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息苦しさで目が覚めた。
しかも暑い……。
「また火事か?!」
普段寝起きの悪い俺だが、さすがに火事では目を覚ますしかない。
2日連続というのは精神的にも肉体的にもかなりきついが。
「えーっと、ここは……」
確かここは、父さんに与えられた2階の小部屋のはずだ。
窓から顔を出すと、仔ドラゴンも暑そうな顔でこっちを見ていた。
「これ、日の出だけの暑さじゃねーな」
というか、まだ日の出前じゃね?
外はまだ、うっすらと明るい程度だし。
1階に下りると、父さんが困ったような顔でダイニングに座っていた。
「エミリー」
何か言いたいんだろうけれども、そこから言葉が続かないみたいだ。
家の外に出てロケットの窓から外を見ると、人がいた。
「なんで?」
やたら黒い、同じ制服をまとった人間が何人もいた。
そしてなんか、ロケットが火であぶられてんだけど……あぶっても食べられないよ?
うーん、困ったな。
外にいるやつらってたぶん、全員魔法使いだよな、これ。
パッと見ただけでも10人近くいるし……これってたぶん、逃げられないよな?
火の暑さだけなら何とかできると思うんだが……うん、無理だな。
酸欠になる前に逃げられる予感が全くしない。
父さんと相談だ。
家に戻ると、父さんは困った顔のままで座っていた。
「ああ、エミリー……。エミリーが魔法を使ったことがバレてしまった」
ああうんまあバレるだろうね、あんだけ派手に使っちゃったら。
むしろバレない方が不思議だよね、あんだけ見物人がいたんだから。
……あー、俺の自業自得か、これ。
「私が使った魔法まで、エミリーが使ったと……」
ああ、まあ勘違いされてもおかしくはないよね。
屋根の上だったし、しかもその屋根は馬鹿デカい屋根だったし、誰が魔法を使ったのか地上からは確認できなかったとしてもおかしくはない。
「エミリーさえ渡せば、私とライリーは見逃すと言っているが……」
ああ、父さんたちは人質かな。
「すまない。私には力がない。たとえ私とは血が繋がっていないとしても、お前はケイリーの娘だというのに……私には護ることができそうにない」
え、義理の父親だったのか。
だから父さんと呼んだら吃驚していたのか。
「いっそお前を殺して……」
「やめてください」
殺されるくらいなら奴隷の方がまだ可能性があるだけ幾分マシだろう。
いや、可能性があると思わされるだけ不幸かもしれんが、その辺は考え方次第だろう。
「奴隷にされたら、どうなってしまうんですか? 父さんは詳しくご存知ですよね?」
あんな屋敷を持っていたんだ。木端役人ってことはないだろう。
「ああ、そうだな。私は侯爵だし、役職で言えば文部大臣だからな」
……は?
え? えっと……今の、聞き間違い?
「魔法が使えると分かった子供たちは、裏では奴隷と呼ばれるが……。表向きは普通の学校とされている、全寮制のとある学園に入れられる。そこで洗脳されながら、魔法の技術を磨いていくことになる……はずだ」
「じゃあ表向きは、普通に生きていけるということですか?」
「そうだな。そして卒業後は、いずれかの貴族か王族のもとで雇われることになるはずだが……私のもとに戻されることはないだろう」
そっか、それはちょっと残念だな。
「私が捕まった後、お二人はどうなりますか?」
「あの子も私も君とは血が繋がっていない上に貴族だからな……そう酷い扱いはされないと思うが……」
弟くんも他人だったのか。
うーん、つまり俺だけが犠牲になれば、この2人は巻き込まれただけの家族という名の他人……っていうか、そもそもの発端は俺だしな。
俺が大人しく逃げてればこんな騒ぎにならなかったはずで……責任を取る意味でも、俺だけ捕まればいいってことか。
「火事の原因は分かったんですか?」
「ああ。いや、断定はまだできないが、あれは私を狙った放火だった」
うわ、怖いな、貴族。
「戻るとしたら、使用人を洗い直さないといけないな」
どこか遠いところを見ながら父さんがつぶやく。
「あのお屋敷は……」
父さんがしまったんだから出そうと思えば出せるんだろうけど、みんなの前で出すわけにはいかないよな?
「ああ、屋敷くらい、また建てればいいだけの話だ」
……ああ、お貴族さまだもんね。
「エミリー。お前を手放すことに比べれば……」
うわ、何かごめん、父さん。
そうだよな、貴族だってあんなデカい屋敷1軒、建て直すのはきっついよな。
父さんと色々と話した後、俺は大人しく捕まることにした。