表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
171/500

第捌話 【2】 因縁の決着?

 湯口先輩はゆっくりと、僕に近付いて来る。しかも、僕を威圧しようとしていて、思い切り睨みつけています。

 以前の僕なら、これだけで腰が引けていたよ。でも、今は平気です。何でかな? 持ってきた巾着袋に、神刀を入れているから? 神妖の力を、多少でも使えるようになったからかな。


 どっちでも良いです。今なら、堂々と先輩を説得出来る。


【あっ、椿。一応言っておくけれど、あの神刀はあんまり使わない方が良いわよ。あんたはまだ、神妖の力を完全に扱えるようにはなっていないから、あんな神妖の力を沢山使う物、連続で2回か3回振っただけで、多分暴走するわよ】


「…………」


 巾着袋から刀を出そうとした瞬間、妲己さんにそう言われてしまったので、僕はそのままの態勢で固まってしまいました。まさか、回数制限があるなんて……。


 でも大丈夫、僕にはまだまだ新妖術がある。刀は、切り札として使いましょう。

 こっちからも威圧したり、自分の力を見せつける為に使えないのが残念だけど、神妖の力を完璧に使えるようになれば、この神刀もずっと使っていられるんだね。


「どうした? 何かするんじゃ無かったのか? それなら……俺からいくぞ!」


 すると先輩が、左手に持ち直した錫杖を、僕に向けて振って来た。それは見えているので、後ろに跳んで回避です。

 その後に、着物の様な服の懐から、お札を出すのも見えていたよ。爆発させてくるかな。


 そう思っていたら、先輩はその札を右の手首に巻き、そのまま僕を殴ろうとして来ました。

 札からは妖気を感じるし、何か起こるんだろうね。それなら、白狐さんの力で防ぐしかない。


爆札拳(ばくさつけん)!!」


「……ぐっ!!」


「椿ちゃん!!」


 湯口先輩は、爆発させるのが得意ですね。

 腕を前に出して、しっかりと防御態勢をしていたのと、白狐さんの力で防御力を上げていたので、僕はあんまりダメージはないです。

 だから、そんなに慌てないでも大丈夫ですよ、カナちゃん。咄嗟に押して、爆風を受けないようにさせたから、尻餅突いてるけどね。ごめんね、カナちゃん。


 でも、いきなり爆発した事にびっくりして、ちょっと後ろにふらついたかな。


「チッ、硬いな。防御力を上げていたか」


「その通りです。この前死にかけた後、頭に浮かんだんだよね」


 白狐さんの力を使った、自身の防御力を上げる術。もっと早く、これが思い浮かんでいたら良かったのに……そうしたら、あの時皆に心配をかける事も無かったはず。


「つ、椿ちゃん……嘘でしょ? あなた、また強く……」


 呆然としているカナちゃんは置いておいてと。

 やられてばかりではいけないので、僕も少しは反撃しましょうか。


「妖異顕現、影の操(みさお)!」


 僕は黒狐さんの力を解放し、自分の影の腕……では無くて、先輩の影の腕を操る。

 そう。妖気が増えると、使える妖術がパワーアップしていくんだ。例えば『黒焔狐火』は、自分の身に纏える様になるし、『影の操』は、自分以外の影も自在に扱える様になる。


 そうやって、先輩の影を操って……。


「なっ! くそ……いつの間にこんな」


「覚悟してよね、湯口先輩」


 ゆっくりと、先輩の影を体に這わし、目的の所に伸ばしていく。


「くっ……何だこれ、直接触れられているみたいで、物凄く気持ち悪……って、ひっ……あははは!」


「そ~れ、コチョコチョコチョコチョ」


 ほらほら、脇腹を自分の影にくすぐられるなんて、かなり貴重な体験だと思いますよ。


 僕の目的はあくまでも、湯口先輩の説得であり、先輩の目を覚まさせる事。攻撃して傷つけて、そんなやり方で屈服させても、意味は無いんです。

 だからこうやって、無力化させるのが1番手っ取り早いのです。その前に、やり過ぎたら窒息死しそうかな。


「湯口先輩、脇腹弱すぎです」


