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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第拾話 【3】 恐怖のダメ出し祭り

 ろくろ首さんにダメ出しをした後、1組目の人達と順調に進み、美術室に到着したのは良いんですけれど……。


「入り口にへばりついているのは誰ですか?」


 驚かすのは良いよ、良い策だとは思うよ。でもごめん、ドアの上部、すりガラスがはめ込んである部分にね、顔らしきものがくっきりと映っています。へばりつきすぎ……。


 ただ、返事が無いという事は、絶対の自信があるようですね。

 それによく見ると、これはぬりかべさんじゃないでしょうか? ガラスに映っているの、顔じゃなくて立派な顎だと思う。


 とにかく、当のぬりかべさんは自信満々らしい。でも、ガラスに映っている時点で、既に警戒されちゃっているんですよ。もうアウトなんですよ……。


 仕方が無いので、僕はその辺にあった箒を手にし、柄の部分で思いっきり、ガラスごとぬりかべさんの顎を突いた。


「ギャァァア!! な、何するんだ椿ちゃん!」


「バレバレなんですよね~その顎のせいで! 既に怖がらせる事が出来てません!」


「そ、そんな……」


 そしてぬりかべさんは、そのまま崩れていった。

 ぬりかべさんは落ち込むと、こうやって体が崩れてしまって、瓦礫みたいになっちゃうのです。

 そんなぬりかべさんは放っておいて、美術室の絵画と彫刻に1枚ずつ、その後準備室の方で3枚のお札を貼って貰って、1組目は終了です。


 僕は案内役だから、部屋には出来るだけ入りません。

 驚かすタイミングの方も、僕が通り過ぎてからという、絶妙のタイミングになっています。

 その辺りは、生徒会とか半妖の人達がやっているそうで、その割りには凄い出来だから、僕も少しドキドキしています。


 因みにカナちゃんも、僕が手伝うと聞いて直ぐに飛んで来ましたよ。そして生徒会の人達と一緒になって、仕掛けを作動する役に回っています。


 それなのに、肝心の妖怪さん達の驚かし方が今ひとつなので、そのギャップが酷いのですよ……。


 そして2組目。この組は、5人とも全員男子ですね。なので……。


「なぁなぁ。槻本って、もう海とか行ったの?」


「俺達今度、海に行くんだけどよ、良かったら一緒に行かね?」


 僕はナンパされています。

 さっきまで足が震えていたのに、肝試しが始まった瞬間に、いきなり態度が急変し、僕を口説きにかかっています。何ですか……この人達は。


 カナちゃんが部屋の隙間から、校長先生に貰ったという火車輪を、ナンパしている男達に投げ付けようとしている。いや、落ち着いて下さい。

 牛元先輩に押さえられているから、飛んで来ないとは思うけれど、男子だけの組は気を付けよう。

 

 それと、同じ所を回ったりする場合もあるけれど、それじゃあつまらないので、この組は2階の理科室へと向かっています。

 2組ごとにローテーションで、美術室、理科室、音楽室、3年生の教室、といった感じになっています。


 そしてこの男子5人は、肝試しをする気はあるのかな……ずっと僕を口説いている。

 僕は無視しているのに、しつこいですね。仕掛けも全然驚かないし、これはマズいかな……。


 そして気が付くと、あっという間に理科室に着いていて、男子達は早く終わらせようとしているのか、躊躇無く理科室の扉を開けた。


 早く終わらせて、僕を口説こうとしているのが見え見えですね。正直言って、お断りです。

 こんなチャラい人達は嫌です。夏休みだからって、パーマをあてたり金髪にしたりと、やりたい放題ですね。


「ん? 何だありゃ……槻本の知り合いの妖怪か? 可愛いもんだな、おい」


 そして扉を開けた後、しばらく考えていた男子がそう言うと、馬鹿にした様な笑い方をしてきました。


 可愛いとは、いったいどういう事なんだろう? また誰か失敗したのですか? せっかく妖怪として、その存在を大いに怖がらせる事が出来るこの機会に、何をやっているんですか……。


