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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第捌話 【1】 乱戦模様

 カナちゃんの暴走は止めたけれど、湯口先輩が襲って来ている状況は変わらない。


 だけどこちらには、龍花さんと朱雀さんがいる。正直、こっちに分があるよ。

 それなのに、湯口先輩は立ち去ろうとはしない。という事は……。


「まだどこかに隠れていますね?」


「ふん。この状況ならそう考えるのは当たり前か。そうさ、俺1人でお前達を相手にしようなんて、そんなバカな事はしない」


 鼻にティッシュを詰めた湯口先輩が、僕に向かってそう言ってくる。

 何だか締まらないなぁ……僕の恥ずかしい必殺技のせいで、湯口先輩が鼻血出しちゃったんですよね。


「あの、鼻血止まりました?」


「チッ……!」


 湯口先輩が苛立ちながらティッシュを取り、血が止まっている事を確認すると、そのティッシュを叩きつける様にして地面に投げ付けました。


「とにかく、今度こそ退治させて貰う。妖狐椿!」


 そして先輩は、どこかに片付けていた錫杖を手にして、僕にその先端を向けてくる。


 でもその前に、僕は湯口先輩に確認したい事があるんです。こんな時に、丁度よく襲って来てくれましたよ。そう、先輩の父親に関してです。


「ちょっと待って、湯口先輩。あなたのお父さんの事なんだけど――」


「俺を惑わそうとしても、そうはいかないぞ!」


 駄目ですね、聞く耳を持ってくれません。しょうがないなぁ……またあの時の様に、馬乗りにならないと駄目なんですか?

 実はあの時、覚さんの力で分かっていたんだよ。あんな風に密着されて、ちょっとだけ喜んでいた事を。


「龍花さん朱雀さんは、他の2人をお願いして良いですか?」


「何ですって? 相手の気配が分かるのですか?!」


 龍花さんが驚いているけれど、気持ち悪い殺気を感じ取っただけですよ。


「えっと……この殺気、分からないですか? 凄く重くて、嫌な気分になってしまいそうなんですけど……ほら、そこの木の陰と、反対側の木の陰に居ます」


 湯口先輩の後方、公園内にまばらに生えている、その何本かの木の内、割と太めの木と、その反対側の木を僕は指差した。


「おい、バレているぞ」


 そんな僕の行動を見て、誤魔化しきれないと悟った湯口先輩が、木の上に隠れている仲間にそう言うと、そこから2つの影が飛び出してくる。


「これは困ったわね。こっそりとあなたを援護しようと思ったのに。私、あんまり日に当たりたく無いのよね……」


「肌を気にするようなら、出て来ない方が良いよ~峰空」


「子供は黙ってなさい。私はね、靖を狙ってるのよ~だから、アピール出来るこのチャンスを、逃すわけにはいかないでしょう?」


 文句を言いながらも現れたのは、水商売をしている人みたいな、派手に盛った髪型と、露出の多い派手な格好をした、あの時峰空と名乗っていた女性と、ショッピングモールで捕まえたはずの、閃空の姿がありました。


 やっぱり、閃空は脱獄していましたね。


「閃空……やっぱり脱獄していましたか」


「ん? 脱獄? 何の事かな~?」


 えっ? 覚えていないのかな? 閃空は首を傾げていて、本当に何の事か分かっていない様です。

 そしてその後に、何かを思い出した様な素振りをすると、ポケットから黒くて丸い、玉の様な物を取り出し、それを放り投げてきた。


 いきなり攻撃をしてくると思って、僕は身構えたんだけれど、その丸い玉は地面に落ちた瞬間、その場で激しく弾け、中から何かが飛び出してきた。


 それは、閃空と瓜二つの人物。まさか……僕と美亜ちゃんが、この前ショッピングモールで戦ったのって……。


「僕の分身体と、どこかで戦ったのかな? この妖具は分身玉(わけみだま)と言ってね、髪の毛とか爪とか、そういう物を入れると、その人の分身を作れるのさ。更に、こいつに細かく命令をすれば、3日程は自立して活動する優れ物さ」


 そういう事でしたか。そしてまさかだけど、その妖具には弱点があったりするのかな……。


「ただ残念な事に、これで作った分身体は、本体の能力の約半分程になってしまうのさ。思考等もね」


 ありましたね、残念な弱点が……。

 という事は、それは戦闘にはあまり使えない様ですね。盾にはなるかも知れないけど。


「なる程……あとで杉野さんに報告ですね」


「ほぉ、着実にその勢力を増やしているのか。本格的に良からぬ事をされる前に、始末した方が良いな」


「だから、僕は悪い妖狐じゃないし、他の妖怪達も悪い妖怪ばかりじゃ無いですよ!」


 湯口先輩もしつこいですね。何回言っても聞かないなら、身動き取れなくしてから、ずっと語り続けるからね。


 すると、湯口先輩の隣にやって来た峰空が、先輩に引っ付きながら肩に手を置き、胸を引っ付けて――って、なる程ね。アピール中というわけですか。睨まない睨まない。


「あの子、怖いわね~早くやっつけちゃいましょう~」


 見た目20歳超えてそうな人が、何やってるんですか?

