表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第捌章 純真可憐 ~戦う乙女達~
223/500

第捌話 【3】 それでも怪我したから、弄られましょう

 あの後、職人さん達は橋を完成させて、村の亡霊達と一緒に成仏しました。

 当然、橋は現実の物じゃなくて、霊達の想像によって生み出された物なので、彼等が成仏した後、大量の光の粒になって消えていきました。


 ちょっと幻想的だったから、皆でしばらく眺めていた後、僕達は帰宅する為に、行きと同じ様にして空を飛んでいます。


「は~お腹すいた……」


「椿ちゃん、お疲れ様。帰ったら、里子ちゃんが沢山ご飯を用意してくれていると思うよ」


「それはありがたいです」


 レイちゃんの背中の上で寝そべりながら、僕はそう返事をします。お腹減った上に、物凄く疲れたので……。


「あっ、そうだ、椿様。今の内に、座敷様と私達の事を少し……」


 僕にたっぷりと褒められて、上機嫌なレイちゃんの後ろから、雲操童に乗った龍花さんが話しかけてくる。

 それにしてもレイちゃん、少し速度を落として欲しいかな……僕が落ちそう。


「何ですか? わら子ちゃんとの事?」


「えぇ、あなたは私達に、座敷様の事を好きと言いましたが、それは少し違います」


 どういう事でしょうか? ちょっと気になったので、僕は体を起こして龍花さんの方を向きます。


「好き、と言うよりは、私達を育ててくれた者への恩返し、使命、そんな想いの方が強いですね」


「恩返しですか?」


 わら子ちゃんを守る事で、恩返しになんかなるの? 確か4人は、それぞれ京都の四神に育てられたんだよね? それが何で、恩返しになるのでしょう。


「実はこの座敷様は、京都の四神が生み出した、特別な座敷わらしなんです」


「えっ?! わら子ちゃんって、そうだったんですか?」


 わら子ちゃんの出生に関しては、誰も何も言ってくれ無かったのです。それは、わら子ちゃんがそんな特別な存在だったからなのかな。


「……私は別に、何も特別じゃないのに」


 この様子からして、わら子ちゃんが出生に関しては言わないで欲しいって、おじいちゃんにそう言ったのでしょうね。


 だけど、それがなんですかって感じです。


「それじゃあ龍花さん達は、わら子ちゃんの事、何とも思って無いんだね」


「いや、そういう事では……」


「嫌いなの?」


「いえ……それは違います」


「だったら、好きって事じゃないんですか?」


 僕がそう問い詰めると、4人はお互い顔を見つめ合わせ、驚いた様な表情をしています。何だか、同じ顔が4つも向き合っていると、少し異様ですね……。


「あぁ……これが、好きという事なんですか」


 龍花さん達は、好き嫌いの感情で動いた事が無いのでしょうか? 龍花さんのその言葉に、僕の方がびっくりです。


「えっ……? ちょっと……龍花さん、虎羽さん、朱雀さん、玄葉さん、ち、近いです。ふぎゅっ?!」


 良かった良かった、龍花さん達が顔を赤らめたまま、わら子ちゃんに抱き付いています。やっぱりわら子ちゃんは、4人に愛されていましたね。


「つ、椿ちゃん。助けてぇ……」


「良かったね~わら子ちゃん」


「椿ちゃん?!」


 何だろうこれ。美亜ちゃんが、白狐さん達のネタで僕を弄っている時って、いつもこんな気分になっていたんですね。

 嬉しいのと楽しいのが入り混じって、ちょっと癖になりそうです。


「うぎゅぅ……椿ちゃんが、昔の椿ちゃんだ……」


『よし、黒狐よ。戻すか』


『おう、分かった』


「待て、お前達だけにやらせるか」


 えっ? 白狐さん黒狐さん、それに湯口先輩まで……ちょっと待って下さい。レイちゃんに乗って来ないで、レイちゃんが重量オーバーで落ち――無いし、案外平気そうですね。


「ムキュッムキュゥ!」


「わぁ! 待って待って! 白狐さん黒狐さん、抱き付いて来ないでぇ! レイちゃん、そんなに頑張らなくて良いからぁ!」


「椿ちゃんも、愛されてるねぇ~」


 わら子ちゃん、それは仕返しですか?! 僕が悪かったですから、そんな意地悪なわら子ちゃんは駄目ですよ。


 そんな感じで、いつもの様に僕達は、騒ぎながら帰宅しました。


 ◇ ◇ ◇


 任務を終え、帰宅した僕を待っていたのは、更なる刺客達です。


「た、だいま~」


「あっ、お帰り~椿ちゃん。良かった~ちゃんと依頼達成出来たんだね」


「カナちゃん、ただいま。んっと……微妙な所です」


 だって、依頼者が殺されちゃったので、大成功という訳にはいかないのです。


 とにかく僕は、皆に勘付かれないようにしながら、カナちゃんにそう返事をした後、ラフな服に着替えようと、自分の部屋に向か――おうとしたら、雪ちゃんと美亜ちゃん、それに里子ちゃんまでが、僕の前に立ち塞がりました。


