表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
183/500

第拾参話 【2】 既に呪われていた

 美亜ちゃんを助けた僕達は、再びあの鏡の迷路だった部屋に向かう。楓ちゃんは当然、牢に入れたままです。また暴走されたら危ないですからね。


 そしてその部屋には、美亜ちゃんのお兄さんがまだ居ました。いや、捕まえたままというか……。


「吾郎兄様……」


「よう、美亜」


「何で、その……隷属の首輪を?」


「変な目で見るな。その子に聞け……」


「いや、あの……ごめんなさい、美亜ちゃん。そんなに睨まないで。確認しなかった僕が悪いんです」


 里子ちゃんが、心ここに非ずだったからさ、大丈夫だと思ったんですよ。でも、ちゃっかりすり替えられていましたよ。どれだけアピールしてくるんだろう、里子ちゃんは……。


 でもちゃんと、この部屋の壁にある突起物に繋いでいるから、セーフって事にしておいて下さい。


「はぁ……全く。椿、あんたは相変わらずね。そうだ、お兄様。あの人達は、今どこに居るの?」


 そう言って、美亜ちゃんはお兄さんに近づいて行き、父親の居場所を確認している。


 そういえば、この人もその家族なんだし、家族から疎遠にされている訳でも無い。だから、この洋館のどこに居るか、それを知っていても当然ですよね。


「美亜、悪いが。俺から教える事は出来ない」


「そう、ごめんなさい」


 そう言われてしまった美亜ちゃんは、とても悲しそうな顔をし、そのお兄さんから離れると、クルッと後ろを向いた……。


 だけどその時、美亜ちゃんのお兄さんが大声を上げる。


「あ~しっかし。こんなのしんどいよなぁ……! 何で俺がこんな目に! 親父達は他の奴等に警備を任せ、悠々としているんだもんなぁ! 正直やってらんねぇよ! あんな親父の元ではよ! どうせいつもの所で、のんびりしているんだろうなぁ!」


 いや……どんな文句ですか、それ。

 教えられ無いってだけで、じゃあ教えなきゃ良いって事ですか……。


 びっくりした僕がお兄さんを見ると、ただ1人で不満を言っているだけですよ~と言わんばかりの顔をしていました。演技下手ですね。


「あ~しまった! ついでに美亜の服、傷んでたから直して洗ってやったけど、そのまま干したまんまじゃねぇか! やっべ、誰か2階に行って、取り込んでくれないかな~」


 だから、何で全部言っているんですか?! しかもすんごい棒読み。それで言った後に、白々しく口笛を吹いてどうするんですか? バレバレなんですよ……全部ね。


 それなのに美亜ちゃんは、何だか嬉しそうに口元を緩ませ、微笑んでいる様に見えた。


『ふっ、とにかく急ぐぞ。向こうが作戦通りに進んでいるとは限らんからな』


「うん、分かった白狐さん。行こう、美亜ちゃん」


「えぇ……分かったわ。ありがとう、兄様」


 美亜ちゃん。僕の耳が良いの、忘れていますよね? 最後、僕達には聞こえ無い様に呟いたんだろうけれど、僕にはバッチリ聞こえています。


「良いお兄さんだね」


 僕がそう言うと、美亜ちゃんはようやく気付いたらしく、顔を真っ赤にしながら早歩きになり、先へと急いじゃっています。


「ほら、早く行くわよ! それと、そことそこ。呪術が仕掛けてあるし、気を付けなさい。全部解除していなかったのね、全く……」


『おぉ、こんな所にまで……流石にこれは見落としていたな』


 やっぱり、美亜ちゃんは落ちこぼれじゃない気がしてきました。

 黒狐さんですら見落としていた、入り口の扉の死角になっている部分の呪術を、素早く見抜いていましたからね。


 それと美亜ちゃんは、立ち直りと切り替えの早さも凄いです。自分が何をしなきゃいけないのか、それが分かっているみたいですね。


 その後は、美亜ちゃんの案内で楽々と2階に行き、ある部屋に干してあった彼女の服を見つけると、ようやく準備が整いました。


 そして僕は、美亜ちゃんに重要な事を聞きます。


「ねぇ、美亜ちゃん。君の家族は、何をしようとしているの?」


 そうなんです。依頼には捕まえろと、情報を聞き出せしか無く、いったい美亜ちゃんの家族が何をしようとしているのか、それが分からなかったのです。

 それはおじいちゃんもそうだし、白狐さん黒狐さんもそうです。


「そうね、それを説明しないといけないわね。でもその前に、他の皆と合流しないといけないでしょ?」


 着替え終わった美亜ちゃんが部屋から出ると、再び階段の方に向かって歩き出す。しかも今度は、玄関ホールの方の大きな階段に向かっています。


 そっちは確か、おじいちゃん達が情報収集をし易くする為に、奇襲をかけているはず――なんだけど、1階には誰も居なかったし、多分不発に終わっているんじゃないかな。


「あっ、椿ちゃん~美亜ちゃんも~無事だったのね! 良かった~!」


 そして、その場所に着いた僕達が、玄関ホールの大階段の上から下を見ると、そこにおじいちゃんの家の妖怪さん達が居て、どうしたら良いのか戸惑ったまま、その場で突っ立ていました。


