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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第拾話 【2】 恐怖のお化け屋敷スタート

 肝試しの準備は、割りとあっという間に終わりました。

 皆やる気満々なのがちょっと気になるけれど、おじいちゃんが皆に何か言っていたので、生徒を一番怖がらせた者には賞品を与えるとか、そんな事を言ったのでしょうね。


 それなのに何故か僕は、生徒達の案内役をされてしまい、脅かし役にさせてもらえませんでした。


「何で、何で僕は、案内役を――って、だいたい予想がつきましたよ」


 肝試し当日の夜になり、おじいちゃん達の意図が分かって、僕は肩を落として項垂れています。


「椿ちゃん、可愛い~!」


「何それ何それ? 巫女さん?」


「こんな娘に案内されたら、例え地獄の門だろうと、恐れずに潜ってやる!」


「お化けがなんぼのもんじゃあ~い!」


 生徒の皆さんの意気込みが凄いですね……。

 そういえば、全員にこの格好を見せた訳では無かったですね。この姿を始めて見る人が、食い気味で僕に詰め寄っています。


 そしてお化け屋敷の舞台は、僕の通う学校です。

 生徒会が関わっているからね、それは当然だろうし、使うのは北校舎だから良いけれど、旧校舎の方が……また異様な空気を漂わせているんです。


 おかしいな……夏休みに入る前は、いつも通り結界が張ってあって、何の変化もなかったのに。何故か今は、禍々しい気が濃くなっているような……。


 確かにあの事件では、まだいくつか引っ掛かる事があって、完全に解決したわけでは――


『どうした? 椿。皆の準備は終わっている。そろそろ始めるぞ』


「あっ、黒狐さん、分かったよ」


 大丈夫だよね……校長先生は何も言ってなかったし。でも、あとで報告はしておこう。


 そして僕は、校庭に集まっている皆の元に向かった。


 因みに、白狐さん黒狐さんは進行役です。案内役は僕なので、順番やその他諸々の細かい事は、2人がやる事になっています。


 僕には白狐さんと黒狐さんの勾玉があるし、連絡が取りやすいからね。


 今は北校舎の中だけ、所々に緑の明かりや、赤い明かりで照らされていて、その光が窓から漏れている。

 あのね、皆……気合入れすぎ。これ、夏の間にだけ用意が出来る、簡易的なお化け屋敷じゃないよね? かなり本格的だよね……。


「あの、皆どうしたの?」


 夏休みということもあって、全校生徒の半分程しか集まらなかったけれど、それでも1学年以上の人数は居る。

 湯口先輩も来ているけれど、生徒の皆にあんな事をしちゃったから、合わせる顔が無いみたいで、どこかに隠れていますね。


 とにかく、そこそこの人数は集まっているので、5人1組で行く事になっているんだけれど、皆北校舎を見た瞬間、硬直していました。


 しょうがないよ……外観までそれっぽく変えちゃっていて、ボロボロになっているもん。本当、やり過ぎ。


 それとね、誰ですか? 校舎の正面上方に、あんな目玉を付けたのは。


「てぃ!」


 取りあえず僕は、下に落ちていた小石を、白狐さんの力を使って投げ飛ばす。それこそもう、矢の様に飛んで行って、その目玉の真ん中に命中した。


「ギャァァ~!!」


 あれ? 悲鳴が上がったよ。誰か変化してたの? やってしまった……。


「ちょっと、何すんねん~!!」


 あっ、浮遊丸さんだった。

 変化して学校の壁に溶け込み、あんな風に目玉だけになっていたのか。それなら問題ないのと、嫌な予感がするから、落ちてきた浮遊丸さんに詰め寄ります。


「一応、弁明聞いておくけど?」


「ま、待てや……! 何でもう悪さしたって決定してんねん! その刀剣をしまえ!」


 聞くまでも無いですよ。君の今までの行動を見ればね。


「普通に脅かしていただけや! こんなん、最初が肝心やろ!」


「他は?」


「そりゃぁ……校庭全体を見渡せんねんで、透視の目で女子全員のはだ……はっ?!」


「もう弁明の余地無しですね。その目を全部潰しましょうか……プチプチってね」


「ま、待て待て……まっ――ギャァァア!!」


「大丈夫大丈夫。この刀剣じゃなくて、熱したアイスピックにしますから。黒焔狐火。ほら、これで傷みはないよね」


「膿とちゃうんから、余計アカンやろぉ!! あぁぁぁぁあ!!」


 逃げ回る浮遊丸さんと格闘していたら、校舎の壁に激突して伸びちゃいましたね。それでも良いです。反省したならばね。


「やれやれ……ごめんね皆、お待たせ。それじゃあ、始めようか」


 あれ? 皆既に足がガタガタと震えているけれど、いったいどうしたのかな。


『椿よ、お主は案内役だ。怖がらせる方では無いからな?』


「へ?? 分かっていますよ、白狐さん」


 白狐さんの言っている事が分からず、首を傾げながら応えました。


「はい、行きますよ~皆。5人1組になりました?」


「お、おぅ……」


「だ、だだ大丈夫よ」


 だから、何で声が震えているんでしょう? そんなに、さっきの浮遊丸さんのが怖かったのかな? いや、良いです。僕は案内役をするだけですから。


「皆、1人1枚ずつお札を持ったね? これから北校舎を占拠した、沢山の妖怪達を追い払う為に、そのお札を各所に貼っていくからね~」


 という設定です。


 もちろんだけど、このお札には何の効果も無いですよ。

 最近はこういう、体験型のお化け屋敷が人気何だってね。皆必死で調べていたよ。


 そして、最初の5人が僕の元に来たけれど、何故か緊張している様で、動きがぎこちない。

 男子3人女子2人の組だし、バランスは良いと思う。男子3人とも、女子2人を狙っているんだろうけれど、腰が引けていたらカッコ悪いですよ。


「最初は1階だね。美術室の絵画と、彫刻の方に貼りに行くよ。あっ……そうそう、一応結界を張っているから死にはしないけれど、あんまりにも弱腰だったら呪われるからね?」