 まるで高校生の様な態度に、ベタベタと湯口先輩に引っ付いて、アピールするにしてもやり過ぎじゃないですか。


「離れてくれないですか、峰空さん」


「ちょっと湯口君~何で峰空には『さん』付けで、僕にはしないのかな~?」


「お前にはする必要が無い」


 こんな状態なのに、向こうがまだ戦闘態勢じゃないので、僕達はどうしたら……と思っていたら、急に峰空が動きだし、その胸元から丸めた鞭を出してくると、僕目がけて打ってきました。


「うわっ……! っと」


 流石に今のは見えたので、咄嗟に跳び退いて回避したけれど、地面が切れた様になってる。嘘でしょう? どんなに鋭い鞭なんですか。


「ねぇ、靖。さっきからあの子、あなた意識してないかしら? なぁに~? 恋のライバル~? 速攻で消そうかしら?」


 鞭を戻しながら、峰空が言ってくる。残念だけど、恋のライバルじゃないですよ。

 ただね、先輩にはお世話になっていたから、出来たら敵対したくはないんだよ。そもそも先輩は、あの人達に騙されているかも知れないしね。


「残念だけど、僕はそんなんじゃ……わっ!」


 否定しようとしたのに、また峰空が僕に向かって鞭を打ってくる。

 それから咄嗟に身を守ろうと、僕は腕を前にして、防御体勢を取ったんだけれど、空を切る音が聞こえた瞬間、何かが弾かれた音がした。

 どうやら朱雀さんが、背中に付けた羽根を飛ばし、峰空の鞭を弾いた様です。


 朱雀さん、何て精度をしているんですか……。


「一度ならず二度までも。流石にもう、容赦はしませんよ……」


 あっ、朱雀さんがキレている? 龍花さんも、また青龍刀をしっかりと握り締めていて、殺気立っています。


「ちょっと~邪魔しないでくれる?」


「邪魔はあなたです。椿様を傷つけ様とする者は、何人たりとも許しません」


 とりあえず、朱雀さんが峰空の攻撃を防いでくれるのなら、僕は湯口先輩の説得の方に、集中が出来る。


「全く……何モタモタしてるのかな。とっとと倒しちゃえば良いでしょうが」


 しまった……閃空の方もいたんだ。

 自分の周りに、赤くて大きな丸い球体を5個程浮かせ、ゆっくりとこっちに近付いて来ているけれど、何ですかあれは? ボーリングの玉以上の大きさですよ。


「それ行け、浮岩球(ふがんきゅう)!」


 そして閃空は、その浮かせた球体を凄いスピードで飛ばして来ました。


 速い。あっという間に僕に当た――ると思ったら、その球体が真っ二つに斬られ、そのまま地面に落ちました。


「不届き者が。椿様を殺そうとするとは……私の目の黒い内は、椿様には指1本、物体1つ触れさせません!」


 何と……龍花さんが閃空の球体を、全て綺麗に真っ二つにしてしまい、そして僕の前に立ち塞がると、青龍刀を閃空に向けている。


「ちょっとちょっと、邪魔しないでよ~君は僕の分身と遊――」


 それでもまだおどけている閃空が、次の行動をする前に、龍花さんが凄いスピードで閃空に近づき、そして手に持っていた分身玉とかいう物を、全て斬り捨ててしまった。


「はぁっ?! なに、今の速……ぐべっ?!」


 あっ、ついでに顔面に蹴りが入ったよ。痛そう。

 龍花さんと朱雀さんには躊躇などなく、ただ目的の為だけに行動している。


 僕を守るという、その目的の為だけに。


 それなら僕も、早く目的の事をしてしまおう。湯口先輩の説得という目的をね。


「カナちゃんは校長先生の所に……って、何で僕の傍に?」


 カナちゃんが言うことを聞いてくれない。何で僕を守ろうとするのかな。


「2人が他の人の相手をしちゃっているから、椿ちゃんを守るのは私の役目!」


 それで龍花さんと朱雀さんは、他の2人を相手する事にしたんですね。カナちゃんが僕を守ろうとするから。

 それに気が付いたら、峰空は朱雀さんの攻撃によって、先輩から引き離されていた。これは、説得するには大チャンスですね。


「ふぅ……やれやれ。結局こうなるか……まぁ、良い。俺1人でも、お前達を退治してやる」


 そう、説得の大チャンスなんだけど……先ずは殺気立っている先輩を、止めないといけませんね。


 湯口先輩はまるで、野獣を相手にするかの様な気迫を放ち、僕達に近づいてくる――けれど、以前に比べたら怖く無い。なんて思っている自分がいて、少しだけ驚いています。

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