 僕達の姿を見て、声を発したのはろくろ首さんですね。

 その後首をこっちに伸ばしてくるから、途中で危うく呪術にかかりそうになっていましたよ。

 美亜ちゃんが慌てて制止したから、事無きを得たけれど、皆不用心過ぎるよ……。


「全く、あんた達は。ここは呪術を得意とする一家の家よ。ガードマンなんて、そんなの雇うわけ無いでしょう」


 僕達は一旦、その1階の玄関ホールに下りて、皆と合流した。するとその後に、美亜ちゃんが早速注意をしています。


「美亜ちゃん。この作戦を考えたのはおじいちゃんだから」


「あの妖怪、ボケているんじゃないの?」


「あっ……」


 美亜ちゃん、文句は言っても良いけれど……もう少しだけ周りを確認して欲しかったよ。


「ほう、誰がボケとるんじゃ?」


 おじいちゃんがね、美亜ちゃんの後ろに居たんです。


「あら? 流石は鞍馬天狗ね。1人でウロウロしていても、呪術に一切かからなかったのね」


 そして美亜ちゃんも、全く引きません。やっぱり凄いですよ……君は。


「ふん。あんな物でこの儂を呪う事は出来んわ。しかし丁度良かった。実は、楓の奴がな……」


 そっか。おじいちゃんは、楓ちゃんを探しに行っていたのですね。


「楓ちゃんなら牢に居たよ。出すとまた危ないので、そのままにしています」


「むっ……そうか。それならばあとは、情報とお前さんの家族の確保じゃな」


 おじいちゃんはそう言うと、その場からこの洋館をグルリと見渡す。


「しかし……妙じゃの。この家は、誰もおらんのか? 一階は全部見て回ったが、もぬけの殻じゃったな」


 どうやら、僕達が美亜ちゃんを救出している間、おじいちゃんはこの洋館を調べていたようです。


「それにじゃ、家具という家具が見当たらん。いったい、どうなっとるんじゃ?」


「えっ? でも、僕が呪われた部屋には、ちゃんと家具が……」


 どういう事なのか、僕が首を傾げていると、何故か美亜ちゃんが驚いた表情をした。


「椿、あんた見えてるの?」


「どういう意味? 最初から見えてたよ。ねぇ? 白狐さん黒狐さん」


 その時は、白狐さん黒狐さんも一緒に居たし、2人も見ているはずなんですよ。だけど、2人の口から出たのは意外な言葉でした。


『いや、悪いが。我はお主があの場に座った瞬間、テーブルや椅子、更にはぬいぐるみ等が、そこに突然現れた様に見えた』


『俺もだ』


 怖い事を言わないで下さい。

 それじゃあ、あれは何だったの?! 僕だけが最初に見えていたって、いったいどういう事ですか。


「大丈夫よ。椿、あんたの方が正常よ。周りをじっくりと見てご覧なさい。そして、妖気をしっかりと感知してみて」


 そう言われ、僕は玄関ホールをじっくりと眺めてみる。

 すると、ある事に気が付いた。そういえば、おじいちゃんは何も無いって言ったよね。だけど、僕の目から見たらちゃんとあるんです。

 ホールの端には、とても大きくて高そうな柱時計があるし、天井には綺麗なシャンデリアに、窓にはレースのカーテンがある。


 だから、それに気付いた僕は、おじいちゃんに聞いてみた。


「おじいちゃん、あれ見える?」


「なんじゃ? そこに何かあるのか?」


 やっぱり……おじいちゃんは、あの柱時計が見えていないんだ。そして、それは皆も同じだ。

 白狐さんと黒狐さんも、目を凝らして見ているけれど、見えていないみたいです。


「美亜ちゃん。まさか、これって……」


「ご名答。この洋館に入った瞬間、既に皆呪われているのよ。この洋館に住む者、そして置いてある物が、一切見えなくなるという呪いがね。因みにかかってしまったら、呪った本人にしか解けません~」


 やっぱり……しかも、本人じゃないと解けないなんて。既に呪われてしまった黒狐さんでは、解呪出来ないんだ。

 そして妖気の方だけど、2階から徐々に、何かが近づいて来るんですよ。でも、妖怪じゃないと思う。動きがおかしいもん。


 それと、近づいて来るその音が「ガシャ、ガシャ」と、鎧を来た人が歩いている音なんです。

 つまり、僕達がこの洋館に侵入した時点で、美亜ちゃんの家族には気付かれていたという事ですか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