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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第捌章 純真可憐 ~戦う乙女達~
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第肆話 【1】 座敷わらしの依頼

 昨日はかなり緊張してしまったので、家に帰った後は、ただ作業的にご飯を食べ、お風呂に入り、そして布団に潜ってお休みしました。それだけ精神をすり減らしたからです。だから、油断していました。


 翌朝目を覚ますと、カナちゃんと雪ちゃんが、僕の布団に潜り込んでいました。


「な、何でこの2人が……?」


 この2人、昨日は家に帰らなかったの? 学校はどうするのでしょうか……。


「あら椿、おはよう」


「あっ、夏美お姉ちゃん。この2人、何でここにいるの?」


「あんた、ぼ~っとしていたからね。その2人も、ここに住む事になったのよ」


 嘘でしょう? あっ、でも、雪ちゃんのお母さんの氷雨さんは、ここで住み込みで働いているし、雪ちゃんがもうあの家には帰れないのも分かる。誰も居なくなっちゃったからね。

 市長は辞職したし、執事さんも秘書さんも、ある程度の罪にはなるらしく、殆どの人が捕まってしまったんです。


 でも、カナちゃんは何でなのかな。いや、だいたいわかりますけどね……。


「ほら、遅刻する前に起きなさいよ~」


 そう言って、夏美お姉ちゃんは朝ごはんを食べに、1階へと降りて行った。


 仕方ないので、僕も2人を起こし、一緒に朝ごはんを――と思ったけれど、この前のように引っ付かれてしまっています。

 白狐さん黒狐さんは気を利かせたのか、この部屋には居ないですね。


 それよりも……この2人、多分もう起きているはずです。


「カナちゃん雪ちゃん、どうせ起きてるんでしょ? 朝ごはん食べに行きますよ」


 そう言うと、僕はそのまま2人の拘束から逃れ、足を掴んで引きずって行きます。


「いたたた! 分かった分かった~起きてるから、椿ちゃん起きていますよ~!」


「ぬぬぬ……最近の椿、スキンシップを上手く回避する」


 そりゃ僕だって、何回もされたら対策しますよ。


「あのさ、なんでカナちゃんまでここに住む事に?」


「いや、雪も住むなら私も住みたいな~って思って。中学生の1人暮らしなんて、寂しいんだよ?」


 それを言われると何も言えませんね。

 カナちゃんの方は、まだお母さんと上手くいっていないようなので、仕方無いかも知れません。


「おっ、椿。ようやく起きたのか――って、何だその状況……」


「あっ、湯口先輩。おはようございます。ちょっと、2人が悪ふざけし過ぎたので。それと、くっつかれて寝汗も酷いから、先にシャワー浴びてきます」


「そうか、お前も大変だな。こんな可愛い2人にくっつかれて、男としての精神が戻ったりしないのか?」


 痛い所を突いてきますね。確かに、ちょっと変な気分にはなっちゃうけれど、そこは抑えていますから大丈夫です。


「先輩。確かに僕にはまだ、翼だった頃の記憶があるし、男だったっていう思いは残っているよ。でも、僕は僕だし、今の姿が嫌いって訳じゃないからね。いつかは、この男だった時の思いも、消えていくとは思うよ」


「そっか……まぁ、お前が後悔しないならそれで良い。とりあえず、遅刻はすんなよ」


 そう言って、湯口先輩は手を振って立ち去って行く。鞄持っていたし、もう学校に行くのかな?