 そう思って、僕がその男子の後ろから、部屋の中を覗き込むと、そこにはあの人体模型が置いてありました。半分だけ筋肉になっているのものがね。でもね、狸の尻尾と耳が……。


「また中途半端~!!」


「ぎゃぁぁぁあっす! 何するんすか、姉さん!」


 あっ、しまった。あまりの楓ちゃんの失態に、白狐さんの力を使って男子達を飛び越え、飛び蹴りを放ってしまいました。いや、これは楓ちゃんが悪い。


「何やっているんですか?! 君は変化が中途半端だって、いつも言っているでしょう! 驚かすなら、別の方法を取ってよ!」


「そ、そんな事を言われても、自分これしか出来ないっすよ~」


 あ~もう……人体模型のままで泣かないで下さい。それはそれで気持ち悪いけれど、何よりも情けないよ。


「それだったらせめて、その狸の耳だけは引っ込めて。というか消して」


「わ、分かったっす! ふんっ!」


 楓ちゃんが気合を入れると、徐々に人体模型の方の耳が消え――


「そっちの耳を消してどうするの!!」


「ふぎゃぁぁぁあっす!」


 思わずチョップしてしまった。楓ちゃんが悪い。

 そしてその衝撃で、楓ちゃんの変化が解けちゃいました。全くもう……。


「あっ、ごめんごめん。ちょっと手違いがあったけれど、今の内にお札を貼っといてくれる? ちょっと、この子の指導をしてくるから」


 そして僕は、楓ちゃんを引っ張って廊下に出ると、そのままたっぷりとお説教をしました。


 その後に、男子5人が部屋から出て来たけれど、校舎から出るまで終始無言でした。しかも、何があったのかは知らないけれど、残りの仕掛けにまで驚いている始末。僕、何かしたのかな……。


 それでも僕は、予定通りに案内役をするだけです。


 そして3組目――


「お~ぅ、ヒック。椿ちゃ~ん、今日のパンツは何色かな~?」


「……って、いつの間に廊下で酔いつぶれているんですかぁ!!」


「ぐほっ?!」


 女子だけの組で助かりました。思いっ切りスカートを捲られましたよ。

 そのまま速攻で、酒吞童子さんを激しく蹴り飛ばして、空の彼方へと吹き飛ばしました。


 4組目――


 これも女子だけの組。

 それでかな? 3年生の教室に入ろうとしたら、赤木変態会長の舌が伸びて来て、その女子達に――


「ふんっ!」


「ギャフン!!」


 慌てて舌を引っ掴んで、部屋の端へと叩き付ける様にして投げ飛ばす。壁を貫通するんじゃないかと思うほどの威力でね。


「何やっているんですか? 会長。あなたがそんな事をしたら、駄目なんじゃないんですか? 正体バレたらどうするの?」


 そのままゆっくりと、威嚇をする様にして近づき、5人の女子にバレない様にしながら、変態会長の舌を引っ張ります。


()()()()……()()()()()()()しゅはらしい(素晴らしい)ひょへいはひ(女性達)()ひゅ()()


