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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第拾弐話 【2】 鏡の迷路

「ひぃ、ひぃ……も、もう笑えない。お、お腹が……」


『全く……少し無用心過ぎるぞ、椿よ。いくら我の守護があるからとはいえ、これだけの呪術の数では、正直言って意味が無い』


 あの後、ようやく白狐さんに呪いを解いて貰った僕は、床にへたり込んで息を整えています。

 本当に最後の方なんか、息が出来なくて死ぬかと思いましたよ。


『しかし白狐……この多さは、流石に異常じゃないか?』


『確かに。まるで我等が来るのが分かっていたかのような、そんな数じゃな』


 狐になって隠密に行動しようとしても、これではもう意味が無いと感じたのか、2人はとっくに狐の変化を解いていて、服も変化を解いた時の煙に紛れ、あっという間に着替えていました。


 それならば僕も――と思ったんだけれど、何故か白狐さんに担ぎ上げられました。


『よし、行くぞ椿よ』


 このまま行く気ですか?! 流石にこれは恥ずかしいよ。


「待って待って! 僕も変化解くし、ついでに部屋の陰で着替えるて来るから、ちょっと待ってて!」


『い~や。そんな事をして、また呪いにかかったら大変だからな。というか白狐、呪いに対処出来る俺が担ぐべきだろう』


『いや……待て黒狐よ。このまま連れて行って、我等が着替えさせ――』


「ここの部屋で、安全な場所を教えてくれるだけで良いです!」


 この2人が揃うと、いつもこうなんですよ。早く美亜ちゃんを助けたいのに。


 ―― ―― ――


 その後、ようやく着替えを終えられた僕は、前に黒狐さん、後ろに白狐さんが付いて、挟まれる様にしながら、この洋館の地下への階段を探します。


 白狐さん黒狐さんに頼らず、これくらいは僕でも出来るという事を見せようとしたのに……見事に空回り。

 こうやっていつもの様に、2人に守られながら歩いています。駄目じゃん……僕。


『椿よ、そう落ち込むな。こんな強力な呪術、お主には初めてじゃろ。仕方が無い事だ。次からは気を付ければ良い』


 あれ? 落ち込んでいるのをバレない様にしていたのに、しっかりとバレています。

 しかも後ろから、頭まで撫でられる始末。止めてください、にやけちゃいますから。


 そして、前を歩く黒狐さんの尻尾が震えている。多分だけど、白狐さんに対抗したいんだろうね。

 それを知ってか知らずか、白狐さんは満足そうな表情をしながら、僕の頭を撫で続けている。流石にいい加減にしておかないと、黒狐さんがキレそうですね。


「あっ、待って。そこ曲がれそう。階段とか無いですか?」


 呪術が無いか確認しながらだったので、結構時間がかかったけれど、何部屋か通り過ぎた後、左側が開けていて、何かありそうな感じだったので、黒狐さんにそう言った。


『ん、あったな。だが、こういう洋館にはいくつか階段がある。ここから美亜の居る所に行けるかは分からんからな』


「うん、分かってる。美亜ちゃんの妖気は、僕が常にチェックしているし、ここから行ければ1番近いんだよ」


 そう言うと、白狐さん黒狐さんも自分達のスマホを取り出し、辺りの確認する。


『うむ、とりあえずは大丈夫そうだな』


『しっかし……どうも拍子抜けだな。結局1階は、呪術しか無かったな。それも、俺が居れば関係が無いがな』


 どうやら黒狐さんは、白狐さんには負けまいと、僕に自己アピールをしているようです。

 いや、大丈夫ですよ。ちゃんと黒狐さんの良さも分かっていますから。


 そして僕達は、その薄暗くて下りにくい階段を、警戒しながらゆっくりと、一歩一歩確実に下りていく。

 階段の途中には踊り場があり、黒狐さんがそこから下の様子を伺うけれど、階段の先には扉があるだけと言い、僕達も黒狐さんの後ろから続いて、その先を覗き込んだ。


 その扉は意外に大きくて、見た感じでは重そうな鉄の扉です。

 開くのかな……? これに鍵がかかっていたら最悪ですよ。だけど、その扉の奥からは、確かに美亜ちゃんの妖気を感じる。


「黒狐さん。その扉、開きます? この先に美亜ちゃんの妖気を感じるんです」


『そうなのか? しかしちょっと待て……この扉、いくつもの呪術がかけられている。解くのに時間が――』


 それならしょうが無いですね。

 どうせこの扉の先に、誰か居ますから。それならもういっその事、この扉ごと……。


「天神招来、神風の禊!」


 僕は神妖の力を少しだけ解放し、妖術を使う時と同じ要領で、神術を発動。禊ぎの風で、呪いの付いた扉を吹き飛ばしました。