「椿、忘れてない?」


「な、何がですか?」


「怪しいわね~里子、ちょっと椿を押さえてて」


「は~い!」


 やっぱり駄目でした。

 里子ちゃんに続いて、雪ちゃんと美亜ちゃんとカナちゃんが、ゆっくりと僕に近寄って来ています。それでもまだ誤魔化せそうなので、少し抵抗してみます。


「もう……分かっていますよ。怪我だよね? 大丈夫、1つもしてないです!」


「怪しい」


 雪ちゃん、鋭い。

 いや、僕が両手を広げて、大袈裟に怪我なんて無いですよって、そんなアピールをしたのが駄目だったのかな。逆に怪しくなったのかも。


「まぁまぁ、皆落ち着いて。とりあえずお疲れ様って事で、先ずは労わないといけないでしょ? 頭をナデナデでもして……って、椿ちゃん?」


 しまった、咄嗟に避けちゃった……。

 えっと……どうやってこれを誤魔化しましょう。あっ、そうだ。


「あっ、あの。いくらなんでも、頭ナデナデはもう……僕は子供じゃないんだし」


「それにしても、物凄いスピードで避けたわよね?」


 カナちゃん……もしかして気付いていました? 何ですかその笑顔は、怖いですよ。


「ひぅ!!」


 すると、突然僕の頭に痛みが走りました。誰かが僕の背後に居たので、ソッと後ろを向くと、丁度頭のコブが出来た部分に、雪ちゃんが手を当てていました。

 僕がカナちゃんに気を取られている隙に、遠慮無しに触ってきたから、ちょっと痛かったです。


「あっ……いや、これは、ですね」


 反論しようとしたけれど、もう無理でした。皆の笑顔が怖いです。


「コブ1つ、すり傷2つ。フフ」


「えっ、雪ちゃんが笑って……でもその前に、すり傷って何処に、あっ……」


 谷から落ちた時かな? 色々気にしていたから、逆に気付かなかったけれど、僕の二の腕の裏側と太股の外側に、すり傷が出来ていました。

 多分、何処かに引っかけたと思うんだけれど、防御力を上げていたから、すり傷ですみましたって感じですね。


「はい、椿ちゃん。先ずは消毒消毒♪」


 そして、いつの間にか里子ちゃんが救急箱を持って来て、手際良く消毒をしてくれると、テキパキと手当てをしていきます。上機嫌になりながら……。

 僕とした事が、注意していたのに怪我をしてしまうなんて。でも、まだ大丈夫。だって、もう晩御飯の時間ですから。


「ありがとう、里子ちゃん。皆、遅くなってごめんね。さっ、晩御飯を食べよ!」


 よし、このまま大広間に行ってしまえば、何とか誤魔化せる――というのは甘い考えでしたね。自分でも思っていたけどね。


「キャウン!」


 でもだからって、尻尾を強く引っ張らないで欲しいですよ。


「椿、誤魔化さない。怪我1つにつき、1回弄る」


「あっ、あの、雪ちゃん……僕の中での怪我は、打ち身で酷い痣が出来たり、痛々しい程に血が出ている事を言うんだけど」


「言い訳無用」


「観念しなさい、椿。とにかく、1人3回弄られなさい」


「多い!」


 あれ? 怪我1つにつき1回弄るとはいっていたけれど、それが皆なのか1人につきなのかは、言っていなかったですね。やられました……。


「待って待って! 僕お腹空いたから、先にご飯を――」


「あら、良いわよ。皆で食べさせるけどね」


「お~良いねそれ、美亜ちゃん!」


「うん、名案」


 美亜ちゃん、何て事を言ってくれるんですか! それは流石に恥ずかしいですよ。

 そして、カナちゃんと雪ちゃんはそれに賛成してこないで下さい。分かってはいたけれど……2人は相当おかしいからね。


『まぁ、諦めろ椿。我も含め、全員から可愛がられるが良い。自分をないがしろにするお主には、丁度良い罰じゃ』


 そうですか、白狐さん……これは僕への罰なんですね。

 今までの流れからして、この状況はもう逃げられ無いです。観念しますよ。

 だけどせめて、弄りは羞恥程度にして欲しい。だけど、白狐さん黒狐さんは、もうその程度では収まらないですよね。


「はぁ……あんなに嬉しそうなわら子ちゃん、初めてだよ」


 そんな僕に向かって、手を振りながらニコニコするわら子ちゃんを見て、もう他の人を弄るのは止めようって思いました。


 因果応報、それ相応の報いというやつですね。

 白狐さん達に引きずられながら、そんな事を考える僕は、せめて明日は皆に弄られ無いようにしたいなって、同時にそう思っていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