この炎は、カナちゃんですか。また炎を纏った姿になっていて、その犬歯を剥き出しにし、物凄く威嚇しています。
更に次々と、僕達を囲っていた奴等が倒されていく。
龍花さんと朱雀さんが、ひたすらそいつらを殴り斬りつけ、蹴り飛ばし、上から叩き落とし、そして気が付けば、もう半分程を気絶させていました。
だけど、まだ厄介な敵は残っています。
「龍花さん!! 危ない!」
「ぬっ!」
僕が叫んだ後、龍花さんは横に飛び退き、飛んできた銃弾を回避する。
そう、このスナイパーを止めないと、僕達はこの公園から出られません。