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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第拾陸話 【1】 呪われた酒呑童子

 美瑠ちゃんが両親の居場所を思い出したので、僕達は揃ってその場所へと向かっています。


 その案内をしてもらう為に、美瑠ちゃんにも着いて来て貰っているけれど……。


「おい、降りろ」


「嫌だ」


 酒呑童子さんに懐いちゃった。


 美瑠ちゃんは今、酒呑童子さんの頭の上に乗って、頭の角を操縦桿の様にして握っています。まるで乗り物みたいですね。


「――ったく……まぁ、俺の近くに居てくれた方が安全か」


 確かに酒呑童子さんは強いですし、美瑠ちゃんを守ってくれそうです。手を出さなければ……だけどね。


「美亜ちゃん。そんなに睨まなくても」


「だってまさか、美瑠がこんな変態に懐くなんて……くっ、良い? 絶対美瑠には手を出さないでよ!」


 美亜ちゃんは納得いかないかも知れないけれど、僕達が守るよりかは、確実に安全なんですよ。


「安心しな、俺はロリコンじゃねぇ」


 それでも、僕と美亜ちゃんの前を歩く酒呑童子さんを、美亜ちゃんは凄く睨んでいます。

 美瑠ちゃんに手を出そうものなら、即座に引き裂くかも知れない程に、美亜ちゃんは警戒しちゃっています。


「あっ、ここ! ここに地下への秘密の階段があった」


 すると美瑠ちゃんが、急に酒呑童子さんの角を引っ張り、止まる様にと言ってくる。


「ぐぇっ?! 何するんだ! ったく、引っ張る必要ないだろうが」


 美瑠ちゃんにとって酒呑童子さんは、もう完全に乗り物なのでしょうか。


 それにしても、3階じゃなくて地下に両親が居るなんて、それは考えなかったですね。地下があるなんて分かっていなかったけれど、美亜ちゃんは分かっていたはず。それでも、いつも居るのが3階だったら、どうしてもここは外すだろうね、

 そして地下に居るということは、良からぬ事をしている可能性が高いです。定番ですからね。悪い事をする為の場所としては。


 だから、僕達は一度1階に戻って、玄関ホールの左側にある、別の細い通路へとやって来たという訳です。


 右側は部屋になっているのか、扉がズラッと並んでいて、長い廊下の先まで続いている。

 反対側は窓かと思ったけれど、窓が無かったですね。それとその壁には、明かりのロウソクすら無かったです。足元にだけ、小さなロウソクが点在してあって、僕達を照らすのはその明かりのみ。


 だけど、美亜ちゃんと美瑠ちゃんはハッキリと見えると言っていました。猫の目って、夜目がきくんですよね。僕なんか手探り状態です。たまに、美亜ちゃんの尻尾を掴んじゃっていました。何回か引っ掻かれたよ……。


「えっと確か……お父さんは、この先のものを動かしてた」


 そして、美瑠ちゃんが酒呑童子さんの頭から飛び降りると、迷う事無く壁側に置いてある、何かの銅像の前まで歩いて行った。そこに、隠し階段があるんですね。何だか気味が悪い銅像ですね。


「こういうのは必ず、何処かに隠しスイッチがあるはすだ、探してみろ。猫の妖怪のお前達にしか見えないんだ、頼むぞ」


 酒呑童子さん、そう言いながらお酒を飲まないで下さい。いつでも飲んでいますね、この妖怪。


「う~ん……基本的にスイッチがあるとしたら、像の陰だけど……美瑠、何か覚えていない?」


「えっと……お父さんが何かを押したとか、そんな事はしていなかったよ。銅像の前に居ただけで……」


 とういうことは、スイッチじゃないって事でしょうか?

 美亜ちゃんが必死になって、像の狭い隙間に体を差し入れ、後ろの方を探していたけれど、無駄だったかな。


 銅像の前? つまり、前に立って何かしたのかな? それなら、顔の部分に何か仕掛けが……。


「あっ、美亜ちゃん。銅像の顔、今ちょっと光らなかった?」


「何ですって?! あっ……れ? イタタタ! 嘘?! 尻尾が引っかかっちゃった!」


 どこに引っ掛ける事が出来るんですか?! あぁ……銅像と台座の間ですか……何しているんですか、美亜ちゃん。


「あっ、でも駄目。銅像に、呪術がかけてある。多分正しい事をしないと、地下への階段が出ないと思うよ」


「正しい事? 美瑠ちゃん、お父さんが何していたか覚えてる?」


 やっぱり美瑠ちゃんも、呪術があるかどうか分かるんですね。

 僕は美亜ちゃんの尻尾を引っ張りながら、美瑠ちゃんに確認をする。


「ちょっ、痛いって椿! もうちょっと優しく……」


 もう……しょうが無いですね。

 でもこれ、台座と銅像の間に完璧に挟まっているし、ちょっと強めにしないと抜けないですよ。


「う~ん……お父さんは、ただ立っているだけだったよ?」


「ほぉ、つまりは顔認証みたいなもんか? それだったら、俺達じゃ駄目だろうな」


「なる程……僕達は侵入者ですから、通すわけにはいかないですよね」


「あっ、ちょっと……椿、そこは……あっ、やっ、は、早く抜いてぇ」


「変な声を出さない下さい!」


 いったい誰にサービスしているんですか?!

