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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第拾話 【1】 生徒会主催のお化け屋敷

「お化け屋敷を作って、肝試し??」


 数日後のお昼過ぎ、赤木変態会長と牛元先輩、そして平坂さんが、いきなりおじいちゃんの家にやって来て、庭で稽古中の僕にそう言ってきました。


 連絡もなくいきなりやって来て、突然そんな事を言うもんだから、龍花さんとの剣の稽古を見られてしまいましたよ。まだ人に見せられるレベルじゃないのに……。


「そう! これは毎年、我が生徒会がやっている催し物でね。校長先生を通じて、ここの屋敷の妖怪さん達には、いつも協力して貰っているのさ。もちろん、正体は隠していたがね」


 会長の話が始まってしまい、稽古どころではなくなりましたね。一旦小休止を兼ねて、話を聞くことにしましょう。あんまり聞きたくは無いけどね。


 それと、平坂さんは何しに来たんでしょう? 縁側の影になっている部分で、お昼寝をしていますよ。


「しかし実際は、数年前から人が全く来なくてね。中止していたのさ。その原因は、妖魔に操られていたからなんだけど、それが無くなった今年は、また開催出来ると思うんだよ。そこで! ここで一発、超怖いお化け屋敷を披露すれば、毎年続いていた伝統を守る事が出来るし、生徒会の面目も立てられる!!」


 力説されちゃいました。

 気持ちは分かるけれど、妖怪ってバレな――って、僕のせいでとっくに妖怪の存在を教えてしまっていましたね。


「そこで、主催は生徒会。協力に、君の名前を使えば……」


「なるほど。知り合いの妖怪さんを連れて来るだろうし、普通のお化け屋敷とは格段に違う怖さを味わえると、そう考えた生徒達が、沢山来てくれるかも知れない、と言う事ですね」


「ご名答! ご褒美に僕の――は、止めておこう……」


 相変わらずですね。舌技と言おうとしましたか? それは言わせませんよ。

 それを言った瞬間に君の舌を、僕の刀剣で斬るからね。首元に刀剣を当てておけば、それが分かるでしょう。


「あんたは相変わらずだな……」


 すると僕達の後ろから、湯口先輩が話しかける。当然、変態会長は目を丸くしていますね。


「ちょ……ちょっと、椿君。何故……湯口靖君が、ここに居るのかな?」


「あぁ、説得に成功して、今はここに居候していますから」


 会長が警戒するのは分かるけれど、一応何か悪い事をしたら、直ぐに捕まえられるから大丈夫ですよ。そんなに後退らなくても……。


「良いか、変態会長。椿は俺の物だ。手を出したら分かるよな?」


 そう言うと先輩は、変態会長を睨みつけると同時に、頭をしっかりと掴み、徐々に力を込めていく。

 それこそ、スイカを潰そうとするかの如く、思いっ切り力を込めてね。何だかミシミシいってるけれど、大丈夫かな……。


「あ、あぁ……! ちょっと、分かったから……離してくれるかな?! はぁ、はぁ……つ、椿君。何とも優秀な愛人だね」


「愛人じゃないってば……!」


 何を言い出すんですか、この変態会長は。尻尾を真っ直ぐ上にして、毛を逆立てて威嚇です。


「そうだ、愛人じゃない! 恋人だ」


「それでもない!!」


 先輩まで暴走しているよ。しかも、白狐さん黒狐さんと変わらない反応だよ……。


『貴様! 我が嫁を勝手に誑かしおってからに! 許さん!』


『白狐とだけならまだしも、よもや人間のガキまで参戦するとはな!』


 そんな事をしていると、白狐さん黒狐さんまで話を聞き付けてやって来ちゃったよ。

 そして、僕を抱きしめないで下さい! 何だかいつもより、良い匂いがして……じゃなくて。誰か止めて……。


「あっ! 丁度良かった、カナちゃん! 助けてよ~!」


 どうやらカナちゃんも、変態会長と一緒にやって来たみたいだけれど、凄い笑顔で写真を撮りまくらないで!! そしてボソッと「いや~夏の特別号にピッタリだわ~」って言わないで。


