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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第伍章 奇々怪々 ~妖怪とお化けは紙一重?~
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第拾参話 【1】 和解

 翌朝。

 僕達はショッピングモールに向かうべく、用意を済ませて玄関に来ています。格好は、昨日とそんなに大差無いですよ。


 するとそこに、夏美お姉ちゃんまでやって来た。

 いったい何の用でしょうか? 昨日はあれから、ちょっとしか話していないんだよね。だから、非常に気まずいんです。


 それに――昔の事もあるからね。


 僕がちょっとたじろいでいると、夏美お姉ちゃんの方が、先に声をかけてきた。


「翼、買い物に行くの?」


「う、うん。あっ、それとね、今は椿だよ。昨日話したよね、僕の事」


「ん、ごめん……でも、ずっと『翼』って呼んでたから、急には……」


 気持ちは分かるよ、僕も最初は戸惑っていたから。

 でも僕の名前が、最初から「椿」だったって分かってからは、違和感が無くなって、そこからは自然になっているんですよ。


 だから今は、翼と言われる方に、凄く違和感を感じてしまいます。


「それで、夏美お姉ちゃん。僕に何か用?」


「あっ、ごめん。おじいちゃんがね、買い物に行くならついでに、水着の方も買って来いってさ。来週、海に行くんだって」


「えっ?!」


 海という単語に、めちゃくちゃ反応しちゃいました。だって多分、海になんて行くのは初めてなんだもん。


「え~良いなぁ~椿ちゃん」


「うんうん、羨ましい」


 カナちゃんと雪ちゃんは、揃って羨ましがっている。そうだね、皆と一緒に行けたら楽しいだろうね。

 すると、夏美お姉ちゃんの後ろから、今度は里子ちゃんが顔を出してくる。


「香苗ちゃんと雪ちゃんも、一緒に来て良いってさ。椿ちゃんの友達でしょ?」


 嘘でしょ、この2人も良いんですか?!

 やったやった! 友達と一緒に海なんて、最高です! 2人といっぱい遊べるじゃないですか。


 それに、白狐さん達とも――ってそう言えば、白狐さん黒狐さんが昨日から帰って来てないや。


 おじいちゃんも、これからセンターに行くと、朝ご飯の時に言っていたし、僕の事でそんな大事になっちゃってるなんて。


 本当に、白狐さんと黒狐さんは大丈夫でしょうか……。


「あっ、椿ちゃん。タクシーが来たよ! ほら、早く行こう!」


「ちょっ……カナちゃん、腕引っ張らないで。それと、夏美お姉ちゃんも着いて来てるのは、いったい何故ですか?」


 気が付いたら、僕達の後を着いて来ていたよ。

 それに良く見たら、服装も給仕服じゃなく、キャミソールにミニスカートという格好をしていました。


「いや、その……服とか小物とか、色んな物が無いからね。ほんとに着の身着のままで来たからさ。流石にそれは不味いからって、おじいちゃんがあんたと一緒に、何か見て来いって」


