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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第拾伍話 【2】 ぬいぐるみの中に妖魔

 この最悪な展開に、僕はどうしたら良いのか分からず、それでも何とかしないといけないと思い、必死に対策を考える。


【あ~ら、またおいしそうな妖魔に出会ってるじゃない~】


 だけど、急に僕の頭に響いた妲己さんの声で、対策も作戦も無くなっちゃいました。


【椿、あれも成熟した妖魔よ。良いわねぇ……あの妖魔が、呪術を強化しているようね。ふふ、おいしそ……良い具合に成熟しているわね】


「妲己さん……あなたは本当に妖魔を取り込み、自分の力にしているんですか?」


 今、それを聞くべきじゃないのは分かっているけれど、でもやっぱり気になっちゃう。

 過去の妲己さんを、一部だけとはいえ思い出したから。そうなると、妲己さんの言葉一つ一つが、何だか嘘っぽく聞こえるんですよ。


【……椿、やっぱりあんた】


「1番最初に出会った所だけ、ね。妲己さん、いい加減悪人ぶるのは止め――」


【うるさいわねぇ。あんた、私を信じたいわけぇ? ふん、片腹痛いわよ。良い? 私は手配書SSランクの大悪人。あんたの考えているような善人では無いのよ。なんならあんたの神妖の力、完全に封じちゃってもいいのよ?】


 駄目ですか……もっと決定的な証拠が無いと、妲己さんは折れませんでした。


「美瑠! そのぬいぐるみを離しなさい!」


 とにかく今は、呪いをかけようとするこの子を止めないと。

 美亜ちゃんは必死に話しかけているけれど、美瑠ちゃんは聞こえていないのか、その足を止める事は無いですね。それだったら、これしか手はないですね。

 僕はまだ、神妖の力を解放している状態なんです。だから、やることは簡単です。


「美亜ちゃん、ちょっと退いて。そのぬいぐるみの妖魔を、その子と一緒に浄化するから」


【バカ、椿! 浄化するんじゃないわよ! 私に食べさせなさい!】


 嘘をついてそうな人の言う事は聞きたく無いですね。だから僕は、妲己さんにちょっと意地悪な事をします。


「誤魔化している人の言う事は聞きませ~ん。妖魔を取り込みたければ、本当の事を教えてよ」


【くっ……あんたねぇ】


 妲己さんは悔しそうな声を出しているけれど、その直ぐ後に、いつもの口調に戻った。


【ふん、まぁ良いわ。よく考えたら、どうってこと無かったわ。別に良いわよ、浄化しても】


 妲己さんは何故か開き直っていますね。何だか嫌な予感がするけれど、別に浄化しても良いのなら、アレは直ぐに浄化しましよう。


「天神招来、神風の(みそぎ)!」


【浄化出来るのならね】


 あっ……妲己さんってば最悪です。だからさっき、開き直っていたのですか。

 そう、目の前の美瑠ちゃんは、僕の禊の風を受けたというのに、平気な顔をしながら僕に近づいているのです。


【残念でしたぁ~成熟した妖魔は、浄化する事が出来ないのよ~未成熟なら、センターの妖怪でも処理出来るけれど、成熟した妖魔は無理。私が食べないと、この子達は処理出来ないのよ。さっ、私と替わりなさい】


 妲己さんにしてやられました。そして美瑠ちゃんは、もう目の前にまで迫っています。


「あ~もう……仕方な――」


 もう諦めて、妲己さんの言う通りにしようとしたその時、僕の横を何かが通り抜けた。

 そしてその後、美瑠ちゃんのぬいぐるみが思いっ切り叩き落とされ、それが踏みつけられました。


 そんな事するの、酒呑童子さんしか居ません。何しているんですか……。


「ったくよぉ。このぬいぐるみが原因なんだろうが、だったらモタモタしてんな。とっとと燃やすなり何なりしろよ」


【あら、それが出来ないって言っているでしょ? その足を退かしなさい、酒呑童子】


「あぁ? その口調……まさか、妲己か? おいおい、そのガキの中に居るのは分かっていたが、何で出て来られるんだよ?」


 すみません……妲己さんが、慌てて僕と交代して来たのです。

 そして僕の方は、いつもの様に霊体になって、自分の体の近くを浮遊しています。


【あ~ら、私とこの子は協力し合って、妖魔の退治をしているのよ。何か文句でもあるのかしら?】


「おい、霊体になって浮いている馬鹿ガキ。こいつの正体分かってんのか?」


 何だか、酒呑童子さんの口調がキツいですね。

 確かに、何も知らない人から見たら、なんて馬鹿な事をしているんだと思うよ。だけど今は、妲己さんに頼るしかないんです。それと最近は、妲己さんの事が分からなくなっているんです。


