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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第伍章 奇々怪々 ~妖怪とお化けは紙一重?~
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第玖話 【2】 部屋の中では

「椿ちゃん。いつの間にか、お化けとかも平気になってきたね……」


「えっ? あぁ、そうだね。今回は割と平気かな」


 僕の足に容赦なく絡み付いて来た、あの見た目怖そうな怨念人形を、自慢の黒焔狐火で燃やした後、カナちゃんがそう言ってきた。


 それでも、現れた瞬間はビックリするよ。

 だけど何だろう……対処方法があるって事が、分かっているのと分かっていないとでは、だいぶ違ってきますよね。

 今回の場合は、しっかりとした作戦もあるし、白狐さん達のサポートもあるから、そんなに怖くはないかな。


「残念」


「何がですか?」


 気のせいかな? カナちゃんが、ちょっとだけガッカリしている。


「変な事言ってないで、早く男子達をここから出さないと」


 僕はそう言うと、今居る和室の部屋から出て、悲鳴の聞こえた奥の部屋に目をやった。


 だけど、その先は薄暗くて、思った以上に狭い廊下には、更にとんでもない物がぶら下がっていました。


 それは、木で出来た立体的な人形です。


 暗くて良く見えないけれど、そんな物が廊下に沿って、一列に綺麗に並んでぶら下がっていた。1人で来ていたら、先へ進むのは困難だったかも知れません。


「うわ、何これ……」


 僕の後から出て来たカナちゃんが、その手に持った懐中電灯で、その人形達を照らしていきます。

 そして明かりに照らされ、その人形の全体像が見えてきた。どうやらこの人形は、和室の部屋から出て左手にある、玄関の方からずっと続いていた。


 因みに悲鳴が聞こえた部屋は、玄関から真っ直ぐ行った突き当たりにある、少し広めの部屋から聞こえてきた。


「カナちゃん……ここに最後に住んだ人って、この家の異常さに気付かなかったの?」


「ううん。私が聞いた限りだと、この家の中の状態は、最後にここに住んだ、ある霊媒師の人がやったらしいわよ」


「霊媒師の人が、家の中をこんな風に?」


 それなら、この木の人形はその人がやったのかな?

 色んなポーズを取っているから、何か意味でもあるんでしょうね……僕には、何の意味も無いように見えるけどね。


「う~ん……だけど、その霊媒師の人もおかしくなっちゃって、この飾りも全く意味が無いかも知れないわね」


 そう言いながら、カナちゃんは木の人形の横にある、変なお札みたいな物を見ていた。

 何でしょう……そのめちゃくちゃな模様は。効果があるとは思えないですね。そうなると、自称霊媒師の人だったのかな……。


「とにかく、奥の部屋に行こう」


 そして僕達は、軋む床に恐怖感を覚えながら、奥に向かって歩いて行く。

 リフォームは、1回くらいはされているらしく、木のフローリングっぽい床板だけれど、それも何十年も前の事なのか、もう既にボロボロになっていて、所々床が抜けています。


 そうやって気を付けて進んでいると、奥の部屋から、男子達の必死な叫び声が聞こえてきた。


 やっぱり……もう既に何かやっちゃった様ですね。


「先生! しっかりして下さい先生!」


「おい、誰か人を――いや、槻本さん呼んで来い!」


「あ、亜里砂ちゃん、き、君は何で……あんな事を」


 生徒じゃなくて良かったとか、そんな変な事を考えたら駄目ですよね。でも、おおよその予想はつきますね。

 どうやら付き添いの先生が、亜里砂ちゃんの誘惑に負けてしまい、やっちゃいけないことをやっちゃったんでしょうね。


「あっ! 槻本さん! えっ、それにお前達まで……なんで?」


 そしてその部屋から、1人の男子が出て来たけれど、僕の姿を見つけた瞬間、安堵していますね。

 でもその後、不思議な顔をしてカナちゃん達を見ていますよ。そんなに、この2人が来るのが意外ですか。


「椿ちゃんが、あんた達と一緒に危ない所に行くって言うから、後で合流する約束をしていたのよ。そうしたら、悲鳴が聞こえてくるんだもん」


「だから、言ったのに……」


 2人は完全に呆れた顔をして、その男子を見ています。


 カナちゃん達が普段から、クラスメイトと距離を取っているのは分かっていたけれど、その理由も、人外になった今では良く分かるよ。


 この人達の行動一つ一つが、凄く幼稚に見えてくるんだ。

 でもそれは、見る世界が変わったからかな? 世界が広がった、とも言えるけれどね。


 もちろん学校の人達全員が、こんな人達ばかりじゃないのは分かっているけれど、今回は亜里砂ちゃんに良い格好を見せようとして、不純な動機で集まった人達ばかりだったからね、こういう結果になるのも、しょうがないのかも知れません。


 しかも、亜里砂ちゃんは妖狐だったからね。


「とにかく、先生がどうしたんですか?」


「あっ……そうだ。あ、亜里砂ちゃんが、先生を挑発して。部屋の中の、ある場所に――」


「あら、私がどうしたの?」


 完全にパニックになりながらも、何とか僕達に状況を伝えようと、必死に説明しているその男子の後ろから、あの妖艶な笑みを浮かべた亜里砂ちゃんが現れ、その言葉を遮ってきた。