 おじいちゃん……まさか、僕を試しているんじゃ無いでしょうね。


 本当に、僕は少しでも変われているのか。

 もしかしたら、今後の僕の扱いにも影響してくるかも知れない。


 昔と一緒で、怖がって何も変わっていなかったら、きっと僕は、外からの刺激を受けない様にされてしまうかも。

 記憶の封と力の封が、二度と解けないようにって、この家に軟禁されるかも。それはちょっと、考え過ぎかな。 


「分かった。タクシーも何とか乗れそうだからね」


「椿ちゃん、大丈夫? 昔のトラウマとか、まだあるんでしょ?」


 僕の反応に、カナちゃんが心配そうにしてくれている。

 それはやっぱり、僕の事を友達だと思ってくれているからだよね。その事に、少しだけ嬉しくなった僕は、笑顔でカナちゃんに返す。


「大丈夫だよ。もう、昔の僕のままでいたら駄目なんだよ。だから、トラウマとかそう言うのは、全部乗り越えないといけない」


 その言葉に、カナちゃんも雪ちゃんも驚いた顔をした。

 そして、2人が僕の両脇に来ると、そのまま手を繋いでくる。


 いや、恥ずかしいですよ、これは……。


「あんまり逞しくなられると、お姉さん困っちゃうな~」


「ちょっと待って、カナちゃん。僕達、同い年だからね?」


「でも、どちらかと言うと、椿が妹」


 2人はそんな判断をしているのですか……困った人達です。

 すると、その様子を見ていた夏美お姉ちゃんが、言いにくそうにしながら僕に話し掛けてくる。


「つば……き、あんたは強くなったのね。あの……今更だけど、今までごめんなさい。それも、ずっと言いたかったけれど、私の性格じゃ、その……難しくて」


 僕の名前に引っかかりながらも、何とか言葉を発する夏美お姉ちゃん。あの頃とは、少し変わっている様にも思えた。


 でもそれも、甘いのかも知れない。だけどね、もう十分かなって思う。


 もちろん、過去の事を無かった事には出来ないし、忘れる事も無い。

 だけど、歩み寄る事は出来るし、これからは良い姉妹になりたいって、夏美お姉ちゃんは思っているかも知れない。


 それを拒否していたら、ただの意地悪な人になるよ。


「んっ、夏美お姉ちゃん、行こ。僕、ブラの事とか良く分からないし、カナちゃん達と一緒に教えてよ」


 そう言いながら、僕はカナちゃん達から一旦手を離し、精一杯の笑顔を向け、夏美お姉ちゃんに手を差し出す。

 すると、それを見た夏美お姉ちゃんは、急にボロボロと泣き始めてしまい、僕の方が呆然としてしまいました。


「つ、翼~わ、私の事、許してくれるの~?!」


「だから、僕は椿だってば! 許すというか、過去の事を水に流すわけじゃ無いよ! ただ、これから僕との関係を直したいって思ってくれているなら、それを拒否はしないってだけだよ」


「うん、うん! 分かった、ありがとう……翼。あっ、椿か……でも、縁起悪い名前ね」


 夏美お姉ちゃんは、涙を拭いながらそんな事を言ってくる。

 また喧嘩売ってるんでしょうか? いや……これは純粋に、不思議に思っているだけですね。普通の人ならそう思うんだね。


「実はこの名前、白狐さん黒狐さんが付けたんだけれど、生まれた時から僕は『椿』だったらしくて、両親も同じ意味で、この名前を付けてくれたんだと思う。だから今は、この名前を気に入ってるの。この花の花言葉がね『控えめな優しさ』と『誇り』だからね」


 すると夏美お姉ちゃんは、納得した様な顔をして近付き、僕の頭を撫でてくる。


「そっか……今のあんたらしい、素敵な名前だね」


 ついでに耳まで触れましたよ。というか、頭を撫でられてちょっとだけ嬉しい気持ちになっているのは、いったい何故だろう。


「さっ、ほら、早く買い物に行くわよ。そうしないと、ドンドン時間が過ぎちゃうでしょ!」


 そう言いながら、夏美お姉ちゃんはタクシーへと向かって行く。

 あのタクシーは恐くないのでしょうか? でも、夏美お姉ちゃんも既に、色々と経験していましたね。


「仲直り?」


「……かなぁ?」


 頭と耳を交互に触り、呆然とする僕に向かって、雪ちゃんが微笑ましい物を見る様な、そんな目つきをして言ってくる。

 ついでにカナちゃんまで、同じ様な目つきですよ。一気に3人も、お姉ちゃんが出来た気分だよ。


 ―― ―― ――


 その後妖怪タクシーで、西大路五条と言う場所にある、大型のショッピングモールに到着した。

 桂駅の近くにある、タウン型のでも良かったけれど、広すぎて1日では回れないし、そもそも迷いそうなので、そこはまた今度です。


 西大路五条は、この前行ってきた四条通りから、真っ直ぐ西に行く。一旦南まで行って、五条通りに出ても良いけどね。

 とにかく、そのまま真っ直ぐ西に向かい、車で行くと30分程の所にあるんです、このショッピングモールはね。


 因みに妖怪タクシーの方だけど、街まで出ると、人気の無い所に降りて、そのまま人間と同じタクシーに化けるのです。そして一般の道を走っていたので、一切バレていません。


「はぁ、はぁ……い、意外と高い所まで行ったわね。つば……きは、高い所が苦手じゃ無かったっけ?」


 少し足がガクガクしている夏美お姉ちゃん。

 そういえば夏美お姉ちゃんも、ビルとか山の上とか、あんまり高すぎる所は駄目でしたっけ。


「あぁ、僕はレイちゃんで慣れちゃった」


 そう言うと僕は、肩掛けのポーチに付いている、毛玉のキーホルダーになったレイちゃんを指差す。


 もちろん、レイちゃんも着いて来ちゃってますよ。


「ムキュッ!」


 そして、毛玉の状態から顔だけを出して、夏美お姉ちゃんに挨拶をするレイちゃん。

 それは、バレない様に気を付けてね。今はショッピングモールの入り口前だし、夏休み初日とあってか、人が多いからね。


「……あんた、色んな意味で変わったわね」


 それはいったい、どういう意味でしょうか。

 とにかく、早く買い物を終わらせちゃお。僕としては、ブラを買うなんて恥ずかし過ぎて堪らないので、早く終わらせたいのです。

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