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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第陸話 【1】 約束の話

 それから数日後。僕はようやく、自分の体が動くようになりました。


 そしてこの日、僕はカナちゃんに呼ばれ、ある公園へと向かっています。レイちゃんに乗りながらね。


 白狐さんと黒狐さんは任務です。旅行に行っていた間に、2人への任務が溜まっていた様で、忙しくしていましたよ。


 とにかく、今日カナちゃんに呼ばれたという事は、旅行の時に約束した事を、ちゃんと守ってくれる様ですね。カナちゃんの過去の事を、僕に話してくれるっていう約束をね。


 それにしても、気付けばもう8月です。

 蝉の鳴き声も一層うるさくなって、茹だるような暑さの前に、僕も汗が止まりません。フサフサの尻尾もあるから、余計に暑いよ。一応これでも夏毛だけどね。


 こんな暑さなら、氷雨さんか氷魚ちゃん、そのどちらかでも、僕と一緒に来て貰えば良かったよ。我慢が出来なくなったら、冷やして貰えるようにね。そう考えたけれど、この2人は夏が駄目でした。

 連日の猛暑の前に、氷雨さんも氷魚ちゃんもダウンしちゃっているんだ。雪女さんは、夏が苦手だからしょうがないですね。


「それにしても……妲己さ~ん。緘口令は解けたよ~何で僕の過去の事、教えてくれないんですか?」


 レイちゃんに、もう少しだけ上空を飛ぶよう指示をした後、僕は妲己さんに文句を言った。

 ちょっとでも人に見られたら、空飛ぶ少女として、週刊誌か何かのネタにされそうですからね。それと単純に、暑いからです。上空の方なら、風もあるから涼しいはず……。


「ちょっと、妲己さ~ん」


 返事が無いから、しつこく呼び掛けますよ。


【うるさいわねぇ……ていうか、良いの? 私の悪事を聞いちゃって。私がやった事を聞いたら、あんた警戒するでしょう? それが困――って、あんた何ニヤニヤしているの!?】


「別に~」


 まだ教えてはくれないということですね。

 必死に悪役ぶろうしている妲己さん。そうしないといけない理由があるのかな? それとも単純に、何かしらのコンプレックスがあるのかな。


 教えてくれないのなら良いです。僕の記憶が戻ればいいだけの話なんで。


【ちょっと、椿。あんたまさか……私と会った所の記憶まで戻っているんじゃ……】


「戻ってませ~ん」


【嘘つきなさ~い!!】


 いや、本当にね。会った直後までしか思い出せていないし、妲己さんがあの後に何をしたのか、それは分からないからね。

 本当に悪い事をしたかも知れないし、亜里砂ちゃんの悪事を止めようと、妲己さんが戦ったのかも知れない。まだ油断は出来ませんね。


【こら~! 椿! 体乗っ取るよ!】


「出来るならやってみてよ?」


 そう言いながら僕は、巾着袋に入れている刀剣を取り出した。いつ何があるか分からないからね、こうやっていつも持ち歩く事にしたのです。


【あっ、ちょっと……ま、待ちなさい。卑怯よ、それは。くっ、あんたの体の中にいるのに、何で記憶を覗けないのかしら……】


「魂まで一緒になっていないからでしょ?」


 普通に考えたら分かりそうなのに。いや……この感じは、分かって言っているんでしょうね。


 そんな事をしている内に、カナちゃんと待ち合わせをしている公園に着きました。やっぱり、レイちゃんは速いですね。

 だけどこの公園、実はその場所が伏見ではなく、市内にある京都御所の近くにあるのです。


 カナちゃんは何で、こんな所を待ち合わせ場所にしたんだろう。それならそれで迎えに行くのに……。

 カナちゃんの家からだと、伏見からになるから、ここまで遠いと思うよ。だから集合の時間が、お昼の2時だったんだね。


「あっ、カナちゃん発見。周りに人は……うん、居ない。レイちゃん、お疲れ様。降りるよ」


「ムキュッ!」


 そして僕は、颯爽とレイちゃんの背中から飛び降りて、カナちゃんの待つ公園に降り立ち、同時に彼女に声をかけました。


「カナちゃん。お待たせ!」


「きゃっ!? えっ? 椿ちゃん?! 何て方法で降りて来てるの!」


 カナちゃんの直ぐ近くに降りたら、めちゃくちゃ驚かれた上に、直ぐに怒られちゃいました。

 いや、でも……あれくらいの高さからだと、白狐さんの力を使っていれば、無傷で飛び降りられるのに……。


「人が居なかったとはいえ、何かあったらどうするの!?」


 完全に僕のお姉ちゃんです。僕は、カナちゃんの妹になったつもりは……。


「ご、ごめんなさい……」


 でもやっぱり、怒られているなら謝らないといけない。

 だから僕は、尻尾を垂れ下げて耳を伏せ、反省の意思を体で表現しています。


「くっ……」


 あれ? おかしいな。カナちゃん、頭を抱えて悶えているような……。


「ま、まぁ、良いよ。とにかく行こうか」


 あっ、持ち直した。良かった。それより、今のは何だったんだろう?

