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俺が連れてこられた学園の名前は、王立桃色学園──え、桃色って。
あとこの国、王様がいるんだな。
きっとでっぷりと肥え太ったおっさんなんだろうな。
人畜無害なおっさんだといいなあ。
続いて連れてこられた学園長室は、その王様が来られてもたぶん失礼にあたらないくらいに豪華な部屋だった。
部屋の主は丸い眼鏡をかけた品のいい白髪のばあちゃんだ。
卒業式でもないのに、なぜかアカデミックガウンを着ている。
そして、その眼光は鋭い。
「なるほど。あなたがエミリー・チャロアイト・アディンセル嬢ですか」
へー、それが俺のフルネームか。
これは憶えておくべきなんだろうな。
俺の年齢は何と5歳らしく、幼稚舎に入れられるらしい。
わー、どうしよー。
周りも全部5歳以下とか……俺が遠い目をするのも仕方がないよな。
「で、そちらが召喚獣ですか」
あ、仔ドラゴンさんですか?
相変わらずぷるぷると震えていますよ……何かゴメンな?
でも俺も1人でこんなところに来るの、怖かったんだよ。
白猫さんは相変わらず、仔ドラゴンさんの上で丸まってますよ。
移動が楽そうで、実に羨ましいです。
まあかく言う俺も今は、仔ドラゴンさんの上に乗っかってんですけどね!
でも降りろと言われていないのに降りる予定は無いし、降りろと言われても降りる予定は無いよ。
仔ドラゴンさんは最早俺の一部と言っても過言じゃないしな!
「はあ、まあいいでしょう」
え、何が?
突然ため息を吐かれても、訳が分からんのだが。
「ベリー、教室と寮を案内してさしあげなさい」
どこからかメイド服姿の女が出てきて、学園長に頭を下げた。
「かしこまりました」
「こちらが教室です」
あ、着いたのか。
あちこちきょろきょろしていたら、いつの間にか教室という響きにはちょっと合わない感じの、なんかやたらと豪華な部屋についたんだが。
……なんで教室の天井からシャンデリアがぶら下がってんだ?
あと、中にはちまっとしたご令嬢が2人いて、ケーキと紅茶を楽しんでいる気配。
なんかここ、俺の知っている教室と違う。
「皆さま、こちらは明日からお仲間になられるご学友です。ご挨拶なさいませ」
なんと、ベリーさんは俺に挨拶をさせるつもりなのか。
仔ドラゴンさんの上にいるんだが、俺。
そして降りるつもりがないんだが。
「アリーヤ・シスル・スギライト、5歳よ。歓迎するわ」
おおう、ためらいもなく挨拶されたよ。
名前は、個人名・花の名前・宝石の名前ってとこか。
将来は悪役令嬢って感じの美幼女だな。
「わたくしはオリビア・ラリマー、同じく5歳ですわ」
もう一人も挨拶してきた。
こっちは、個人名・宝石の名前か。
砂糖菓子みたいな可愛い幼女だな。
てことはつまり、俺はこう言えばいいのか。
「エミリー・チャロアイト、同じく5歳。よろしく」
ちなみに俺は、単体で見れば儚い感じのきれい系の幼女だよ。
仔ドラゴンさんに乗っていると、何か違う感じに見えるらしいけどな。
で、この2人、どんな能力があるんだろうな?
俺の能力はもう、仔ドラゴンさんと白猫さんの存在でバレバレだと思うし、特に言う必要はない気がするんだけど。
ま、細かい話は翌日以降か。
あっさりと教室を追い出された俺は、寮の部屋へと案内された。
入口がちょっと狭くて仔ドラゴンさんがパニックを起こしかけたが、テラス戸から入るという方法によって解決された。
ベリーさんの顔が引きつっていた気がするけど、知らんがな。
入口が狭いのが悪い。
もしくは、俺の部屋が1階じゃないのが悪い。
「もしかしたらお部屋の移動があるやもしれません」
とベリーさんが去り際に言ってたんで、たぶん明日には1階に移動になるんじゃないかな。
俺専属のメイドも近いうちに用意されるんだとか。
……あんまり奴隷って感じがしねーな、今んとこ。
それとも、まだ洗脳がはじまっていないだけ?
ま、与えられたベッドはふかふかだし、とりあえず寝るかな。
え、昼飯? 晩飯?
別に2食くらい食わんでも死なんがな。
それにさ、食堂の場所とか聞いとらんし、金も無いのよ。
……明日になったら、本格的に食料調達方法を考えないとやべーかもしんねーな。