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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第拾陸話 【2】 一刻の猶予もない

 気を取り直して僕達は、慎重に隠し階段を降りて行く。その途中で、トラップ式の呪術があったら危ないですからね。


 だけど、この階段が隠されていたからなのか、トラップは一つも無く、無事に地下へと降りる事が出来ました。何だか拍子抜けです。


 そして、地下は更に暗くて、美亜ちゃん達が先頭を行ってくれないと、とてもじゃないけれど前に進め無かった。だけど、その先から薄らと明かりが見えている。


「美亜ちゃん……あそこ、誰か居ると思うよ。妖気だって、あそから感じるから」


「えぇ、そうね。警戒しながら行くわよ」


 小声で囁きながら、僕達はゆっくりと先へ進む。


「面倒くせ~な。さっさと奇襲をかけて、主犯共をとっ捕まえれば良いだろうが」


 酒呑童子さんが、後ろから面倒くさそうに話しかけてくるけれど、後ろは見ない、後ろは見ないよ。見たら緊張が解けてしまいます。


「酒呑童子さん、相手は呪術を得意とする一家だよ。真っ正面から突っ込んだら、それこそ呪われてお終いだよ」


「あ~そうだったな。面倒くさい奴等だ」


 酒呑童子さんがブツブツと言っている間に、僕はようやく暗闇に目が慣れてきて、辺りを伺う事が出来る様になった。そして、キョロキョロと辺りを見渡して、警戒をする事にしました。


 それにしても、この洋館の地下は思った以上に広く、所々に扉があって、沢山の部屋があるのが分かったよ。

 そして僕達は、左右に部屋が密集している中で、奥の部屋から漏れている光を目指していました。多分、扉が少し開いているんだと思う。


 牢があった地下とは別にされているのかな? 位置的にここは、牢とは真逆の方向だし、ここから牢に繋がっている事は無さそうです。


 そんな事を考えていると、目的の部屋にたどり着いていた。ただしこの部屋は、他の部屋とは違う感じがする。そもそも、扉が両開きの扉なんです。


 そしてそこから、数人の声が聞こえてくる。


「どうです? 成果は」


「あぁ、順調だ。今まで以上の品種になる」


「それは宜しい。高品質なら、言い値で買い取りますよ」


「ふん、その言葉を忘れるな」


 僕達は息を殺し、必死にその声を聞き取る。

 1人は、たった一度だけど聞いた事がある声、この風格のありそうな声は、美亜ちゃんのお父さんですね。


 だけどもう1人、柔らかな口調で話す男性の声は分からない。会話の中身からして、金華蘭を買い取っている者で間違い無いとは思う。問題は、どこの組織かという事ですね。


 でも、僕の頭にはあの組織の名前しか出て来ません。亰嗟という組織の名前しか。


「ねぇ、お父様。私、もっと良い事を思い付いちゃった」


「ほぉ、何だ?」


 そして、更にもう1人。無邪気で一切悪びれる様子が無い、まるで遊びの延長線上の様な感じで話している、綺麗な女の子の声。


「美海……」


 そう、美亜ちゃんのもう1人の妹、美海ちゃん。

 ずっと、父親と一緒に居るのかな? その美海ちゃんって子は、それだけ才能を父親に認められ、使い勝手が良いとされて、たっぷりと愛されているのかな。


「これ、沢山たくさ~ん売ったら、私達もっと楽しい事が出来るんだよね?」


「あぁ、そうだ。だから――」


「だったら、人間達にも沢山売ろうよ~」


「しかし、人間には害でしか無い。人間の使っている物の、約3倍の効力だからな」


「別に良いじゃん~人間なんて、何人死んでもさ」


 いけないいけない、つい勢いで飛びかかる所でした。それにしても、何て事を言うの……あの子。

 そんな様子に、誰よりも我慢出来なさそうなのは、美亜ちゃんです。拳を握り締め、体を震わせながら怒りを抑えています。


 そして美瑠ちゃんも、酒呑童子さんの陰に隠れて怯えているようです。

 美海ちゃんに悪い事という自覚が無いのなら、これ程やっかいな子は居ませんよ。


「ふふ。彼女は素晴らしい提案をしてくる。如何でしょう? 人間達には、私達亰嗟が売ります。あなた達は、ただ作るだけ。それに新種の方は、今までの検査に引っかからない代物なのでしょう? 人間達に分かるはすがない」


「ふむ……それもそうだな。良かろう。更に倍の数を用意しよう」


 もうこの中では、色々と不味い事が起こっていそうです。


 先ず、やっぱり出て来たのは亰嗟の名前。そして、人間達にまで金華蘭を売る。そんな話まで出て来ましたよ。

 人間の物の3倍? 薬物の事でしょうね。そんなの下手したら、たった数回で死んじゃうかも知れないじゃないですか。そんな危険な物を売ろうなんて、普通の神経じゃないですね。


「落ち着け、お前等。奴等、呪術が得意なんだろう? ここから突撃するのは危険なんだろうが。だったら、俺は入り口で様子を伺っておくから、呪術の対処が出来るお前等2人で、中の奴等をコッソリと近づいてふん縛るか、バレずに忍び込んで、その新種の金華蘭ってやつを処分しろ」


