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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第漆章 九夏三伏 ~過ぎゆく夏と盆休み~
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第伍話 【1】 守護者の優しさ

 目が覚めた僕は、伸ばした腕をそのまま折り曲げ、自分の額に当てる。


「生き……てる」


 先ずは、自分が生きているんだという事を確認です。

 白狐さんが、頑張って治癒妖術を使ってくれたから、僕は助かったんだと思う。


 そしてその後に、さっきまで見ていた過去の映像を思い浮かべる。


 うん、大丈夫。今度は忘れていない。


 過去の映像。それと同時に蘇る、その時の記憶と感情。ちゃんと思い出した。

 だけど、天狐様に会いに行く前の所までしか、しっかりと思い出せなかった。思い出したら駄目なのは、きっとその先。天狐様に会った時、何かが起きたんだ。


「亜里砂ちゃん、妲己さん……」


 この2人が何かしたのかな? でも、妲己さんのあの言葉……きっと妲己さんは、自ら進んで悪い事をしたわけじゃない。それなら、いったい妲己さんに何があったんだろう。


【呼んだかしら? 椿】


「呼んでません。呟いただけです」


【そう。だけど危なかったわよ、あなた。本当に死ぬ所だったんだから】


 妲己さんにそう言われ、ぼーっとしていた頭が少しずつ覚醒してくる。


 そうだ、僕は胸を銃で撃たれんだ。


「そうだった! あれからどうなったの? 敵は?!」


 急いで布団をはね除け、そこから飛び起きるけれど、その瞬間に頭がクラクラして、再び布団に倒れ込んじゃいました。

 痛みは無いし、傷は白狐さんが完全に直してくれたんだろうけれど、失った血までは戻っていないようです。力が入らないです。


【あ~もう、無茶したら駄目よ。弾はギリギリ肺の近くで止まっていて、それは致命傷じゃなかったけれど、出血は酷かったんだからね】


「そうだったんだ……皆に心配かけちゃったね」


 起き上がろうとした時に気付いたけれど、辺りは既に真っ暗で、僕の部屋には数人が居てくれていた。多分、僕の様子をずっと見ていたんだと思う。


 白狐さん黒狐さんは、僕の近くで座ったまま寝ているし、里子ちゃんも床に突っ伏して寝ちゃっている。


「あれ……? もしかして、あれから何日か経ってる?」


 皆のその様子と、自分のお腹の空き具合から、敵が襲ってきた日の夜とは思えなくて、妲己さんに聞いてみた。


【そうよ、あれから3日経ってるわね】


「そんなに寝てたんだ……」


 その間、皆が付きっきりで居てくれたのは嬉しいけれど、流石に限界だったみたいですね。

 あんまり無茶はしないで下さいって、僕が言っても説得力無いですよね。


「あら、起きたのですか?」


 すると、部屋の入り口から誰かの声が聞こえてきた。でも、この声は確か……。


「龍花さん? えっ、な、何でここに?」


 そこには、青いリボンでポニーテールをしている、龍花さんの姿がありました。

 思わず失礼な事を言っちゃったけれど、よく考えたらこの状況、龍花さんも僕を心配して、皆と一緒にお世話をしてくれていたんだと思う。


「あなたの心配をしたら駄目なのですか?」


「ご、ごめんなさい」


 何だか申し訳なくなった僕は、布団を被って顔を隠しました。

 でもね、初対面でいきなりあんな事を言ってきたんだから、龍花さん達の第一印象はね、怖い人達なんですよ。この反応はしょうが無いです。


 そして、僕が布団に潜った後、龍花さんがゆっくりと僕の元に近付いて来て、いきなり謝ってきました。


「申し訳ありません。あなたの事、少し誤解しておりました」


「へっ?」


 その言葉に驚いた僕は、布団から少しだけ顔を出し、そこから龍花さんを見てみると、彼女は真剣な顔付きになっていて、僕の横に座り、そのままこっちを見つめていました。

 龍花さんは凛としているからさ、そんなに見られると、何だか恥ずかしいんですが……。


「あなたは、命をかけて座敷様を守った。それに比べ私達は、つい目の前の敵の、幹部レベルの者を捕まえようと、皆躍起になっていました」


「そ、そんな事は無いよ。だって、わら子ちゃんを守ろうとして、敵の主力を捕まえようとしたんでしょ? 龍花さん達の行動も合ってるよ」


 それに、あの時僕は咄嗟だったし、良く体が動いたなって思うよ。普通は怖くて動けなくて、多分何も出来ないはず。


 そして龍花さんは、僕の手をそっと取ると、ぎこちないけれど少しだけ笑顔になり、僕に話しかけてくる。


