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久々すぎてやばい…。
「もぐもぐ、もぐもぐ」
「……」
カナタの家に勝手に入った少女はそのまま家のダイニングスペースに直行。椅子に座るやいなや、食べ物を要求してくる。
正直かなり図々しい態度である。しかしこの少女がついさきほどまで倒れていた事実は変わらない。そのためカナタは仕方なく、本当に仕方なく少女の要求通りパンにベーコンエッグと、簡単にではあるが食事を用意することにした。したのだが―。
「もぐもぐ、もぐもぐ」
「……」
「もぐもぐ……料理がなくなりました。おかわりを要求します」
「……一応聞くが、これが3回目のおかわりだってことわかってるか?」
「そうなんですか?まあそんなことはどうでもいいとして、おかわりを可及的速やかに要求します」
「話が通じない!」
最初に食事を用意して早数分。勢いに押されたとはいえ、カナタはすでに目の前の少女を家の中に上げてしまったことを後悔し始めていた。なんと言うかこの少女、遠慮と言うものがまったくと言っていいレベルで存在しない。もはやあきれを通り越していっそ清々しささえ感じてしまう。
「ほら、おかわりだ。それと言っておくがもうおかわりは出ないからな」
まあ後悔しつつも律儀におかわりを提供するカナタもカナタであるのだが。
しかし当の少女の方はと言うと―。
「な、なんですって!?」
まさに驚愕といった声と顔をしていた。
「いやいやいや、なんでそんな驚いてるの」
「……私に飢え死にをしろと?」
「あなたついさっき3回目のおかわりしたところだよね!?」
「そんなものはとっくになくなりました!」
「はやっ!てか話が微妙にかみ合ってない!」
「くっ、仕方ありません。ここは涙を呑んでガマンしましょう」
「え?なんでそんな私譲歩しましたみたいな感じなの?むしろ今まで譲歩してたのこっちだよね!」
「ありがとうございます、そこのあなた。量はあれでしたが大変おいしかったですよ」
「ホントに、話が、かみ合わない!!」
少女の発言に対する怒涛の突っ込みの連続に、カナタはぜーぜーと完全に息を切らしていた。正直精神的疲労がすさまじい。正直、昨日訓練で熊と素手で闘わされた時より疲労がすごいんじゃないかとさえ思う。
「あなたはなぜそんなに疲れているのですか?」
「誰のせいか!」
疲れるからダメだと思っていながら、またしても少女の発言に突っ込んでしまったカナタ。少し頭を抱えたくなってきた。
「はぁ。なんかもう色々とどうでもよくなってきたが、あんた名前と住んでる場所は?」
「……それは私をストーカーするという宣言でしょうか?」
「ちげーよ!なんでまずその発想になるんだよ!」
カナタは色々あきらめた。主に突っ込み方面に関して。
「すでに信じられない感じだが、あんたさっきまで倒れてただろ。また倒れられてもあれだし、念のため家まで送っていくってだけだ」
「ああ、なるほどそうでしたか」
少女はカナタの言葉を聞いて、ようやく得心したとばかりにうなずいた。
「……いまさらですが、私たちまだ自己紹介すらしてなかったですね」
「ホントにいまさらだけどな」
「初対面というものは大事なものだと言いますのに、危うく名乗りもしないところでしたね。指摘していただきありがとうございます」
「初対面が大事ってのは同意するが、あんたは名乗り以前に初対面としてかなりダメな感じだったぞ」
「ではあらためまして自己紹介をしましょう」
「……うん、とりあえずあんたがたまに俺の話を全く聞かないってのはわかった」
頭痛をこらえるように頭に手を置きつつ、顔だけは少女の方に向けるカナタ。そんなカナタに対して、少女の方もしっかりとカナタの方を向く。そして胸に手を置いたのち、少女は口を開いた。
「私の名前はミカエル。親しい人たちはミカと呼びます。一応家と言うか、家兼職場はこの町の教会になります。パッと見てわかると思いますが、私は教会関係者ですので」
そこでミカエルは胸の上に置いていた手をどけると、自身が着ているシスター服を見せるように軽く胸をそらす。そしてついでとばかりに軽く微笑みを浮かべた。