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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第捌章 純真可憐 ~戦う乙女達~
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第拾話 【1】 白骨化した口裂け女

 その日の放課後。


 僕とカナちゃんと雪ちゃん、それとどこから聞きつけたのか、湯口先輩まで一緒になって、南校舎の見回りをしています。


 僕自身の神妖の力の方は、その能力も使い方も分からない。

 暴走しないようにしないといけないけれど、そもそも無意識みたいなので、対策も出来ません。


 今の所、命に関わるような事にはなっていないので、家に帰ったら白狐さん黒狐さんに相談してみようかな。


 そして、夕焼けで薄暗くなった校内を、僕達は教室を一つ一つ確認しながら回っています。


「そういえば、侵入されたかも知れない妖怪さんは、どこに居るんですか?」


 こうやって一つ一つ見るより、目撃情報のある所に行った方が、早いんじゃないのかな?

 そう思った僕は、歩きながらカナちゃんに聞いてみた。先輩は常に警戒しているけれど、そもそもそんなに強い妖気を感じません。だから、僕も困っちゃったんです。探れないからね……。


「う~ん、それがね。校長先生が言うには、廊下を歩いていると、突然現れるんだって」


「何だそりゃ、お化けか何かか? それなら俺の方が専門だ。任せとけ」


 カナちゃんの言葉に、先輩が自信満々に言うけれど、カナちゃんと雪ちゃんは、未だに先輩を警戒しているのか、少し距離がありますね。


「大丈夫だよ、カナちゃん。ちゃんと隷属の首輪をしているから」


「クソ……椿、お前目覚めたんじゃないだろうな?」


「そんな訳ないですよ。念のためです」


 別に、僕が先輩をどうこうしたいという気持ちは無いので、安心して下さい。


「そ、その人は、椿ちゃんが居るから大丈夫だとは思うけど……やっぱり、ね」


「仲間が何して来るか、分からない」


 カナちゃんと雪ちゃんが警戒していたのは、そこでしたか。確かに、この前完全に滅幻宗と敵対しちゃったから、向こうも本腰を入れて来るかも知れません。

 でもやっぱり、最近の滅幻宗は大人しいといいますか、何かを企んでいるのか、あまり動きを見せません。


「えっ? 椿ちゃん。あれ、なに?!」


 すると突然、カナちゃんが声を上げて前方を指差しました。

 滅幻宗の事は、今考えても意味が無いですね。今は校長先生からの頼み事を――


「……何ですか? あれ」


 廊下の先、階段の手前に何かある。というか、何かいる? 立っているのかな?

 何だか良く分からないので、目を凝らして良く見てみると、白くて細い物が立っていました。


 いや、とても有名な物が立っていましたね。


「カナちゃん……あれって、人体模型のガイコツさんじゃないですか? 支えが無いから、そのまんま白骨化した死体だけど……」


「待って、何でそんな物がここに?」


「普通、理科室」


 雪ちゃんの言うとおり、普通は理科室です。つまり居るとしたら、理科室のある北校舎のはずなんですよね。


 何でここに居るの。


 すると突然、そのガイコツさんが僕達の方を振り向き、ゆっくりと近付いて来る。それだけでも怖いのに、更に怖い事を言ってきました。


「ねぇ、私の体って……綺麗?」


 待って下さい。それは口裂け女さんの台詞ですよ。あなたの台詞じゃありません。

 なんて事を考えている場合じゃないですよね。ゆっくりと近付いて来るガイコツさんは、徐々に歩くスピードを上げています。


 ゆっくりとゆっくりと、確実に歩くのが早くなっていって、そして腕も振り始め、最終的には走り出しました。


「ねぇ……! 私の体、綺麗~?」


 そして僕達は、全員で回れ右して全速力で逃げます。


「わぁぁぁあ!!」


「言ってる事が違うから、逆に怖い~!」


「口裂け女? の、白骨化死体?」


「いや、意味が分からねぇ!」


「ちょっと先輩! 本職の人が何で逃げているんですか?!」


「あぁっ!? しまった! と言うか、椿も逃げてるだろう!」


「僕はその場の流れで!!」


 もう何が何だか分からないけれど、そういう事にしておきます。


 皆何故か、必死に逃げちゃっています。

 だって、捕まったらどうなるか分からないし、そうなると逃げるよね。


「待って、皆! 口裂け女ってさ、足速く無かったっけ?!」


 カナちゃんに言われて気付いたけれど、確かに話によっては、口裂け女さんは異様に足が速い設定でしたよね? という事は……。


「ねぇ、私の体、綺麗~?」


「隣にいたぁあ!!」


 骨だからか知らないけれど、すっごく早かったです! とりあえず、褒めたら駄目だったはず。


「え、えっと。綺麗、綺麗ですよ! 骨が白くてしっかりしていて、綺麗だと思います!」


「カナちゃん!! 口裂け女さんの話、知ってますか?!」


 それ、言ったら駄目な事だと思いますよ!

