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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第拾伍話 【3】 鬼丸

「美瑠! 美瑠! 大丈夫?! しっかりして!」


 妖魔に操られていた美瑠ちゃんですが、妲己さんが消滅させたので、大丈夫だとは思う。

 だけど、それでも美亜ちゃんは心配らしく、倒れた美瑠ちゃんに必死に呼びかけている。


 美亜ちゃんって、妹想いなんですね。彼女の意外な一面って事で、何だか新鮮ですよ。

 廊下に突っ伏した状態で落ちているぬいぐるみを拾い、同じ格好で倒れている酒呑童子さんの頭を踏んづけ、僕は2人に近付いた。


「ぐぉ……っ」


 踏んづけた時に何か聞こえたけれど、無視ですね。

 だって、今美瑠ちゃんが目を覚ましたけれど、混乱しているのか、辺りをキョロキョロと伺いながら、不安そうな顔をしているんです。


「あ……れ? 私、何でお部屋の外に?」


 どうやら、部屋を出る前からの記憶が無いみたいですね。


「それに……何で、美亜お姉ちゃんがお家に居るの?」


 もっと前からの記憶が無かったようです。

 僕達がこの洋館に来た時には既に、この子は妖魔に操られていたんですね。


「美瑠……あんた大丈夫? どこから記憶が無いの?」


「ふぇ? え、えっと……」


 美瑠ちゃんがだいぶ悩んでいます。必死に思い出そうとしていても、記憶が飛んでいるから難しいでしょうね。僕も似たような状態だから、よく分かります。


 とにかくこういうのは、焦らない方が良いんです。


「あっ、美瑠ちゃん。はい、お友達」


 そして僕は、拾ったぬいぐるみを美瑠ちゃんに手渡す。

 それを見た美瑠ちゃんは、一気に顔が綻び、凄い笑顔で僕にお礼を言ってきました。


「ありがとう! あっ、えっと……」


「椿だよ。妖狐の椿。宜しくね、美瑠ちゃん」


 彼女からしたら、僕とは初めて会った事になるよね。だから、ちゃんと挨拶をしてあげないと、この子が怖がっちゃう。


「うん。よ、宜しく、椿お姉ちゃん。あと、ミアちゃん拾ってくれてありがとう」


 そして美瑠ちゃんは、ぬいぐるみをその小さな両腕でしっかりと抱え、照れながら僕にそう言った。


 それよりも、そのぬいぐるみの名前って、ミアちゃんなんだ。


「へぇ~美亜ちゃんはよっぽど、この子に慕われているんだね~」


 お姉ちゃんの名前をぬいぐるみに付けるなんて、普通はあんまりしないよね。この子が美亜ちゃんを慕っている証拠だよ。


「くっ……ベ、別に。この子が、私と一緒だったからよ」


「えっ? どういう事?」


 美亜ちゃんの言葉の意味が分からずに、思わず聞き返してしまいました。同じって、いったいどういう事なんだろう?

 美瑠ちゃんも美亜ちゃんと同様に、家族から(ないがし)ろにされているとかでしょうか。


「ここの家族はね。優秀で使えて、しっかりと親に仕えてくれる子供しか、愛さないのよ」


 当たりだったようです。でもそれって、ただ使い勝手の良い駒を増やしているだけじゃないですか。


「あいつは……十郎は、そんな奴なのよ」


 美亜ちゃんはそう言いながら、拳を握り締める。

 そんな様子を見ると、美亜ちゃんはそれほどまでに、酷い子供時代を過ごしていたって事が分かったよ。


「そしてそれは、自分の妻ですら同じなのよ。それにあいつは、沢山の妻を(めと)っているから、1人や2人雑に扱っても、平気みたいなのよ。私の、お母さんの様に……」


 美亜ちゃんは最後だけ、声を絞り出す様にして呟いた。だけどそれは、僕には聞こえている。

 そして、近くにいる美瑠ちゃんにも聞こえたらしく、美亜ちゃんがそう言った後に、美瑠ちゃんは何かを思い出したかの様にして、スクッと立ち上がった。


「そうだ、お母さん。お父さんに酷い事されて、どこかに連れて行かれそうになってた。でも、その時に美瑠、お父さんに見つかって、このぬいぐるみで大人しく遊んでろって……何だか怖かったから、言うとおりにしてた。でも、そこから美瑠、記憶が無い。せっかく、大好きなお姉ちゃんの名前付けたのに……」