 カナちゃんの怒りは収まったし、何だかご機嫌な様子だから、僕も嬉しくなっちゃうよ。


 そして、カナちゃんの後に続いて歩き始めたけれど……その僕の姿を見て、カナちゃんが何かに気付いたのか、体を小刻みに震わせている。

 しかも「可愛い」なんて言葉も聞こえてきた。何の事だろうと思って、自分の姿をよく確認してみると、何て事は無かったです。僕は嬉しくて、尻尾を振っていただけでした。こんなので悶えるなんて……。


「それにしてもカナちゃん、何でこんな遠い所に? ここに、何かあるの?」


「…………」


 返事が無い……ただの悶えている人の様だ――じゃなくて、カナちゃん……早く戻ってきてよ。そうしないと――


「キュ~ン……」


「ちょっ……?!」


 はい、トドメです。耳元でこんな切ない鳴き声を出されたら、一貫の終わりでしょ? あ~あ……カナちゃんが、いっぱい鼻血出しちゃっています。

 でもこれ、我ながらとても恥ずかしいし、凄く寒気がしましたよ。それでも、カナちゃんには効果抜群でしたね。白狐さんや黒狐さん、雪ちゃんにも効きそうだけれど、これは一日一回しか出来そうに無いよ。主に、僕の精神力の問題で……ね。


 それから暫くして、やっと復活したカナちゃんに案内され、住宅街のある場所に着きました。


 だけどそこは、完全に更地で何も無い場所。更に、売りに出されているにも関わらず、何年も買い手がつかないのか『売地』の看板がボロボロになっていました。


「カナちゃん、ここって……」


 何となく、ここが何なのかは想像がついたけれど、それでも僕は、カナちゃんに聞いてみた。


 するとカナちゃんは、切なそうな表情をしながら、口を開いた。


「ん、そうだよ。私が小さい頃、ここにあった家で、お父さんとお母さんの3人で暮らしていたの」


 今は何も無い……もうそれだけで、ここで何が起きたのかは、ある程度まで絞れる。

 絶対に、何か悪い事が起きたんだ。それはきっと……カナちゃん自身も、あんまり話したく無い程の。


「椿ちゃん、私は悪い娘だよ。それでも、良いの?」


 カナちゃんは、不安そうな顔で言ってきます。

 僕は、カナちゃんを拒否するつもりは無いから、ちゃんと答えるよ。今の僕の気持ちをね。


「カナちゃん。僕も、まだ全部では無いけれど、過去を教えたよね。それなのにカナちゃんは、僕から離れなかったよね。だから、僕も離れないよ」


「ふふ……ありがとう、椿ちゃん。大好きだよ」


 2回目ですね、大好きって言われたの。しかも、これは多分だけど、愛してる方のですね……カナちゃん。

 流石に僕まで恥ずかしくなってくるよ。こんなにも真っ直ぐな好意を向けられるとは、夢にも思わなかったからね。


「それと、ごめんね。私は椿ちゃんに、一つだけ嘘をついたの」


「ん? 嘘? と言うと?」


「私、輪入道の半妖じゃないの」


 えっ……だけど、あの時からずっと、カナちゃんの目は嘘を言っている様な目じゃなかったし、妖具だって……。


「何の半妖か、分からないの」


 なるほど、そういう事ですか。

 カナちゃんの言葉を聞いて、何故か納得しちゃいました。嘘を言っている自覚が無かったんですね。


 つまり、自分でも何の半妖か分からないけれど、何かの半妖だと言っておかないと、自分の事が怖くなってしまう。だから何でも良いから、何かの半妖って事にしておきたかったんだね。

 そうしている内に、カナちゃん自身、嘘が本当の事の様になっていったんですね。


「私、拭いきれないの。何の半妖か分からない恐怖が……だって、私は……お父さんを――殺したから」


「カナちゃん……」


 カナちゃんは目に涙を浮かべ、今にも泣きそうになっている。

 泣いちゃえば楽になるのに、何故か必死に我慢しているのは、きっと僕に、弱い自分を見せたく無いんでしょうね。


 カナちゃん、本当に君って人は……。


「話して、カナちゃん。カナちゃん自身の事。それをおじいちゃんに言えば、何か分かるかも知れない。それと、僕は絶対に逃げないよ」


 そして僕は、カナちゃんの頭を撫でる……けれど、カナちゃんの方がちょっとだけ背が高いから、手がギリギリでした。


「くっ……ぬっ、う……」


 これはもう、弱気になっている姉を、妹が一生懸命元気づけている絵になっちゃっているよ。どうしてこうなるの……。


「もう……椿ちゃんったら。何であなたは、いちいちそんなに可愛いのかな」


「それは僕にも分かりません」


 そのおかげなのか、カナちゃんにちょっとだけ笑顔が戻った。

 それと、さっきので気が楽になったみたいで、ゆっくりと過去の事を話し始めました。僕を信じ切った目をしながらね。

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