 そんな僕が、必死になって白狐さんの腕から逃れようとしていると、1人居ないことに気が付いた。


「あれ? カナちゃん! 雪ちゃんは?!」


 そう、こういう時は必ずと言って良いほど、カナちゃんと一緒に来ている雪ちゃんが、ここに居ないのです。


「それがあの子、最近全然連絡がつかなくて、チャットアプリで連絡してみても、既読にならないの」


 そう言いながらも、カナちゃんは先程の写真を確認していました。一応こっちには来てくれているけれど、助けてくれる気配はないや……。

 それより、雪ちゃんの事が心配になった僕も、スマホを取り出してメッセージを確認します。


「あっ……僕の方もだ。どうしたんだろう?」


「ん~それは私の方から探り入れておくから、椿ちゃんは今は、目先の事を心配した方が良いんじゃ無い?」


 本当ですね。白狐さん黒狐さんと先輩が、今にも戦いを始めそうな勢いです。


 いや、それよりもさ……僕を抱きしめたままで、3人共何をやっているんですか……。


「良いだろう。誰が1番長く、椿を抱きしめる事が出来るか。それで勝負だ」


『ふん。そんなもの、今現在抱きしめている我の方が有利』


『アホか。そんなのは一気に剥がして、永遠に俺の胸に(うず)めてやるわ』


 すみません、黒狐さん。それ僕、死にますから。ちょっとは落ち着いて下さいよ。


 それと、誰か早く助けて下さいよ! 入り口付近で眺めている、美亜ちゃんに里子ちゃん、もう楓ちゃんでも良いから助けてよ。


「良い? 楓。一流のくノ一ってのはね、あそこまで男を魅了出来て、やっと一人前なの。あれもふりよ、助ける必要なんか無いから」


「おぉ、流石姉さんっす! 勉強になります!」


「そうそう、しっかりと椿ちゃんを見習ってね~」


 ちょっと2人とも、楓ちゃんに何を吹き込んでいるんですか。


「楓ちゃん、駄目! その2人の言うことを聞いたら駄目!!」


【あ~ら、本当の事じゃない】


「妲己さんは黙ってて!」


 おじいちゃんの庭先で繰り広げられる、このとんでもない光景は、僕の穏やかな日を壊していく……。

 白狐さん黒狐さんに求婚されてから、ほぼ毎日こんな状態だし、穏やかかどうかは分からないけどね……。


 だけどね……絶対に普通の日常じゃ無いよね。

 僕を抱き締めたまま、妖術飛び交う庭を走り回り、白狐さんから黒狐さんに抱きしめられたかと思ったら、また白狐さん。そしてたまに、先輩の方に抱きしめられたり……って、先輩ってば結構筋肉あるね。


 いや、冷静に分析している場合じゃなくて。


「あの、皆さん。落ち着いてお茶を飲んでいるより、椿ちゃんを助けた方が……」


「大丈夫ですよ、座敷様」


「龍花の言うとおり、あれがあの者の強さじゃないでしょうか?」


 虎羽さん、別に特訓している訳では無いんですよ。玩具にされているだけなんです!

 というかさ、変態会長の肝試しの件はどうなったの?! 気が付いたら会長、いつの間にか倒れていて気絶しているしね。誰にやられたんだろう……そういえば、3人が争っている間、誰か巻き込まれたような……。


「ふむ……では以前よりも、規模を大きくしようと言うわけじゃな。面白い、こりゃ良い修業になるわ」


「えぇ。それでは、宜しくお願い致します。鞍馬天狗様」


 あれ? 縁側のある部屋で、牛元先輩とおじいちゃんが話し合って、肝試しの話を進めていましたね。

 ちょっと、僕の知らない間に話を進めないで! そしてさっきから、黒狐さんにずっと抱き締められているんだけど。

 黒狐さんってば、ワイルド過ぎてドキドキ――するもんか。こんな乱暴に扱ってくれて……。


『おのれ黒狐よ、椿を離さんか!』


『はっはっ! 嫌なこった~! 妖異顕現!』


「ちっ、妖術が豊富な分、面倒くせぇな! 椿! 今助けるからな!」


 いや……僕は別に、捕まっていませんからね。あ~もう……いい加減に――


「――して下さい!!」


『ぬぉ!? 椿……それは!』


『うぉ?! ま、待て! 椿、何を怒っている?!』


「やっべ……そういや、こいつがキレた時って……」


 ついにキレてしまった僕は、神妖の力を解放し、黒狐さんの腕から逃れると、そのまま庭に着地した。そして、縁側に置きっ放しだった刀剣を手にし、その力を解放します。


『ま、待て! 椿、それは!』


「大丈夫です。振るか振らないかは、白狐さん黒狐さん次第です。そして先輩、どこに行くんですか?」


 こっそりと、この庭から逃げようとしないで下さい。バレてますよ。


「うっ! いや……その」


「また首輪を付けられたいの? 良いから、縁側の所で3人とも正座する!」


「は、はい!」『は、はい!』『は、はい!』


 僕の一言で、3人ともきっちりと正座をしてくれた。そうそう、そうやって素直になってくれたら、僕も苦労はしないんですよ。


「良いですか? 人の気持ちを無視して、好き勝手に色々とやって、もうちょっと乙女心を理解して欲しいですよ」


「うぅ……は、始まった。こいつの説教モード……」


『何じゃと? そんなもの、翁くらいしか』


「それをずっと見ていて、怒るならこうってなったんだろ。実は前にも一度だけ、椿がキレた事があって……あいつが男の時、他校の生徒から口説かれた事があった。そいつは、あいつを女と間違えていて、しつこくしつこく迫っていたんだ。その時、全く同じ様にキレて、そこから延々と、4時間もぶっ通しで説教を……」


『おい! お前等、無駄口は!』


 そうですよ。お喋りしている暇があるのなら、正座じゃなくて座禅でもさせましょうか? おじいちゃん得意ですよ。


『わ、分かった……椿よ、とりあえず刀剣を納めてくれ。ちゃ、ちゃんと話を聞く』


「そうして下さいね」


 白狐さんと先輩に伸ばしていた光の刃を引っ込め、僕は話を続ける。


「良い? そもそも女の子と言うのは、ムードってものをね――」


 それから僕は、自分が納得するまで話し続けました。だって、こうでもしないと聞いてくれないんだもん。


 それが終わった時には、3人とも足が痺れて立てなかったみたいだけど、別に良いよね。

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