「よし、開いた開いた~」


『椿、開いたじゃない。俺まで吹き飛ばす気か?』


 黒狐さんが、横の壁にへばり付いていました。邪な事を考えているからですよ。

 それに白狐さんも、当然の様に頷いているけれど、あなたも一回吹き飛んでいませんでしたっけ。


 とにかく、僕は一度神妖の力を抑え、元の姿に戻ると、黒狐さん白狐さんと一緒に、この扉の先に向かう。


「えぇっ?! 何これ!」


『これは、参ったなおい……』


『ふ~む……酔う』


 入った瞬間、目の前に僕が居てびっくりしたけれど、それが鏡だと直ぐに分かった。

 だって部屋を眺めると、そこら中に僕が居て、白狐さん黒狐さんも沢山映っているんだよ。


 つまりこの部屋は、鏡の迷路だったのです。


 しかもその鏡からは、妖気まで感じられます。まさか、この鏡は全て、妖具なんでしょうか……。


 すると今度は、部屋全体に行き渡るように、男性の声が響いてくる。


「おいおい……何なんだ、この侵入者達は。まさかあんな方法で、扉を突破してくるとはな。しかも迷う事無く、真っ直ぐに妹の所に向かうとは――って、お前はまさか……ニューハーフの妖狐?」


「違~う!!」


 何でそれが浸透しているんですか! 本当に最悪です。いったい、誰が広めたの……。


 だけど、僕がそう叫んだ後、目の前に誰か現れた。その人は、茶虎の猫耳と猫の尻尾をした、セミロング程の髪の長さの男性で、直ぐに僕達に一礼をしてきた。


「これは失礼。本来客人はもてなさないといけないが、如何せん今はそうもいかない。侵入者は全て呪い殺せと、あの親父に言われているんでね」


 見た感じは優しそうな雰囲気のその人は、とてもじゃないけれど、呪いなんかやりそうには見えない。

 それ位に美形の、茶虎猫の男性なんです。スラッとしていて背も高い。流石、美亜ちゃんの家系ですよ。


 こんなお兄ちゃんが僕にも居たらな~何て考えちゃうくらいなんですよ。


「しかし俺としても、()()()()は不服なんだわ。だが俺にも、立場と言うものがある。そこで、どうだ? この場所で俺と、鬼ごっこをしないか?」


 目の前の男性は、両手を広げてそう言ってくる。

 ついでに言うと、今正面にいるその人に突撃しても、鏡にぶつかるだけですよね。


『ふん、そんな事をせずとも。この鏡ごと叩き割れば……』


「残念。特殊強化された鏡だから、壊す事は出来ない」


『それならば、俺の妖術で!』


「それも無理だ。この鏡は、ある妖怪の妖具でね。如何なる妖術をも跳ね返し、呪術さえも跳ね返すという、とても強力な鏡なのさ」


 つまり、力任せは無理という訳ですか。だけど、ちょっと待ってね。ある事を言っていないような……まさかだけど、あれは効果があるんじゃ……。


『そうか。それならばこれだ!!』


 そう言うと、黒狐さんは目の前の鏡に手を当てた。すると、途端にその鏡が砂へと変わり、崩れ去ってしまった。


「なっ!?」


『ふふ。どうやら、神術は跳ね返せない様だな』


 あ~やっぱり。さっきのこの人の言葉の中に、神術が無かったのです。だからと思ったけれど、案の定でしたね。神術は跳ね返せませんでした。

 そして、黒狐さんの『変異』の力で、鏡を別の物に変異させたんですね。


「う、嘘だろう! 稲荷の妖狐が、こんな力を持っている訳が……!」


 美亜ちゃんのお兄さんらしき人は、そう叫びながら逃げ回る。

 だけど黒狐さんが、次々と鏡を砂に変えていくから、徐々に追い詰められていき、そして遂に部屋の端まで来てしまい、その人の本体とご対面となりました。


「あ~あ……こんな簡単に負けたら、あとで親父に怒られる。まぁ、呪術も効かない様な奴等相手じゃ、これが限界だな」


「えっ? 効かないって?」


 そう言われ、僕は首を傾げる。

 確かに一方的にやられていたし、何で呪術を使わないんだろうとは思っていたけれど、まさか黒狐さんが……。


『当然だ。鏡を砂に変えるだけじゃなく、呪術の方も、別の力に変異させていたからな。しかし……これはあんまり多用するものでは無いか……』


 そんな事を言うのは初めてだったので、黒狐さんを良く見ると、なんと肩で息をしていました。


 確かに、かなり大量の鏡を変異させていたし、それに合わせて呪術までとなると、相当な力がいる。

 つまり黒狐さんは、神術の使い過ぎで、疲れてしまったみたいです。


 まだダウンはしていないから、戦えるみたいだけれど、今日はもう神術は使えないようです。


 そうなると、ちょっと不安になってきました。この先に、もっと強力な金華猫が居たらどうしよう……。

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