「それ、いつの話? というか、今日何日か分かる? 良い、落ち着いて。私達のお母さんを助けるには、あんたの記憶が重要になってくるの」


 やっと思い出してくれたのは良いけれど、何だか状況は最悪な様です。

 美亜ちゃんは必死になって、美瑠ちゃんからその時の状況を聞き出している。当然、美瑠ちゃんの様子を伺いながら、無理させない程度にだけどね。


「ん~? 誰だ、俺を踏んだのは……くそ、あのぬいぐるみ……あ? 何だ、いったいどうなった?」


 おやおや……酒呑童子さん、ようやくお目覚めですか。よっぽどきれいに顎にヒットしたようですね。


「ぬいぐるみについていた妖魔は、とっくに妲己さんが消滅させたから」


「ちっ……くそ。あの野郎に貸しかよ、あ~気持ち悪る」


 そう言えば、妲己さんと酒呑童子さんって知り合いなのかな? さっきは、お互いを知ったような雰囲気で話してましたよね。


「ねぇ、酒呑童子さんって、妲己さんと知り合い?」


「あぁ?! 知り合いじゃねぇよ。怨敵だ!」


 怖いです、ごめんなさい……そんなに怒らなくても良いじゃないですか。

 あまりにも酒呑童子さんが凄むものだから、僕は縮こまってしまい、尻尾も耳も垂れ下げてしまいました。


【あ~ら、まだあの事を根に持っているのかしら? 器が小さいわねぇ】


「妲己さん、あの事って何?」


 妲己さんの話し方からして、酒呑童子さんを相当怒らせたみたいですね。妲己さんが。


【別に~あいつが1番大事にしていた、最高級のお酒を全部飲んだだけよ】


 あ~僕にはそれで怒る理由が分からないけれど、お酒飲みの人にとっては、激怒ものかもしれない。


【全く……価値があるものだか何だか知らないけれど、飲まずに置いとく神経が分からないわよ】


「妲己さん……それ、いくらのお酒だったの?」


【100万よ】


「それは怒るよ」


 そんな高級なお酒は、特別な時にしか飲まないって、そう決めている場合が多いです。だから勝手に全部飲んだら、そりゃキレるに決まっています。


 とにかく、酒呑童子さんが妲己さんに怒っている理由が分かったし、しばらくは酒呑童子さんの前では、妲己さんと替わるのは止めようかな……。


「椿、あいつの居場所が分かったわ。美瑠が何とか思い出してくれた。それに、それが昨日の事なのも分かったわ。急げばまだ間に合う!」


 美亜ちゃんがそう言いながら、必死な表情で僕の所にやって来る。その後ろには、美瑠ちゃんも一緒にいるんだけれど、美亜ちゃんの背中に隠れていて、ちょっと怯えています。


「ちょっと美瑠、どうしたの?」


「その妖怪、怖い……」


 美瑠ちゃんはそう言いながら、酒呑童子さんを指差した。さっき怒鳴っていたから、それで怖がっちゃったんだね。

 う~ん、どうしよう。何だかんだで酒呑童子さんは、かなりの戦力なんだし、居ないと不安ですね。


「あっ、そうだ」


 ちょっと良い事を思いつきました。

 そして僕は、巾着袋からある物を取り出し、それを酒呑童子さんの頭に瞬時に取り付けた。


「あっ? おい、何だこれは?」


「え? 猫耳です」


「てめ……」


 その鬼の角が怖いんだろうから、付け耳で隠したんですよ。ちょっと位置が難しかったけれど……。

 ほら、美瑠ちゃんもちょっとだけ、美亜ちゃんの背中から出て来ているよ。


「猫……猫さん」


「お前も猫だろう?」


「猫さん。名前、鬼丸ね」


「鬼丸……センスねぇなぁ。食うぞガキ! ふにゃぁあ!」


「きゃぁぁ、あははは。鬼丸怒ったぁ」


 酒呑童子さん、ノリ良いですね。美瑠ちゃんと追いかけっこしています。それよりも……。


「美亜ちゃん。美瑠ちゃんってさ、あんな風に猫耳があれば、何でも怖くなくなるの?」


「そうよ。まだまだ甘えたなガキなのよ。それよりも椿、あんた何であんなの持ってるの?」


「いや……それはほら、出掛ける時にね……」


 首輪の次は猫耳って、里子ちゃんはいったい何がしたいのでしょうか? 僕がそうやって察して欲しい態度をしていると、美亜ちゃんは直ぐに分かったようです。


「里子ね」


「話が早くて助かります」


 それよりも酒呑童子さん、ここ敵の本拠地だからね。忘れないで下さいね。 

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