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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第伍章 奇々怪々 ~妖怪とお化けは紙一重?~
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第拾弐話 【2】 贖罪

「翼……私、どうしたら良いの……」


 部屋に向かい、畳の上に座った途端、ボロボロと泣き崩れる夏美お姉ちゃん。こんな姿を見てしまったら、もう放っとけないと思っちゃっている自分がいます。

 散々僕に酷い事をした罰……なんだけれど、やり過ぎたとは思う。でもね、何とかする事も出来たんだからね。


 だから、それだけ泣いても駄目です。

 僕は心を鬼にして、夏美お姉ちゃんから視線を外す。だけどその先で、カナちゃんと雪ちゃんが不安そうな顔で見ていました。


「あっ、ごめん。この人は、前の家族の人」


「あぁ……椿ちゃんに酷い事をしたっていう」


 そう言えば、白狐さん黒狐さんから色々と情報を貰っているんですよね。だから、僕の前の家族の事も、ちゃんと聞いている様です。


「自業自得。椿にした事の罰なら、これで丁度良い」


 雪ちゃんも一緒になって、夏美お姉ちゃんを蔑んでいる。2人のその顔は「何ならもっと酷い罰でも」と、そう思っていそうな顔をしています。


 そしてその後、2人は美亜ちゃんに視線を移す。

 そうか。黒猫の美亜ちゃんが、この人の前を横切ったら、もっと不幸な事が起こりそうですね。しかも、その効力は実証済みです。


「ちょっと。その人、もう十分不幸まみれじゃない。それ以上は無理よ。それに見る限り、無一文で家無し。罰にしては十分過ぎると思うわよ」


「えっ? 見ただけで分かるの?」


 流石ですね……人に病を起こしたりする、呪術系のエキスパートだからかな。こういう事に関しては、美亜ちゃんは凄く詳しいね。


「お願い、もう……もう許して、翼……私が悪かった……だからもう、う、うぅぅぅぅ」


 何かが溢れ出した様な様子で、そのまま泣き続ける夏美お姉ちゃん。


 流石にこれだと、僕達が悪者みたいだよ。


「ごめん、ちょっと出発遅れるけど。良い?」


 2人に今日の予定の変更を伝えたけれど、今度は1階から、氷雨さんが声を張り上げてきた。


「皆~! 今タクシー会社から連絡があって、雲躁童が全員ボイコットしたらしく、タクシーが動かせなくなったって! どうする? 別の所にする?!」


 タイミングが良すぎませんか? それだったら、もうしょうが無いですね。


「椿ちゃん、大丈夫よ。私達、今日も泊まっていくから。明日にしよ!」


「今度は早起きしてね」


 せっかく準備したのに、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。その代わり、明日は朝から行って、皆でいっぱい遊ぶとしましょう。


 ―― ―― ――


 その後夏美お姉ちゃんから、いったい何があったのか、その事情を聞いた。


 すると、相当な数の不幸の連鎖が、お姉ちゃんの身に巻き起こっていました。と言うよりも、元々夏美お姉ちゃんの母親が、それなりの金額の借金をしていた時点で、もう終わっていたらしいです。

 そこに僕が、罰として不幸のプレゼントをしたものだから、ギリギリだった不幸と幸のバランスが一気に崩れ、不幸が押し寄せたみたいです。


 先ず、借金取りですよね。相当ヤバい闇金融からも借りていたらしく、連日の様に、あの家に取り立てが来たらしいです。

 義理の父親だった妖怪『蟲喰い』は、あの時死んでしまっていたから、お金の融通が出来るはずも無い。


「もうその後は、想像つくでしょ……」


 その後は、お約束の一般的な流れですね。要するに、夏美お姉ちゃんもその母親も、いかがわしいお店で働かざるを得なくなったのでしょう。

 それでも、数百万円だった借金が、数千万円に膨らむとか……いったいどんな利子ですか。 


 でも良く聞くと、色々な所から借りていたのを返す為にと、そこから一気に借りたらしい。1番やってはいけないパターンじゃないですか。


「それでも、あいつらから逃げる事なんか出来ないし、学校も通える状態じゃ無くなったし、家にはゴミが投げ込まれるし……惨め過ぎたわよ」


 家にゴミって……近所の人が、どこからかその事を聞いたのかな? 更に、玄関に落書きまでされていたらしいです。

 どんな事かはだいたい想像がつくし、あんまり言葉にしちゃいけないものですね。


「それでも借金は減らないどころか、増えていったのよ……母さんがヤケになってしまって、浴びる様にお酒を飲み始めて、その酒代の為に次々と借金をしていたのよ! 私、私……あんな事までしていたのに」