 簡単に言いますね、酒呑童子さん。

 確かにそうしたい所だけれど、向こうにはどれだけの強さを持っているか分からない、あの亰嗟の人が居るんですよ。リスクが大きすぎます。


「私の呪術じゃ、揺動にもならないわ。だけど、多分その新種は、私達のお母様の能力で作っているかも知れない。だから、見つからない様にお母様を助け、金華蘭を処分して逃げる。それしかないわよ。どう?」


「どうって……まぁ、確かにそれしかないけれどね。でも、美亜ちゃんのお母さんは、妖気の位置からして多分この部屋の奥だよ? どうやって行くの?」


 僕達は、扉の前でボソボソと呟きながら、これからの作戦を立てる。


 だけど次の瞬間、僕はその扉の向こう側から、微かな妖気を感じた。


 えっ? まさか……バレた。


「酒呑童子さん、ごめん。力任せになるかも……」


 うん、これバレてる。

 扉の隙間から、白いナマコ? いや、ウナギ? 何だか分からないけれど、そんな細長い柔らかそうな生き物が、若干開いている扉の隙間から出て来て、僕達を見ていました。


 その直後に、僕達の直ぐ近くまで、足音が近付いて来た。


「ダメですね、これは……しょうが無いです。酒呑童子さん、襲撃に変更するんで、もう派手に暴れて下さい」


「しょうがねぇなぁ~最初からそうすりゃ良いじゃねぇかよ」


 そう言って僕達は、後ろに居る酒呑童子さんの元へと駆け出し、美瑠ちゃんも隠れているその背後に回った。

 とにかく、酒呑童子さんには派手に暴れて貰って、その最中にこっそりと、美亜ちゃん達のお母さんを助け出します。


 そして僕達が隠れた直後、両開きの扉がけたたましく開き、中からロングヘアーで眼鏡をかけた、青白いヒョロッとした男性が出て来ました。


「何ですか? あなたは。侵入者ですか? それにしてはふざけてますね」


 あっ、見ないようにしていたら忘れていました。酒呑童子さんって、今パンダの被り物を……。


「あっ? 見て分からんか? 俺はな、正義の味方鬼丸様だ!!」


 いや、ポーズを取らないで下さい! 何やっているんですか、酒呑童子さんは。


 すると、酒呑童子さんの前方から、パラパラと本を捲る音が聞こえて来る。その後に突然、何かの雄叫びが響き渡り、僕達の耳を使えなくされてしまった。


「そこの――そのふざけた奴の後ろに居る人達も、出て来て下さい。バレてますよ――って、何?!」


 あっ、雄叫びが止みました。

 何だろう? 酒呑童子さんが何かを叩き落とした様な……って、うわっ。何ですか、これは。お面かな。


 酒呑童子さんの足元に、恐そうなお面が転がっているけれど、もしかしてこれが、あの雄叫びを上げていたの?

 口を開けて牙を生やし、血の涙を流しているそのお面は、見ているだけでも怖いです。


 だけど、まだカタカタと動いている。そして、そのお面から妖気も感じる。強い妖気をね、まさかこれって……。


「酒呑童子さん!」


 つい叫んでしまいました。

 だけど、僕がそう叫んだ直後に、そのお面が再び動きだして、酒呑童子さんの腕に噛みつきました。


「ちっ! こいつ妖怪か? どうなってやがる!」


 そう言いながらも酒呑童子さんは、そのお面を手刀で叩き落とす。流石に今度は力を入れた様で、お面はそのまま動かなくなった。


「ふむ……なるほど、『鬼面』では無理ですか。それでは、これはどうでしょう?」


 すると、またパラパラと本を捲る音が聞こえてくる。

 もう僕達の存在はバレているし、隠れてもしょうが無いと思うだろうけれど、僕達は今、あるタイミングを計っています。


「うん、こいつな……がぁ?!」


「ほぉ、その本から妖怪を出していやがるのか? そうなると、それは捕まえた妖怪か?」


 酒呑童子さんは躊躇いが無いですね。

 目の前の人が何かする前に、一瞬で距離を詰めて行って、思い切りぶん殴っちゃいました。


 でも、今がチャンスですね。


「よし……行くよ、美亜ちゃん!」


「分かったわ!」


 そして僕達は、酒呑童子さんの陰から飛び出し、全速力で目の前の扉に向かって行く。


 それに気付いた男性が、慌てて手に持っていた本を広げようとします。良くみるとそれは、図鑑の様な本でした。

 だけど、そこを再び酒呑童子さんが襲いかかり、またぶん殴ろうとしました。それは避けられちゃったけどね。


 とにかく、酒呑童子さんがその人を抑えてくれている間に、僕達は扉の中に行って、美亜ちゃんのお母さんを救出です。


「えっ? ちょっと美瑠?! 何であんたまで!」


「お母さん、助ける」


 だけど気が付いたら、美瑠ちゃんまで僕達の隣に居ました。頑張って走ってますよ。


「美亜ちゃん。これ多分、今更戻れっていうのも無理だと思うよ。目が真剣ですからね」


「はぁ……もう。美瑠、危なかったら直ぐ逃げるのよ」


 美亜ちゃんのその言葉に、美瑠ちゃんはしっかりと頷く。


 そして僕達は、扉の先へと一気に進み、更にその先にあった扉の前に、何事も無くたどり着いた。


 相手は油断し過ぎじゃないでしょうか……。

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