「もう、無茶はしないように。もしあなたに死なれていたら、私達は自分の不甲斐なさを、ずっと胸に刻み続ける事になっていましたよ」


「あっ、う、うん。でも、大丈夫だよ。だって、僕と仲良くしてくれているわら子ちゃんだったから」


「そうだとしたら、尚更ですね。今、分かりましたよ。あなたも座敷様と同じ様に、自分の事など考えず行動していますね?」


「そうかな? 僕はそうでも無いと思うんだけどな……」


 そうやって首を傾げていると、龍花さんに思い切りため息をつかれてしまいました。という事は、他の人達から見たら、僕は自分の事を大切にしていないんですね……。


「これは、残り3人とも話合って決めた事です。椿様。我々4人は、これから片時も離れる事無く、座敷様とあなた様をお守りします。この命に代えても……」


 そして龍花さんは、今度は片方だけ膝をつき、もう片方の膝は立て、右手の拳を地面につけると、また頭を下げてきました。


 これって部下と言うか、主従関係を結んだ主に対して取る態度だよね? いや、僕はそこまで凄く無いですからね。


「待って下さい。そんな事しなくても、自分の身くらいは自分で守っ――」


「守れていないから、そうなっているのではないですか?」


「うぐっ……反論出来ません」


 すると、龍花さんが僕に近付き、また手を取って来ました。いきなりこんな行動をされても、困ってしまいますよ。


「座敷様が、あなたを気に入った理由は分かりました。あなたが撃たれた時、座敷様は必死でした。必死に『何でまた同じ事をするの!』と言っていました」


 わら子ちゃんがそんな事を? またって事は……過去にも僕は、同じ事をしたのかな。


「あんなに取り乱した座敷様は、初めて見ました。私達は、嫌な事から座敷様を守る為に存在しているのです。あなたが傷付く事で、座敷様が嫌な思いをするのなら、あなたを守る事は、座敷様を嫌な思いから救う事にもなるのです」


 真剣な顔付きで言われてしまったけれど、それは極論だよね。おじいちゃんの言う通り、この人達はやり過ぎかも知れない。


「あのさ……わら子ちゃんが嫌な思いをしない様にするのなら、厳しく接するのも、少し控えた方が――」


「それは却下です」


 バッサリいかれちゃいました。


 この人達にもこだわりと言うか、信念というものがあるのですね。今はまだ、この人達を説得するのは無理そうです。


 信念か……そう言えば、僕には無かったかな。


 今僕は、守って貰うばかりじゃなく、白狐さん黒狐さんと一緒に戦って、一緒にずっと過ごしたいという思いはある。


 でも、それが信念かと言われたら……ちょっと違うかも知れない。


「そう言えば、敵はどうなったの?」


 そして僕は、さっきから気になっていたことを、龍花さんに聞いてみた。


「敵は、逃がしてしまいました。ですが、座敷様は無事です。怪我1つありません。あなたも助かった事ですし、最悪の事態にならなかっただけ良しとしましょう。それと今は、残りの3人が座敷様の守護をしています」


「そう、ですか……」


 そのまま僕は、視線を龍花さんから外し、天井を見上げると、ぼーっと眺め続けた。だけど頭の中では『信念』と言う単語が、ずっと巡っている。


「どうしました?」


 僕の様子が変だったからか、龍花さんがそう話しかけてくる。とても優しい、本当に僕を気づかっている口調でね。


「龍花さん達に、信念があるのは分かりました。だけど、あいつ等にもあるんだよね。妖界を救うという信念が」


 すると龍花さんは、僕の頭を優しく撫でてきて、心配するなと言わんばかりの笑顔を向けてきます。

 そんな笑顔、出来たんですね。ちょっとズルいですよ。今その笑顔は駄目です。考えが散ってしまいます。この人達に任せておけば良いか~って、そう思っちゃうよ。


「大丈夫です、椿様。それと、その話はかなり難しいですし、今は考えない方が宜しいかと」


 優しい……本当にこの人達は、あんな生まれなのに、何でこんなにも優しく出来るんだろう? 何もかも恨んでいても、おかしくないのに。


「今は寝なさい。まだ完全に回復していないのですから、無理は駄目です」


「ん……分かりました」


 今の龍花さんの印象は、怖いお姉さんから一転して、厳しくても優しいお姉さんに変わっちゃいました。

 だって龍花さんの表情がね、まるでやんちゃな妹を心配するような、お姉さんみたいな顔になってるの。夏美お姉ちゃんとはまた違う、理想のお姉ちゃんって感じです。


「あの……おやすみない。龍花さん」


「はい。おやすみなさい、椿様。見張りはしっかりしておきますから」


 白狐さん黒狐さんとは違った優しさ、全く別の安心感。


 今はちょっとくらい、それに甘えても良いよね。

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