 僕はただ、美亜ちゃんの挟まっている尻尾を引っ張っているだけなのに、何でそんな際どい事になるの。

 僕の中の男の子の精神が、少し顔を出しそうになっちゃったじゃないですか。


「あ、あんたのやり方が悪いのよ! ひぁっ……!? そこ、駄目……あ~もう、私が悪かったから、早くしてぇ」


 これも何だか危ないですね。とにかく、早く尻尾を抜いちゃいましょう。美亜ちゃんが痛がっても、多少強めに引っ張るんだ。


「あっ、待って。駄目、そんな強くしちゃ……にゃぅぅぅ……んっ、だめぇ!」


「あ~もう! どうすれば良いんですか?!」


 何をやっても変な反応をしちゃう、美亜ちゃんの方が悪くないですか。


「いやぁ……お二人さん。さっきから、良いレ――」


「「言わせるかぁ!!」」


「ぐほぉ!!」


 その言葉だけは言わせませんよ。

 僕は美亜ちゃんと一緒になって、銅像の台座の所に置いてあった物を投げ付け、酒呑童子さんの言葉を途中で遮ります。


「はぁ……もう良いわ。自分でやるから……んっ、くっ……んぅ」


 ごめん美亜ちゃん、それも十分危ないです。


「あ~もう、やっぱり手伝います。どっちをとっても危ないなら、早く抜いてしまいましょう」


「くっ……しょうが無いわね。良い? 出来るだけ優しくよ? あんまり強くしないで、ゆっくりね」


「んっ……分かった」


 その後、僕は出来るだけゆっくりと、でも少しだけ強めに引っ張り、美亜ちゃんの挟まった尻尾を台座から引き抜こうと、一生懸命がんばりました。


 ただずっと、美瑠ちゃんが顔を赤くしていたのは何ででしょうか。


 ―― ―― ――


「はぁ……酷い目に合ったわ」


 あれから10分程格闘し、ようやく美亜ちゃんの尻尾を、台座から引き抜く事に成功しました。どれだけしっかりと挟まったんですか? 奇跡過ぎますよ……。


 とにかく美亜ちゃんは、尻尾の先から真ん中くらいまでを、優しく毛づくろいするようにしながら撫でています。


「美亜お姉ちゃん、お疲れさま。あの、銅像の方は……私が前に立ったら、こんな事になったよ」


 美瑠ちゃんはそう言いながら、廊下の先を指差す。でも、そこにはもう廊下は無くて、変わりに下に続く階段が現れていました。


「あ~こりゃ、悪い事をしてそうな匂いがプンプンするなぁ」


 酒呑童子さん、悪い事ならもうしてますよ……って、そういう意味じゃないですか。

 確かにこの地下への階段、もう完全に悪い事を隠す為に、分かりにくくしている様なものです。


 それにこの先から、複数の妖気も感じる。


「さ~て、お二人さん。ここからが本番だ。準備は良いか?」


「うん、勿論だよ」


「当然!」


 僕達が階段を眺めながら言うと、気持ちを切り替え、戦闘準備に入る。そして、後ろに居る酒呑童子さんを確認をする為に、僕たちは振り向いた。


 でもね、それがいけなかったよ。


「ぶふぅ!! しゅ、酒呑童子さん。な、何それぇ!」


「あ、あはは!! ちょっとあんた、何でそんな可愛いパンダの被り物なんてしているのよ!」


 そう、酒呑童子さんは何故か、顔にパンダの被り物を付けていたのです。

 いつの間に、そんな変なのを付けたんですか? シリアスな雰囲気だったところに、いきなりそれは駄目ですよ。


「てめぇらが投げた物のせいだ!」


 そう言うと酒呑童子さんは、手に持っていた物を、僕達に見せるようにして差し出した。

 それは可愛いパンダの置物なんだけど、それを見た瞬間、美亜ちゃんが気まずそうな顔をしだしました。


 まさかこれって、呪いがかけてあるとか……。


「これ、呪術アイテム。鬼丸、パンダさんの置物に呪われた。でも大丈夫、しばらくしたら戻るよ」


 うん、何だかごめんなさい。でもね、これは酒呑童子さんがあんな事を言うからなんです。

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