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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第伍章 奇々怪々 ~妖怪とお化けは紙一重?~
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第拾壱話 【2】 庇護欲の暴走

 雪ちゃんはいつの間に、僕に好印象を持っていたんだろう?


 でもそれは、カナちゃんも一緒なのです。

 2人とも最初から、僕に好印象を持っていました。どういう事だろう……。


 僕の部屋に川の字に敷かれた、お日様の匂いのする布団にそれぞれ入ると、そこから暫く雑談をしています。

 その前にはもちろん、お風呂にも入っているし、パジャマにも着替えていますよ。


 2人とも、里子ちゃんが用意してくれた、とても可愛いパジャマに着替えています。

 そして雑談をしながらも、僕の頭はさっきの事でいっぱいです。


「――それに結局、雪は戦闘能力が無かったじゃない~」


「うっ……そ、そんな事無い。敵の熱エネルギーを冷やして、戦闘能力を下げるから」


「それでも、敵に触れなきゃ駄目だし、運動神経が無ければ無理でしょ? そして、雪は運動が出来ない。良い? 今後も、椿のサポートは私がするからね」


「くっ……」


 僕の両側で、軽く言い合いをしないで下さい。

 僕は僕で、考え事をしていたから、2人が何の事を言っているのかサッパリ分かんないや。


「ねぇ、2人とも。何の話?」


 僕が確認をする為に聞くと、右側に居るカナちゃんが、適当に誤魔化してきた。


「ん? あぁ、何でも無いよ。こっちの話」


「怪しい……」


 ついでに、左側に居る雪ちゃんにも顔を向けるけれど、わざとらしく目を逸らしたよね。

 というか、僕を真ん中にしておきながら、内緒話なんて出来ないでしょう。なんでこんな配置にしたんだろう。あぁ、2人とも僕の隣が良いって言ったからだ。


「ん、何でも無い。椿は気にしないで」


「気になるんですけど?」


 雪ちゃん、目が泳いでいますよ。

 彼女も、氷雨さんの遺伝子を継いでいるからか、相当な美少女なんですよね。だから、あんまりジッとは見られないけれど、それはまだ僕が、男子としての精神があるって証拠です。


 意識しないと女の子の精神になれないのが、ちょっと辛いですね。僕としては頑張ってるんだけどなぁ。


 やっぱり……“アレ”を着けないと駄目かな。


「ん? 椿ちゃん、どうしたの? 自分の胸なんて触って」


「いや……あれ? やっぱり、ちょっと大きくなってる? なんだか、擦れて痛いです。やっぱり、もう着けないと駄目なのかも……う~ん」


 しまった……横に2人が居るのに、何やってんの僕は。

 ほら、2人とも凄く良い顔をしていますよ。でも実際、里子ちゃんが用意してくれていた物は、もう合わないかも知れません。


「そうねぇ~それじゃあ、明日一緒に買いに行こっか。女の子になってからの、初ブラをね!」


「うぇぇ……やっぱり」


 過去に女の子だった時は、まだ幼かったはず。つまり本当に、女の子として人生初のブラとなります。

 でも、まだ僕の心の奥底には、男子としての精神が残っているんです。これが凄く邪魔してくるんだよ。どうしたら良いんだろう……。


「もう椿ちゃんは女の子なんだし、そうやって生きていくって決めたんでしょ? それだったら、何も迷う事無いわよ。私達に任せて!」


 カナちゃんがそう言ってくるけれど、ちょっと待って、凄く引っかかるんだけど……。


「あれ? 僕、カナちゃんに頑張って女の子になるって、言いましたっけ? 言ってないよね」


「へっ……? あっ……」


「馬鹿」


 僕の指摘に、カナちゃんは目を見開き、やってしまったという顔をした。雪ちゃんは完全に呆れた顔で、カナちゃんを見ていますね。

 もしかして、カナちゃん自爆したの? それじゃあ、ちょっと問い詰めようかな。


「ねぇ、何で知ってるの? それに、僕と初めて会った時も、凄くフレンドリーだったよね。嬉しいんだけれど、逆に何でそんなに僕を? って思っちゃうんですよ。ねぇ、何か隠してる? カナちゃん」