 つい、じゃありません。見境無く、体の垢を舐めようとしないで下さい。

 それにあなたには、この部屋の奥で妖艶な笑みを浮かべ、薄紫の証明に照らされた、魔女の格好をしている牛元先輩が居るでしょう。


 変態会長に目でそれを訴え、その舌を離すと、そのままお尻を蹴り上げ、牛元先輩の元に行かせた。

 だけど、思わず変態会長の汚い舌を掴んじゃったので、あとで消毒しておかないと……というか、今すぐ消毒したい。


 そんな感じで、仕掛けはともかくとして、肝心の妖怪さん達の驚かし方がいまいちで、僕はその都度ツッコむと言うか、ダメ出しをしまくりました。


 結局、最後まで妖怪さん達のクオリティが上がる事は無く、そのまま最後の組が終了し、肝試しが終わってしまいました。

 何というか、仕掛けにこだわり過ぎて、演技が中途半端でしたね。やっぱり、もっとしっかりと時間をかけないと駄目ですね。


「あ~ごめんね、皆。妖怪さん達の演技が下手すぎて。仕掛け以外、全く怖く無かったよね」


 僕が皆にそう言うと、何故か全員が一斉に萎縮し、ぎこちない状態で僕に返事をしてくる。


「あ、あぁ……い、いや、そ、そんな事は無いよ」


「お、おぉ。だ、だだ大丈夫だ、ちゃんと怖かった、主に槻本さ――」


「おい、バカ。いらんことを言うな、血祭りにされたいのか」


「う、うん。凄く怖かったから。もう、夢に出そうなくらい」


 何故……皆そんなに怯えて、しかも震えているんですか? えっ、えっ、何が怖かったのですか?! 良く分からないや。


 するとそこに、白狐さん黒狐さんが現れて、僕の頭を撫でてきました。


『まぁ、気にするな椿よ。そして補足しておくが、妖怪はその姿だけで、人を怖がらせる事が出来る存在じゃ、忘れたか?』


『つまり、演技なんてしなくても十分なんだ。仕掛けさえしっかりしていればな』


 えっ……あっ、そう言われたらそうでした。

 僕はいつの間にか、妖怪の皆に慣れちゃっていて、普通の演技じゃ全く怖く無いと思い込んでいた。


 でも他の皆は、妖怪なんて見た事も無ければ、あんまり会いたくもない様な、とても怖い存在でした。つまり何もしなくても、十分怖がるんですね。


 それじゃあ、僕はかなり余計な事を……。


「あ、あぁぁ……! 皆、違うんだよ~! ちょっと、僕が間違っていただけでぇ!」


 今になって、自分のやった事が恥ずかしくなった僕は、必死に弁解をするけれど、もう遅かったみたいです。

 皆既に、僕に変なイメージが付いてしまった様で、ゆっくりと後退りしていっています。


「ふむ、しょうがないの。今回の優勝は、椿じゃな」


「あぁ……翁。文句無いです」


「そうねぇ……私達でもゾッとしちゃったわ~」


「俺なんか、ちょっとトラウマに……」


 妖怪の皆まで!? それとさ、妖怪が恐怖でトラウマにならないで下さい。

 あれ? 待ってよ……皆優勝したくて、これに必死になっていた程だから、その優勝商品って凄いのかな。


「よし、椿よ。優勝商品はな、他の者には嬉しいものでな、実は特別な妖具を用意しておったのじゃ。しかし、じゃ……お前さんには神刀があるし、それを超える妖具では無い。そこで――」


『お主にだけは、我と黒狐からプレゼントをやろう!』


 あっ、嫌な予感がします。よし、今の内に逃げる準備をしておきましょう。


『そう。俺達から、特別な寵愛を一晩たっぷりと――』


「遠慮しま~す!!」


 寵愛の最初の文字を聞いた瞬間、僕は白狐さんの力を解放し、全速力で逃げ――られませんでした。白狐さんに尻尾を掴まれて、宙吊りにされてしまいました。


「ギャァァア!! 離してぇ!」


『まぁ、まぁ。そろそろお主も、女に磨きがかかっとるからな。我等もな、少し、我慢が出来なくなってきている』


「やめてやめて、貞操の危機です! 誰か、助けて下さい!」


「あぁ……椿ちゃんが、遂に女に? その役、私がやりたかったなぁ……」


 カナちゃんカナちゃん、虚ろな表情で見てないで下さい。何を想像しているんですか?! 助けてよ……。


『何、大丈夫だ。そこまではしない。ただ、裸にひんむいてから――』


「わぁぁぁ!! それもだめぇ! 絶対にだめぇ!」


 僕が必死に叫んでも、白狐さん黒狐さんは止めてくれない。そんな事は分かっているよ……。

 だけど、今回の寵愛だけは、本当に今までとはレベルが違うかも知れない。僕が壊れちゃうかも知れないんだよ。


 そうやって、必死に抵抗している僕を余所に、他の皆は初めて見る妖怪に、怯えながらも接していたり、和気あいあいと楽しそうにしていました。


 うん、僕もその輪に混ざりたかったです。

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