「はぁ、はぁ……てめ、ふざてんじゃ……うぐっ、や、やめろぉ!! あははは!!」


「いえいえ、かなり真剣ですよ」


 でも流石に、そうやられっぱなしなわけないが無いですよね。

 湯口先輩は、くすぐったくて悶えながらも、手にした錫杖を握り締め、その下半分をもう片方の手で持つと、一気に引き抜く様にして引っ張った。


 すると中から、筋の様に細く光る物が、その姿を現しました。

 それは仕込み刀で、細く光ったのは刀身だったけれど、その光のせいなのか、僕の妖術が解けていた。


「俺の命を取る気は無いという事か? 甘い考えを……俺は、貴様を殺す気でいるんだぞ!」


 先輩は刀を握り締め、僕を斬りつけようと突進して来る。

 あの刀から妖気を感じるから、確実に妖具か、妖怪を閉じ込めた札を使っているね。


「もう分かっているだろうが、この刀は妖術を消し去る能力を持っている! もう俺に、変な妖術は効かんぞ!」


「……くっ! あっぶない!」


 あの父親から剣術を学んでいるのか、湯口先輩の剣技は、その型がしっかりとしていて、踏み込みと攻撃のタイミングが抜群でした。

 これは……ちょっとヤバいかも知れません。何とか避けられているけれど、その内斬られそう。


 あっ、ちょっと尻尾擦ったよ。


 僕も白狐さんの力で、湯口先輩の攻撃をアクロバティックに避けて、スタントマン顔負けの動作をしています。


 だって先輩、結構ギリギリを狙って来るんだよ!

 僕の顔の前に刀を切り上げてくるし、それを避けたら横に薙ぎ払って来て、それをしゃがんで避けても、耳が切り落とされそうになりました。


「椿様! 助勢します!」


「この不届き者が、調子に乗っているのも今の内です!」


 すると、龍花さんと朱雀さんが敵を倒したらしく、僕の元へと走って来ました。

 それよりも、倒すの早過ぎませんか? 龍花さん達が強すぎたのか、それとも相手が弱すぎたのかな。


 いや、まさか……あの2人も。


「……っ!?」


 考え事をしている場合じゃ無いです。とにかく、湯口先輩の心を折らないと。


「龍花さん朱雀さん、僕は大丈夫です! 切り札がありますから!」


 そして僕は、湯口先輩の攻撃を回避しながら、巾着袋から石の刀剣を取り出す。妖術が効かないのなら、もうこれしか無いです。

 たった一振りで、先輩の刀を壊さないといけないけれど、それでも僕のこの刀の方が、強いと思うんだ。そんな確かな確信があるよ。


「神刀、御剱!」


 そして神妖の力を解放し、暴走しない程度に抑える。

 すると、この前やった様な感じで、石の刀剣は光り輝く刀剣に変わり、僕の髪も一気に伸びて、金色に光り輝いた。


「な……何だそれは!?」


「先輩は、初めて見るよね。これが僕の、神妖の力です」


 その後僕は、湯口先輩の刀に向かって、御剱を横に一振り振り払った。


「ぐっ……!!」


 湯口先輩は、僕のこの状態を妖術か何かだと思ったらしく、普通に僕の攻撃を刀で受け止めた。けれど……。


「そ、そんな……! 妖術をかき消す、この刀が……」


 僕の攻撃で、先輩の刀は見事に真っ二つです。

 避けられなくて良かったです。先輩は堂々と、真っ正面から振り抜いていたからね。普通に避けられたらどうしようかと思いました。そこまでは考えていなかったから。


「先輩、僕のこの力は神術です。妖術とは違うので、その刀では打ち消せないよ」


「くっ……くそ。仕方ない、お前等一旦……なっ!?」


 湯口先輩が驚くのも、無理は無いですね。僕も視界の端で、変な物を見ていましたから。

 龍花さん達が捕まえて、縄でしっかりと縛っていた峰空と閃空が、ドロドロに溶けていって、跡形も無くなったからね。


 つまり――


「分身……体。そんな……」


 先輩はその光景を見た後、肩を落として愕然としていた。完全に心が折れてるね。トドメが身内なんて、残酷ですね……。


「湯口先輩……あなたは、周りが見えなくなっていたんですね。冷静に見ていれば、直ぐに分かったでしょ? 峰空が、あんなに引っ付いてくるなんて。何か変だとは思わなかったんだね」