 もちろん、これも設定ですよ。だけど、この僕の姿も相まってか、よりリアルさが増していて、皆本気で怖がっています。


「ほら、あんた達。しっかりしなさいよ!」


「うっ、んな事言ってもよぉ」


「情けねぇな~お前は! おい、怖かったら全員、俺の後ろにいろよ!」


「あ、あの……そ、それを私の後ろから言われても……」


「あ~あ、1番怖がっているのは君じゃないか」


 う~ん……何だか、男子3人が頼りなさそう……。

 1人は一見冷静に見えるけれど、よく見たら後ろ向いてかっこつけているよ。このままじゃ、いつまでたってもスタート出来ませんね。


 そこで僕は、おじいちゃんに言われた通りの事を、その人達に言う。


「言っておくけれど、ここに来た人達はもう、ここの妖怪達に顔を覚えられたからね。だから、早くお札を貼りに行かないと、毎晩君達の家に現れるよ……」


 最後だけは練習通りにした、怖さが倍増する様な話し方です。でも、僕が言ってもあんまり効果が無い気が……。


「「「「「そ、そんなぁ……!!」」」」」


 あらら……ここに来た人達全員から、悲鳴が上がりました。

 これも怖がらせる為の嘘なんだけど、ここまで簡単に信じられたら、罪悪感が……。


 ―― ―― ――


 その後、ようやく僕の案内で中に入った5人ですが、皆一様に無言になっています。


 ボロボロになった外観の中は、更にボロボロなんですよ。

 これは妖術で変えているので、一晩で戻りますよ。だけど雰囲気だけは、どのお化け屋敷よりも怖いですね。


 ひんやりとした空気の中、部屋の一部にだけ緑の明かりが付いていて、廊下は真っ暗です。

 階段があると、その段差にだけ赤い明かりを照らし、恐怖感を最大限に引き出している。本当……やり過ぎ。


 僕も妖狐になる前なら、先頭なんか歩け無かったよ。


「むっ……蜘蛛の巣。女郎蜘蛛さんかな?」


 ただのセットでも、無駄に力入れすぎ。これは、仕掛けもレベルが高そうですね……。


「えっ……も、もう妖怪がいるの?」


「いや、悪霊も居るよ」


 これは言わなくても分かるとは思うけれど、妖怪が占拠したこの場所に、悪霊も大量に集まっている――そういう風に言えば、二重の怖さ、恐怖も倍増という訳です。


 そして5人は、入り口から一歩を踏み出せず、ずっと立ち止まっていました。


「いや、早く行かないと……」


「ちょ……でも。椿ちゃん……後ろ」


 2人の女子の内、大人しい子がそう言ってくる。

 うん、振り向いた後に、誰か動いたのは分かったよ。だから、僕の後ろに居るのは分かっている。


 ろくろ首さんだね。さて、どんなレベルの脅かしなんだろう。


「う、うらめしやぁ……」


 えっ……定番の女性お化けの格好で、顔に血のり? それで首を伸ばしたところで……って感じですね。


「……う~ん、10点」


「えぇ! そ、そんなぁ! でも待って、椿ちゃんは点数係じゃないでしょ?! それと、椿ちゃんが全く悲鳴を上げないなんて!?」


「あっ、そうでした……ついうっかり。いや……期待しちゃった分、落差がね。ほら、皆行きますよ。この人は単に、毎回首吊りに失敗しちゃっている、なんとも哀れな幽霊ですから、何も手出しはしませんよ」


「ひ、ひどい! 私、そんな設定だっけ?! 違うよね!」


 うん、今変えましたからね。

 そして通り過ぎがてら、僕はろくろ首さんにボソッと呟く。


「たった10点の演技しか出来ないのでしたら、その程度の設定で良いよね?」


「はぅっ?!」


 僕の言葉が効いたのか、ろくろ首さんはその場にへたり込んでしまった。まだ1組目だし、この先挽回のチャンスはあるよ。


 すると今度は、ろくろ首さんがボソッと呟いた。


「間違いないわ。60年一緒に過ごした、あの頃の椿ちゃんだわ……」


 そうかな……僕としては、変わっているつもりは無いよ。

 でもやっぱり、その時の記憶が戻っているから、どこか変化しているかも知れない。


 ろくろ首さんの驚かしも、ちょっと前なら悲鳴ものだっただろうね。だけど、全く怖くなかった。それと、弄るのが楽しいとまで思ってしまっている。

 ヤバい……ヤバいですよ、これは。僕は僕であって、あの頃の僕とは違うんだ! だから、楽しいって思っちゃ駄目だってば。


 それなのに、妲己さんの悪戯っぽい声が、僕の頭の中に響いてきて、僕を掻き乱してくる。


【クスクス、良いわ~そうやって戻っていきなさい、椿】


 もうほとんど、妲己さんのせいだ……。

 この妖狐の思い通りにはならない。いや、なってたまるもんかですね。 

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