「う、うぅ……いや、その」


「香苗、諦めて。もう墜ちてるから」


 雪ちゃんの言葉に、遂に観念をしたカナちゃんは、布団から手を伸ばし、スクール鞄を引っ張ってくると、何かを取り出してきた。


「ごめんなさい、悪気は無かったの。ただ、それだけあなたに惹かれているの」


「何これ? パンフレットみたいだけ――」


 カナちゃんから渡されたそれを見た瞬間、僕はフリーズしてしまいました。


『絶世の男の娘、翼ちゃんを守る会!』


「…………」


 そのパンフレットは、いつの間にか撮られていた、僕の正面顔が表紙となっていて、右下に『毎週火曜日発行』ってなっていました。


 いやいやいやいや……なんですか、これは。


「あっ、それで、今は女の子でしょ? だから、こっち」


『絶世のボーイッシュ美少女、椿ちゃんと仲良くなる会』


「レベルアップしてる!!」


 カナちゃんから新たに手渡されたそれを見て、ついつい叫んでしまいましたよ。

 でも、これで納得がいきました。雪ちゃんが、直ぐには僕に近づかなかった事、そしてさっきの会話は、もう完全に……。


「2人とも、これの会員なんですね……」


 これは要するに、ファンクラブってやつなのかな? こんなの存在するはず無いって思っていたら、僕がやられちゃいましたね。


「私は、椿が女の子になってから、その会に入った。だから、会員ナンバーも三桁。でも、香苗は違う」


 まさか、カナちゃんは二桁ナンバー、もしくは一桁ナンバー? だって、僕が男子だった頃の、そのファンクラブの会員誌を持っているんだもん。


 そのたった数ページの雑誌を、ペラペラとめくって確認していると、最後のページに会員の名前が、ズラリと記載されていました。一応この時でも、10人以上は居たんですか……信じられない。


 因みにその中身は、殆どが僕の隠し撮り写真とか、好きな食べ物や話題、と言った様なものでした。

 そして、その記載されている会員の中には、知った名前がチラホラとあります。


 僕が女の子になってからの会員誌には、更にとんでもない2人の名前が載っていました。


「あのさ、こっちの会員誌……新たに出来た名誉会員の所に、白狐さんと黒狐さんが居るんですけど?」


 なるほど……情報源はここでしたか。何やっているんですか、あの2人は。そしてその隣には、カナちゃんの名前が書いてありました。しかも「創設者」と書いてありますよ。

 あぁ、カナちゃんの会員ナンバーは1ですね。えっ、それってつまり――


 これは、カナちゃんが作ったファンクラブですか?!


「カナちゃん……あの……」


「ご、ごめん椿ちゃん! 勝手にこんなの作っちゃって」


 するとカナちゃんが、僕の隣で申し訳なさそうな顔をしながら、必死に謝ってきました。

 別に怒ってはいないけれど、ただ……何で僕なの? って疑問があるよ。


「あ、いや、大丈夫。びっくりしただけだから。でもさ、カナちゃんって僕が翼だった時に、このファンクラブを作ったんだよね? 今の僕になってからなら分かるけれど、この頃の僕って、クラスの皆にいじめられていて、凄く暗かったよね?」