 妲己さんは本当に、悪人何だろうか……ってね。


「まぁ良い。とにかくこのぬいぐるみは、一気に踏みつぶして粉々に――って、おいおい。このぬいぐるみ、一丁前に俺とやろうってか?」


 僕がそんな事を考えていたら、酒呑童子さんがぬいぐるみを踏み潰そうと、足に力を入れ始めた。

 だけどその後、目を疑ったのが、なんとそのぬいぐるみが立ち上がり、酒呑童子さんの足を持ち上げていたのです。


「ワルイコ……ワルイコ……!」


 声を出しているのは美瑠ちゃんだけれど、本体はぬいぐるみのはず……。

 とにかく妖魔の方は、そう簡単にやられてたまるかって感じだけど、酒呑童子さんは余裕な表情です。だけどそれが、返って油断していそうに見える。


「ワルイコ……アナタ、ワルイコ……!」


「へっ、良いぜぇ。力比べとい――」


「ワルイコォォオ!!」


「――ごはぁっ?!」


 油断していそうに見えるのじゃなかったです……完全に油断していましたね。

 立ち上がったぬいぐるみの決死のアッパーが、酒呑童子さんの顎にクリーンヒットし、そのまま酒呑童子さんは大の字になってダウンです。


「何やっているんですか……? あっ、嘘……しかも伸びてる?!」


 もしかして酒呑童子さんって、妖魔の事を全く知らないのでしょうか? それとも、自分より弱そうな者は知ろうともしないのかな。


 どちらにしても酒呑童子さん、あなた最悪ですね。状況は何も良くなってません。


「ウフ、ウフフ。ワルイコハ、メッ、ダヨ。サァ、ツギノワルイコニ、メッ、シナイトネ」


 そして美瑠ちゃんは、顔色1つ変えずに、ゆっくりと僕に……いや、僕の体を使っている妲己さんに向かう。


「美瑠……くっ、椿――じゃない、今は妲己なの? とにかく、私がぬいぐるみを抑えるから、食べるならその隙に!」


 美亜ちゃん。そんな危険な事をしなくても、僕達に呪術が効かないのなら、妲己さんが出た時点で既に終わってますよ。


【ふふ、それじゃあ。いたたぎます】


 そう言うと妲己さんは、いつもの様に手を影絵の狐の形にし、その口に妖魔を吸い込もうと、黒い塊を出現させた。

 だけど、相手のぬいぐるみの妖魔も、そう簡単にやられてなるものかと、必死に両手両足を使って踏ん張っていますね。


「ウギギ……ギギ」


【あら、頑張るわねぇ。で・も・無・駄。いい加減、そこから出て来なさい】


 そこから……?

 えっ、まさか。あのぬいぐるみ自体が妖魔じゃなくて、ぬいぐるみを体として使っていたのですか。


 驚きながらその様子を見ていると、何と妲己さんの言うとおり、ネコのぬいぐるみから黒い影が染み出てきた。


「ア……カ……アァ」


 美瑠ちゃんから声が出ているけれど、その声は明らかに妖魔だよね。


 そして遂に、妲己さんの吸い込みに耐えられ無くなったのか、その影はぬいぐるみから引きずり出され、妲己さんの出した黒い玉に向かって、一気に吸い込まれていく。


 その妖魔の姿も一瞬見えたけれど、毛むくじゃらの1つ目の姿で、鋭い爪があって、何でぬいぐるみに入っていたのか謎なくらいに、凶暴そうな容姿をしていました。


 あとはいつも通り、妲己さんの作った黒い玉に妖魔は完全に吸われ、そのまま消滅しました。


【ふふ、ご馳走様~】


「嘘くさいですね」


【何か言ったぁ? それよりも、体返すからとっととあの子のフォローに行きなさいよ】


 そう言われた瞬間、気付いたら自分の体に戻っていました。何というか……慣れちゃいましたね、この流れ。


「美瑠!!」


 そしてその後に、美亜ちゃんが倒れた美瑠ちゃんの元に駆け出して行く。


 あぁ、確かに……ここにもし、美亜ちゃんの家族が潜んで居たとしたら、周りが見えていなさそうな美亜ちゃんは、また捕まっちゃいますね。


 妲己さんの言っていたフォローしろって、そういう事でしたか。とにかく僕も、急いで美亜ちゃんの後を追います。

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