 元の姿に戻った僕は、湯口先輩に近付いて行き、そう言った。

 僕は峰空と会うの、これで2回目なのに、その違和感をハッキリと捉えていたよ。それなのに、先輩は分からなかったんだね。

 初めて会った時、峰空は年相応の態度と言うか、そう言う雰囲気だったのに、今回の峰空は全然違っていた。中身はまるで、女子高校生みたいな感じだったよね。


「先輩……目を覚まして下さい。滅幻宗は、何かおかしい。ずっと近くにいる先輩なら、とっくに分かっていたんじゃ……」


「縛れ」


「へっ?」


 すると先輩は、いきなり僕に背を向け、腕を後ろに組んできた。捕らえろって事? えっ……何で。


「言う通りにしてやる。だが、捕らえておかなければそっちが不安だろうし、仲間から色々と言われるだろう」


「先輩……」


「勘違いするな。妖怪退治をしないと言っている訳では無い。ただ、確認をしたいだけだ」


 何だろう……昔の先輩の様な優しさが、ほんの少しだけ垣間見え、僕は泣きそうになっちゃいました。


 でも、そんなのが先輩にバレたら恥ずかしいので、僕は慌てて巾着袋の中を探ります。

 確か中に、悪い妖怪を捕獲するための、妖気を含んだ縄……を取り出そうとしたけれど、どこにも無い。


 おかしいな、確かに入れていたはずなのに。でも、代わりに何か入っている。


「ん? あれ、これ……」


「どうした? 早くしろ。何でも良いから捕らえろ」


「えっと、本当に?」


「良いと言っているだろう!」


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


 えっと、これってどうやって付けるのかな? あっ、こうか。それで……首の所に――


「よいしょっと」


「……おい、何だこれ?」


「首輪。リード付きです」


「……はぁ?!」


 いやだって、縄を入れたはずなのにね、何故かこれが入っていたんですよ!

 そして今思い出したけれど、家から出る時、里子ちゃんがこの巾着袋を持っていたから、多分彼女の仕業なんですよね。


「お前、ふざけんな!! なっ!? と、取れない!」


「あっ、すいません。鍵付きです」


「おぉい!!」


 もうね、龍花さんとか朱雀さんとか校長先生とか「何やってんだ?」的な目で見てるし、僕だって恥ずかしいよ! カナちゃんなんて、頭撫でてくるもん……。


「やぁ! もう終わったかい? 全く……毎度毎度、人払いをする方の身に……もぉ?!」


 あっ、杉野さん。

 そっか、校長先生の要請で、人払いをしてくれていたのですね。いつもいつもお疲れ様です……って言いたかったけれど、何を唖然とした表情をいるんですか。


「そ、そんな……下僕が増えて……」


「おい、誰が下僕だ!! 翼、これを外せ!」


 首輪付けて、リードを僕に握られて、下僕と言うよりもペットですね。でもね先輩、とってもよく似合ってるんです。


「椿ちゃん……椿ちゃんが嬉しそうな目を……駄目、そっちの道に目覚めちゃ駄目……!」


「えっ、何が?!」


 僕、そんなに嬉しそうな目をしていましたか? していないと思うけど……。


【つ、椿……あんた変わりなさいよ! こんな面白い展開、あんた1人に味わわせてたまるかぁ!】


 妲己さんは出て来ないで下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 下僕2が出来てるw
2021/12/11 07:03 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