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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第弐拾壱話 【2】 大人の姿に慣れよう

 朝食後、僕はちょっと顔を赤くしながら、零課の人達がやって来るのを待っています。まだ、事情聴取は終わっていませんからね。


 色々聞いていると、美亜ちゃんも美瑠ちゃんも、そのお兄さん達も、捕まったりはしないのは確実らしいので、それは良かったです。


「それにしても、良いボコりっぷりだったわね~」


「言わないで、美亜ちゃん。それに美瑠ちゃんの癖、先に言っといてよ……」


「あ~ら、普通分からない? あんな子供が、あなたの想像した事をすると思う?」


「ぐっ……」


 いや、確かに冷静に考えたら分かる事です。美瑠ちゃんの見た目、10歳くらいにしか見えないもん。

 だけど、普段の酒呑童子さんの態度を見るとさ……やっぱりね、怪しむでしょう。


「それなのに、あんな反応しちゃって。まさかあんた、酒呑童子の事……」


「違~う!! それだけは絶対に違う!」


 断固として言い切れるよ。あんな飲んだくれの妖怪を、僕が好きになんかなるわけないでしょう。

 とにかく、美亜ちゃんにそれだけは違うと、全身の毛を逆立てて抗議します。


「あら……それじゃあ、あなたの好きなタイプって?」


 タイプ? 何でそんな事を? でも、今しっかりと答えないと、また酒呑童子さんとの事で何か弄られそう。


「ん~タイプ……は、やっぱり優しくて落ち着いていて、僕をしっかりと守ってくれる人で、怒る時はしっかりと怒ってくれて、フラフラしちゃう僕を繋ぎ止めてくれる人……あっ、妖怪かな。あとは、たまにヤンチャな部分を見せてくれると、嬉しいな。それに男性なんだし、ちょっとぐらい変態でも……まぁ、良いかな」


 あれ? 頭に浮かんだのを言ったけれど……でも、これって。


『つ、椿よ。それは……』


『そのまんま俺達ではないか!』


「えっ……? あっ!!」


 いつの間にか僕の前に居た、嬉しそうな表情の白狐さんと黒狐さんにそう言われ、僕は一気に顔が熱くなりました。

 やっちゃいました……今言ったの、完全に白狐さんと黒狐さんじゃん。


「あっ、やっ……ち、ちが。いや、違ってないけど……いや、というか抱き締めないで下さい!」


「ふふ、ごちそうさま」


「ちょっと、美亜ちゃん!!」


 やられた! これ、完全に美亜ちゃんの策略だよ。

 いや、元気になったのは良いけれど、立ち直ってるのとはまた違うからね。だって美亜ちゃん、尻尾がまだ落ちてるもん。


 その前に、僕はここから脱出しないと。


 ―― ―― ――


「美・亜・ちゃ~ん……」


「あら、案外早かったわね」


「やっほ~椿ちゃん」


 あの後、何とか白狐さん黒狐さん、そして湯口先輩から脱した僕は、美亜ちゃんの部屋に文句を言いに行ったけれど、里子ちゃんも一緒に居て、何かを眺めていました。

 あっ、湯口先輩は、僕が白狐さん達から脱しようとしている所を見られ、そのまま参戦されました。


 端から見たら、それがじゃれている様にしか見えなかったようで「いつもいつもそうやってじゃれてきていたら、椿が迷惑だろう!」と、言っていましたね。別に少しオーバーなだけで、嫌では……じゃなくて。


「美亜ちゃん。傷を癒やす為に、僕をおもちゃにするのは違う気がするんだけど?」


「あら、それはごめんなさい。気を付けるわ」


「そうそう、そうやって気を――あれ?!」


「何よ?」


 何だか、美亜ちゃんが素直過ぎる。何時もなら「別に良いでしょう」って反論するのに……。


「美亜ちゃん、熱は無い?」


 美亜ちゃんがおかしいので、体調でも悪いのかと思い、僕は彼女の額に手を当てる。うん、平熱っぽい。もちろん猫の平熱、38度から39度ってところです。


「そうね、熱は無いわね」


 いや……あのね美亜ちゃん、何でそんなに普通の返しなんですか。


「それよりも椿。翁から言われたけれど、これ以上の細かな所は、もう調査するしかないから、聞き取りは一旦終了だってさ。そこで、ジッとしているのもあれだから、里子に依頼書を取ってきて貰ったのよ」


「さっき見ていたのはそれでしたか」


 うん、美亜ちゃんの反応がおかしいのは、今は置いておきましょう。というか、気にしないようにしよう。


 美亜ちゃんは美亜ちゃんで、いつも通りなのです。だってね――


「美亜ちゃん、任務に行くのは分かったけれど……ぼ、僕の尻尾を……」


「あら? 今回のはバイト系よ。ほら、前にもやった、コスプレ居酒屋のバイトよ」


 無意識? 無意識なんですか? でも、美亜ちゃんが絶妙な力加減で僕の尻尾を撫でるから、声が……。


「う……っ、珠恵さんの居酒屋、ですか。それなら、気分転換に、うくっ、行っても良いね」


「そうそう。接客はまた椿に任せるとして、私はのんびりと裏方で作業しているわ。体を動かしていないと、色々と考えちゃうしね」


 美亜ちゃん、それは分かるよ。分かるんだけれど、だから僕の尻尾を無意識で触ってしまうって、そう言いたいのかな。


「はぁ~やっぱり、椿の尻尾は触り心地最高ね」


 わざとでしたよ。僕が言い返せないからって、ここぞとばかりに触りまくってるよ。でも、まだ言い返せない。いや、だけど……これは支えになるとは違うよね。

 あっ、ほら。里子ちゃんも、自分の尻尾を差し出してるじゃん。そっちの方がフワフワしていて――って、駄目でした。美亜ちゃんは無視しています。僕の視線に気付いているハズなのに、無視しています。