 あんな事……犯罪紛いだけれど、夏美お姉ちゃんはお店以外でも、体を売っていたらしいです。

 でも、そのお金も結局は、母親の酒代に消えていた様で、夏美お姉ちゃんは、色々と限界にきていたと言いました。


 まさか、母親が死んだって……夏美お姉ちゃんが……。


「そして先週、母さんが大量の血を吐き、台所で倒れたの」


 幸い夏美お姉ちゃんは、母親をその手にかける前に、母親が倒れたと言った。

 それは良かったとは思ったけれど、やろうとはしていたのですね……。


 そして、そこで放置する事はせずに、ちゃんと119番通報もしたようです。

 やっぱり、いくら手にかけようとしている人でも、母親が目の前でそんな風に倒れたら、助けようとしますよね。


「でも、もう遅かった……母さんは前々から、お酒を沢山飲んでいたから、既に重度の肝硬変になっていて、それがもう癌になってた。しかも、相当症状が進んでいて、良く普通に生活してたねって、医者から首を傾げられたの」


 もしかしてもなく、それがわら子ちゃんの不幸かな……。

 今までの話を聞いていると、特別不可解な不幸は起きていないんだ。全て、起こるべくして起こった不幸って感じです。


「それで、その翌日にはもう……」


 そしてそこからは、更に悲惨な毎日だった様で、借金を返す為にと体を売る日々、母親のお葬式代も借金したらしいし、あの手この手で借金を増やしてくる闇金業者に、お金を搾り取られる毎日。


 想像するだけで、どん底って感じですね。


 だけど、流石にそこまでいくと、周りも気が付く。児童相談所や、市の職員等が駆けつけてくれて、直ぐに対応をしてくれたらしい。


 そこで初めて、元々あった借金は、その殆どが返済されていた事が発覚し、法律によって、何とか闇金業者から逃れる事が出来たようです。


 それでも、あの家は全て差し押さえられてしまった。


 借金地獄からは抜け出せたけれど、母親は一銭もお金を残していなかったので、学校には通えず、親戚も居ない。

 母親の方は、全員死別しているらしいですし、父親は妖怪だったからね。


 しかもおじいちゃんは、蟲喰いが死んだ直後に、その戸籍を操作していて、僕の戸籍を、センターの方で凍結していた、正しい戸籍に戻してくれていた。

 だから僕は、夏美お姉ちゃんとは赤の他人状態です。この戸籍を、特例として凍結させていたみたい。


 因みに、人間だった頃の僕の戸籍は、蟲喰いがおじいちゃんのと一緒に、色々と妖怪の力を使い、夏美お姉ちゃん達の所に、強引にねじ込んでいたらしいです。犯罪だけれど、妖怪の力ならごまかせる、という事ですか……。 


 とにかく、戸籍を戻した瞬間から、夏美お姉ちゃん達とは一切の繋がりが無くなっていた。つまり彼女は、正真正銘の天涯孤独というわけです。


「だからもう、頼る人が居ないのよぉ……お願いよ、もう……許して」


「どうするの? 椿ちゃん」


 全ての話を聞き終え、カナちゃんと雪ちゃんが、僕に目配せをしてくる。

 美亜ちゃんは腕を組んだまま、夏美お姉ちゃんを睨んでいて、まだ何かあるんじゃ無いかって、そんな様子でお姉ちゃんを見ていた。


「う~ん……確かに、もう十分かなって思う。だけど、助けるにしても、ここに住む事になるだろうね。そればっかりは、おじいちゃんの許可が居るし……」


 すると僕の後ろから、威厳のある怖い声が聞こえてくる。


「何じゃ、誰が来ておるのかと思えば、お前さんか」


 そこには、天狗の姿をしたおじいちゃんが立っていて、夏美お姉ちゃんを見下ろしていた。

 どうやら昨日の夜、僕達が寝ている間に、おじいちゃんだけが帰って来ていたみたいです。


 おじいちゃんは、完全に威嚇している様な立ち方をしていて、めちゃくちゃ怖い。


「ひっ……」


 夏美お姉ちゃんも完全に怖がってしまって、縮こまっちゃったよ。

 それでも、おじいちゃんは見下ろすのを止めない。おじいちゃんは、まだ許して無いのかな? いや、事情を知らないからですよね。


 そこで僕は、さっきお姉ちゃんから聞いた事を伝え、罰はもう十分だという事も伝えた。


「ふぅ……なる程な。それなら致し方ない。次の住み家が決まるまで、ここに居ても良かろう。じゃが、住み込みで働くという事だ、良いな?」


「あっ、ありがとう……おじいちゃ……うっ、ひぐっ、うぅぅ、ぁぁああ……」


 おじいちゃんの言葉を聞いて、夏美お姉ちゃんは泣き崩れちゃいました。


 これで、不幸の連鎖は止まると思う。というか、これ以上は起こりようが無いと思うしね。

 それに、僕もあの頃とは違うから、お姉ちゃんの性格が変わっていなくても、対応は出来ます。


 どちらにしても、こんな状態で断ったら、妖怪に恨みを持って死ぬかも知れない。そうなると、あとで処理するのが大変だし、労働力はあった方が良いんだろうね。

 だっておじいちゃんは、まだ夏美お姉ちゃんを許してはいないのか、それ以上の言葉はかけなかったんだ。


 そうだね。ここから先は、夏美お姉ちゃんの行動次第……という事ですね。

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