 あれから、クラスの人にも謝罪は出来たようだし、またいつもの様に、学校に通えているみたいです。


 そう言えば、夏美お姉ちゃんもだけど、ここからどうやって学校に通っているのか気になるよ。妖怪タクシーでも使っているのでしょうか。


「さっさっ、椿ちゃん。早くシャワー浴びないと、学校に遅刻するよ」


「椿、体洗ったげる」


「雪、それは私がやるの!」


 これもいつも通りなので、僕はあまり抵抗しません。体は自分で洗うよ。変な事されるからね。


 ◇ ◇ ◇


 その後、2人の過度なスキンシップを回避しつつ、シャワーを浴び終えると、直ぐに制服に着替え、朝ごはんを食べに向かう。


「お願い翁! 行かせて下さい!」


「いかん! 流石にそれだけは駄目じゃ!!」


 大広間の襖を開けた瞬間、怒号が飛び交っていたので、僕は無意識にカナちゃんの陰に隠れちゃいました。


「お願いします翁、座敷様は私達が守ります。だから、是非とも」


「いくら龍花達4人が着いて行くとはいえ、危険過ぎる!」


 何だろう……何の話なんだろう。

 おじいちゃんと言い合っていたのは、意外にも座敷わらしのわら子ちゃんでした。あんな大声で言い合うなんて、びっくりしますよ。


『むっ? おぉ、椿よ。ようやく来たか』


『翁、椿が怖がっている。少し抑えてくれ』


「むっ? なんじゃ椿。まだ儂の怒号に慣れんのか」


 慣れるどころじゃないんですよ、トラウマですからね。おじいちゃんの怒りの前では、どうしようも無く体が竦んでしまいます。


 あっ、そうだ……。


「えっ? 椿ちゃん?」


「あっ……そんな」


 僕は咄嗟に、食卓についていた白狐さんの元に向かい、白狐さんの陰に隠れてみました。2人ともごめんなさい、やっぱりここが1番落ち着きます。


『つ、椿よ。何だか、2ヶ月前を思い出すのだが?』


 もうそんなに経っていましたっけ? 色々あったので、あっという間に感じますよ。


「翁、お願いします。これは、私がどうしてもやらなければいけない事で、私があの時中途半端で終わらせたから、今そんな事に」


「しかしじゃな……」


 それよりも、どうしてわら子ちゃんはそんなに必死になって、おじいちゃんに食いつくんだろう。

 いつもはおじいちゃんの怒号の前に、怯えて引っ込んでいたのに、今は強い決意の目をして、おじいちゃんと相対しています。


 それと、わら子ちゃんの後ろには、あの4つ子の守護者も揃っています。


「「「「お願いします、翁。座敷様は、命に代えても我々が守ります!」」」」


 流石は4つ子です。4人1度に喋っても、ピッタリ同じだなんて。

 だけどもっとおかしいのは、おじいちゃんが止める程の事なのに、4つ子の人達は止める所か、わら子ちゃんの味方をしています。


 そして僕は、おじいちゃんの前に差し出されている紙を見つけ、それを確認しました。何が書いているか気になるからね。でも、ちょっと遠くて読めないや。


「ふ~ん、依頼書のようね。Sランクなんて文字が見えたけれど、座敷わらしのあの子には無理でしょうね」


 すると、僕の向かいに座っている美亜ちゃんが、独り言を言うみたいにして、依頼書の事を言ってきました。焼き魚と格闘しているけれど、目はしっかりと書類に行っていますね。


 そうだ、僕も朝ごはんを食べないと。


『そこは問題無かろう。座敷わらしはSランクの任務を受けられる、一級のライセンスを持っている。我等より上じゃ』


「んぐっ?! うぐぅ……ぐっ……んぅ。はぁ、はぁ……ゲホッ、ゲホッ……嘘でしょ、わら子ちゃんが?!」


 思わずお味噌汁を吹き出しそうになったから、頑張って耐えたら、一緒に口に入れたお豆腐が暴れ出したので、口の中が大変な事になりました。こんな時は、妖怪食だと面倒な事になるんです。


 それよりも、わら子ちゃんがSランクを受けられるライセンスを持っているのなら、その依頼は何も問題無いですよね。何でおじいちゃんは止めるんだろう。


「わらしよ。分かっとるのか? 以前、お主でも相手にならなかった程の強敵じゃぞ。お前さんの引き籠もりも、その時の恐怖からじゃろうが。今度も、4人が助けてくれるとは限らん!」


 そう言えば、昔わら子ちゃんは、人柱となった人が妖怪となった、橋鬼(びょうき)に連れ去られていたんだっけ。

 その時の依頼が、未だに達成出来ずにそのまま……という訳ですか。


「お願いします。今度は……今度こそは」


「確かに、わらしの力でしかあれは鎮められんだろう。しかしじゃ! 1度失敗している者を、またノコノコと送り出せる訳が無かろう! 他にも、お前さん程では無いが、力のある座敷わらしはおる。そいつらが何とかしてくれよう」


 う~ん、わら子ちゃんの方が押されていますね。

 確かに、おじいちゃんの言う事にも一理あるし、わら子ちゃんを応援してあげたいけれど、危険な目には遭って欲しくないですね。僕の心境は複雑です。


「それなら、私達以外にも応援を付ければ宜しいのでしょうか?」


 すると、龍花さんがおじいちゃんに対抗する様にして言ってくると、そのまま僕に視線を送る。


 えっ……待って下さい。この流れって……。


「むぅ……椿か。いや、白狐と黒狐も付くというのなら……」


「……」


 助けてあげたいのは分かるけれど、何で僕はいつもいつも、Sランクの依頼に巻き込まれなければならないのでしょうか。


 せめてもの抵抗の為、僕は無言のままゆっくりと白狐さん黒狐さんを見つめ、自信が無い事を訴えるけれど……。


「椿ちゃん。お願い!」


 わら子ちゃんにそう言われてしまったら、僕はもう受けるしかなかったです。わら子ちゃんは僕の、大切な大切な最初の友達なんです。助けて上げたいんです。

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