 必死に逃げても横にピッタリくっついているし、このままではいけないとは思ったけれど、やっぱりこのガイコツの人体模型みたいなのは、口裂け女さんだと思います。


 だってカナちゃんの言葉の後、ゆっくりと口の部分に割れ目が入り、裂けていってますからね。

 しかも、体まで徐々に変形していって、より禍々しく、より刺々しく、骨の状態のままで、地獄にいる鬼の様な形になっていっています。


「これでもぉ~?!」


「ほらぁ!! カナちゃんのばかぁ!」


「ごめんなさい~! そこまでは知らなかったんだもん~!」


 確かに、口裂け女さんが有名になったのは、1970年代だし、最近は知らない人の方が多いくらいですね。

 このガイコツさんは、包丁とかは持っていなかったけれど、こんな変化があるなら、危険なのには変わらないです。


「クソ! おい椿、こいつは手配書にある奴か?! ある奴なら滅するぞ!」


「ちょっと待って、今調べてるから! というか、滅したら駄目!」


 僕は先輩にそう言いながら、自分のスマホを操作して、この妖怪さんの妖気を調べています。


「うん。何にも出ないという事は、悪い妖怪じゃないかも知れません!」


「何!? それじゃあ、どうやって止めるんだ?!」


「えっと、何か止める方法……」


「ポマード、べっこう飴。これ、有名じゃない? 知らない香苗は役立たず」


「ちょっと雪、止めてよ! というか、そんなの誰も持ってないでしょうが!」


 そうでした。口裂け女さんに出会ったら、この2つが有効らしいですね。だけど、カナちゃんが言った通り、誰もそんな物は持っていなかったです。どうしましょう……。


 それと、確かに有名な話かも知れないけれど、今はもう、口裂け女さんの話だけじゃ、皆怖がらなくなっていますね。


 あれ? もしかして、この口裂け女さんが白骨化したのって……。


「もしかして……皆が怖がらなくなって、その姿を忘れられそうだから、身体の肉が無くなった?」


 すると、僕のその言葉に対して、白骨化した口裂け女さんが反応をしたけれど、同時に暴れ始めました。


「えぇ……そうよ。そうよ!! 皆私の事なんて、話題になんかしやしない! それどころか、私にそっくりな奴等が現れて、皆を怖がらせている始末! 何よ! どっちも長髪で、白い服着て、ゆっくりと這いつくばっているだけで、何が怖いのよ!」


「わ~!! それ以上は言ったらだめぇ!!」


 それに、その内の片方は、白いというよりはちょっとくすんでいるから――じゃなくて!

 とにかく、この白骨化した口裂け女さんを止めないと、校舎に被害が……。


「あっ、ガラス割られた」


「ちょっと、椿ちゃん。何とか止め……」


「妖異顕現、影の操」


「ひぇっ?! な、何よこれぇ!」


 流石に今ので、外にいる人達に怪しまれたかも知れません。そしてこの、白骨化した口裂け女さんも、部活をしている人には見えているかも知れないです。

 それならわざわざ、被害の出ない所で押さえようとするんじゃなくて、最初からこうするべきでしたね。


 この白骨化した口裂け女さんの影は大きいから、ちょっと多めに妖気が要りました。その大きな影の腕で捕獲をしたから、ちょっとやそっとでは動けませんよ。

 だから、身をよじらないで欲しいです。壁が削れているし、窓がもう1枚割れたし、それ以上やるなら、もう後は鎖で固定するしかないよ。


「口裂け女さん。もう大人しくしていて下さい。これで固定しますよ?」


 僕はそう言って、白骨化した口裂け女さんに、鎖の妖術を発動して、それを床に垂らして見せます。

 そうなると、流石に暴れても無駄だと分かってくれたのか、白骨化した口裂け女さんは、ようやく大人しくなってくれました。


「はぁ……しょうが無いわ。それで、私をどうするの? センターに引き渡すのかしら?」


「いえ、あなたは手配されていないので、センターに相談はするけれど、捕まったりは無いかな? あっ、割ったガラスの弁償はあるかも知れないけどね」


 何にしても、悪さをする妖怪じゃなくて良かったです。

 ただ単に、自分の身に起きた理不尽に怒って、やり場の無い怒りをぶつけたかっただけのようです。 

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