「亜里砂ちゃん、先生に何を?」


「べ~つに~あの鏡の中に、私の探し物が無いかな~って思ったから、先生に探って貰っただけぇ」


 僕の言葉に対して、全く悪びれる様子の無い亜里砂ちゃん。完全に悪ですよ、この子。流石は、九尾の狐ですね。


「さっ、1階はこれで全部だし、2階に行くわよ。着いて来なさい」


「えっ、で、でも……先生は?」


「ほっときなさいよ」


 未だに慌てている男子の言葉に、亜里砂ちゃんが威圧感の混じった声で言うと、奥の部屋から虚ろな目をした男子達が、彼女の後に続いて出て来た。

 どうやらさっきの声で、完全に操られちゃった様子で、慌てている男子の必死な呼びかけにも、全く応じていない。


「皆! おい、どうしたんだよ!」


 それでも、その男子は必死に叫んでいる。

 僕達の方も、これ以上亜里砂ちゃんの思い通りにさせるわけにはいかないので、彼女を捕らえる事に優先順位を切り替え、直ぐに行動に移した。


「妖異顕現、影の操! 白狐さん、今の内に!」


『うむ……! しかし、相手は九尾の狐。我でも勝てるかどうか……』


「勝てなくても、ここから追い出すだけでも良いんです!」


 そして僕は、自分の影の腕を伸ばし、亜里砂ちゃんの影を引っ掴む。こうする事で、相手の動きを封じられるけれど……。


「ふふ、やる気なの? 分かってるの? 私はね、あなたの中にいる、そんな弱った九尾の狐じゃないわよ。力を持った、九尾の狐よ」


 そう言いながら、亜里砂ちゃんはゆっくりと、一歩ずつ僕に近付いてくる。


 うん、完全に影の妖術が効いていません。どうしよう……。


『そうだな。とにかく何があっても、此奴の思い通りにさせるわけにはいかんな! よし、何とかセンターの応援が来るまで、我等で持ちこたえ――』


「妖異顕現、千針爆(せんしんばく)


 それは、本当に一瞬の出来事でした。

 

 ぬいぐるみの変化を解き、人型になった白狐さんは、鋭く爪を伸ばして戦闘準備に入る。だけどその瞬間には、亜里砂ちゃんはもう動いていた。

 僕達妖狐が行う、あの妖術発動の動作をし、妖術を発動してくると、その手から大量の針を飛ばし、白狐さんを襲った。そして、白狐さんに当たったその針は、次々と小規模の爆発を起こす。


 それが1本くらいなら、白狐さんでもちょっとした衝撃で済んだんだろうけれど、千本近くある無数の針が、次々と爆発を起こしていくから、流石の白狐さんでも、堪らず後ろに吹き飛んでしまっていた。


「白狐さん!!」


『ぬぅ……くっ、大丈夫じゃ、椿。我は体術に優れておるし、治癒妖術もある。これ位ではやられん!』


 僕の後ろで何とか踏み止まった白狐さんが、そう叫ぶ。そうは言っても、ちょっとくらいはダメージがあるはず。


「椿ちゃん! 前見て! あいつが居ないよ!」


 その次の瞬間、カナちゃんの声が聞こえた後、僕の頬に衝撃が走った。


「――っ?!」


 何かで殴られた?

 そんな感じで、僕は奥の部屋へと吹き飛ばされてしまい、何回か転がってから、床に突っ伏してしまった。

 ついでにその後、めちゃくちゃ頬が痛み出し、口の中も切っちゃったようで、血の味までしてくる。


「い、つつつ……うぅ、本気で殴られた……というか、いつの間にか僕の後ろに居たの? 白狐さんの心配をしている場合じゃ無かったよ」


 そういえば今までは、僕よりも妖気が弱かったり、白狐さん黒狐さんという、強力な妖狐の2人で何とかなっていたけれど、今回は僕よりも強くて、白狐さん黒狐さんと同等のレベル。


 これってもしかして、かなりの大ピンチなのかな。


 でもその前に、この部屋って確か……男子達が騒いでいた場所だよね。先生がどうのって……。


 そんな時、視界の端に変な物を見つけた僕は、直ぐに左を振り向いた。


 そこには、円を描く様にして立ててある姿見と、その鏡の前に1体ずつ、日本人形等の様々な人形が立たされていた。

 更にその真ん中には、屈んで両手で顔を塞ぐ、付き添いの先生の姿が……。


「えっ、先生? な、何して」


 この状況、これって『かごめかごめ』だよね? でも何で、人形なんかで? しかも、その後ろの鏡はいったい何なの。


 その先生は、僕の声には反応をしない。

 まるで、何かが始まるのを待っているかの様にして、微動だにもしないのです。


 もしかして、それは男子達では始められなかった?

 そもそもこんな怪しい状態で、この円の中に入るなんて、そんなの無理ですよ。


 だけどこの先生は、亜里砂ちゃんに大人のかっこい姿を見せて、惚れさせ様としたんでしょうね。

 自業自得だろうけれど、放っとくのも問題だし……これは、どうしたら良いんだろう? もしかして、これが祟りなのかな。


 だけど、これは何だか違うような気がする。だって、2階何だよね……危ないのは。あの怨霊が居る、2階がね。

 それだったら、1階のこれは何? 例の霊媒師の人がやったの? うう~ん、分かんない。


 それよりも、あの九尾の妖狐、亜里砂ちゃんを何とかしないといけない。

 というか、未だに『ちゃん』付けって……女の子には、どうしても『ちゃん』付けしちゃうんだよね。


 すると今度は、人形達からとんでもないものが聞こえ始めた。


【か~ごめ、かごめ】


 勘弁して下さい。僕の中の恐怖心が、一気に蘇っちゃいましたよ。

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