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<8>

 次の日の早朝のことである。

 前日の夜は帰宅した後、夕飯食べすぐに寝てしまったカナタであるがそこは生活習慣というもの、この日もいつも通り日が昇る前に起床した。

 今日は学校の週に一度の休みである。しかし休みだからといって何もしないという選択肢は当然カナタにはない。いつも通り自主的に朝練を始めようとする。昨日の疲れも特には残っていない。ならいつも通り体操をした後ランニングでもするかなと考えながら家の扉を開けようとする。しかし玄関の扉を開けようとしたところで不意にカナタの手が止まる。


「ん?誰かいるのか?」


 騎士養成学校に通うカナタは一般人よりも人の気配を察知するという能力にたけている。そんなカナタの感覚が扉の向こうに一人分の人間がいる気配を察知する。そしてなぜだか気配の持ち主はカナタの自宅前から一歩も動かないでいる。


「考えても仕方ないか」


 誰がいるのか一瞬考えを巡らせるが確認しないことにははっきりしないなとすぐに思い直し扉の前で止めていた手を再び動かす。そうして扉を開けた先には―。


「……は?」


 黒ずくめの人が倒れていた。それもカナタの家の目の前でである。


「え、ちょ、大丈夫ですか?」


 今まで生きていた中で自宅前に黒ずくめの人が倒れているなど経験がなかったため一瞬思考が止まってしまった。しかしそこは騎士を志すものである。すぐに思考停止から復帰するとその自宅前で倒れている人の元へすぐさま駆け寄る。


「大丈夫ですか?意識とかはありますか?」


 まずは意識の確認、とカナタは自宅前でうつぶせで倒れている人の肩をゆする。触った感じおそらく女性。身長は大体カナタよりも頭一つ分くらい小さい。それに近くで見てわかったが、この人が着ていた黒ずくめの服は教会のシスターが着るものであった。それを確認したカナタはこの倒れている女性は教会関連の人であると推測。なぜカナタの自宅前で倒れていたのかはまったくわからないが。


「ん……ん」


 そうこうしていると倒れていた女性は意識を取り戻したのかカナタの呼びかけに答える。


「気が付きましたか。とりあえずここ道端なので少し動かしますけど平気ですか?」


 倒れていた女性はしばしの間ぼーっとしていたようだが、意識がだいぶはっきりしてきたのか顔を上げる。

 その女性は夜の闇のように真っ黒な瞳とそれと同色の髪を肩よりも少し伸ばしたくらいにしている。顔立ちは美人系よりであり特に少しきつそうな感じの目が特徴的だ。それとおそらくであるが年齢はカナタ自身とほとんど変わらないように少女のようにみられる。


「あなたは?」


 少女は顔を上げるとそのまま体も自力で体も起き上がらせる。


「ええと、俺はそこの家の住人でさっき家を出たらさっき家を出たらあなたが倒れていたという次第で……」


 色々と言葉足らずの質問であったがカナタはそれに対して自分の家の方をさしながら答える。


「なるほど、状況は大体わかりました」


「そうか。で、これからどうする?よかったらだがとりあえずしばらくうちで休んでいくか?さっきまで倒れてたんだから無理するもんじゃないし」


「そうですね……」


 少女はカナタの提案に対してしばしどうするか考える。そして考えた末に結論を言おうとしたところで―。


「あっ、と……」


 一瞬めまいを感じ、体がふらつく。


「おい、大丈夫か!」


 少女がふらつくのを見てカナタは思わず彼女を抱きとめる。


「……ふむ、普通に大丈夫じゃないですね。どうも血糖値が足りないみたいです」


 少女カナタに抱き留められたまま何事か考えだすとすぐさまそんな結論を出してきた。


「そこのあなた」


 しかし言葉はそれだけで終わらない。


「……?」


「さっき自分の家で休んでいくように言いましたね?結論が出ました。休んでいくことにします」


 さっきカナタがした提案に対する答え。


「お、おぉ」


「それからですね、私に料理をふるまってもいいのですよ」


「……は?」


「この近距離で聞こえなかったのですか?しょうがないのでもう一度行ってあげましょう。私に料理をふるまってもいいのですよ」


 そしてものすごく図々しい要求をしてきたのである。……少なくとも休ませてもらう側が言うセリフではない。


「ほら、そこのあなた。さっさと家に入りますよ」


 そうしていつの間にかカナタの腕の中から抜け出した少女は家主などお構いなしに勝手にあなたの家の中に入っていく。


「え、ちょ、え?」


 いつの間に抜け出したんだとか、なんで家主より先に家に入ろうとするんだとかいろいろと言いたいことや困惑はあったがとりあえず思うことが一つ。


 『なんか図々しいというか、めんどくさそうな人と関わってしまった』である。


 カナタは半ば呆然としながらも少女一人を家に勝手にあげるわけにもいかず、少女の後を追って家に戻るのだった。

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