「さて。それじゃあ、準備をしたら行くわよ。それと、今回はどうやら2人で良いらしいから、白狐と黒狐は置いていくわよ」


『なぬ?!』


『まぁ、そんなにしょっちゅう妖怪が倒れる居酒屋なんて、不安でしょうが無い。良いんじゃないか? 俺達は俺達で、亰嗟の事を調べなければならないだろ』


 いつの間にか白狐さん達が、美亜ちゃんの部屋の入り口で様子を伺っていました。先輩も居るし、何だか不安そうな顔をしていますね。


「椿、大丈夫か? その居酒屋のバイト。客から口説かれたりしないのか?」


 それで不安になっていたのですね。でも、大丈夫です。

 ただ、お気に入りの店員に対応をさせる、あの指名制度の方は、黙っておいた方が良いかも知れません。余計な心配をされたら、着いて来られそうです。


「そうだ、椿。あんた、大人に変化するのあんまりやらないでしょ?」


「ぐっ……美亜ちゃんだってしていないでしょ?」


「あら、私は相手を魅了してから呪いをかけるのよ。まぁ、お母様の呪術を受け継いでいたら、あんまり関係無いんだけれど、これでも練習はしているのよ」


 そうでした。金華猫は相手を魅了してから、呪いをかけるんだった。

 あぁ……そっか。だから美亜ちゃんのお兄さん達も、美形ばかりだったんですね。


「ほら、椿。ちゃんとやってみなさい」


「うぐぐ……やらなきゃ、駄目?」


「上目遣いをしても駄目」


 やっぱり、美亜ちゃんには効かなかったです。他の人には効くのになぁ。


 それよりも、何で僕が大人の姿になるのを嫌がるのか。それは、大人になった時の外見と、その中身のギャップとで、ちょっと混乱してしまうからです。


【あら、情けないわね。何なら大人の姿になる時は、私が表に出ましょうか?】


「妲己さんは寝ていて下さい」


 急に話しかけないでって、いつも言っているのに。やっぱり、急に話しかけてくるんですね。


「あっ、それよ。大人の姿が嫌なら、妲己に替われば?」


「サラッと言うけれど、絶対僕の体で良からぬ事をしますよ。はぁ……分かったよ、大人の姿になります。でも、男子達はちょっと向こう行ってて」


 僕は影の妖術を発動し、部屋の外でずっと様子を見ている白狐さん達を、この部屋から離します。そうしないと、見られるからね。だって大人になると、この服が合わなくなるから、凄い事になるんですよ。


 ちなみに、大人になった時の服は……里子ちゃんがニコニコしながら持っていました。今着ている、ミニスカートの巫女服、それをちゃんと大人の姿でも着られるようにしたやつをね。


「妖異顕現」


 とにかく、色々と観念をした僕は、大人の姿に変化する。


 これ、顔付きもちょっと大人っぽくなるし、背も若干高くなるんです。胸を好きな大きさに出来るのが納得いかないけれど、僕は控え目な方にしておきます。大きくても邪魔だもん。


「おぉ、椿ちゃん。何だか色っぽい……」


「それはね、服がキツくなってるからですよ。里子ちゃん、それ貸して」


 破れる程ではないけれど、やっぱりキツくなっていると、色々とその……はみ出ていて危ないです。

 その後、着替える為に服を脱ぎ、僕が里子ちゃんの持っている服に手をかけた瞬間、部屋の外から声が聞こえてきた。嫌な奴の声がね。


「ええやんええやん! 絶好のチャンスやろうが!」


「待てこら、ふざけんな!」


 そんな叫び声と共に、部屋の入り口が思い切り破られました。そして、湯口先輩と白狐さん黒狐さんが、必死になって浮遊丸を押さえ付けていたのですが……。


「ひっ……!」


「あ~ら、お約束」


「だねぇ~」


 2人とも、関心している場合じゃないです。バッチリ見られたから。僕の半裸姿が……。


「あっ……椿。いや、これは……その」


 湯口先輩は顔を真っ赤にして、僕を見ないようにはしているけれど、ちゃんと見ていたよね。まじまじと見たよね。


『ほぉ、これは中々……』


『おぉ、椿。お前、良いセンスしているな』


 白狐さん黒狐さんに至っては、もう完全に顔を逸らす気が無いです。ガン見です。

 確かに、白狐さん達にはもっと凄い事をされたけれど、この大人の体を見られるのは、どういう訳かもの凄く恥ずかしいんですよ。


「と・り・あ・え・ず。皆出てって!!」


「うぉっ!!」


『待て椿よ、なんでそんなに恥ずかしが――ぁぁあ!』


『白狐……これは大人しく、吹き飛ばされるしか無いな』


 全員を吹き飛ばすにはこれしかないと、そう判断した僕は、神妖の力を使い、風の神術で皆を吹き飛ばしました。

 何だか黒狐さんだけ、妙に潔かったですね。それと、廊下の壁に穴が空いちゃったけれど、それはあとで直しますね。


 せめて皆は、その煩悩を吹き飛ばす為に、滝にでも打たれてきて下さい。

 僕が飛ばした方向、その山の奥に、小さめの滝があったはずなんで、ちゃんと行ってきてね。

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