「えっ、いや……それは、その……」


 それに確か、カナちゃんも妖魔に操られていたはずだよね? それだったら、ちょっと辻褄が合わない様な気がする。

 真っ赤になって俯くカナちゃんに、その事も言ってみた。すると、更に赤くなってしまい、かなり縮こまっちゃってます。


「あの、椿ちゃん。ひ、引かない?」


「うん、寧ろ言ってくれないと、カナちゃんを信じられ無くなっちゃいそうです」


 ずっと僕を見つめていたカナちゃんが、その言葉を聞いた瞬間、それだけは困るといった表情をしながら、全部話してくれました。

 すると、どうやらカナちゃんだけは、あの妖魔に操られていなかったらしい。


 それは彼女が、クラスの人とは距離を取っていて、あの時の妖魔『電磁鬼』の操る方法に、引っ掛からなかったからだそうです。

 確かSNSで、幸せ通知とかいうのを送り付け、それを見た人を操っていたっけ。


「でもそれなら、何で見て見ぬ振りを?」


「えっと、あのね……私、あなたが翼だった頃から、あなたの事が好きなの」


「えっ?!」


 意外な告白に、僕まで顔が赤くなっていそうです。

 しかも『好きだった』じゃなくて『好き』って事は、今もって事ですか。


 ちょっと待って……落ち着いて、僕の心臓。

 それと、男子としての気持ちまで出て来ないで。駄目です、若干頭の中がパニックです。


「いじめられていたのを止めなかったのは、悪かったと思っているよ。でも、でもそれ以上に――」


 そう言うと、カナちゃんの顔は徐々に崩れていき、にやけ顔に近い笑みを浮かべてきた。それは、自分の欲望を抑えきれないような、そんな感じの笑みです。


「それ以上に、弱々しくて可愛い子が、私は好きなの。そんな子がね、味方の居ない状態で、泣きながら『助けて』とすがってくるのが、堪らなく好きなの。そうやって、味方は私だけだと思わせて、依存するほどに慕ってくれる。そんな状態にするのが、私は好き」


「お~い、カナちゃん~」


 目があさっての方を向いていて、僕の声も聞こえていないよ……。


「だからね、いじめられている状態でも、そう直ぐには助けずに、タイミングを見て友達になって上げて、心の支えの様な存在になって上げるの。そうしたら、最初は警戒しながらも、ちょっとずつ心を開いていって、そして、そして――」


 駄目です、本当に完全に聞こえてません。


 そう話すカナちゃんは、両手を頬に当てて、乙女の様なポーズを取り、クネクネと身を捩っていました。

 こんなカナちゃん、初めて見ました。彼女の頭の中は、妄想でいっぱいになっているんじゃないでしょうか。


「その内親友になって~そこから一緒に遊ぶ仲にもなって、あとは悩みを聞いて上げたりして、そしてその後に、いじめを解決して上げる。そうしたら、更に私に惹かれていって~夏休みまでに、お泊まりする様な仲にまで持っていって、そして夏休みに、初めて――」


「カナちゃん!!」


「はい?! あ、あれ? あっ……」


 あっ、やっと戻って来た? 最後の方なんて、涎出していましたよ。いったいどんな想像をしていたんですか……。

 しかも、考えていた事を口に出していて、それに気付いた事で、慌てて布団を頭から被っちゃいました。『私の脳内計画がバレた!』と言わんばかりのスピードでしたよ。


「ご、ごめんなさい。だってあなたは、私の好みなの。庇護(ひご)欲そそる様なあなたが、本当に大好きなの。も、もちろん、今でもね」


 う~ん、カナちゃんも中々の歪み具合。

 でもそれは、自分でも分かっているらしく、布団から顔だけを出して、僕の様子を確認するその顔が、凄く恥ずかしそうにしていました。


「ひ、引いた? やっぱり、引くよね?」


「ん~白狐さん黒狐さんのおかげかな? そういうのには、耐性が付きましたよ。全然引いてないよ」


 ただ、僕がそう言っても、カナちゃんは直ぐには信じてくれないのか、まだ布団から出て来ないです。

 これは、行動で示さないと駄目なのですか? 恥ずかしいけれど、しょうが無いな。


「それじゃあ、これなら引いてないって、信じてくれる?」


 そう言うと、僕はちょっとだけ体をずらし、カナちゃんの横に行くと、そのほっぺに軽くキスをした。

 初めての友達……いや、親友。ううん、お姉ちゃんかな? それ位に僕も、カナちゃんの事を大事に思っている。そんな気持ちを込めて、伝えて上げた。


「つ、椿ちゃん?」


 でもカナちゃんにとっては、僕の行動が意外だったらしく、また目を見開きながら、僕を見て――いや、これは見つめていますね。

 しまった……やり過ぎたかも。カナちゃんが少しずつ、その目を細めていって、トローンとしだして――これは、ヤバいです。


「椿ちゃん!! 大好き!」


「はぅぁっ?!」


 いきなり抱き締めてくるもんだから、首……首が、グキッて言いましたよ。

 そして何で、僕の後ろから、雪ちゃんまで抱き締めて来るんですか。


「香苗ばっかりズルい、私にも」


「ちょっと待ってよ! カナちゃんも雪ちゃんも、少し冷静になって~!」


「駄目よ雪、あなたはまだ知り合いレベル。私は恋人レベル間近なのよ!」


「だから、ちょっと冷静になってってば! 2人とも!」


 僕との関係に、ランクなんてあったんですか? 恋愛ゲームじゃないんだから、それは止めて下さいね。


 それにしても、何だろう……これ。

 この感じは、白狐さん黒狐さんと一緒に寝るのと、対して変わらないです。

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